日立産業制御ソリューションズは、2024年9月25日に、製造業の中堅企業向けに新たなSPC管理システム「ManaStark」を発表しました。このシステムは、2024年10月から提供を開始し、2030年度までに国内の100サイトへの導入を目指しています。
ManaStarkは、同社が長年培ってきた生産管理システムの開発ノウハウと、品質管理に関する深い知識を結集して開発されたものです。製造工程を見える化することで、多くの製造業の中堅企業が抱えている品質管理に関する様々な課題を解決することを目指しています。
今回は、製造工程における見える化の目的や導入するための重要なポイントを詳しく解説します。
製造工程の見える化とは
製造工程の「見える化」とは、工場の稼働状況や生産実績といった情報を、いつでもどこでも、誰でも簡単に把握できる状態にすることです。人や設備から集めたデータを整理・加工し、現場の作業員や管理者が分かりやすい形で提示することによって実現されます。
具体的には、以下のような多岐にわたる情報を一元的に可視化することを指します。
- 設備のリアルタイムな稼働状況
- 異常や故障
- 負荷状況
- 生産計画に対する進捗状況
- 製品・原材料・部材の在庫状況
- 製品別や顧客別の収益状況
製造工程における見える化の目的
製造業において、見える化施策は多岐にわたる目的を達成するために実施されます。この施策を検討される際には、その目的をしっかりと理解することが重要です。以下で詳しく解説します。
製造工程の課題が浮き彫りになる
製造工程における見える化で、生産の進捗状況や不良品発生率、在庫状況などをリアルタイムで把握することで、これまで見えなかった「ムダ」「ムリ」「ムラ」などの課題が明らかになります。例えば、機械から送られてくるデータを分析することで、工場全体の状況を俯瞰的に捉えることができるため、現場の状況の進捗を客観的に評価することが可能です。
その結果、ムダな作業やムラのある工程を具体的に特定し、改善策を講じることができます。また、従来は現場の状況を確認するために工場に足を運ぶ必要がありましたが、機械にカメラを設置することで、遠隔地からでもリアルタイムに稼働状況を把握できるようになります。
移動時間のムダを削減し、他の業務に時間を充てることができるようになるでしょう。リアルタイムなモニタリングは、故障などの予兆を早期に検知し、トラブル発生時の被害を最小限に抑え、生産の安定化に繋がります。
効率的な作業ができる
製造業においては、IoTの導入が見える化を強力に推進する手段として注目されています。製造現場にIoTを導入することで、機械の稼働状況や作業の進捗、在庫量などの情報をリアルタイムで収集し、可視化することができます。
従来は、これらの情報を把握するために、定期的な手作業によるデータ収集や間接的な指標に頼る必要がありましたが、IoTを活用することで、いつでもどこでも最新のデータを正確に把握できるようになり、より迅速かつ的確な意思決定が可能です。
例えば、製造ラインの状況をリアルタイムで把握することで、進捗状況に応じて人員配置を柔軟に変更し、生産効率を最大化することができます。また、異常発生を早期に検知し、迅速な対応を取ることで、製品の品質向上や生産の安定化にも繋がります。
業務プロセスが把握できる
社内全体で業務プロセスを共有し、標準化することにより品質が安定化します。従来、熟練者の勘や経験に頼っていた部分も見える化によって可視化し、標準的な手順として定着させることができます。
そのため、製品の品質にばらつきが生じるのを防ぎ、顧客からの信頼を確固たるものにすることが可能になるのです。
属人化を防止できる
工場では、特定の作業者にしかできない作業や情報が数多く存在します。これらのノウハウは、作業者の退職や転職により失われるリスクがあり、特に中小製造業では、業務が滞ってしまう恐れすらあります。
しかし、製造の見える化によって、作業のやり方や情報を客観的なデータとして記録することで、他の作業者への共有が容易となり、属人化やブラックボックス化を防ぐことができるのです。
従業員のモチベーション維持につながる
工場の状況や課題を見える化することで、具体的なデータに基づいた明確な把握ができるようになります。これにより、工場全体が共通の目標に向かって一丸となって取り組めるようになるのです。
改善の成果もデータで客観的に比較できるため、個々の作業者のモチベーション向上にも繋がりやすくなるでしょう。実際に、多くの企業では工場の状況をリアルタイムに表示するモニターを現場や事務所に設置し、従業員の意識改革を促しています。
設備の状態や使用状況が把握しやすい
製造における見える化を実施することで、業務効率化やコスト削減を実現し、工場全体の収益性向上へと繋げることが期待できます。例えば、設備の故障を事前に予測し、故障前にメンテナンスを行うことで、生産ラインの停止による無駄なコスト発生を防ぐことができます。また、製品ごとの原価を詳細に把握することで、コストダウンの取り組みを具体的に進め、適切な利益を確保することも可能になります。
見える化によって、業務上の課題やそれが収益に与える影響を正確に把握できるため、投資判断をより的確に行うことができるというメリットも期待できます。
製造工程における見える化の課題
製造業における見える化の重要性は多くの企業が認識しているにも関わらず、実際に工場の現場でデータに基づいた見える化が進んでいるケースは、まだまだ少ないのが現状です。ではなぜ、多くの企業が見える化に苦労しているのでしょうか。
その背景には、以下のような課題が潜んでいます。
工程計画がブラックボックス化しやすい
職人の作業は、長年の経験と勘に裏打ちされた高度な技術が求められるため、工程を数値化し、定量的に把握することは容易ではありません。そのため、作業計画を立てたり、プロジェクト全体を管理したりすることが難しくなり、無駄な作業の発生やスケジュールの遅延が生じやすいのです。
特に問題となるのが、工程の詳細が特定の職人しか把握していない「ブラックボックス化」の状態です。ブラックボックス化とは、仕事の内容や進め方、その仕事が今どうなっているのかといった状況を限られた人しか知らない状態のことです。まるで黒い箱の中に仕事が閉じ込められているように外からはその仕事の中身が見えないことから、そう呼ばれています。
このブラックボックス化は、突発的な作業変更が発生した場合、その対応が遅れてしまい、プロジェクト全体のスケジュールに影響が出る可能性があります。製造工程を見える化することで、誰もが作業内容を共有し、理解することが可能になります。
適切なKPIが設定できていない
KPIとは、Key Performance Indicatorの略で「重要業績評価指標」と訳されます。これは、組織が設定した目標達成に向けて、その進捗状況を数値で測り、評価するための指標です。
製造業における見える化の実現への課題の一つが、KPIが統一されていないという点です。同じKPIであっても、部門によって計算方法や根拠となる数値が異なっているケースは少なくありません。そのため、企業全体で共通の目標を共有し、効果的な改善活動を行うことが難しくなります。
数値を見える化するためには、従業員全員が理解し、共通の基準として使えるような評価指標を設定することが重要でしょう。
KPIを設定する時のポイントについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
アナログなままデータ化されていない
中小製造業では、未だに紙の帳票やExcelを用いた管理が一般的であり、現場の情報がデジタル化されていないことが大きな課題となっています。紙やExcelによる管理では、情報共有が円滑に行えず、各部門や作業者ごとに情報が分断されてしまい、工場全体での情報共有が困難な状況です。
さらに、システムを導入している場合でも紙の帳票に記録された情報をシステムに入力する際に、手作業による転記が発生するため、入力ミスや記録漏れのリスクが高まり、情報の正確性が担保できないという問題も抱えています。
データの活用方法がわからない
近年、多くの工場がデジタル化を進め、さまざまなシステムを導入していますが、伝票発行などの一部の業務にしか活用されていないケースが少なくありません。大量のデータが蓄積されているにも関わらず、それが単なる数字の羅列に過ぎず、有効活用されていない現状は非常に残念です。
せっかくデータを収集・蓄積しても、どのように活用すれば良いのか、具体的なイメージが湧かないという悩みも抱えている企業は多いでしょう。データから傾向を読み取ったり、課題を発見したりするためには、専門的な知識やノウハウが必要です。
また、工場全体の最適化を図るためには、複数のシステムに分散しているデータを統合し、一元的に管理する必要があります。これらの課題を解決するためには、データの可視化と共有を促進し、分析によって得られた知見を現場にフィードバックする仕組みを構築することが重要です。
製造工程における見える化の重要ポイント
製造工程における見える化の重要なポイントは、以下の通りです。具体的に見ていきましょう。
製造工程における5S実行する
製造現場において、5Sを徹底し、環境を整えることは効率的な生産活動を行う上で欠かせません。5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字をとった言葉で、職場環境を改善し、より効率的で安全な作業環境を実現するための手法です。
整理 | 不要なものを計画的に処分し、作業環境を整えること |
整頓 | 必要なものを効率的に探し出し、作業の妨げとなるものを排除すること |
清掃 | 汚れを落とし、設備の状態を確認すること |
清潔 | 汚れがない状態だけでなく、衛生的に保たれ気持ちよく過ごせること |
しつけ | ルールや道徳的な価値観を理解し、自然な習慣となるようにすること |
5Sを実践することで、職場は整理整頓され、清潔に保たれるようになり、作業効率の向上やミス防止に繋がり、従業員のモチベーション向上にも効果が期待できます。特に、製造における見える化を導入することで、5Sの効果を最大限に引き出すことができるでしょう。
使いやすいシステムを導入する
製造工程における見える化システムの導入において最も重要なことは、現場で実際にシステムを使う作業者にとって使いやすく、業務効率を向上させるものであることを導入することです。多額の費用をかけて導入したシステムが操作性や表示内容の面で現場のニーズと合わず、結果として活用されないという事態は避けるべきです。
特に、情報システム部門が主導してシステム導入を進める場合、現場の作業者との間で認識のズレが生じやすいという点に注意が必要です。システムの導入検討段階から、現場の意見を十分に聞き取り、その意見をシステムの設計に反映させましょう。
スモールスタートで始める
見える化システムの導入は、いきなり大規模なシステムを導入するのではなく、まずは小さな単位で始め、徐々に範囲を拡大していくスモールスタートが重要です。IoTの導入は、実際にデータを収集し分析してみなければ、どのような効果が得られるのかを予測しにくいトライ&エラーの要素が強い傾向にあります。そのため、PoCを用いて、想定した導入効果と実際の効果が一致しているかを確認しながら、プロジェクトを進めていくことが必要です。
また、先述した現場で使いやすいシステムを構築するためには、小規模なシステムを導入し、現場の作業者に使ってもらい、その使い勝手を検証することが有効です。この段階で得られたフィードバックを基に、システムを改善していくことで、より現場にフィットしたシステムへと発展させていくことができるのです。
IoT導入を成功させるためのポイントについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
社内ルールを作り標準化する
企業において、従業員全員が共通の認識を持ち、効率的に業務を進めるためには、明確な判断基準とルールを設けることが不可欠です。これらの基準やルールは誰が見ても理解できるよう、シンプルかつ具体的な言葉で表現し、社内で統一することが重要です。
導入後も検証し改善していく
製造工程における見える化でより良い成果を出すためには、見える化システムを導入後も定期的に検証を行い、自社の状況に合ったシステムへと改善していくことが重要です。見える化システムの導入後は新たな問題が発生したり、想定外の状況に直面することもあります。そのため、問題の原因を徹底的に分析し、改善策を講じる必要があります。
製造工程の見える化で業務改善につなげよう
今回は、製造工程における見える化の目的や導入するための重要なポイントを詳しく解説しました。製造業において競争力を維持し、さらなる成長を目指すための実現に向けて、多くの企業が注目しているのが製造工程の見える化です。見える化は、製造現場の様々な情報を可視化することで、問題点を早期に発見し、改善へと繋げるための有効な手段となります。
製造業における見える化は、製造現場の課題解決や生産性向上に繋がる重要な取り組みです。しかし、効果を最大限に引き出すためには、計画的な取り組みと継続的な改善を行いましょう。