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溶接技能を可視化!デジタル技術を活用した技能伝承の方法や取り組みを解説

総合重工業グループである株式会社IHIが、溶接技能の技能伝承を効率化する方法としてデジタル技術の活用をスタートしました。では、どのようなデジタル技術を活用して溶接技能を継承できるのでしょうか。

今回は、溶接技能のデジタル化に関するニュースをもとに、技術の概要や取り組み、技術継承の事例について深掘りしていきます。溶接技能がかかわる製造業の新技術を知りたい方はぜひ参考にしてください。

株式会社IHIが溶接技能の技能伝承をデジタル化

溶接技能を継承する取り組み

株式会社IHIは、以下に示す製品製造に欠かせない溶接技能を若手人材へと継承するために、ベテラン社員の動きを可視化できるデジタルツールを導入しました。

  • 火力発電用ボイラー
  • 液化天然ガスタンク
  • アンモニアタンク
  • メタネーション装置

どの製品も金属加工が必要であり、金属パーツ同士を安全に接合するためには溶接技能が必要です。しかし、減り続ける人材不足になかでベテラン社員がもつ溶接技能をうまく継承できないという問題が発生していました。

そこで溶接技能の継承を効率化するために動き出したのが、株式会社IHIの相生工場です。
当工場では、カメラを使用してベテラン社員が溶接する様子をデータとして管理するデジタルツールを導入し、いつでもベテラン社員の動きを確認できる環境を整えました。

以前に比べ、技能習得が早くなっている

引用:ニュースイッチ「高難度『溶接技能』をデジタルで可視化、IHI相生工場が挑む技能伝承」

工場長を務める社員も上記のように回答しており、溶接技能のみならず、専門的な技術が必要な要素をまとめて継承しやすくなると期待が寄せられています。

株式会社IHIの概要

株式会社IHIは、溶接技能の活用が必要となる資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械といった製造事業を展開している大手重工企業です。

溶接技能の日本一を生み出すべく、会社全体が技能訓練をバックップしており、全国溶接技術協議会や全日本ボイラー溶接士コンクールなどにも積極的に参加しています。国内工場はもちろん、海外の向上でも高い溶接技術が評価され、高品質な製品を生み出しています。

会社名 株式会社IHI
所在地 東京都江東区豊洲三丁目1-1 豊洲IHIビル
設立年 1889年(明治22年)1月17日
資本金 1,071億円

 

従業員数 28,237名

また近年では、自動車部品のロボット溶接を3Dシミュレーションする技術が登場しています。
以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

FAプロダクツの自動車部品のロボット溶接工程における3D動作シミュレーション技術が「地域産業デジタル化支援事業」に採択!

溶接技能の継承を急ぐ背景

3万人近い従業員を抱えている株式会社IHIは、国内有数の高い売上を維持し続ける重工企業です。しかし、膨大な売上を出している企業でも、人材という部分でさまざまな問題を抱えています。

まずは溶接技能の継承が急がれている背景についてわかりやすく解説します。

少子高齢化の加速

少子高齢化の比率
出典:厚生労働省「日本の人口の推移」

厚生労働省が公開している人口推移の情報によりと、2010年以降、継続して人口が減り続けると予想されています。その中でも著しく加速しているのが、少子高齢化です。

1990年代は15~64歳の人口が70%でしたが、2020年には60%、さらに2040年になると55%と徐々に労働者となる人材が後期高齢者へと変わり、人手不足になりやすいと言われています。

株式会社IHIといった製造業も少子高齢化の影響を受けており、徐々にベテラン社員が減少し始めています。溶接技能をもつ人材も減り続けていることから、若手社員に溶接技能を継承できる環境を整えやすくするために、デジタル化・可視化といった技術が注目され始めました。

2025年問題による技術者の退職

超高齢化社会を迎えている現代において、団塊の世代と呼ばれる人口割合の多い世代が一斉に後期高齢者となる2025年問題も、溶接技能の継承を急ぐ理由のひとつです。

溶接技能をもつベテラン社員のなかには団塊の世代の社員も多く、2025年問題をきっかけに少しずつベテラン社員の退職が増加していくと考えられます。ベテラン社員の退職が増えると、若手社員に技術を継承できる担当者が減ってしまいます。

結果として、少ない人材では「メイン業務>溶接技能の継承」ということが優先され、若手に対して溶接技能の継承がしづらくなっていくと考えられています。

溶接技能に関わる資格一覧

溶接技能の資格

人手不足の問題を解決するために溶接技能をもつ人材の確保が急がれていますが、溶接技術者として認めてもらうまでの道のりが長いことも、人材不足になりやすいポイントです。参考として、溶接資格の種類を以下にまとめました。

  • アーク溶接作業者
  • ガス溶接技能者
  • ガス溶接作業主任者
  • アルミニウム溶接技能者
  • PC工法溶接技能者
  • ボイラー溶接士
  • 溶接管理技術者
  • 溶接作業指導者

上記の内、アーク溶接作業者やガス溶接技能者は、実技講習を受けることで資格を取得できます。また、管理職という立場で求められる溶接作業指導者という資格も筆記試験の合格率が100%であるなど、比較的取得しやすい資格だと言えます。

ただし、溶接技能は資格を取得してからがスタートです。
実際に経験を積まなければうまく現場に対応できないことがほとんどであるため、ベテラン社員の技術を学びながら、スキルアップを目指すことが欠かせません。

溶接技能の継承をデジタル化する方法

溶接技能を効率よく継承する手段は複数あります。
その中でもデジタル化技術を活用した現代ならではの方法をわかりやすくまとめました。

動画マニュアルの作成

株式会社IHIを含め、多くの製造業で活用されているのが動画マニュアルの作成です。
例えばベテラン社員にヘッドセットを取り付けて、人の目線から見る溶接技能を映像として残します。

すると、その映像を見る若手社員は、あたかも自分が作業をしているような視点で溶接技能を体験でき、溶接のコツや作業手順を覚えやすくなるのが特徴です。

動画マニュアルは何度でも使いまわせることはもちろん、複数人でデータを共有できます。
マニュアルとして映像の動きに開設やナレーションを残して、さらに理解度を高められる動画を作成することで、若手社員の理解度を高めやすくなるでしょう。

AI技術の活用

人工知能であるAIにベテラン社員の溶接技能の「動き」「手さばき」を学習させれば、若手社員の動きを見て、作業効率が悪いポイントや改善点を抽出できる仕組みをつくり出せます。

例えば、AIに1年間撮影し続けたベテラン社員の映像を読み込ませることで、言葉で解説することが難しい溶接技能のノウハウを形式化できます。また、AIに若手社員の動きを読み取らせてベテラン社員との違いを判断させれば、次のようなポイントをAIが指摘してくれるでしょう。

  • 溶接時の姿勢の違い
  • 溶接する箇所ごとの品質の違い
  • 溶接中の手の動きの違い

ベテラン社員によって教育の仕方に違いがあるため、教え方によってはうまく溶接技能を継承できないおそれがあります。

同じく、文章や動画を見てもわかりづらいポイントがあることから、AIに違いを読み取らせて解決策を導き出すことで、溶接技能の継承を進めやすくするのもひとつの方法です。

IoTの導入による業務効率化

「モノのインターネット」と呼ばれるIoTの導入も、溶接技能の継承を効率化するひとつの要素です。

人の動きを検知するカメラやセンサーを工場内に導入することで、ベテラン社員と若手社員の溶接品質の違いをすぐに機械が評価・判定します。読み取ったデータはビッグデータとして蓄積されていき、若手社員がよく行うミスなどを分析しやすくなるのが魅力です。

IoT技術の活用は、製造業務の効率化につながります。
社員の作業負担を減らしやすくなることから、社内研修など、溶接技能の継承の時間を確保しやすくなるかもしれません。

また近年ではロボットを活用した溶接技術なども登場していますが、生産額の縮小が進んでいます。以下の記事で具体的な理由を解説しているので、あわせてチェックしてみてください。

産業用ロボットの生産額が大幅に縮小!下火が続く理由や問題の解決策を解説

溶接技能の継承を効率化する企業事例

溶接技能継承の企業事例

溶接技能の継承を効率化するため、株式会社IHIを含むさまざまな企業が効率化の施策を講じています。参考として溶接技能の効率化に関わる企業事例を3つ整理しました。

溶接技能の完全自動・遠隔半自動化を実現

溶接技能の継承に取り組む株式会社IHIは、カメラを活用した溶接技能のデジタル化と並行し、AIを活用した完全自動化・遠隔半自動化を実現しています。

例えば、株式会社IHIに導入されているAI搭載の溶接機器は、24時間365日継続的に溶接作業を継続できます。人手不足が問題化している現代において、ベテラン社員の代わりに稼働し続けてくれるのが魅力です。

また遠隔半自動化は、溶接作業におけるトーチの動きや条件を人力で調整して、作業だけを機会が担当する溶接の方法です。専門知識だけあれば、溶接技能を問わず対応できることから、熟練溶接士と同等の品質を確保できるようになります。

AIを活用した溶接技能の検査

海外でも同様に溶接技能の技術継承の取り組みがスタートしており、AIを導入した溶接技能の検査技術が登場しています。

技術が実施した溶接技能をAIが判断し、製品として出荷できるレベルなのかを検品します。
判定のベースとなるのが蓄積されたベテラン社員の溶接技能の品質であることから、どういった点に問題があるのかを瞬時に判断できるのが特徴です。

人の目で判断することが難しい溶接の品質ですが、AIを活用することで検品の品質を今までよりもさらに向上できると期待されています。

溶接技能についてまとめ

少子高齢化や2025年問題などを受け、現在製造業で活躍する溶接技能をもつ人材が不足している状況です。そして、この問題を打破するため、新たにAIやIoTの技術を活用する企業が増えてきました。

溶接技能は日本の製造業を支える重要な技術であることから、技術継承を途絶えさせないように取り組むことが重要です。ベテラン社員の溶接技能を残し続ける対策から目が離せません。

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