総合電機メーカーの三菱電機が、ロボット技術の市場拡大を狙うため「遠隔操作ロボット」の実証実験をスタートしました。どのような用途での利用を予定している遠隔操作ロボットなのでしょうか。
今回は遠隔操作ロボットのニュースをもとに、ロボットの機能や実証実験の内容、期待されている活用方法について深掘りします。遠隔操作ロボットの技術動向を探る参考にしてみてください。
三菱電機が遠隔操作ロボットの実証実験をスタート
遠く離れた場所から操縦できる遠隔操作ロボットですが、近年では事業への活用を目的に様々な企業が研究・開発を続けています。そのなかでも総合電機メーカーの三菱電機は、事業用に利用できる遠隔操作ロボットの実証実験をスタートしました。
実証実験で利用されるのは、三菱電機と関西大学が共同開発した遠隔操作ロボットです。
参考として開発されたロボットの特徴を以下にまとめました。
操作方法 | スマートフォン |
ロボットの機能 | 移動・アームで物をつかむ・操縦者の映像を投影 |
サイズ感 | 小型 |
スマートフォンに専用のアプリを導入するだけで簡単に遠隔操作ロボットを操縦できるのはもちろん、スマートフォンのインカメラの映像をロボットに搭載された液晶画面に映し出せるのが特徴です。
三菱電機では、遠隔操作ロボットを使って、遠く離れた店舗への疑似的な来店、そして観光施設訪問の疑似体験などに利用して、移動や操縦だけでなく、コミュニケーションを取れる遠隔操作ロボットの開発を進めています。
事業化に向けて搭載される予定の機能
三菱電機によると、遠隔操作ロボットの実証実験に合わせて、今後次のような機能を導入する計画が進められています。
- 電子商取引による買い物機能
- 観光体験ができる映像機能
例えば、遠隔操作ロボットで訪問した店舗で商品の説明を受け、そのまま買い物できる仕組みを用意したり、ロボットを走行させて観光地を見て回れたりと、遠く離れた場所に住む人などが別の地域を見てまわれる仕組みを用意しているそうです。
実際にニュースでも、三菱電機が次のように回答しています。
身体的・物理的な境界を超えた新しい体験をユーザーに届けられる。偶発的な出会いを得たり、新たな視点の世界に気づくきっかけになったりする
遠隔操作ロボットとは
遠隔操作ロボットとは、インターネット環境を活用して遠く離れた場所から操縦できるロボットのことです。近い距離でコントールするロボットと同じように、遅延を起こさずに操作できます。
人が入り込めないような狭い場所、災害現場などの危険な場所にロボットを進入させて操縦できるため、近年では災害対策といった目的で遠隔操作ロボットが開発中です。また、国内企業でも遠隔操作ロボットの開発が進められており、業務用としての活用も期待されています。
遠隔操作ロボットの仕組み
遠隔操作ロボットの仕組みには、インターネット回線が活用されています。
例えば、世界中を飛び回っているインターネット回線のほか、Wi-Fi環境などを活用することで、遠く離れた場所にあるロボットを操縦できるのが特徴です。
操縦者はロボットに内蔵されたカメラやセンサーの情報を見ながらコントローラー等で操縦し、移動や細かな動作を実施します。
また近年では、ヘッドセットや身体に装着するデバイスを用いて、自分の動きをそのままロボットに反映できる技術なども登場しています。その一つの例として「二人羽織ロボット」なども登場しているので、以下の記事をチェックしてみてください。
遠隔操作ロボットの種類
遠隔操作ロボットは主に「マスタースレーブ型」「コックピット型」の2つに分類できます。
2つの特徴や仕組みについて詳しく整理しました。
マスタースレーブ型
マスタースレーブ型とは、メインとなる1台の機器で複数の遠隔操作ロボットを操縦する方法です。主に工場作業を対応するアーム型のロボット操作などに用いられることが多く、統一した作業を同時並行で進められます。
また、制御している機器(スレーブ)の一連の流れをまとめて管理できるのも特徴です。
工場のライン作業などを一括で対応できるため、あらかじめ設定した条件などに合わせてロボットを自動操縦できます。
コックピット型
コックピット型とは、コントローラーを利用しながら遠隔操作ロボットを操縦する方法です。
一般的な遠隔操作はこの方法を指し、ロボットに搭載されているカメラなどの映像を見ながら、操縦者がロボットを操縦します。
またコックピット型の場合、コントローラーなどを利用せず、自動走行するロボットの動きを監視するだけで対応するケースも少なくありません。操縦・監視といった目的で利用でき、なかにはヘッドセットを装着して操縦する場合もあるそうです。
遠隔操作ロボット事業の最新動向
三菱電機が進めている遠隔操作ロボットの事業は、現在プロジェクトチームが発足し、研究開発が進行している状況です。約10名の研究開発スタッフがロボットの構築を進行中であり、教育分野の事業者等への導入提案を同時進行で進めています。
ちなみに三菱電機が狙いを定めているのは、ブルーオーシャンである環境保全や教育といったまだ遠隔操作ロボットの手が付けられていないニッチな市場です。すでに農業・製造業などはロボット市場が拡大していることから、新しい市場の開拓に力を入れています。
遠隔操作ロボットの活用が期待されている分野
三菱商事が開発・実証実験を進めている遠隔操作ロボットはもちろん、現在ではさまざまな企業が遠隔操作ロボットの開発に着手しています。その中でも、事業活用が期待されている分野について、詳しい情報をまとめました。
医療業界における遠隔操作ロボットの活用
遠隔操作ロボットは、医療業界での活用が期待されています。
例えば小型の遠隔操作ロボットを開発することで、体内を自由に探査できるようになります。
小型のロボットにレーザー照射といった機能があれば、体内にあるポリープや病気の原因を治療できるほか、外科的治療の負担を必要最小限に抑えられるのが魅力です。
また、手術をする医師のサポートとして、器具の用意や情報整理などを自動で対応してくれる遠隔操作ロボットなども登場しています。今までは助手の看護師などが対応しなければなりませんでしたが、今後は執刀医とロボットだけで治療ができる未来がやってくる日も近いでしょう。
すでに小型ロボットの開発はスタートしています。
今後の技術の発展により、遠隔操作ロボットとしての機能をもつロボットが導入され始めるかもしれません。
小型ロボットについて詳しく知りたい方は以下の記事をチェックしてみてください。
最新の事例についてわかりやすく説明しています。
災害や事故対応における遠隔操作ロボットの活用
遠隔操作ロボットは、次のような災害・事故に関わる現場でも活躍すると期待されています。
- 災害により被害を受けた建物の除去
- 被災した人の探査
- 危険エリアへの進入・作業
例えば、地震や洪水などによって倒壊した家屋やビルに遠隔操作ロボットを進入させることで、レスキュー隊などが二次災害に合うリスクを減らせます。また、小型の遠隔操作ロボットなどがあれば、倒壊してがれきなどが多い狭いエリアにも進入できるのが魅力です。
ほかにも大型の遠隔操作ロボットがあれば、遠く離れた場所にいる操作者も救助に参加できるほか、原発事故により放射能の被害を受けるようなエリアでも、すべてロボットで対応できる日が近づいています。
障がい者支援における遠隔操作ロボットの活用
身体的な問題を抱える障がい者を支援するひとつの対策として、以下に示すような遠隔操作ロボットを活用した事業アイデアなども数多く登場しています。
- リモートでの接客
- 遠隔での受付対応
インターネットを介して動かせる遠隔操作ロボットがあれば、障がいのある本人が移動できなくても、ロボットを操作して仕事ができます。会話によるコミュニケーションで仕事ができるのはもちろん、ロボットを遠隔的に操縦して配膳や受付への対応が可能です。
手足の欠損など、ハンデを抱える人たちも遠隔操作ロボットを活用することで、ほかの人と同じように仕事ができると期待が寄せられています。
遠隔操作ロボットの業界活用事例
遠隔操作ロボットのなかには、すでに現場で活用されている製品などが数多くあります。
参考として業務効率化の役に立っている遠隔操作ロボットの企業活用事例をまとめました。
土木作業を遠隔操作ロボットで対応
AIソフトの開発サービスを提供している「知能技術」は、土木現場で活躍する重機・フォークリフトなどを遠隔操作できる自動操縦ソフトウェアを開発しました。
既存の重機などに遠隔操作の仕組みを導入することで、遠く離れた場所から重機を操縦できるようになります。まるでラジコンのような感覚で重機を操縦できることから、建設現場や物流における現場対応が可能になると期待されています。
実際に建設現場向けにセット販売が進められており、今後スーパーやホームセンターといった物流業界での活用も視野に入れられています。
製造業ではアーム型の遠隔操作ロボットを活用
製造業ではすでに、数多くの遠隔操作ロボットが導入されています。
とくに導入数が多いのが、ひとつの機器で複数のロボットを自動操縦するマスタースレーブ型の遠隔操作ロボットです。
アームタイプの遠隔操作ロボットを導入することにより、人間の作業員の代わりにロボットが作業を代行してくれます。あらかじめロボットの動きなどをすべて設定していることから、1mmのズレもなく同じ作業を繰り返せるのが魅力です。
また遠隔操作をする際には、操作・監視を担当する少数の担当者がモニター監視をするだけで対応できます。AI技術やIoTの仕組みを導入する製造業の工場で数多く導入されている技術であり、中には工場の全自動化などを進めている企業なども少なくありません。
遠隔操作ロボットについてまとめ
三菱電機が実証実験を進めている観光業界向けの遠隔操作ロボットをはじめ、医療・土木・製造分野、そして災害対応などにも遠隔操作の技術が導入され始めています。
遠隔操作ロボットの技術は業務効率化につながることはもちろん、身体的な障がいをもつ人たちの仕事をつくるきっかけにもつながっていくはずです。今後、パソコンやスマートフォンを通じてロボットを遠隔操作できる日がすぐにやってくるかもしれません。
