キャリアアップ助成金を利用したいと思っても「制度の内容が複雑で理解しにくい」「申請方法がよく分からず途中で諦めてしまいそう」と感じている事業主は多いでしょう。
製造業や建築業では、派遣社員や契約社員に依存する場面が多く、技術を持つ人材を定着させたいと考える経営者も少なくありません。しかし、助成金を活用すれば、教育訓練や資格取得を伴う正社員化のコストを抑えつつ、人材育成と安定雇用を両立できます。
そこで本記事では、キャリアアップ助成金とは何かという基本から、申請の具体的な方法、審査に通るために押さえておきたいコツまでをわかりやすく解説していきます。
キャリアアップ助成金とは?

キャリアアップ助成金は、非正規雇用で働く人の処遇を改善し、安定した雇用につなげるために国が支援する制度です。非正規雇用で働く労働者を正社員に転換したり、昇給制度や賞与・退職金制度を導入したり、社会保険の適用拡大に取り組んだ事業主に対して助成金が支給されます。
この制度は事業主が従業員の意欲やスキルを伸ばし、生産性を高めていくための後押しを目的としています。助成金は事業主が納付する雇用保険料二事業の財源で運営されている点も特徴です。
対象となる事業主
キャリアアップ助成金を利用できるのは、雇用保険が適用されている事業所を持ち、一定の条件を満たす事業主です。以下は申請できる事業主とできない事業主の違いです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 基本要件 |
|
| 対象に含まれる法人 |
|
| 中小企業の範囲 |
|
| 受給できない事業主 |
|
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年版)
助成を受けるためには「キャリアアップ計画」を策定して労働局に提出し、実際に正社員化や処遇改善を行う必要があります。また、企業規模によって助成額が異なるため、申請時点の資本金や常時雇用労働者数が基準として確認されます。
以下の記事では、キャリアアップ助成金以外にも紹介していますので、あわせてご覧ください。
キャリアアップ助成金のコース
キャリアアップ助成金は主に5つのコースで構成されています。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 社会保険適用時処遇改善コース
①正社員化コース
「正社員化コース」は、有期雇用や派遣労働者、短時間労働者など非正規で働く人を、正社員または無期雇用に転換した事業主に対して助成される制度です。正社員になれば、昇給や昇進、各種手当、社会保険などの面で安定性が高まり、従業員が安心して長期的に働ける環境が整います。
事業主にとっても、経験豊富な人材を確保できるため、採用コスト削減や業務の質の安定につながります。特に「有期雇用から正社員化」は最も助成額が高く設定されており、企業が積極的に取り組む後押しをしています。
②賃金規定等改定コース
「賃金規定等改定コース」は、パートや契約社員といった非正規雇用者についても、昇給の仕組みを整備した場合に支給される助成金です。たとえば「勤続年数や勤務実績に応じて基本給を上げるルール」を新たに導入した場合などが対象となります。
これまでは非正規社員に昇給制度がない企業も少なくありませんでしたが、このコースを活用すれば公平な処遇を実現し、従業員の働く意欲を高めることが可能になります。長く働くほど評価される環境を整えることで、人材の流出防止にも効果的です。
③賃金規定等共通化コース
「賃金規定等共通化コース」は、正社員と非正規雇用者の賃金体系を統一する取り組みを行った場合に助成金が支給されます。例えば、職務内容や役割ごとに定めた賃金テーブルを一本化し、雇用形態に関わらず同じ基準で賃金を決めるといった対応が対象です。
「同一労働同一賃金」という考え方に基づいており、正社員と非正規雇用者の不合理な格差をなくすことを目的としています。従業員にとっては納得感のある制度となり、企業にとっても人材の定着や職場全体の士気向上が期待できます。
④賞与・退職金制度導入コース
「賞与・退職金制度導入コース」は、非正規雇用者に新たに賞与制度や退職金制度を設けた場合に助成されます。これまで正社員のみが対象だった賞与や退職金をパートや契約社員にも適用することで、長期的に働くインセンティブを提供できるのです。
従業員は「頑張りが報われる」「長く勤めれば将来の備えになる」と感じられるため、モチベーション向上や定着率改善に直結します。事業主にとっても、熟練度の高い人材が長く働くことで業務効率やサービス品質が高まる効果が期待できます。
⑤社会保険適用時処遇改善コース
「社会保険適用時処遇改善コース」は、社会保険の適用拡大によって新たに社会保険に加入する非正規労働者の処遇を改善した場合に支給されます。具体的には、社会保険料の自己負担分が増える従業員に対し、その分を補うように賃金を引き上げたり、手当を新設したりする取り組みが対象です。
社会保険加入は従業員にとって安心材料になりますが、給与手取りが減ることで働く意欲が低下するリスクもあります。その点、このコースを活用すれば、事業主が従業員の負担を和らげつつ安心して保険加入を進められるため、結果的に長期的な雇用関係の安定に結びつきます。
キャリアアップ助成金の申請の流れ

キャリアアップ助成金の申請の流れは以下のとおりです。
- キャリアアップ計画の作成と提出
- 取組の実施
- 支給申請の提出
- 支給審査と決定
①キャリアアップ計画の作成と提出
助成金を申請するためには、まず「キャリアアップ計画書」を作成し、労働局へ提出する必要があります。計画書は以下のような書類です。

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年版)
各コースの取組開始日の前日までに提出が必須で、持参・郵送・電子申請のいずれでも対応可能です。提出時点で対象となる従業員の雇用状況や今後の取り組みを明確にし、事業所として処遇改善に取り組む姿勢を示します。
②取組の実施
計画が受理されたら、実際に正社員転換や就業規則の改定、制度導入といった取組を行います。
たとえば正社員化コースでは、就業規則に基づき非正規雇用者を正社員へ転換し、その後6か月分の給与を支払うことが条件になります。処遇改善コースでも、計画で定めた内容に沿って制度を導入し、6か月間の給与支払いを行うことが必要です。
③支給申請の提出
取組が終わった後は、6か月分の給与を支払った日の翌日から2か月以内に「支給申請」を行います。申請方法は以下の方法があります。
- 紙申請
- 電子申請
電子申請の場合は「雇用関係助成金ポータル」にログインして必要情報や添付書類をアップロードします。計画書を紙で提出していた場合は、同じく紙での申請が必要になる点に注意が必要です。
④支給審査と決定
申請後は労働局による審査が行われます。審査では、提出した書類や賃金台帳の内容、計画通りに取組が実施されたかが確認されます。不備があれば追加書類の提出を求められることもあり、その場合はメールや電話で通知されます。
審査に問題がなければ支給決定が下され、助成金が振り込まれます。
以下の記事では、製造業が使用できる補助金について解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
キャリアアップ助成金で審査に通過するコツ

キャリアアップ助成金で審査に通過するコツは主に以下の3つです。
- 書類は数字と日付で一貫性を持たせる
- 計画段階から現場と共有しておく
- 申請スケジュールを逆算で管理する
①書類は数字と日付で一貫性を持たせる
キャリアアップ助成金の審査で厳しく確認されるのは、提出書類間の整合性です。たとえば、就業規則の改定日と実際に労働者を正社員化した日付が食い違っていたり、賃金台帳の金額と給与明細に差異があったりすると、要件を満たしていても審査は通りません。
書類は種類ごとに作成担当が異なる場合も多いため、最後に一人が全体を通して「数字と日付の一貫性チェック」をしましょう。審査官は「客観的に確認できる資料が揃っているか」を重視するため、特に賃金の支給額や改定日を裏付ける書類は複数用意しておくと安心です。
②計画段階から現場と共有しておく
審査に通らないケースの中には「計画書に書いた内容と現場の運用が食い違っている」というものがあります。たとえば、計画書では「昇給ルールを明文化」と記載していても、実際には人事担当者が従業員に説明していなかったり、現場で改定後の規定が使われていなかったりすることがあります。
審査で発覚すると減額や不支給につながるため、計画を提出した時点で現場に周知・運用を徹底することが大切です。審査官は「制度を本当に運用しているか」を確認するため、従業員への通知文書や説明会資料なども提出書類として評価されます。
申請スケジュールを「逆算」で管理する
キャリアアップ助成金は、「取組終了後6か月分の給与を支払った日の翌日から2か月以内」という短い期限で申請する必要があります。この2か月という期限は意外と短く、特に月末締め・翌月支払いの企業では、準備期間が1か月未満になることも珍しくありません。
そのため、実際に取り組みを始める段階で「申請日から逆算したスケジュール」を立てておくことが重要です。事前に把握し、社内で共有しておくことで、提出漏れや期限切れを防ぐことができます。
キャリアアップ助成金でセミナーを受講しよう
キャリアアップ助成金を活用すれば、従業員の処遇改善だけでなく、スキル育成や人材開発にも役立てることができます。そのため、キャリアアップ助成金を活用して「DX・AI人材育成研修サービス」の受講がおすすめです。
DX・AI人材育成研修サービスは、現場で即戦力となる人材を育成することを目的に、実践的なカリキュラムを提供。短期集中型の研修から、中長期的な人材育成プランまで、企業の状況や課題に応じて柔軟に組み立てることが可能です。
キャリアアップ助成金をはじめ、人材開発支援助成金やDXリスキリング助成金の対象にもなっており、費用面の負担を軽減しながら導入できます。助成金を上手に活用することで、従業員のスキル強化と企業の成長を両立させることができるでしょう。
キャリアアップ助成金についてのまとめ
キャリアアップ助成金は、非正規雇用者を正社員化したり処遇を改善したりしたい事業主を支援する制度ですが、仕組みや申請手続きが複雑で、書類の不備や期限管理の不徹底によって不支給となるケースも少なくありません。
特に製造業や建築業では、熟練の技能を持つ人材の確保と定着が企業の競争力に直結。せっかく育てた人材が離れてしまえば現場力の低下につながるため、助成金を活用して教育訓練や正社員化を進めることは大切です。
そのためには、本記事で紹介したように制度の基本を理解し、キャリアアップ計画の策定から取組実施、支給申請、審査対応まで正しい流れを押さえましょう。