医薬品の製造・販売を提供する武田薬品が、工場のデータ可視化を実施し、材料の使用率を大幅に削減しました。具体的に、どのような項目でデータ可視化の技術が効果を発揮したのでしょうか。
今回は、製造業で発展しているデータ可視化技術のニュースについて、事例や仕組み、効果について深掘りします。また、製造業におけるデータ可視化の活用方法も紹介しているので、DX化を実現する参考にしてみてください。
武田薬品がデータ可視化で年45万リットルの材料を削減
武田薬品が、注射製剤やバイオ医薬品を製造する大阪の工場に、データ可視化の技術を導入しました。この取り組みは、医薬品の製造に用いる蒸留水(不純物を含まない水)の使用率をデータ化して節約するためにスタートしています。
まず医薬品の製造工場では、常に設備や機器を清潔に保たなければなりません。
この際に利用するのが蒸留水であり、武田薬品は毎年莫大な量の蒸留水を消費していました。
通常の水と違い、高額な費用がかかる蒸留水は、製造コストの一部を圧迫する要素です。
武田薬品はこの部分に目を付け、高まり続ける需要の増加に対応すべく、低価格で製造できるように、IoT技術を駆使してデータ可視化のシステムを構築しました。
今回のデータ可視化により、武田薬品では年間45万リットル以上の蒸留水を節約できています。
データ可視化により節約できた費用
蒸留水の費用相場は、工場用・研究用などで金額に違いはありますが、おおよそ1リットル当たり1,000円程度だと言われています。対して、武田薬品が節約できた蒸留水は45万リットルです。
つまり、単純計算でも年間4億5,000万円ものコストを節約できています。
規模が大きく、製造効率が求められる工場の中には、製造ロスによるコストに負担を感じている場所も多いはずです。今回のようなデータ可視化を実施すれば、長期的な費用負担を節約し、高いはあードルであったDXの設備投資に取り組みやすくなるでしょう。
データ可視化で蒸留水の使用率を削減した仕組み
データ可視化の技術はただ導入するのではなく、取得・分析・検討を繰り返しながら改良を加えていくことが重要です。武田薬品のDX担当者によると、次のような仕組みで資料率の削減を実現したというコメントがあります。
蒸留水は洗浄のたびに未使用分も廃棄してしまう。同時に稼働する必要がない工程は実施するタイミングをずらしたり、残量を効率的に使用するよう生産を最適化したりすることで、蒸留水の枯渇リスクを低減しながら効率的に使用できる
武田薬品ではこれまで、年に10~15回ほど、蒸留水の不足に悩まされていました。
対してデータ可視化の技術を導入してからは、ほとんど蒸留水が不足しなくなりました。
同様に、蒸留水の製造に用いる都市ガスの使用量削減にもつながっており、無駄なく蒸留水を製造できる環境を整備できています。
武田薬品のデータ可視化を活用した今後の目標
武田薬品は、今回の材料使用率の節約を機に、データ可視化技術を多方面で活用する目標を掲げています。参考として、目標として掲げられている要素を下表にまとめました。
データ可視化の目標 | 目標のゴール |
製造拠点への横展開 | データ可視化技術を他の工場にも導入し、さまざまな材料コストを節約する |
取水量の削減 | 医薬品の製造に欠かせない蒸留水の種類量を基準年から5%削減する |
武田薬品では、大阪工場で実施した取り組みを、千葉県や山口県の国内拠点でも展開する予定です。企業全体のコストを減らすことにより、環境負荷の低減はもちろん、さらなるDXの取り組みをスタートできるようになると期待されています。
また製造業ではDXに役立つ工作機器のサブスクがスタートしています。
低価格で最新の機械を導入できるため、データ可視化を実現しやすくなりました。
詳しい情報を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
製造業におけるデータ可視化の活用方法
データ可視化の技術は、今回のテーマである武田薬品の事例だけではなく、他にもさまざまな点に適用できます。参考として、さらなるデータ可視化の活用方法を整理しました。
製造設備・機器のメンテナンスを効率化できる
工場に導入している製造設備や機器は、常に稼働し続ける必要があり、故障等で製造を止めてはいけません。しかし、設備等の経年劣化や異常は避けては通れないのも事実です。
そこで役立つのが、製造設備や機器にIoT技術を導入してデータ可視化する方法です。
設備・機器の動作をデータ可視化して、常に動作状況を取得できるようになれば、動作に異常がないかチェックできます。また、異常が起きた場合には、故障の原因位置などを把握しやすくなるのが魅力です。
人間の目だけではなく、機械が取得するデータとしてメンテナンスできるため、問題が起こる前に修理・調整を施せます。
環境変化による製造のムラを削減できる
製造業の中には、塗装作業が必要な工場もあるでしょう。
このとき、工場内の気温や湿度の変化により、塗装のムラが発生している工場も多いはずです。
特に夏場や冬場は気温が安定しづらく、塗装品質にムラが起きてしまいます。
対して、工場内の空調設備にデータ可視化の技術を導入すれば、工場内の温度・湿度にあわせて自動で空調を変更する仕組みを作り出せます。
例えば、設置したセンサーでデータ可視化を実現し、空調設備と連動すれば、年間を通して工場内を一定温度・湿度に保てるのが魅力です。季節の変化があり、高温多湿な日本にとって欠かせない対策だと言えます。
作業人材の動きを効率化できる
データ可視化の技術を活用すれば、工場内で働く作業人材の動きを効率化できます。
例えば、熟練技術者の動きをデータとして取得すれば、社内研修や作業訓練の基礎データとして活用できるでしょう。また、作業人材の工場内の動きを読み取り、効率的な移動方法・手順を提案するなど、動きに関する効率化を目指せるのがデータ可視化の魅力です。
製造ロスを削減できる
データ可視化の技術を活用すれば、製造ロスの削減が可能です。
例えば、製造する製品の品質データを取得し、ビッグデータを作り出せば次のような条件でロスが発生する原因を究明できます。
- 何個に1つの割合で製造ロスが生まれているのか
- 1日の製造のうち、どの時間帯のロスが多いのか
- どういった作業と関連してロスが発生しているのか
「何が原因なのか」を追究していくことにより、自然と製造ロスの原因が判明します。
また、原因である要素の改善・解決を実施していくことによって、次第にロス削減につなげられるのが魅力です。
サプライチェーンとの連携を効率化できる
製造工場でのデータ可視化はもちろん、契約しているサプライチェーン企業とデータ情報を共有すれば、部品発注・製造・出荷・販売といった複数の作業での待機時間を防止できます。
例えば、部品の在庫数を管理できるデータ可視化の仕組みを準備することで、次の製造発注の予定を計画し、在庫不足に悩まされずに済みます。また、製造スケジュール・運送スケジュールをデータ可視化して共有しあえば、積み込みの際に発生する待ち時間を減らせるのが魅力です。
自社の改善はもちろん、サプライチェーン全体の改善を実施することにより、さらなるコストカット・利益向上の効果を期待できるでしょう。
データ可視化を含め、製造業のDXに力を入れたいのなら、セミナーを受講して知識を学んでみるのがおすすめです。例えば、次のようなセミナーに参加してみてはいかがでしょうか。
データ可視化を実現する課題
工場稼働を効率化し、製造ロスを防止しやすくなるデータ可視化の技術ですが、実現するためには複数の課題を解決しなければなりません。参考として、多くの工場・企業の壁として立ちはだかる課題を3つ紹介します。
導入コストがかかる
データ可視化を実現するためには、次のような機器・システムの導入が必要であり、初期費用・運用費用がかかることに注意してください。
- 専用のカメラ・センサーの導入・運用
- IoT機器の導入・運用
- データ取得・解析システムの導入・運用
導入コストが莫大になるため、現在の予算では導入が難しいという工場も多いはずです。
もし導入する予算にお悩みなら、補助金制度を活用するのが良いでしょう。
製造業で使える補助金についてお悩みなら、以下の記事をチェックしてみてください。
人材の教育が必要になる
データ可視化の技術を導入する際には、同時にデータ可視化の技術を扱える人材の確保が必要です。参考として、人材の確保方法をまとめました。
- IoT・DXの知識を持つ人材を採用する
- 社内人材を育成する
人材確保の費用を抑えたいのなら、社内人材の育成がおすすめです。
また、効率よくデータ可視化の技術を運用するためにも、工場内の作業人材に周知徹底するのが良いでしょう。
継続的に運用する仕組みが必要である
データ可視化の技術は、1回だけの利用にとどまらず、以下のサイクルを何度も回すことが重要です。
- データ取得
- データ分析
- 改善
- 実行・反映
1回のデータ可視化・取得だけでは、解決につながらない場合もあります。
繰り返しデータ可視化を続けて情報を蓄積することで見えてくる情報があるため、中~長期的に運用を続ける必要があると覚えておきましょう。
データ可視化についてまとめ
武田薬品が実施したデータ可視化では、製造設備・機器に利用する蒸留水の節約が可能となりました。莫大な使用コストを削減できたほか、蒸留水を製造するための都市ガスにかかる費用の節約にもつながっています。
同様に、データ可視化は製造業のいたる点に適用できる技術です。
製造設備や機器のほかにも製品、人の動きまですべてデータ可視化を適用できます。
工場内のムダを減らし効率的な生産体制を整えたいのなら、この機会にデータ可視化を検討してみてはいかがでしょうか。