多くの企業で業務のデジタルによる取り組みが行われ、働き方は目まぐるしく変化しています。デジタル化によって業務プロセスが変化すれば、これまでのマニュアル通りに業務に取り組むのではなく新しいスキルや知識の習得が必須になるでしょう。
それに伴い、経済産業省からは「リスキリング」と呼ばれる言葉が提唱され、取り組みを呼びかけています。
そして、特にリスキリングへの取り組みが重要とされているのが製造業です。日本の経済を支える重要な業種でありながら人材不足や技術力の保持者が少なくなっており、海外企業との優位性が危うくなっています。
本記事では、リスキリングの概要・取り組みの手順についても詳しく解説していきます。
リスキリングとは?
リスキリングとは、働き方の変化・多様化により今後新たに発生する業務に対して必要なスキルや知識を習得することを指します。海外ではすでに2016年から取り組みが始まっていますが、日本では2023年に経済産業省が取り組み・支援を開始することを発表しました。
また、リスキリングはDX化に伴った「デジタル分野の学び直し」と思われていますが、様々な市場でニーズのある分野も対象になります。もちろん、DX化に伴いこれまで人間が行っていた業務がAIやロボットによって置き換えられるため、職を失わないために必要とされています。
今後、企業がどれだけ売上を伸ばしていけるのか、どれだけ競合他社との競争優位性を確立できるのかはリスキリングが大きな鍵となっています。
リスキリングとリカレントの違い
新しいスキルや知識を習得する概念としては「リカレント」という言葉が挙げられます。2つの共通点・違いとしては以下の表を参照ください。
概要 | |
リスキリング | 新たな業務に必要なスキルや知識を学習する |
リカレント | 新たなスキルや知識を習得するために教育機関で学習する |
リスキリングとリカレントは「必要なスキルや知識を身につける」という点は同じですが、リスキリングは「従業員に新しいスキル・知識を身につけてもらう」といった企業側の立場であり、リカレントは「教育機関で新しいスキル・知識を身につける」といった自らの意志が軸になっています。
DX化によって企業も従業員に対してスキルの向上を図ってほしいという意図が込められており、リスキリングは企業側が資金を援助することも少なくありません。
リスキリングが注目される背景
欧米では2016年からリスキリングに取り組んでいますが、日本ではなぜ近年取り組む企業が増えたのでしょう。理由は下記3つが挙げられます。
- ダボス会議による影響
- 日本政府が支援を提言
- IT人材不足の解決
ダボス会議による影響
世界経済フォーラムの第53回年次総会(通称「ダボス会議」)が2023年に開催され、コロナ禍以降多くの企業が経営難に陥り退職者が続出したことが議論になりました。
現在はコロナウイルスによるパンデミックも収まりましたが景気後退や長引く不況が発生した場合にこそ、企業家や投資家は人的資本への投資を行わなければなりません。
人材確保が難しくなっている現代において、これから企業が成長や創造していくためには人的資本の投資であるリスキリングが非常に重要と言えるでしょう。
引用:Forbes JAPAN
日本政府が支援を提言
2023年に経済産業省がリスキリングへの取り組みを推進し、支援を提言したことで企業として取り組みやすくなり注目への背景になりました。2016年にリスキリングの取り組みが欧米で始まっていたにも関わらず、日本での浸透は近年のことです。
その背景には「コロナ禍による経営難」「資金の援助が難しい」ことにありました。特に人材を抱えている企業ほど教育コストにかけるお金は膨大になります。
日本政府により補助金や助成金の援助は多くの企業にとって取り組みを始める後押しとなりました。
IT人材不足の解決
国内外問わず企業が競争で優位性を確立するためには、デジタル化に取り組む必要があります。しかし、多くの業界では求職者に対しての求人数(有効求人倍率)は上回っており、人材の確保が難しい時代です。
特にDX化による取り組みはITの知識を保有した人材が必要になりますが、採用コストがかかるためDX化に取り組めない企業も多くありました。
そこで「IT人材を確保する」から「IT人材を育てる」にシフトチェンジする中で向かい風となる「リスキリング」が注目されるようになりました。
リスキリングを進める4つの導入ステップ
リスキリングを進めるには目標を決め、計画的に段階を踏む必要があります。ここでは以下4ステップで解説します。
- スキルの精査
- 教育プログラムを決める
- 教育の実施
- リスキリングしたことを活用する
①スキルの精査
「リスキリングに取り組む」「新しいスキルや知識を習得する」といっても、企業の特徴や事業内容によって身につけるべきスキルは異なります。そのため、企業の業務プロセスや課題、業績などを洗い出し今後展開していく事業に見合うスキルを精査する必要があります。
例えば、DX化に取り組むのであればDXに関するスキルが必要になります。すでに取り組んでいる事業の中でスキルを持っている人材が少ないのであれば、既にスキルを所持している従業員にリスキリングを行う必要はありません。
各種分析ツールなどを利用して、取り組む内容を決めましょう。
②教育プログラムを決める
リスキリングで最も重要となるのがどんな教育プログラムを受講するのかです。
あまりにも内容が膨大のプログラムを受講しても本来の業務に支障が出れば本末転倒です。一方、コストを抑えすぎた挙句効率の悪いプログラムを用意しても時間がかかり、良いプログラムとは言えないでしょう。
また、用意するプログラムは自社で用意するプログラムだけでなく、外部の人材に依頼する、外部のプログラムを取り入れるなどの複数を用意することで従業員自身のモチベーションにもつながります。
組織全体で学習支援を行う体制を整備し、教育効果を高めましょう。
③教育の実施
実際に教育の実施を行っていけば、定期的に面談やチェックシートなどを機会を設け進捗度合いを確認しましょう。同じ教育プログラムを受講しても個人によって学習する速度は異なります。
属人化が起きないためにも都度、一人ひとりの習熟度を確認し対応していきましょう。また、モチベーションを保たせるのも企業の役目です。仕事を行いながらリスキリングを行うため、就業時間外ではなく時間内に学習時間を設けるようにしましょう。
④リスキリングしたことを活用する
リスキリングで学習した内容は実務で実践できるような体制を構築しましょう。特に習得から時間が経過してスキルを活用するのは難しいでしょう。そのため、定期的にスキルを活用できる環境を作り、その中で得られたノウハウや教訓は社内で共有しましょう。
マニュアル化し全従業員が常に確認できれば、スキルを根付かせることもでき新入社員の教育にも利用できるでしょう。
リスキリングで使える補助金・助成金
ここからはリスキリングで使用できる補助金や助成金を紹介します。これから取り組もうと考えている方はぜひ活用しましょう。
「個人」と「法人」に分けてご紹介します。
個人
リスキリングは企業を中心に取り組みを推進していますが、個人でも「教育訓練給付制度」という補助金・助成金を使用できます。
教育訓練給付金制度とは、働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されるものです。
引用:厚生労働省
教育訓練給付金制度には3つの種類があり、
- 専門実践教育訓練
- 特定一般教育訓練
- 一般教育訓練
の3つが用意されています。それぞれの教育訓練は自身が受講する内容や費用によって支援内容が異なり、支給額も異なります。リスキリングを行う前には必ず確認しておきましょう。
法人
リスキリングは法人を中心とした取り組みのため、一定の条件を満たしておけば補助金・助成金を受け取ることができます。リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業の補助対象は「事業に参画する補助事業者」です。
補助事業者が支援できる対象の要件は、
- 正社員、契約社員、派遣社員、パートやアルバイトなど、企業等と雇用契約を締結している在職者
- 雇用主の変更を伴う転職を目指している
です。一方で「経営者」や「個人事業主」は雇用契約を結んでいないため対象外となります。
キャリアアップ支援事業は年齢制限も定められておらず、最大で70%(最大56万円まで)の給付を受け取ることが可能です。
引用:経済産業省 リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
リスキリングに取り組む際の注意点
リスキリングは人材不足を補い従業員のスキル習得・向上を目指す取り組みです。しかし「従業員の負担になっている」「生産性が低下し現場に負荷がかかる」といったことにより、退職者が出てしまうこともあります。
自社の従業員にリスキリングを強制的に行わせるのはスキル習得に時間がかかるだけでなく、自社の損失へとつながる恐れもあります。あくまで従業員の意思を尊重し、成功を目指しましょう。企業と従業員の双方が満足のいく結果になるためには、従業員の声を取り入れたうえで行うことが重要です。
また、リスキリングに取り組む際には一定のコストがかかります。「コストに見合っているスキルか」「費用対効果は高いのか」など精査・検討し、取り組みを行いましょう。
ビジネスの成否を担うリスキリング
企業においてDX化に取り組むのは新たなスキルが必要になり、大きなコストがかかります。しかし、自社の事業を成長させていくためにリスキリングは非常に重要です。
また、既存ビジネスの成否を担うだけでなく新たなビジネス創出のチャンスにもなります。本記事で紹介した導入ステップを理解し、リスキリングに取り組んでみてはいかがでしょうか。