物流の現場では、日々の出来高や労働生産性など、KPIと呼ばれる具体的な数値で作業の成果を測ることが重要です。製造業ではこれらの指標に基づいた管理が徹底されている一方で、物流部門ではまだまだ管理が行き届いていないケースが少なくありません。
「物流を効率化したい」と口では言いつつも、具体的な数値で成果を測る仕組みが整っていない企業は多いのが現状です。工場全体の収益向上を目指すのであれば、物流部門の無駄を徹底的に排除し、作業の成果を正確に評価できる体制を整えることが不可欠です。
今回は、物流KPIの設定メリットや設定する時のポイントを詳しく解説します。
物流KPIとは
KPIは「Key Performance Indicator」の略で、物流管理指標とも呼ばれる企業の業績を評価するための指標です。物流においてはコストや生産性、品質など、様々な要素を数値化し、物流業務が適切に行われているかを確認するために用いられます。
物流業界が人手不足に直面する中、業務の効率化が求められています。KPIは、この効率化を図る上で非常に有効なツールです。KPIを設定し、その数値を定期的に測定することで、物流プロセスにおける課題を明確化し、改善策を講じることが可能です。
KPIを活用することで、企業は物流コストの削減や配送時間の短縮、顧客満足度の向上など、様々なメリットを得ることができます。そのため、物流の効率化を図りたい企業は、KPIの設定を検討するのをおすすめします。
物流コストの改善については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
人材不足問題の解決策については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
物流KPIの具体的な項目
物流KPIは以下の3つの観点から設定されるのが一般的です。
- コスト・生産性
- 品質・サービスレベル
- 物流・配送
それぞれの具体例と計算式をまとめました。
コスト・生産性
物流コスト削減と生産性向上は、企業の収益性向上に直結します。実車率や積載率などの指標を改善することで、輸送効率を高め、無駄な運行を削減することができます。以下では、いくつかの例をご紹介します。
指標 | 計算式 | 内容 |
保管効率(充填率) | 保管間口数÷総間口数 | 保管スペースの有効活用度を評価する指標 |
人時生産性(庫内作業) | 処理ケース数÷投入人時 | ピッキングなどの物流作業の効率や生産性を評価するための指標 |
数量あたり物流コスト | 物流コスト÷出荷の数量 | 物流センターの物流コストを数量単位で管理する指標 |
日次収支 | 収支−コスト
(1日あたり) |
日次単位で収支を管理する指標 |
実車率 | 実車距離÷走行距離 | 配送車両の稼働効率を評価するための指標 |
積載率 | 積載数量÷積載可能数量 | 車両の積載効率を数値化し、状況を明確にするための指標 |
品質・サービスレベル
誤出荷率やクレーム発生率は、企業の品質やサービスレベルを測る重要な指標です。例えば、誤った商品が顧客に届いてしまうケースや、納期遅延によるクレームなどが考えられます。以下でKPIの例をご紹介します。
指標 | 計算式 | 内容 |
棚卸差異率 | 棚卸差異÷棚卸資産数量 | 帳簿と実在庫との差異を示す指標 |
誤出荷率 | 誤出荷件数÷出荷指示数 | 数量違いなどの誤出荷の頻度を示す指標 |
遅延・時間指定違反率 | 遅延・時間指定違反件数÷出荷指示数 | 納期遵守率を測るための指標 |
汚破損率 | 汚破損件数÷出荷指示数 | 商品の破損などの発生状況を測る指標 |
クレーム発生率 | クレーム発生件数÷出荷指示数 | 顧客からのクレームの割合を示す指標 |
物流・配送
物流・配送条件は、出荷ロットや配送頻度など製品の種類や顧客の要求によって大きく異なります。以下でいくつかの例を見てみましょう。
指標 | 計算式 | 内容 |
出荷ロット | ー | 製品をまとめて出荷する際の最小単位 |
出荷指示遅延件数 | ー | 納品期限超過による出荷指示件数を示した指標 |
配送頻度 | 配送回数÷営業日数 | 顧客別、納品先別の配送頻度を測る指標 |
納品先待機時間 | ー | 納品手続きが完了するまで待機した時間を示した指標 |
納品付帯作業時間 | ー | 商品の納品が完了までの作業時間を示した指標 |
納品付帯作業実施率 | 付帯作業実施回数÷納品回数 | 納品作業における付帯作業の割合を示す指標 |
物流KPIを設定するメリット
物流KPIを設定すると以下のようなメリットがあります。
- 問題点を可視化することができる
- 関係者全員が共通認識を持ちやすくなる
- 意思疎通が円滑になる
- 公平な評価を行うことができる
それぞれの項目を以下で詳しく解説します。
問題点を可視化することができる
業務を改善するためには、まずどこが問題なのかを明確にする必要があります。物流KPIは、数値化されたデータによって、客観的に業務プロセスの現状を把握できるため、何がボトルネックになっているのか、どこを改善すべきなのかを具体的に示してくれます。
また、データを可視化することで、問題点がより分かりやすく、全従業員が共有できるようになります。これにより、問題解決に対する意識が高まり、業務改善へのモチベーション向上にもつながることが期待できるのです。
関係者全員が共通認識を持ちやすくなる
物流業務の達成目標が「作業効率を上げる」「品質を向上させる」といった抽象的な表現にとどまると、関係者間で共通認識が生まれにくく、具体的な改善策の実行が難しくなることがあります。一方、物流KPIでは、目標を「遅延率◯%低下」「汚破損率◯%低下」など、数値で明確に示すことで、関係者全員が目指すべき方向性を共有できるようになります。
例えば、「作業効率を上げる」という目標の場合、「ピッキング誤差率を10%低下させる」というKPIを設定すれば、各担当者は具体的な改善策を検討し、目標達成に向けて一丸となって取り組むことができるでしょう。
意思疎通が円滑になる
物流業は、モノを異なる場所へ移動させるという性質上、多くの人々が関わる複雑な業務です。発荷主や作業会社、最終的な引き渡し先など、様々な企業や個人との連携が不可欠です。このような多くの関係者が集まる環境で業務の改善を図るためには、関係者全員が共通の目標に向かって協力することが求められます。
しかし、多くの関係者が存在する物流業界では、どこが問題点なのかを明確に把握することは容易ではありません。そこでKPIを活用することで、現状の課題を明確化し、関係者間で共有することができます。
例えば、「配送遅延率」や「梱包不良率」などのKPIを設定することで、問題点の所在を具体的に特定し、改善策を検討することができます。また、KPIの達成状況を定期的に共有することで、関係者全員が目標達成に向けて一丸となって取り組むことができるようになるでしょう。
公平な評価を行うことができる
現状を正確に把握し、適切な対策を立てたとしても、実際の業務改善には、多くの人々の協力が重要です。また、多方面からの協力を得るためには、従業員が自身の努力が報われると実感できるような環境が不可欠です。KPIは客観的な評価基準となるため、公平な評価を実現し、従業員のモチベーション向上に繋がると考えられます。
主観的な判断を排除し、多角的な視点から客観的に現状を把握することで、より良好な関係を構築することが期待できるでしょう。
物流KPIを設定する時のポイント
物流KPIを設定する時のポイントは、以下の5つです。
- 活用の目的を明確化する
- PDCAサイクルを回す
- 荷主が関わる業務のKPIも測定する
- 各部門と指標を連携する
- KPIの数を多くしないようにする
それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。
活用の目的を明確化する
KPIのデータを有効活用するためには、明確な目的が必要です。物流KPIの利用目的としては、一般的に以下のような目的が挙げられます。
- 社内の業務効率改善
- 荷主との連携による物流改善
- 社会的責任の観点からの評価
しかし、どの目的を重視するかによって、設定する具体的なKPIは大きく異なってきます。例えば、社内の業務効率改善を目的とする場合、配送時間や在庫回転率などの指標が重要です。一方、荷主との連携を強化したい場合は、納期遵守率や配送品質といった顧客視点の指標が求められるでしょう。
物流KPIの利用目的は多岐にわたるため、自社の現状や目指す方向性をしっかりと把握し、それに合ったKPIを設定することが重要です。
PDCAサイクルを回す
PDCAサイクルは、以下の4つのステップからなる業務改善の一般的な手法です。物流の分野においても、PDCAサイクルを設定することで、KPIの設定から改善活動までの一連の流れを体系的に管理し、業務の効率化を図ることができるでしょう。
PDCAサイクル | 具体的な流れ |
計画(Plan) | 設定したいKPIを明確にする |
実行(Do) | 設定したKPIを測定する |
評価(Check) | 問題点や改善点を見つける |
改善(Action) | 問題点の原因を分析し、改善策を検討する |
物流KPIにおけるPDCAサイクルでは、まず、KPI設定の目的を明確化し、実施体制を構築することが重要です。その後、KPIの測定を行い、その結果に基づいて改善活動を実施します。このサイクルを継続的に回すことで、物流業務の品質向上を図ることができます。
具体的には、KPI測定方法の決定や社内におけるKPIの意識浸透などが重要な要素です。これらの取り組みを通じて、PDCAサイクルを円滑に回し、物流業務の効率化を推進していくことが求められます。
荷主が関わる業務のKPIも測定する
自社内でのPDCAサイクルが確立された次のステップは、荷主との連携によるPDCAサイクルの構築です。自社単体でPDCAサイクルを回し、KPIを活用した業務改善のノウハウを蓄積した後に、物流プロセス全体を俯瞰し、荷主が関わる業務のKPIも測定することで、さらなる改善を図ることが可能です。
具体的には、荷主が抱える課題を的確に捉え、その原因を特定し、改善策を提案することが重要です。これにより、物流プロセス全体における課題解決に繋がり、より効率的で高品質な物流サービスの提供を実現することができるのです。
各部門と指標を連携する
各部門がそれぞれ異なるKPIを追いかけるのではなく、全社的な経営目標達成に向けて、各部門のKPIを連携させることが重要です。各部門のKPIは、会社全体のKPIと整合性を保つように設定し、部門間の連携を強化することで、より効率的な業務遂行が可能になるでしょう。物流KPIは物流部門だけでなく、企画計画部門や生産計画部門など、様々な部門との連携を強化する上で有効です。
物流KPIを軸に各部門のKPIを紐づけることで、より一体感のある経営を実現することができるでしょう。
KPIの数を多くしないようにする
物流KPIを設定する際、多くの企業が直面する課題の一つに、設定したKPIが現場で十分に活用されないという問題があります。その原因の一つとして、KPIが複雑すぎたり、目標との関連性が分かりにくかったりすることが挙げられます。
KPIが多岐にわたると、従業員はどれが重要なのか、何を優先すべきなのか、混乱してしまいます。また、目標達成のために何をすべきかが明確でない場合、KPIは単なる数字の羅列に過ぎなくなってしまうでしょう。
一般的に、一組織・個人に設定するKPIは3~5個が適切と言われています。最大でも10個程度にとどめ、それ以上になると、ほとんどの人が全体像を把握できなくなり、KPIの意味が薄れてしまう可能性があるのです。
物流KPIを設定して物流業務を改善しよう!
今回は、物流KPIの設定メリットや設定する時のポイントを解説しました。物流プロセスにおいて、現状をデータで正確に把握して分析することは、効率的な改善活動を進める上で重要です。物流KPIを設定することで、現状と目標とのギャップを可視化し、具体的な改善施策を立案することができるでしょう。