2022年の調査によると、日本の企業における調達から購買までのDX化率は、グローバル平均を下回っています。コロナ禍を機に、サプライチェーンの変革やDXの重要性がますます高まる中、カシオ計算機は、従来の部門ごとの改善策ではなく、全社的なDX推進の必要性を感じ、全社バリューチェーンのデジタル化に取り組んでいます。
そこで今回は、日本の調達DXが遅れている理由や調達DX導入のメリット、調達DXを導入する際のポイントをご紹介します。
調達DXとは
調達DXとは購買調達DXとも呼ばれ、企業の購買活動にデジタル技術を取り入れ、業務の効率化と最適化を図る取り組みです。従来、人の勘や経験に頼っていた購買調達管理や仕入れ、支出分析、仕入れ先との関係構築などの業務を、クラウドサービスやデータ分析、AIなどの先端技術を活用することで、迅速かつ正確な意思決定を可能にすることができます。
製造業のデジタル化の事例については以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
日本の調達DXが遅れている理由
先述したように、日本の企業における調達から購買までのDX化率は遅れています。ではなぜ、日本の調達部門はDX化が進んでいないのでしょうか。
以下では、日本の調達DXが遅れている主な理由を解説していきます。
アナログでベテランの経験に依存しがちのため
購買・調達部門は、製品開発の初期段階から参画し、設計部門からの部品仕様の確認や、製造部門からの納期要求など、多岐にわたる要求に対応しています。また、仕入れ先との間では、価格交渉や品質に関する議論など、複雑なやり取りが日々発生します。
従来、これらのやり取りはメールや電話などで行われ、情報共有や履歴管理が困難でした。また、Excelシートを用いた手作業によるデータ管理は、入力ミスや情報の抜け漏れといったリスクが常に存在しており、業務の透明性や正確性が担保されにくいという課題がありました。
さらに、ベテラン社員の経験や知識に依存する部分が多く、若手社員へのノウハウ継承が困難なのです。
DXの優先順位が低いため
一般的に日本の多くの企業では、購買・調達部門を専門に担当する役員が不在であることが多いです。そのため、調達・調達部門への投資が後回しになりがちで、DXの推進も優先順位が低い状況にあります。
さらに、購買・調達部門は、直接的な利益を生み出す部門ではないという認識が根強く、DXへの投資が後回しにされやすい傾向にあるのです。
最新技術を利用していない製造業の課題については以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
調達DX導入のメリット
調達DXの導入は、製造業において以下のようなメリットをもたらします。
- 購買プロセスを効率化できる
- 購買調達に関わるコストを削減できる
- 購買業務を標準化できる
- 最適な仕入れ先を選定することができる
各項目を詳しく見ていきましょう。
購買プロセスを効率化できる
DXにより購買プロセスの透明性が高まることで、業務の迅速化と正確性が向上します。製造業においては、多くの品目や複数の製造拠点が存在するため、購買管理は複雑になりがちです。
そのため、この複雑なプロセスを効率化し、全体的な業務の最適化を実現することが可能です。また、購買データの収集や分析も容易になり、より精度の高い意思決定ができるでしょう。その結果、仕入先との連携も強化され、全体の最適化にも貢献します。
購買調達に関わるコストを削減できる
従来の紙ベースの発注や契約プロセスをDX化することで、印刷や郵送にかかる費用を削減できるだけでなく、業務効率の向上も期待できます。さらに、仕入先選定などの意思決定をデータに基づいて行うことで、よりコスト効率の高い購買を実現し、全体的なコスト削減につなげることができます。
特に製造業においては、購買調達コストの削減が企業の収益性向上に直結します。コストを低減することで、製品価格を据え置いたまま利益率を向上させたり、競合との価格競争力を高めて市場シェアを拡大したりすることが可能になるのです。
購買業務を標準化できる
調達DXの導入により、購買データや履歴がシステム上で一元管理されるようになります。そのため、これまで担当者個人の経験や勘に頼りがちだった購買業務を標準化し、透明性のあるものへと変える可能性があります。
調達DXは担当者が変わっても、システム上に蓄積された情報に基づき、一貫した購買プロセスを遂行できるようになるため、業務の継続性が確保されます。特に、複数の製造拠点を持つ大規模な企業では、購買に関わる担当者数が多くなる傾向にあり、業務の標準化が求められます。
DXの導入によりこのような課題を解決し、業務品質の向上と生産性の向上に繋げることができるでしょう。
最適な仕入れ先を選定することができる
データ分析ツールを活用し、過去の購買データや市場動向を詳細に分析し、最適な仕入れ先を選定できるようになります。製造業において、最適な仕入れ先の選定は原材料や部品のコスト削減に直結するだけでなく、生産スケジュールの遅延リスクを軽減し、効率的な生産計画を立てることを可能にします。
また、最適な仕入れ先を選定することは、購買の品質を向上させ、天災などの予期せぬ事態のリスクの分散化を実現することができます。さらに、価格変動や市場トレンドを予測し、最適なタイミングで調達を行うことで、原材料や部品の購入コストを削減することもできるでしょう。
調達DXを導入する際のポイント
ここでは、調達DXを導入する際のポイントを解説します。調達DXを成功させるためには、どのような点に注意すべきか、ぜひ参考にして下さい。
間接材の購買をDXで変える
調達DXといえば、原材料などの改良が真っ先に思い浮かぶ方も多いかもしれませんが、実は間接材の購買にも大きな改良の余地があります。事務用品費や設備管理費などの間接材は、一般的に企業の売上の6〜8%を占めるといわれており、効率化することで、大幅な収益改善が期待できるのです。
従来の間接材の購買は人手に頼る部分が大きく、発注から購買までのプロセスが非効率であるケースが多々見られました。しかし、DX化することでプロセスを可視化し、透明性を高めることが可能になります。さらに、自動化できる部分はシステムに任せることで、購買プロセスを迅速にし、人為的なミスを大幅に削減することができます。
仕入れ交渉を変革させる
市場分析や仕入れ先選定のプロセスにデータ分析ツールを導入することで、客観的で精度の高い仕入れ先選定が可能になります。過去の購買データや市場動向を分析し、最適な仕入れ先を特定することで、コスト削減や品質向上につなげることができるでしょう。
また、仕入れ先とのコミュニケーションをDX化することで、情報共有の効率化が図られ、迅速な意思決定が可能になります。さらに、契約書や納品書などのドキュメントを電子化することで、情報漏洩のリスクを軽減し、仕入れ先全体の透明性を高めることも可能です。
データに基づいた効果検証を行う
調達DXの成功には、中長期的な視点と継続的な改善が求められます。その改善を効果的に行うためには、定量的なデータに基づいた検証が欠かせません。定期的に購買データを分析し、数値でDXの効果を評価することで、新たな改善点を見つけ出し、購買調達プロセスを最適化することができます。
例えば、仕入れ先選定のデータ分析により、コスト削減効果を定量的に評価したり、納期遵守率の向上を数値で示したりすることが可能です。また、デジタル技術の導入にあたっては、自社の業務に最適なツールを選択することが重要です。調達DXは、データに基づいたPDCAサイクルを回すことで、継続的に改善していくことが重要です。
デジタル技術に対応できる人材育成を行う
調達DXを長期的に推進していくためには、人材育成が重要な鍵となります。新しいシステムの導入やデータ分析など、DX化には高度なデジタルスキルが求められます。社内に適任者がいない場合は、人材教育を実施する必要があります。
さらに、DX化を牽引するリーダーの存在も欠かせません。リーダーは、経営層の意図を理解し、部門間の調整を行いながら、プロジェクトを成功に導く役割を担います。全ての教育を自社で完結させる必要はありません。コア業務に集中するために、非コア業務は外部に委託するのも一つの選択肢です。
以下のようなDXに特化した人材育成サービスを活用するのもおすすめです。
企業向けDX・AI人材育成サービス
AI研究所の企業向けDX・AI人材育成サービスは、数々のDX人材育成現場をこなすコンサルタントがお客様の問題と理想をヒアリングをした上で課題設定を行い、方向性と解決策をご提案するサービスです。DX推進を加速するため、組織の各段階に合わせた最適な人材育成プランをご提案しており、「ビジネスを創出する力」「DXを活用するための幅広い汎用的な技術力」「デジタルの専門的な技術力」といった能力を、組織のステージやレベル、部署に合わせ、最適な組み合わせで育成していくことを目指します。
全体のリテラシー強化 | プロジェクトメンバーや経営陣の研修 |
デジタル技術活用 | 専用スキルの人材育成 |
DX推進 | DXに特化した人材育成 |
しかし、日常業務を行いながら、デジタル技術に対応できる人材育成を行うには時間がない場合もあるでしょう。AI研究所の人材育成サービスでは、短期的なプランから中長期的なプランで御社の業務に合わせたカリキュラムを構築することで、御社にとって必要な内容を厳選して人材育成を実施することができます。
eラーニングにも対応しているため、時間や場所を気にせず人材育成を行うことも可能です。
調達DXの導入は生産性を向上させて競争力を高める
今回は、日本の調達DXが遅れている理由や調達DX導入のメリット、調達DXを導入する際のポイントをご紹介しました。日本企業の調達DXは、他の部門に比べて遅れているのが現状です。
しかし、企業の生産性を向上させ、競争力を強化するためには、調達部門のDX化が不可欠です。他社に先駆けて調達DXを推進することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 購買プロセスを効率化できる
- 購買調達に関わるコストを削減できる
- 購買業務を標準化できる
- 最適な仕入れ先を選定することができる
メリットを享受することで、企業は競争力を強化し、持続的な成長を実現することができます。購買DXは、企業が生き残っていくための必須条件となりつつあるのです。