パートタイマーや派遣社員の正社員登用を検討する企業にとって、キャリアアップ助成金の正社員化コースは非常に心強い支援策です。2025年度からは「重点支援対象者」の新設で、最大80万円の助成が可能になりました。
製造業やCAD設計部門でも活用でき、人材定着と企業成長を同時に実現できる制度として注目されています。本記事では、受給条件や申請方法、活用メリットまで詳しく解説します。
キャリアアップ助成金正社員化コースとは
キャリアアップ助成金正社員化コースは、有期契約スタッフや派遣社員を正社員に登用した企業に対して支給される助成制度です。組織の人材確保と従業員のキャリア発展を両立させる重要なサポート制度となっています。
パート・アルバイト・契約社員の正社員登用により、企業側は人材の定着を通じた生産性アップ、従業員側は雇用の安定と待遇向上を図ることができます。
下記ではキャリアアップ助成金について詳しくまとめているので、ぜひ参考にしてください。
2025年度の制度の変更点
2025年4月以降、キャリアアップ助成金正社員化コースは大幅な制度改正が実施されました。 主な変更点は「重点支援対象者」の新設と「新規学卒者の除外」の2つです。下記内容をそれぞれ見ていきましょう。
重点支援対象者の新設
2025年度から「重点支援対象者」という新たな区分が設けられ、該当する労働者を正社員化した場合は従来通りの助成額(中小企業:有期→正規80万円、無期→正規40万円)が支給されます。重点支援対象者の定義は以下の通りです。
- 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
- 雇入れから3年未満でも、過去5年間に正規雇用労働者であった期間が1年以下かつ過去1年間に正規雇用されていない有期雇用労働者
- 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
新規学卒者の除外
2025年度改正では、雇い入れられた日から起算して1年未満の新規学卒者が支給対象から除外されました。新卒採用時から正社員として雇用することが一般的であり、助成金の趣旨である「非正規雇用労働者のキャリアアップ支援」に適合しないためです。
変更により、支援が必要な既存の非正規雇用労働者への助成に制度の焦点が絞られます。そのため、企業側も、新卒採用と既存社員の正社員転換を明確に区別して人事戦略を立てる必要があります。
キャリアアップ助成金正社員化コースの支給額と受給条件

キャリアアップ助成金正社員化コースでは、有期雇用や派遣労働者を正規雇用へ転換した企業に対し、規模や対象者区分に応じた助成金が支給されます。ここでは、支給額と受給条件を詳しく見ていきましょう。
- 2025年度の支給額一覧表
- 受給するための主な要件
①2025年度の支給額一覧表
2025年度のキャリアアップ助成金正社員化コースでは、企業規模と対象労働者の区分により支給額が大きく異なります。 以下に詳細な支給額表を示します。
| 転換パターン | 中小企業 | 大企業 | ||
|---|---|---|---|---|
| 重点支援対象者 | 左記以外 | 重点支援対象者 | 左記以外 | |
| 有期雇用→正社員 | 80万円 (40万円×2期) |
40万円 (1期のみ) |
60万円 (30万円×2期) |
30万円 (1期のみ) |
| 無期雇用→正社員 | 40万円 (20万円×2期) |
20万円 (1期のみ) |
30万円 (15万円×2期) |
15万円 (1期のみ) |
重点支援対象者に該当する場合は2期分の支給が受けられますが、それ以外の労働者は1期のみの支給となる点が大きな変更点です。
②受給するための主な要件
キャリアアップ助成金正社員化コースの受給には、企業側と労働者側の両方で要件を満たす必要があります。
対象労働者の条件
対象となる労働者は、以下のすべての要件をクリアする必要があります。
- 通算6ヶ月以上の有期契約労働者、または同一業務に6ヶ月以上継続して従事している派遣労働者
- 転換後6ヶ月間、雇用保険被保険者として継続雇用されること
- 事業主または取締役の三親等以内の親族でないこと
- 支給申請日において離職していないこと
ただし、過去3年以内に正規雇用または無期雇用していた労働者は対象外となります。
賃金増額の要件
正社員転換に伴い、以下の賃金増額要件を満たさなければなりません。
| 要件項目 | 詳細 |
|---|---|
| 増額率 | 転換前6ヶ月間の賃金総額に対して、転換後6ヶ月間の賃金総額を3%以上増額 |
| 比較対象期間 | 転換前の連続する6ヶ月と、転換後の連続する6ヶ月 |
| 対象賃金 | 基本給および定額で支給される手当を含む賃金総額 |
| 除外手当 | 通勤手当などの実費補填的手当は除外 |
| 賃金台帳の整備 | 増額を確認できる賃金台帳・出勤簿を転換前後6ヶ月分用意 |
キャリアアップ助成金正社員化コースの申請と必要書類

正社員転換を円滑に進めるためには、事前の計画提出から就業規則の改定、転換後の申請まで一連の手順と揃えるべき書類を正確に把握しておくことが重要です。以下内容を詳しく見ていきましょう。
- キャリアアップ計画の提出
- 就業規則の改定
- 正社員転換の実施
- 必要書類一覧
①キャリアアップ計画の提出
正社員転換を行う前に、所轄の労働局へ「キャリアアップ計画書」を提出します。計画書には転換予定人数、時期、賃金改定の詳細を記載し、転換実施日の前日までに提出して認定を受ける必要があります。
②就業規則の改定
正社員転換制度を明文化するため、就業規則または雇用管理規程に「非正規雇用労働者の正社員化に関する規定」を追加し、労働基準監督署へ変更届を提出します。改定後の規定が適用されるのは、転換実施日の前日までです。
③正社員転換の実施
計画に基づき、該当する従業員を正社員に登用し、登用後は6ヶ月間継続雇用を行います。その間に賃金台帳や出勤記録で増額要件を満たしているか確認し、登用から6ヶ月後の翌日から2ヶ月以内に助成金を申請を行います。
④必要書類一覧
以下を参考に、申請前に必要書類をすべて揃えておきましょう。
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 認定を受けたキャリアアップ計画書
- 改定後の就業規則または雇用管理規程の写し
- 雇用契約書(改定前・改定後)
- 賃金台帳および出勤簿(転換前後6ヶ月分)
- 雇用保険被保険者資格取得確認通知書コピー
- 事業主の通帳写し(助成金振込先確認用)
キャリアアップ助成金正社員化コースの対象人数と制限

申請可能な人数には上限があるほか、退職状況や社会保険加入状況など、要件を満たさないと支給が受けられない制限事項が存在します。ここでは、申請できる人数や注意点などを紹介します。
- 申請できる人数の上限
- 制限事項と注意点
①申請できる人数の上限
キャリアアップ助成金正社員化コースは、1事業所あたり1年度につき最大20人まで申請可能です。製造業のCAD設計部門では、複数名のパート社員をまとめて正社員化する際に、この上限を意識した計画が必要です。
②制限事項と注意点
正社員化コースを申請する際には、正社員への転換を予定している従業員の退職履歴や社会保険への加入状況をチェックする必要があります。
会社都合退職の影響
転換対象労働者のうち、転換前後6ヶ月間に会社都合による退職者が1人でも発生すると、その対象者分の助成金が不支給となります。不支給を避けるためにも、労働者の離職原因を把握し、転換後の雇用維持に注力することが重要です。
雇用保険・社会保険への加入義務
正社員転換後は、転換対象の労働者を雇用保険および社会保険の被保険者として必ず加入させる必要があります。加入手続きが完了していない場合、助成金が不支給となるため、労務管理部門と連携して漏れなく手続きを進めましょう。
キャリアアップ助成金正社員化コースを活用するメリット

製造業では、正社員化による技能継承や人材定着、採用コスト削減などの効果が特に大きく、助成金を活用することで組織力強化につなげられます。ここでは、企業側、従業員側での活用メリットを詳しく解説します。
- 企業側:人材定着率の向上
- 企業側:採用コストの削減
- 従業員側:収入の安定と向上
- 従業員側:スキルアップ機会の拡大
企業側:人材定着率の向上
パートや契約社員を正社員として迎え入れることで、雇用の安定性が高まり、離職率が低下します。特に技能継承が重要な製造業のCAD設計部門では、長期的な人材定着が品質維持や技術蓄積に直結します。
企業側:採用コストの削減
新規採用や研修にかかるコストを低減できます。既存スタッフを正社員化すれば、求人広告費や面接・研修の時間的コストを抑制でき、効率的な人材運用が可能です。
従業員側:収入の安定と向上
正社員化に伴い基本給や手当が増額されるため、給与水準が向上します。非正規雇用時の収入変動が軽減され、生活設計が立てやすくなることで、従業員のモチベーションアップにもつながります。
従業員側:スキルアップ機会の拡大
正社員として研修やキャリアパスが整備されることで、継続的なスキル習得が促進されます。CADソフトの高度な操作研修やプロジェクトリーダー研修など、キャリア形成支援制度の活用が期待できます。
下記では、建設業におすすめの研修を紹介します。ぜひ参考にしてください。
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キャリアアップ助成金正社員化コースまとめ
キャリアアップ助成金正社員化コースは、非正規雇用者の正社員転換を支援し、企業の人材定着や生産性向上を後押しする有力な制度です。2025年度には「重点支援対象者」の新設と新卒除外が導入され、最大80万円の助成を活用しやすくなりました。
労務管理部門と連携し、正確な手続きを進めて、組織力強化と従業員のキャリアアップを同時に実現しましょう。