製造業では、製品を期日までに納品し、同時に一定の品質を維持することが求められます。
この品質管理においては、ヒューマンエラーによる検査漏れやミス、不良発生原因の特定困難、手戻りによる納期遅延といった問題が頻発する可能性があります。
製造現場の品質管理担当者は、製品の品質を安定的に維持するにはどうすれば良いのか、品質管理を効率的に行うにはどのような方法があるのか、などの課題に直面しているのではないでしょうか。
ある企業が実施した設計・製造現場における品質管理の実態における調査によると、半数以上の製造業者が設計や製造工程で品質問題に直面していることが明らかになりました。
この結果は、多くの製造企業が製品の設計や製造過程において、品質に関する様々な課題を抱えていることを示唆しています。
今回は、製造業が抱える品質問題の原因や改善させるための6つの解決策をご紹介します。
製造業が抱える品質問題とは
品質とは、製品やサービスが顧客の期待に応える度合いを指します。スマートフォンであれば、高速な処理速度や高画質なディスプレイなどが期待される機能であり、期待を満たすことで、その製品の品質は高いと評価されます。
製造業においては、品質は製品が設計図や仕様書通りに作られているかという観点で捉えられます。
この品質は、製品の設計段階で定められた通りの質と実際に製造された製品がその設計どおりにできているかを示す出来栄えに分けられます。
製造現場では、製品が設計どおりに作られていない「品質不良」が発生することがあります。
品質不良は、製造過程における様々な要因によって生じるばらつきが原因となることが多いです。
効率的で安定した生産体制を構築するためには、以下の要素によって、不良品を未然に防ぐことが重要です。
工程管理 | 製品やサービスを作る上での作業の順序や手順の管理 |
品質検査 | 製品の設計図面や品質基準と照らし合わせ、完成品が合致しているかを厳密に確認する作業 |
継続的な品質改善 | 製品の不良を未然に防ぎ、一度発生した不良が繰り返されないようにするための取り組み |
しかし、多くの製造現場では、これらの要素が十分に機能しておらず、様々な課題を抱えているのが現状なのです。
製造業における品質問題を起こす原因
製造業において、高品質な製品を安定的に供給することは、企業の競争力維持に欠かせません。しかし、様々な要因が絡み合い、品質問題が発生することがあります。
以下では、製造現場で発生する品質問題の原因を多角的な視点から解説します。
収集したデータの活用が困難なため
製造工程や機器に関するデータの収集及び分析は、品質向上に不可欠ですが、現状では、収集したデータの活用が難しく、改善が進まないという課題を抱えています。
まず、未集計・無編集のデータから、目的に応じた必要なデータを抽出することが困難です。
膨大な量の生データの中から、分析に役立つ情報を効率的に取り出すことができないため、データの潜在的な価値を十分に引き出せていません。
次に、取得データをそのまま監視するだけでは、因果関係を示すことが難しく、発生要因を特定できないという点も課題として挙げられます。
単にデータを眺めるだけでは、問題発生の原因を究明し、適切な対策を講じることができません。
さらに、データが膨大で見える化が進まず、何をどう見える化するかが難しいという問題も存在します。
大量のデータを可視化するためには、適切な手法やツールを用いた設計が求められますが、どのような視覚化が最も効果的であるかを見極めることは容易ではないのです。
原材料の不良や異物の混入が生じたため
製品の基礎となる材料に不良があると、後工程での品質改善が困難になるため、製品の品質を維持することは非常に難しいと言えるでしょう。
例えば、ボールペンのインクや部品の品質が異なれば、本来の発色が出なかったり、製品の耐久性が低下したりといった問題が発生する可能性があります。
さらに、材料のロットや製造日、供給元が異なることによって、製品に微細な差異が生じることもあるでしょう。
また、サプライヤー側の品質管理体制に問題があれば、原材料そのものに不良が発生したり、異なった素材や化学物質が混入してしまうといった事態も起こり得ます。
このような問題は、製品の品質に深刻な影響を与え、最終的には企業の信頼を失うことにも繋がりかねません。
機械設備側に不具合が生じるため
機械設備が原因となる品質不良は、作業手順が正しくても発生する可能性があります。現場で5Sが推進されていたとしても、設備点検の重要性が十分に認識されていなかったために、不具合の兆候を見逃してしまうケースがあるのです。
5Sについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
4Mが変化したため
4Mとは、製造業において品質管理や安全管理、変更管理において重要な役割を果たす以下の4つの要素の頭文字を取った略語です。
- Man(人)
- Machine(機械)
- Material(材料)
- Method(方法)
4Mの要素のいずれかに変化が生じると、品質不良が発生する可能性が高まります。例えば、製品の原材料が変更になると、製品の特性も変化するため、それに合わせた作業手順や機械の設定を変更する必要があるのです。
変更が現場の作業者に適切に伝わっていなければ、従来の作業方法で作業を行ってしまう可能性があり、不良品が発生する原因となるでしょう。
検査の品質にばらつきが生じるため
人の手・目視による品質検査は、従業員一人ひとりの作業方法や手順にばらつきが生じやすいという点が課題です。
人間は長時間作業を行うと疲労し、集中力が低下するため、不良箇所を見落としたり、検査手順を飛ばしてしまうといったヒューマンエラーが発生するリスクも高まります。
従業員の作業工数が増えているため
製造工程が複数に及ぶ現場では、製品の品質を確保するため、人の目視による検査や設備の維持管理が欠かせません。
しかし、これらの作業は高度な専門性と集中力を要するため、従業員の負担が大きく、作業工数が増加しやすいという課題があります。
特に、複雑な工程や多品種少量生産においては、この傾向が顕著です。従業員の作業工数が過剰になると、人的ミスが増加し、製品の品質低下や不良品の発生に繋がりかねません。
さらに、納期遅延や顧客クレームなど企業全体の経営に悪影響を及ぼす事態を招く可能性も考えられます。
業務の属人化が起きているため
製造業において、品質問題が発生する原因は多岐にわたりますが、その一つに、品質の検証やデータ活用といった業務が、特定の従業員のスキルや経験に過度に依存しているという状況が挙げられます。
特定の社員だけが高度な分析手法を習得しているため、その社員が退職したり、病気で休職したりした場合、そのスキルや知識が失われ、品質管理に大きな穴が開いてしまう可能性があるでしょう。
業務が属人化し、特定の個人がいなければ円滑に進めることが困難な状態になっているのです。
このような属人化は、企業の生産性低下や品質の安定化を阻害するだけでなく、人材育成の面でも課題となります。
特定の社員に業務が集中することで、他の社員の成長が妨げられ、組織全体のスキルレベルの底上げが難しくなるためです。
製造業における品質問題を改善する6つの解決策
以下では、製造業における品質問題を改善するための6つの具体的な解決策を紹介します。
①業務を標準化する
業務効率化を図り、生産性を高めるためには、特定の従業員だけが業務内容を把握している状況を打破し、誰でも同じ品質で業務を遂行できるように標準化を進めることが重要です。
そのための鍵となるのが、作業手順書です。これまで暗黙の了解で進められてきた業務を言葉で説明し、図などで視覚的に表現することで、標準化を実現できるでしょう。
作業手順書が整備されることで、誰でも業務を理解し、遂行できるようになり、人材の流動化にも対応できるようになります。
また、限られた人員でもスムーズに業務を進めることが可能となり、業務効率化にも繋がるでしょう。
②現場のムリ・ムダ・ムラを取り除く
ヒューマンエラーが原因となる品質不良は、日々の生産活動における「ムリ」「ムダ」「ムラ」が潜在的な要因となっているケースが少なくありません。
ムリが生じている状況では、作業者に過度な負荷がかかり、肉体的な疲労が蓄積されるため、集中力の低下によるミスや標準作業手順の意図的な省略といった行為に繋がり、品質不良を招く可能性が高まります。
また、ムダやムラが存在する場合、製造品質に直接的な影響がない範囲であっても作業全体の効率を低下させるヒューマンエラーのリスクを高める要因となります。
ムリ・ムダ・ムラを解消し、作業負荷を軽減することは、生産活動を効率化し、標準作業をシンプルにするため、ヒューマンエラーが発生しやすい状況が改善でき、品質の安定化に繋がるでしょう。
③一元管理の体制を構築する
IoT、AI、クラウドシステムなどのデジタル技術を活用し、製造現場の設備稼働データを一元管理する体制を構築することで、品質管理のレベルを飛躍的に向上させることができます。
膨大な製造データを一元的に蓄積・管理することで、従来は見えにくかった非効率な工程や不良発生の要因を可視化できるようになります。
そのため、問題点を早期に発見し、改善策を迅速に実行することが可能となり、製品品質の安定化に繋がります。
さらに、製造過程で発生するトラブルごとにデータを詳細に分析することで、現象ごとの変化を捉え、異常検知の精度とスピードを向上させることができます。
結果的に、製品不良のリスクを最小限に抑え、顧客満足度の向上に繋げることができるでしょう。
IoT導入については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
④人が行ってきた品質管理を自動化する
IoTやAIの導入は、従来の人手による品質管理に革新をもたらします。具体的には、検査工程の高速化、ヒューマンエラーや属人化の防止、不良率の削減と品質の安定化などの効果が期待できます。
例えば、産業用ロボットを導入することで、一部の検査工程を自動化し、作業効率を大幅に向上させることができます。
また、IoTセンサーから収集した稼働データをもとに、AIが製品の異常を事前に検知したり、故障の原因を特定したりすることが可能です。
さらに、AIの画像処理技術を活用することで、製品の外観検査を自動化し、より高精度な検査を実現することができます。
⑤サプライチェーンを見直す
材料不良や異物混入などの品質問題は、自社内だけでなく、サプライチェーン全体に影響を及ぼす深刻な問題です。
このような問題が発生した際には、単に不良品を廃棄するだけでなく、サプライチェーン全体を見直し、根本的な原因を究明し、再発防止策を講じることが重要です。
自社内だけでなく、原材料の調達から製品の出荷までのサプライチェーン全体において、不良や不具合が発生していないか、徹底的に見直す必要があります。
特に、特定の原材料や仕入れ先で不良が頻発する場合は、それらの材料や仕入れ先自体を見直す必要があるかもしれません。
品質管理体制の強化は不可欠ですが、不良数を完全にゼロにすることは現実的ではないため、 QCDのバランスを考慮しながら、最適な対策を講じることが重要です。
Quality(品質) | 自社の品質基準を満たす製品を安定的に供給できるよう努める |
Cost(コスト) | 原材料の調達や品質管理にかかるコストを管理する |
Delivery(納期) | 安定的な供給が可能な仕入れ先を選定し効率化を図る |
⑥従業員に品質教育を実施する
新人の入社時教育において、自社の品質方針や品質の重要性を十分に伝える機会が不足していると、社員は日々の業務の中で品質意識が薄れてしまい、作業手順などの標準を軽視する傾向が生まれます。
意識の低下は、ヒューマンエラーによる品質不良や不具合を招きかねません。また、中堅社員や熟練社員の場合でも、長年の経験から「慣れ」が生じ、無意識のうちに作業手順を逸脱し、品質不良を引き起こす可能性があるでしょう。
このような状況を改善するためには、以下のような人材育成サービスなどを活用し、全従業員を対象とした品質教育の実施が重要です。
新人社員に対しては、入社時教育の一環として、自社の品質に対する考え方や、品質がいかに重要であるかを徹底的に教育します。
また、中堅社員や熟練社員に対しても定期的な研修を通じて、常に品質意識を刷新し、最新の知識や技術を習得する機会を提供することが大切です。
CAD人材育成サービス
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研修プログラムには、eラーニングも組み込むことができ、時間や場所に縛られず、効率的に学習を進めることができるでしょう。
研修後も現場での課題解決にCADをどのように活用していくか、具体的な支援を行うため、単なる座学ではなく、貴社が求める即戦力となる人材育成が可能です。
製造業を中心に10年以上の経験を持つコンサルタントが、ご提案から実施まで一貫してサポートいたします。
製造業における品質問題はIT技術で改善できる
今回は、製造業が抱える品質問題の原因や改善させるための6つの解決策をご紹介しました。
製造現場における品質管理は、製品の品質を維持し、顧客満足度を高める上で極めて重要な役割を果たします。
従来、人による目視検査を中心に行われてきた品質管理は、ヒューマンエラーのリスクや検査結果のばらつき、データの活用不足などの課題を抱えていましたが、より効率的で高品質な製造プロセスを実現するためには、IT技術の導入が注目されています。
IT技術を活用することで、製造装置の稼働データを一元管理し、リアルタイムで状況を把握できるようになります。
また、AIによる画像認識技術を用いて、製品の外観検査を自動化することで、検査精度を向上させるとともに、人的ミスを防止することができるでしょう。
さらに、収集されたデータを可視化することで、製造工程におけるボトルネックや改善点を見つけ出し、品質向上に繋げることが可能です。
