ロート製薬の上野工場では、現場改善の取り組みを定着させるため、工場の全員に改善案を出すことを義務化しましたが、その活動にはいくつかの課題がありました。
そこで、ロート製薬はデジタル化による工場の改革に着手し、グループウェアを活用した改善案の収集・共有を効率化しました。
これにより、情報共有が円滑になり、他のチームの取り組みを参考にしたり、過去の改善案を検索したりすることが容易になったようです。
紙と手作業に頼っていた従来の業務プロセスをデジタル化することで、生産性向上だけでなく、従業員の満足度向上にもつながることが期待できます。
今回は、工場のデジタル化の現状やデジタル化により実現できること、推進する7ステップをご紹介します。
工場のデジタル化の現状とは
工場のデジタル化とは、従来の人の手や目視による作業、紙ベースの情報管理などのアナログな手法に代わり、AIやIoTなどの最新のデジタル技術を導入することで、業務の効率化や生産性の向上を図る取り組みです。
2025年までに企業がITシステムの刷新を行わないと、競争力を失う可能性がある「2025年の崖」が指摘されており、回避するためにもデジタル化の推進が求められています。
しかし、日本の製造業におけるデジタル化の進展は、他の業種に比べて遅れている現状があり、特に中小企業ではその割合が高くなっています。
この背景には、中小企業におけるデジタル化に対する意識の低さや導入コストの高さ、既存のシステムとの連携や従業員のスキルアップなどの課題も障壁となっているようです。
2025年の崖をはじめとした、製造業の将来に関わる課題については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
工場のデジタル化により実現できること
工場におけるデジタル化推進は、単なるIT導入にとどまらず、以下のように生産工程の根本的な変革をもたらすものです。
- 業務の効率化が図れる
- 製品の質が向上する
- 情報をスムーズに共有できる
- ノウハウや技術を承継しやすい
- 現場作業の安全性が向上する
以下では、工場のデジタル化によって実現できることを具体的に解説します。
業務の効率化が図れる
工場の業務にデジタル技術やITツールを導入することで、従来の人手で行っていた作業を自動化し、業務全体の効率化を実現することができます。
具体的には、ロボットによる定型作業の代替や機械設備へのセンサー搭載による遠隔メンテナンスなど、様々な取り組みが可能です。
これらにより、生産性の向上や人件費の削減、製品品質の安定化といった、企業にとって重要な目標達成が期待できるでしょう。
製品の質が向上する
AIによる画像認識は、従来の人力による検査では見逃されていたような微細な傷や汚れを早期に発見し、不良品の発生を抑制します。
そのため、製品の品質向上だけでなく、リコールのリスクを軽減し、企業のブランドイメージ向上にも繋がります。
さらに、産業用ロボットは繰り返しの作業を高い精度で実行し、人為的なミスを防止します。
特に、溶接や塗装など、高度な技術を要する作業において、ロボットの導入は、製品品質の安定化に繋がるでしょう。
産業用ロボットについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
情報をスムーズに共有できる
デジタル技術の活用は、従業員間の情報共有を円滑にし、コミュニケーションを活性化させます。
特に生成AIを搭載したチャットボットは、社内の知見を蓄積し、従業員が気軽に質問できる環境を提供します。
これにより、新入社員は業務に必要な知識を効率的に習得でき、ベテラン社員は自身の経験を後輩に伝える時間を増やすことや新たなアイデアを生み出すきっかけとなるでしょう。
ノウハウや技術を承継しやすい
デジタルツインやメタバース技術は、熟練作業員の動作データを高精度にキャプチャし、仮想空間上に再現することで、時間や場所の制約なく、何度でも同じ作業を反復学習できる環境を提供します。
そのため、熟練作業員の技術やノウハウを、まるで目の前で見て学んでいるかのように、新人作業員に伝授することが可能になりました。
工場内の設備や作業手順をデジタル上で忠実に再現することで、新人作業員は、実際の作業に入る前に、仮想空間上でシミュレーションを行い、より安全かつ効率的に作業を習得することができるのです。
現場作業の安全性が向上する
製造業において、危険が伴う作業が多い工場では、従業員の安全確保が最優先課題です。
近年、ITツールの導入や業務プロセスの改善などのデジタル化の取り組みが現場作業の安全性向上に繋がっています。
例えば、AIを搭載したカメラシステムは、従業員の安全を確保するための先進的な取り組みの一つです。
工場内に設置されたAIカメラが、従業員の動きを常時監視し、危険なエリアへの立ち入りを検知すると、即座にアラートを発報し、関連設備の稼働を停止させることができます。
そのため、従業員は安心して作業に集中することが可能となり、事故発生のリスクを大幅に低減しています。
このようなデジタル化は、単に危険な作業を監視するだけでなく、危険因子を早期に検知することで、予兆保全を実現することも可能です。
デジタル化による安全対策は、従業員の安全だけでなく、企業にとっても大きなメリットをもたらし、事故発生による生産停止や損害賠償リスクを軽減し、企業の持続的な成長に繋がるでしょう。
工場のデジタル化を推進する7ステップ
工場のデジタル化を推進する手順は以下の通りです。
- 現状の課題を明確化する
- 最終的なイメージを全社員に共有する
- デジタル化の戦略を策定する
- デジタル人材を確保する
- デジタル化への施策を実施する
- デジタル化を推進していく
- PCDAを回し変革していく
それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。
①現状の課題を明確化する
まず重要なのは、現状の作業における課題を明確にすることです。漠然とした課題感のままデジタル化を進めてもデジタル化では解決できない問題も多く、かえって時間と労力の無駄になる可能性があるためです。
そのため、課題を洗い出し、その原因を深く掘り下げる必要があります。この際、データだけでは十分な情報が得られないケースが多いため、現場に足を運び、実際に作業している従業員に話を聞くことが重要です。
従業員は、日々の業務の中で様々な課題や改善点に気づいているため、彼らの生の声を聞くことで、データだけでは得られない効率化のヒントや新たな業務フローのアイデアなどを得ることができるでしょう。
デジタルツールの利用者となるのは現場の従業員なので、彼らが抱える課題や不満を理解し、彼らの意見を尊重することが成功への近道と言えるでしょう。
②最終的なイメージを全社員に共有する
工場のデジタル化を成功させるためには、業員一人ひとりがその変化を理解し、積極的に取り組むことが重要です。
しかし、従来の業務に慣れている従業員にとって、新たなデジタルツールの導入は、負担増やモチベーション低下に繋がる可能性があります。
特に、現在の業務に不満を感じていない従業員は、デジタル化を余計な手間と捉え、変化を拒否する傾向が見られます。
この状況を打破するためには、デジタル化によって実現したい業務のイメージを全社員で共有することが重要です。
従業員が、デジタル化が自分たちの仕事にどのようなプラスをもたらすのかを具体的にイメージすることで、変化に対する抵抗感を減らし、モチベーションを高めることができるでしょう。
③デジタル化の戦略を策定する
デジタル化の対象となる領域は多岐にわたり、魅力的な取り組みも数多く存在します。
しかし、無計画に様々な取り組みを並行して進めてしまうと、リソースが分散し、本来期待していた効果を得られない可能性が高まります。
そのため、まずは、様々なデジタル化の候補を整理・評価するした上で、比較的容易に実現でき、かつ大きなインパクトが期待できる取り組みから着手し、徐々に難易度が高く、より大きな変革をもたらす取り組みへと移行していくことが有効です。
優先順位付けを明確にすることで、工場のデジタル化の成功確率を高め、企業の競争力強化に繋げることができます。
④デジタル人材を確保する
デジタル化を成功させるためには、デジタル技術を駆使して業務を革新できる人材が欠かせません。
既存の業務プロセスをシステム化し、蓄積されたデータを分析することで、より効率的で効果的な業務遂行が可能になります。
そのため、エンジニアやデータサイエンティストといった専門知識を持つ人材の確保が求められます。
しかし、専門人材の採用や育成は容易ではありません。高度な専門知識とスキルが求められる一方で、人材の供給は十分とは言えない状況のため、企業はデジタル化を推進する上で、人材確保という大きな課題に直面しています。
この課題を解決するためには、人材育成を行うという選択肢も考えられます。キャド研では、従業員のデジタルリテラシーを高めることのできる以下のようなデジタル化を推進するためのプログラムを多数提供しております。
AIエンジニア育成講座
AIエンジニア育成講座は、AIプログラミングの基礎を2日間で効率よく学ぶことができる、初心者の方も安心のプログラムです。
会場受講とオンライン形式を選択できるため、ご自身のペースで学習を進められ、忙しい方でも無理なく受講が可能です。
さらに、262ページに及ぶオリジナル教材をプレゼントいたします。この教材は、講座内容の復習だけでなく、AIプログラミングを深く学ぶための参考書としても役立つでしょう。
データサイエンティストセミナー
データサイエンティストセミナーは、2日間という短期間で、データサイエンスの基礎からビジネスへの応用までを効率的に学ぶことができます。
経験豊富な講師が、データ分析の考え方や手法を丁寧に解説し、実務で役立つスキルを習得できます。
会場受講はもちろん、ウェビナー形式でもご自宅にいながら、講師に直接質問しながら学習を進めることができます。
また、操作サポートなども充実しているので、初めての方でも安心して受講いただけます。
⑤デジタル化への施策を実施する
デジタル化を成功させるためには、組織全体でデジタル変革を推進していく必要があるため、デジタル化推進を専門に行うチームの設立が重要です。
デジタル化推進チームは、企業全体のデジタル化に対するビジョンを明確にし、その実現に向けた戦略を策定し、社員に周知する役割を担います。
また、現場からの課題を積極的に吸い上げ、各部門と連携しながら、具体的な施策の実行を支援します。
デジタル化推進チームのメンバーには、デジタル技術に関する深い知識はもちろん、社内の様々な部門とのコミュニケーションを円滑に進めるための高いコミュニケーション能力、業務に関する幅広い知見が求められます。
具体的には、プロジェクトマネージャー、テックリード、UI/UXデザイナー、エンジニア、データサイエンティストなどの専門的な人材が活躍します。
⑥デジタル化を推進していく
これまでのビジョンに基づき、いよいよデジタル化の実行に移しましょう。いきなり全社規模のデジタル化を始めるのではなく、まずは特定の部門から具体的な取り組みを始めることをおすすめします。
しかし、成功するためには、現場の社員一人ひとりの理解と協力が不可欠なため、先述したようなデジタル化に関する知識やスキル向上を目的としたセミナーやハンズオン形式のワークショップの開催が効果的です。
これらの取り組みを通じて、社員がデジタル化の意義を深く理解し、自ら進んで業務改善に取り組めるようになるでしょう。
⑦PCDAを回し変革していく
工場の業務をデジタル化することで、企業はこれまで見えなかった業務に関する膨大なデータを手に入れることができます。
これらのデータを分析し、新たな課題やビジネスチャンスを見つけ出すことで、PDCAサイクルを迅速に回すことが可能となり、企業はより大きな成長を遂げることができます。
PDCAサイクルとは、以下の4つのステップを繰り返し、業務の効率化や品質向上を図るための手法です。
Plan(計画) | 目標達成のために必要な作業や手順を具体的に計画する |
Do(実行) | 計画に基づいて実行し、結果を出す |
Check(評価) | 実行結果を計画と比較し、目標達成度を評価する |
Action(改善) | 評価結果に基づき、次のPlanに繋げるための改善策を検討し、実行する |
このサイクルを継続的に回すことで、業務プロセスを常に最適化し、より良い結果へと繋げることができます。
そのため、企業は独自の顧客データや業務ノウハウを蓄積し、競合他社との差別化を図り、新たな価値を生み出すことができるのです。
工場のデジタル化を推進する際の注意点
工場のデジタル化は、生産性の向上やコスト削減など、多くのメリットをもたらす一方で、以下のような注意点も存在します。
- 初期投資が大きい
- 従業員の教育コストが発生する
- セキュリティ対策が必要になる
既存の設備を一新したり、高度なロボットを導入したりする場合には、多額の費用が必要となりますが、特定の業務をデジタル化するツールやシステム導入であれば、比較的安価に済むケースもあります。
さらに、IoT機器やデジタルツールを効果的に活用するためには、操作方法やデータ分析に関する研修が重要です。
しかし、システム導入や業務プロセス改革には、一定の期間と労力が伴うため、導入直後は一時的に費用が増加する可能性も考慮しておく必要があります。
加えて、工場のデジタル化の重要なデータを保護するためには、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。
このように、工場のデジタル化を成功させるためには、初期投資額、教育コスト、セキュリティ対策など、様々な側面から慎重に検討し、長期的な視点で計画を進めることが重要です。
工場のデジタル化で業務効率化を実現しよう
今回は、工場のデジタル化の現状やデジタル化により実現できること、推進する7ステップをご紹介しました。
工場のデジタル化は、人手不足が深刻化する現代において、業務効率化を実現するための重要な手段です。
推進するためには、現状の業務における課題を徹底的に洗い出し、デジタル化によって解決できる部分を明確にし、デジタル人材を確保して、具体的な施策を立案・実行に移します。
デジタル化は、いきなり全工程を一斉に開始するのではなく、まずは小さな範囲から試行錯誤を繰り返すことが重要です。
成功事例を積み重ね、そのノウハウを全社に展開することで、デジタル化の目的であるビジネスモデルの変革へと繋げていくことが理想的です。
