企業を取り巻く環境が急速に変化する中、サプライチェーンマネジメント(SCM)は、単なる物流の効率化にとどまらず、企業全体の競争力強化に不可欠な要素となっています。SCM戦略とは、企業の経営戦略に基づき、サプライチェーン全体の方向性を定めるものであり、SCM活動の羅針盤となるものです。自社の経営目標達成のために、どのようなサプライチェーンを構築していくべきかを定めるための重要な経営戦略の一つと言えるのです。
今回は、SCM戦略が経営にもたらす6つのメリットやデメリット、具体的なステップを詳しく解説します。
SCM戦略とは
SCMとはSupply Chain Managementの略で、サプライチェーンマネジメントと訳されます。サプライチェーンとは、原材料の調達から製品が消費者の手に渡るまでの、以下の一連の生産・流通プロセスを指します。
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原材料の調達 | 製品の製造 | 在庫の管理 | 製品の流通 | 最終的な販売 |
例えば、スーパーで購入する食品一つをとっても、その食品が農場で作られ、工場で加工され、運送会社によってスーパーに運ばれるまで、数多くの工程を経ており、一連の工程がスムーズに連携することで、私たちの手元に商品が届きます。SCM戦略は、このサプライチェーン全体を効率的に管理し、最適化することを目指します。
従来の考え方では、サプライヤーやメーカー、物流業者、小売店などのサプライチェーンを構成するそれぞれの企業が自社の利益を最大化するために個別に最適化を図ることが多かったのですが、SCM戦略では、サプライチェーン全体を一つのシステムと捉え、全体としての効率化を目指します。
サプライチェーンについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
SCM戦略が注目されている背景
近年、SCMへの注目が高まっているのは、以下のような要因が考えられます。
- 様々なIT技術が実用化されたため
- グローバル化が加速しているため
- ビジネスモデルが変化しているため
それぞれの項目を具体的に解説します。
様々なIT技術が実用化されたため
IT技術の目覚ましい進歩は、SCMのあり方を大きく変えつつあります。IoTによるリアルタイムな情報収集や膨大なデータを分析するビッグデータ技術、AIによる精度の高い需要予測など、新たなIT技術の活用は、より強固で効率的なサプライチェーン構築を可能にしました。
これらの技術革新は、企業が従来のSCM手法を見直し、より高度なSCM戦略へとシフトする契機となっています。
グローバル化が加速しているため
企業のグローバル化が進展し、生産や調達、販売が世界規模で複雑に絡み合うネットワークが形成されています。例えば、東南アジアの工場で製造された製品が日本の市場に届けられるといったケースはもはや珍しいものではありません。
このような世界中に分散する生産拠点を効率的に管理するためには、サプライチェーン全体を連携させて運用することが重要です。サプライチェーンの連携がスムーズに行われない場合、製品の価格や納期が競合他社と比較して不利になり、市場での競争力を失ってしまう可能性が高まるため、SCMの重要性は、ますます増していると言えるでしょう。
ビジネスモデルが変化しているため
ビジネスモデルは時代とともに進化を遂げています。従来、販売と物流は別々のプロセスとして捉えられてきましたが、近年では両者を一体化した新たなビジネスモデルが注目を集めています。
特に、人手不足が深刻化する製造業においては、物流の効率化だけでなく、生産の初期段階から効率化を図ることが喫緊の課題となっています。
SCM戦略が経営にもたらす6つのメリット
SCMを導入することで、企業は様々なメリットを得ることができます。ここでは、SCMの主なメリットを6つご紹介します。
①リードタイムを短縮できる
リードタイムとは、ある作業を開始してから完了するまでの時間のことです。 物流の現場では、製品の仕入れから販売に至るまでの様々な工程でリードタイムが発生します。
例えば、原材料の仕入れから製品の完成までの時間や製品が顧客の手元に届くまでの時間などが挙げられます。企業が何かしらの商品やサービスを提供する際には、必ずリードタイムが存在すると言えるでしょう。
SCMを用いることで、これらのリードタイムを短縮することができます。SCMは、企業内の様々な部門や外部の協力会社との連携を強化し、全体最適化を図ることで、より効率的な業務遂行を目指します。リードタイムの短縮は、顧客への迅速な商品供給を可能にし、企業の競争力向上に繋がります。
②コストが削減できる
企業にとって、利益の最大化は永遠のテーマです。その実現のためには、あらゆるコストを削減することが不可欠です。
SCMを導入することで、企業はサプライチェーン全体を最適化し、業務プロセスを可視化することができるでしょう。これにより、無駄なコストを削減し、効率的な作業が実現できるのです。
物流コストの削減方法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
③人手不足の解消ができる
SCMは、深刻化する人手不足問題の解決にも貢献します。特に製造業においては、人材確保が困難な状況が続いています。
SCMを導入することで、人員を投入すべきタイミングを正確に把握し、人的リソースを最適化することができます。そのため、少ない人数でより多くの業務をこなすことができ、生産性の向上にも繋がります。
④情報の一元管理ができる
サプライチェーンの情報を一元化することで、企業はこれまで見えにくかった業務全体の状況を俯瞰できるようになります。これにより、原材料の調達から製品の納品までのあらゆるプロセスで、潜在的な課題や問題点を早期に発見し、迅速に対応することが可能です。
例えば、原材料の調達遅延や在庫過多といった問題が可視化されれば、迅速な対策を講じることで、コスト削減や納期遅延の防止に繋げることができるでしょう。
⑤適正在庫を管理できる
企業にとって、在庫は現金化を待つ貴重な資産であると同時に、管理コストがかかる負担でもあります。在庫数が多すぎると、資金が商品に固定され、他の事業展開に回せる資金が減ってしまうという問題が生じます。一方で、在庫が少なすぎると、需要に対応できず、売上の機会を損失してしまう可能性があります。
適正在庫とは、これらの課題をバランス良く解決し、企業の利益最大化に貢献する在庫水準のことです。市場の需要と供給のバランスを常に意識し、過不足のない在庫を維持することが重要です。
SCMを導入することで、各プロセスにおける情報共有が円滑になり、迅速な意思決定が可能となります。例えば、需要予測の精度向上、生産計画の最適化、物流の効率化など、様々な側面から在庫管理を改善することができます。
⑥キャッシュフローを改善できる
SCMで在庫を最適化すると、過剰在庫による資金の無駄遣いを防ぎ、同時に欠品による機会損失も削減します。在庫管理の効率化は、キャッシュフローの改善にも繋がり、企業の財務体質を健全化します。
SCM戦略の経営におけるデメリット
SCM戦略は、企業の効率化や競争力強化に大きく貢献する一方で、その導入には様々な課題が伴います。以下で、SCM戦略の経営におけるデメリットを詳しく解説します。
導入コストがかかる
SCMを構築する上での最も大きな障壁の一つが、その高額な導入コストです。SCMは、自社だけでなく、取引先やサプライヤーなどサプライチェーンに関わるすべての企業を巻き込む広範なシステムです。そのため、多岐にわたる企業間の連携を円滑にするための複雑かつ大規模なITインフラの構築が必要になります。
このITインフラの構築には、多額の初期投資が必要となるだけでなく、導入後の運用や保守に関わる費用も継続的に発生するため、企業にとって大きな負担となるケースが少なくありません。
新しいビジネスチャンスを逃す可能性がある
SCMは在庫管理など、一部の業務に過度に特化してしまうと、全体最適の視点が欠け、新たなビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。SCMは、企業のバリューチェーン全体を最適化するツールである一方、変化の激しいビジネス環境においては、常に市場全体を俯瞰し、大局的な視点を持つことが重要です。
効率化を追求することは大切ですが、同時に、顧客ニーズの変化や競合の動向など、外部環境の変化にも柔軟に対応できる体制を整える必要があるでしょう。
SCM戦略の具体的なステップ
SCMシステムの導入におけるプロセスは複雑であり、慎重な計画と実行が求められます。以下では、SCMシステムの導入から運用までのステップを順を追って解説し、成功するためのポイントを詳しくご紹介します。
①目的や課題を設定する
SCM導入を成功させるためには、まず自社の現状を正確に把握することが不可欠です。導入の目的を明確にし、改善したい課題を具体的に洗い出すことで、SCMシステムの要件定義を精緻化することができます。
自社の課題を明確にすることで、必要な機能やシステム規模を適切に判断し、最適なSCMシステムを構築することができるでしょう。また、人員の配置や役割分担についても、具体的な検討を行う必要があります。
②プロジェクトの担当者を決定する
SCMプロジェクトを成功させるためには、プロジェクトに関わる担当者の選定が非常に重要です。SCMは自社だけでなく、取引先や関連会社など複数の企業が関わる大規模なプロジェクトであるため、各担当者の役割を明確にし、適切な人材を配置して下さい。
具体的には、SCMプロジェクトにおいて求められる役割を明確化し、それぞれの役割に適したスキルや経験を持つ人材を配置する必要があります。また、プロジェクト全体の進捗状況を可視化し、各担当者の役割分担を明確にすることで、円滑なコミュニケーションを促進し、プロジェクトの成功確率を高めることができるでしょう。
③サービスを比較検討する
SCMサービスの導入を検討する際、各サービスの特性を比較検討することは重要です。SCMサービスは、提供する機能や価格帯などが多岐にわたっており、自社の課題や規模に最適なものを選ぶ必要があるためです。
まず、導入前の段階で洗い出した課題を基に、それぞれのサービスがどの程度、課題解決に貢献できるのかを詳細に検討します。例えば、在庫管理の効率化が課題であれば、在庫管理機能が充実しているサービスを選ぶべきでしょう。
先述したように、SCMサービスの導入には初期費用だけでなく、運用コストも伴うため、自社の予算と照らし合わせて、費用対効果の高いサービスを選ぶことが重要です。さらに、サービスを提供するベンダーのサポート体制や導入後のカスタマイズ対応なども考慮する必要があります。長期的な視点で、自社の成長に合わせたサービスの拡張性も検討すべきでしょう。
④運用して効果を測定する
SCMの効果を最大限に引き出すためには、事前の計画と実行段階における評価を行いましょう。SCM導入の効果測定においては、目標を達成するための具体的なアクションプランを策定します。アクションプランは、単に作業項目を列挙するだけでなく、各項目の実施スケジュールや担当者を明確にし、数値目標と結びつけることで、進捗状況を客観的に評価できるようにします。
また、SCM導入は、企業全体の経営戦略と関連しているため、SCMの目標が企業全体の経営目標と整合しているかを確認することも重要です。SCMにより、企業の収益性向上や顧客満足度向上などの経営目標に貢献できることを示す必要があります。
さらに、SCM導入のコストにおいてもシステム導入費用だけでなく、コンサルティング費用や従業員の教育費用なども含めて算出し、その費用対効果を評価することが重要です。SCM導入にあたっては短期的視点だけでなく、長期的な視点を持って、経営全体の最適化を目指すべきです。
SCM戦略で経営の最適化をしよう!
今回は、SCM戦略が経営にもたらす6つのメリットやデメリット、具体的なステップを解説しました。SCMを導入することで、生産から物流に至るまでのあらゆるプロセスを可視化し、関連する情報を一元管理できるようになります。これにより、無駄な在庫を削減し、納期を短縮するなど、企業の効率化に大きく貢献します。
また、SCMは顧客のニーズや市場動向をリアルタイムに把握し、それに合わせた生産計画を立てることが可能になる上、サプライヤーとの連携を強化し、共同で新たな価値を創造することも可能です。自社の課題に合ったSCMサービスを活用することで、企業は経営の最適化を実現し、競争優位性を確立することができるでしょう。
