電動化・自動運転分野の事業を展開する株式会社デンソーが、自動車部品であるラジエーターの脱炭素を実現できたと発表しました。では、どのような方法で温室効果ガスの排出量を実質ゼロにできたのでしょうか。
今回は、デンソーが発表したラジエーターのニュースをもとに、部品製造で脱炭素を達成する仕組みや期待される効果について深掘りします。エコカーの製造に向けた取り組みを知りたい人は、気になるポイントをチェックしてみてください。
デンソーがラジエーターの脱炭素を実現!
現在、世界中の主要国でカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを実施しており、自動車メーカーも例外なくCO2排出量を抑えられる自動車を製造・研究しています。
そのような中、電動化・自動運転分野で有名な株式会社デンソーが、自動車部品の製造について次のことを発表しました。
子会社のデンソー福島(福島県田村市)で生産する自動車部品「ラジエーター」について、外部調達した再生可能エネルギーを使うことなく、地産地消の水素や電力を活用しCNを達成した。
株式会社デンソーは、トヨタグループの大手自動車部品メーカーであり、国内外に向けてさまざまな自動車部品の製造・販売を担っている会社です。今回のラジエーターの発表により、今後エンジンの冷却の仕組みが変化すると期待されています。
新型ラジエーターは製造段階で脱炭素を実現
デンソーが発表した新型ラジエーターは、すでに本社であるトヨタ自動車東日本に納品・供給が開始していますが、製造段階においても次のようなポイントで脱炭素を実現しています。
- 製造に利用する燃料を液化石油ガスから電気・水素に切り替えた
- 燃料として使用する水素の生成をトヨタ自動車に導入されている水電解装置より生成する
デンソーは今まで外部から調達していた燃料を使ってラジエーターを製造していましたが、今後は工場内で燃料の地産地消化が可能です。
ラジエーターとは?
今回取り上げたニュースで登場する「ラジエーター」とは、自動車に搭載するエンジン冷却用のパーツです。
自動車の搭載されたエンジンは、出力が高く稼働時間が長いほど高温となり、いずれオーバーヒートを起こして自動車が壊れるおそれがあります。このとき、ラジエーターを設置してその都度冷却できるようにすれば、エンジンのオーバーヒートを回避し長時間の運転が可能です。
ラジエーターは空調機器にも搭載されているパーツであり、冷却液(ラジエーター液)をエンジンの内部に届けるほか、温かい状態で戻ってきた冷却液を再度冷やすために利用します。稼働時に熱が発生する自動車やエアコンなど、身近な場所で利用されている部品です。
ラジエーターの仕組み
ラジエーターはエンジン付近の取り付けられている部品です。
エンジン内に設けられている冷却液の通り道と接続し、次のような流れでエンジンを冷却しつづけます。
- 冷却ファンによる送風でラジエーターの冷却液を冷やす
- エンジン内部に冷却液を流して熱を奪う
- 温まった冷却液を再度冷却ファンで冷やして循環させる
エンジンを継続的に冷やし続けるために、繰り返し冷却液を循環させるのがラジエーターの役割です。一般的にはLLC(クーラント)と呼ばれる専用の液体を用いますが、水道水を入れてエンジンを冷却させることもあります。
自動車メーカーでは、ほかにもさまざまなポイントで部品の改良やDX化が進行しています。
ラジエーターのみならず自動車ナットの生産についても最新のニュースが登場しているため、詳しくは以下の記事をチェックしてみてください。
新型ラジエーターと旧型ラジエーターの違い
デンソーが新しく発表した新型のラジエーターは、従来のラジエーターを全面的に改良し、性能アップ・小型化を実現しています。参考として、新型と旧型の違いを以下に整理しました。
新型ラジエーター | 旧型ラジエーター | |
製品幅 | 16mm | 27mm |
仕様素材 | 植物由来樹脂 | アルミニウム合金など |
放熱効率 | 旧型の10%向上 | 新型より10%減 |
旧型ラジエーターの約半分のサイズに収まることから、車載する範囲の自由度が高まり、その分だけ自動車事故に衝撃を吸収できる範囲が広がりました。
また、新型ラジエーターは旧型と違い、環境に配慮した植物由来樹脂を素材として利用しています。自動車の稼働時だけでなく製造段階でも脱炭素の目標を達成しやすくなったことも含め、今後は新型のラジエーターの普及が進んでいくと予想されます。
新型ラジエーターが生み出す効果
デンソーが製造・提供をスタートした新型ラジエーターは、今後自動車の製造に関してさまざまな効果を生み出すと期待されています。参考として、期待されている効果を3つ紹介します。
製造時のCO2排出量削減
今回、デンソーおよびトヨタ自動車における新型ラジエーターの製造では、従来の液化石油ガスから自社生成する電気・水素を用いる予定です。
液化石油ガスを使用した場合、大量のCO2を排出する一方、太陽光発電や水分解設備を用いて生成した電気や水素であれば、CO2排出量を実質的にゼロにできます。
2050年を目標としているカーボンニュートラルの実現に向けて日本が動くなか、大企業かつCO2排出と違い位置にいる自動車メーカーは早急に脱炭素を目指さなければなりません。今回のラジエーター製造により、デンソーでは脱炭素を実現しやすくなったと言えます。
自動車製造の低コスト化
新型ラジエーターの製造に用いる燃料を自社生成した電気・水素に変えたことにより、液化石油ガスを外部調達していた時期よりも燃料の低コスト化を実現しやすくなります。
自動車製造のコストを削減できれば、いずれは自動車販売の部分でも低価格化を実現できるかもしれません。自動車メーカーだけでなく消費者にも貢献できるポイントであるため、製造業界のみならず、一般消費者からも期待が寄せられています。
自動車の安全性が向上
新型ラジエーターは、旧型のラジエーターに比べて約半分のサイズまで縮小できることから、自動車のボンネット内に余裕を作り出せると注目されています。
また、余裕ができた部分に事故の衝撃を吸収できる対策を施せば、今までよりもさらに高い安全性を確保しやすくなるのが魅力です。さらにはラジエーターの小型化によって車載重量を減らすことができ、低燃費化にも役立つと期待されています。
もし自動車部品の開発など、自社向けのDX化に役立つ技術や知識を知りたい方は、セミナーに参加することで良いアイデアが見つかるかもしれません。次のようなオンラインセミナーも開催されているので、ぜひチェックしてみてください。
ラジエーター以外で実施されている自動車の改良ポイント
自動車メーカーでは、今回のラジエーターの開発だけでなく、さまざまなポイントで省エネ・環境対策に役立つ効果が生み出されています。参考として、自動車製造で注目されている技術を3つ紹介します。
水素エンジン
高騰しているガソリン価格に対応できる自動車として期待されているのが、水素エンジンを搭載した水素自動車です。
水素の力だけで自動車走行が可能になるほか、走行時のCO2排出がないため、環境配慮型の自動車として注目が集まっています。
最新の水素エンジンでは、1回の燃料補給で約140kmもの走行が可能であるため、いずれ長距離走行を実現できる水素自動車が開発されるかもしれません。
次世代電池
走行することで電力を生み出すハイブリッド車では、発電した電力だけで長距離走行が可能となる次世代電池の開発がスタートしています。
安価に入手できるリン酸鉄リチウムという素材が採用されており、航続距離1,000kmの実現が目標です。
すでに一部の自動車にはリン酸鉄リチウムの次世代電池が導入されており、自動車の軽量化による長距離走行が可能となっています。
NEDO省エネルギー技術
自動車メーカーのマツダ株式会社では、自動車の減速時にモーターで発電できるNEDO省エネルギー技術が開発され、自動車への導入が進行しています。
自動車は停止した状態から稼働するタイミングにおける燃料消費量が多いことから、その消費をモーターで発電した電力で補うことにより、従来自動車の15%もの燃料消費率を抑えられると期待されています。
自動車の長距離走行に役立つ技術であるため、ラジエーターの導入と同じく各種メーカー・消費者から省エネに役立つ技術だと注目されています。
ヒートポンプ
電気自動車(EV)の走行効率を高めるために導入が進んでいるのが、ヒートポンプと呼ばれる技術です。
ヒートポンプは安定的にボンネット内の設備を温めてくれる機能があり、冬季に発生する走行距離減少を抑えられる技術として注目されています。
近年、寒冷地における電気自動車の停止トラブルや事故発生が増えていることから、ヒートポンプを搭載した電気自動車が増加していくと期待されています。
環境配慮型の自動車について詳しく知りたい人は、以下の記事をチェックしてみてください。
環境のことを考えた次世代自動車の人気ランキングについて紹介しています。
ラジエーターについてまとめ
デンソーが開発・供給している新型のラジエーターは、今後、トヨタ自動車が製造する自動車の省エネ化・低燃費化、そしてカーボンニュートラルの実現を手助けしてくれる技術として注目が集まっています。
また自動車の軽量化や安全性の向上にも貢献できる技術であるほか、製造時のコスト縮減も期待できるため、デンソーの山崎副社長はニュースの中で次のように発言しています。
水素利活用の仲間の輪を広げ、福島から全国へ、水素地産地消モデルの展開を目指したい
新型ラジエーターを搭載した自動車が普及すれば、国内自動車の脱炭素を加速するため、今後の動向から目が離せません。