気候変動への危機感が高まる中、製造業に携わる者として、エネルギー選択の重要性を日々実感されているのではないでしょうか。工場の電力消費や生産ラインの稼働、製品のカーボンフットプリントなどが、企業の環境責任と直結しています。
富士経済が2025年1月に公表した最新調査によると、グリーン電力市場は急速に発展しており、製造業や小売流通業などの大企業、地方自治体、官公庁などが利用する特別高圧分野の小売が市場全体の半分以上を占め、今後さらに拡大すると見込まれています。
今回は、グリーン電力で得られるメリットや導入ステップを解説します。
グリーン電力とは
グリーン電力は、多様な自然エネルギー源から生み出される電力のことです。発電する際に二酸化炭素をほとんど排出しないため、地球温暖化の主要因である温室効果ガスが削減され、環境負荷の少ないエネルギー源として注目されています。
製造業では、製品のライフサイクル全体でのカーボンフットプリント削減が求められる現代において、グリーン電力化が重要な取り組みとなっており、自社工場での小規模発電設備の導入からグリーン電力証書の購入まで、企業規模や状況に応じた多様な選択肢が存在します。
今後ますます厳しくなる環境規制や脱炭素要求に対応するためにも、製造業におけるグリーン電力の導入検討は避けて通れない課題となっているのです。
グリーン電力の種類
グリーン電力には、以下のような種類が存在します。
- 太陽光発電
- 風力発電
- 水力発電
- 地熱発電
- バイオマス発電
それぞれの特徴を以下で見ていきましょう。
太陽光発電
太陽光発電は、半導体素材を用いた太陽電池パネルにより、太陽からの光エネルギーを直接電気に変換する技術です。発電過程で二酸化炭素を一切排出せず、設置工事が比較的シンプルで、未使用スペースを有効活用できることが特徴です。
初期投資は必要なものの、一度設置すれば、燃料費がかからず、定期的なメンテナンスを行うことで長期間にわたって安定した電力供給が見込めます。
風力発電
風力発電は、自然の風の力を利用してタービンを回転させることで電気エネルギーを生み出す技術です。風を活用するため、継続的かつ環境に優しい電力供給が実現できます。様々な形態があり、広大な土地に多数の風車を配置したウィンドファームや海洋に設置する洋上風力発電も近年急速に普及しています。
海洋上ではより安定した強い風が得られるため、発電効率が高いという利点もあります。
水力発電
水力発電は、地形の高低差を利用して流れ落ちる水のパワーをタービンに変換し、電気を生成するため、天候に左右されにくく、安定した電力供給が可能です。
従来の大規模ダム式発電所だけでなく、近年では中小河川や既存の農業用水路を活用した小水力発電の導入も広がっています。また、発電コストが長期的に見て安定しており、エネルギー調達の予測可能性を高められるという利点もあります。
地熱発電
地熱発電は、地中深くに存在する熱エネルギーを利用し、電力を生み出す仕組みです。水力発電同様、天候に左右されない安定性があり、四季を通じて絶え間なく継続的な発電を可能にします。
安定した電力供給は生産計画の信頼性向上にも直結するため、工場運営における重要な選択肢となりつつあります。
バイオマス発電
バイオマス発電は、自然界に存在する植物由来の資源や動物から生じる有機物質をエネルギー源として活用します。木材チップや農業残渣、食品加工過程で生じる廃棄物なども燃料として利用できるため、計画的な栽培や管理によってエネルギー源を持続的に供給できるのです。
通常であれば廃棄されていた有機物を有効活用できることから、廃棄物処理問題の解決にも繋がります。
グリーン電力とグリーンエネルギーの違い
グリーン電力とグリーンエネルギー(再生可能エネルギー)という言葉は、しばしば混同されがちですが、定義が異なります。
グリーンエネルギー | 自然界に存在する循環型の資源から得られるエネルギー全般 |
グリーン電力 | グリーンエネルギー源を活用して発電された電気エネルギー |
グリーンエネルギー(再生可能エネルギー)は利用しても枯渇せず、環境への負荷も相対的に小さいという特徴がある一方、グリーン電力はより限定的な概念を指します。グリーン電力は再生可能エネルギーの一形態で、電気形態に変換されたものなのです。
しかし、グリーン電力の定義や基準は国や地域、認証機関によって異なり得るため、具体的な導入検討の際には関連制度を確認することが重要です。
グリーン電力の導入方法
グリーン電力の導入方法は主に以下の3通りあります。
自家発電 | 所有する土地に設備を設置し、生産された電力を自社で消費する |
グリーン電力を購入 |
|
電力証書を購入 | 企業や自治体は環境価値を取得できる |
電力証書にある環境価値とは、温室効果ガスの削減や吸収などの環境に良い影響を数値化したもので、証書を購入することで、物理的に再生可能エネルギーの電力を使用していなくても、制度上はグリーン電力を利用しているとみなされます。
日本国内では現在、以下の3種類の電力証書が存在しており、企業の状況や目標に合わせて最適なものを選択することが可能です。
特徴 | 1キロワット時あたりの価格 | |
FIT非化石証書 | 非化石燃料を用いた発電 | 0.3円 |
J-クレジット | 政府が管理・運営する再生可能エネルギー発電由来 | 1.17円 |
グリーン電力証書 | 再生可能エネルギーによる発電 | 2円〜4円程度 |
グリーン電力証書の購入ステップ
グリーン電力の導入方法についてご紹介しました。3種類の中でもグリーン電力証書制度は、環境負荷の低減を図りながら企業価値を高める手段として特に注目されています。
以下で、グリーン電力証書の購入ステップをご紹介します。
①明確な目的設定をする
多くの企業では、自社が消費する電力に対してグリーン電力を活用することにより、以下のような気候変動対策の報告制度において、環境への取り組みを示す証拠として活用できます。
CDP | 企業の気候変動対策の取り組み |
SBT | 温室効果ガス排出量を削減する目標 |
目的を明確に定めることで、具体的に何キロワット時分のグリーン電力証書が必要なのかを正確に算出することができます。
これにより無駄な投資を避け、効果的な環境貢献ができるでしょう。適切な目的設定は、ただ証書を購入するだけでなく、企業の持続可能な事業展開と環境価値の向上に直結する重要な一歩となります。
②発行事業者を選定する
グリーン電力証書の購入には、適切な発行事業者の選定が重要です。証書発行事業者によって販売単位や価格設定が異なり、発電所の種類やサービスも事業者ごとに特色があるため、①で設定した目的を念頭に置きながら合致した証書発行事業者を選定することが大切です。
最適な選択をするためには、複数の業者のサービス内容を比較検討することをお勧めします。各事業者の提供する証書の特徴や付帯サービス、サポート体制などを総合的に評価し、自社の目標達成に最適な発行事業者を選択して下さい。
③見積もりを依頼する
グリーン電力証書を提供する企業が決定したら、具体的な金額の見積もりを依頼しましょう。見積もりを受け取った後は、御社の電力使用状況と照らし合わせながら、実際に必要となる電力量と確保できる予算枠を考慮して、何キロワット分のグリーン電力証書を購入するかを決定してください。
環境への貢献度とコストのバランスを取ることが大切です。
④契約手続きに進む
契約時には、証書の種類や数量、価格設定、有効期限などの条件を丁寧に確認することをお勧めします。
契約完了後、グリーン電力証書が発行されます。受け取った証書には重要な情報が記載されているので、必ず内容を精査してください。
具体的には、以下のような内容が明記されているはずです。
- 発行された日付
- 固有のシリアルナンバー
- 証書を認証している機関名
- 発電方法
- 発電設備の具体的な場所
- 実際の発電量
- 二酸化炭素削減効果など
また、受け取った証書の内容と締結した契約の条件が一致しているかどうかも確認して下さい。これにより将来的なトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
⑤購入した事実を公表する
企業が持つ環境価値を正確に伝えるためには、購入した事実を公表する必要があります。「表現等に関するグリーン電力証書所有者用ガイドライン」では、公表時に含めるべき情報として次の要素について言及することが望ましいとされています。
- 購入したグリーン電力の利用時期
- 購入主体となる組織名
- 電力の使用場所や施設
- 購入した電力量の規模
- 環境配慮の具体的な目的
これらの要素を含めた公表により、ステークホルダーに対して透明性のある情報提供が可能となり、企業の環境への取り組みがより明確に伝わります。
グリーン電力の活用を適切に社会へ発信することで、環境配慮型企業としてのブランド価値向上にも繋がるでしょう。
グリーン電力のメリット
グリーン電力への移行は、単なる社会的責任を超えた戦略的な経営判断となりつつあります。以下では、製造業におけるグリーン電力導入の具体的なメリットをご紹介します。
環境負荷を大幅に軽減できる
従来の化石燃料による発電では、石油や石炭、天然ガスなどを燃焼させる際に大量の二酸化炭素が発生し、地球温暖化の原因となっていました。
しかし、グリーン電力は、発電時の二酸化炭素排出がゼロまたは極めて少ないため、製造業のような大量のエネルギーを消費する産業分野においても、環境負荷を大幅に軽減することができるのです。
ESG投資の証明となる
近年、国内外の投資市場では脱炭素化に積極的に取り組む企業へのESG投資が著しく拡大しています。グリーン電力の活用により、CDP、RE100、日経環境経営度調査など国際的・国内的に認知された環境評価システムにおいて、再生可能エネルギー使用量やCO2削減量を客観的に証明することができます。
信頼性の高い指標で環境への貢献を示すことで、投資家からの信頼獲得に繋がり、資金調達の円滑化や株価の安定などの財務面での恩恵も期待でき、事業利益の向上も期待できるでしょう。
企業の価値が向上する
先述したように、グリーン電力証書制度は、実際の電力供給とは別に流通し、製造業を含む企業や自治体が購入することができます。
製造業の企業がこの証書を取得すれば、直接再生可能エネルギー設備を保有していなくとも、グリーンエネルギーの普及に貢献していることを内外にアピールできるため、環境意識の高い取引先や消費者からの評価向上に繋がり、企業ブランドの強化に結びつくでしょう。
グリーン電力における注意点
最後に、グリーン電力導入の際に見落としがちな注意点をご紹介します。
コストが高い
グリーン電力システムの初期導入には高額な設備投資が必要となり、その後の維持管理においても従来型の発電方式と比較して相対的に高いコストがかかります。
長期的な視点では、環境負荷軽減やエネルギー自給率向上などのメリットがありますが、短期的な収益性を重視せざるを得ない企業にとっては、この投資判断が難しい課題となっています。
製造業がサステナビリティに取り組む際の注意点については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
証書には法的な拘束力がない
グリーン電力証書を発行しているのは日本品質保証機構という民間団体のため、政府や公的機関による直接の認証ではありません。そのため、法的な拘束力を持ち合わせていないのが現状です。
エネルギーの効率的使用を企業に求める省エネ法や、温室効果ガスの排出抑制を目指す地球温暖化対策推進法の報告義務においては、グリーン電力証書だけでは対応できないというデメリットがあるのです。
しかし、資源エネルギー庁と環境省が共同で運営する「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」を活用することで、グリーン電力証書に国の認証を付与することが可能です。
この認証を受けることにより、地球温暖化対策推進法で定められた報告や情報公表の際に、正式な削減実績として計上できるようになります。グリーン電力証書を取得するだけでなく、この国の認証制度も併せて活用することをお勧めします。
グリーン電力の導入で環境保全と企業価値の向上を実現
今回は、グリーン電力で得られるメリットや導入ステップを解説しました。製造業において環境への配慮はもはや選択肢ではなく必須となりつつあります。特にグリーン電力への移行は、地球環境の保全と企業の持続的成長を両立させる重要な戦略です。
しかし、グリーン電力は理想的だが、高額な初期投資が必要で即座に行動を起こすのは難しい、と感じている方も少なくないでしょう。しかし、大きな一歩を踏み出す前に、まずは自社の二酸化炭素排出量を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
現状を正確に測定することで、どの工程や設備からの排出が多いのかが明らかになり、効果的な対策を立てることができます。小さな一歩を積み重ねることで、持続可能な未来の実現に貢献しませんか。
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