近年、製造業においてXRの活用が注目されています。先日、パナソニックがShiftallの超軽量8K VRヘッドセットを活用し、産業VR市場に本格参入することが発表されました。従来、製造業では3D CADを用いたディスプレイ越しでのバーチャル検証が一般的でしたが、XR技術の導入により、より現実世界に近い環境下で製品の検証が可能です。
例えば、VRヘッドセットを装着することで、実際に製品に触れたり、内部構造を詳細に観察したりすることができ、設計段階での問題点を早期に発見し、改善することができるでしょう。この様なXR技術の活用はパナソニックに限らず、すでに様々な企業で進められています。
今回は、製造業でXRを活用するメリットや導入する際のポイントを詳しく解説します。
製造業で活用が進められているXRとは
XR(クロスリアリティ)は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)などを包括する概念で、現実世界と仮想世界を融合させた技術の総称です。XRの「X」は、様々な可能性を意味しており、VRやAR、MRなどの既存の技術だけでなく、今後登場する新たなデジタル技術も包含する広範な概念を指します。
XR | 技術 | 代表的な例 |
AR(拡張現実) | 現実世界にデジタル情報を重ねて表示する | 写真アプリのフィルター機能 |
VR(仮想現実) | ユーザーを完全に仮想空間に没入させる | VRヘッドセットを装着するとその場にいるかのような体験 |
MR(複合現実) | 現実世界と仮想世界の両方の要素を体験できる | 製品設計で、3Dモデルを現実空間に投影 |
SR(代替現実) | 現実世界を完全に仮想空間に置き換える技術 | VRより没入感の高い体験を提供 |
近年では、SR(代替現実)と呼ばれる技術も注目を集めており、XRの領域はますます広がりを見せています。これらの技術の発展により、私たちは現実世界では体験できないような全く新しい世界を体験できるようになるかもしれません。
XRの技術の一つであるVRについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
XRとメタバースの違い
メタバースとXRは、どちらも近年注目を集めているテクノロジーですが、それぞれ異なる概念を表しています。
メタバース | インターネット上に構築された仮想空間そのもの |
XR | メタバースのような仮想空間を実現するための「技術」の総称 |
メタバースは仮想空間そのものを指し、ユーザーはアバターと呼ばれる分身を使って、他のユーザーと交流したり、様々な活動を行うことができます。一方、XRは、メタバースを創り出すための「技術」であると言えるでしょう。
メタバースについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
製造業でXRを活用するメリット
XRは従来の製造プロセスにデジタル技術を融合させ、新たな可能性を切り開くツールとして注目を集めています。XRを導入することで、製造業は以下のようなメリットを受けることができます。
試作品をその都度作成する必要がない
従来、製造業における製品開発では、コンセプトやアイデアを具現化するため、何度も試作品を作成し、その都度改善を繰り返すというプロセスが一般的でした。しかし、物理的な材料や製造機械が必要なため、多くのコストと時間を要し、また、多くの試作品が廃棄されることで環境負荷も高まるという課題を抱えていました。
しかし、3D CADデータがあれば、XRを活用することで、仮想空間内に試作品を構築することが可能です。この試作品は、物理的な制約を受けることなく、自由に形状や機能を変更できるため、設計段階での検証を繰り返し、最適な製品へと迅速に近づけることができます。
仮想の試作品を用いた開発プロセスでは、物理的な試作品を作成する必要がなく、材料費や製造コストを大幅に削減できます。また、設計変更に伴う試作のやり直しも容易に行えるため、開発期間の短縮や廃棄物発生量の削減にもなり、環境負荷を軽減することができます。
人間工学に配慮した生産ラインの検証ができる
近年では人間工学の観点から作業者の負担を軽減し、より効率的で安全な生産ラインの構築が求められています。3D CADを活用することで、作成された製品データを基に、仮想空間上で実際の工場内を再現し、製品の組み立てや搬送などの工程をシミュレーションできます。
このシミュレーションにより、作業者が製品を扱う際の動線に無理がないか、作業姿勢が過酷にならないかなどを事前に確認することが可能です。結果として、作業者の負担軽減や生産性の向上、製品品質の安定化などの効果が期待できます。
仮想空間内で情報共有ができる
近年、インターネット環境の整備と高速通信網の発展により、リモートワークが日常的に行われるようになりました。しかし、製品開発の現場では、遠隔地からコミュニケーションを取るだけでは不十分です。試作品や工場などの物理的な空間や物体を共有し、リアルタイムで共同作業を行うことが、より効率的な開発プロセスに不可欠です。
XRを活用することで、遠隔地の開発関係者が仮想空間内に集まり、3D CADデータに基づいた製品を立体的に確認したり、実際に操作したりしながら、リアルタイムで意見交換を行うことが可能です。まるで同じ空間に集まっているかのように、共同で設計や開発を進めることができるのです。関係者全員が同じ仮想空間を共有することで、意思疎通が円滑になり、開発プロジェクトの進捗が加速します。
さらに、承認権限を持つ関係者やサプライチェーンに関わる関係者を仮想空間に招待することで、意思決定プロセスを迅速化し、開発期間の短縮にもつながるでしょう。XRは、時間と空間の制約を超え、関係者全員が円滑に連携できる環境を提供しプロジェクトを効率化することができます。
移動ができないものを安全に扱うことができる
発電用タービンやジェットエンジンなど取り扱いが困難な対象物を仮想空間内にデジタルデータで再現することで、安全な環境下での設計や検証や操作が可能です。従来の製品開発では、3Dデータを用いた設計段階での綿密な検証が一般的でしたが、実際の生産工程に移行した際に、予想外の課題が浮上し、設計変更や追加作業が発生することが少なくありませんでした。
しかし、XRを活用することで、仮想空間内で製品を立体的に再現し、実物に触れているかのように細部まで確認することができるため、設計段階で潜在的な問題点を早期に発見し、解決策を検討することが可能です。
業務指導や教育に活用することができる
XR技術は、技能伝承や業務指導、教育訓練で3Dモデルを活用することで、まるで実機が目の前にあるかのような臨場感あふれる作業訓練や実習が可能になります。これにより、より効果的な学習体験を提供し、習熟度が向上するでしょう。
また、XRを活用した遠隔指導や遠隔研修は、出張の削減にもつながり、労働時間の短縮を実現します。そのため、働き方改革の推進にも寄与し、従業員のワークライフバランスも向上することができます。
製造業にXR技術を導入する際のポイント
XR導入は企業の課題や目標を明確にし、適切な計画を立てることが重要です。以下では、製造業におけるXR導入を成功させるためのポイントを解説します。
既存の設備やプロセスに合うかどうか確認する
XRを製造業に導入する際には、その技術が既存の製造環境やプロセスにスムーズに組み込めるかどうかを慎重に評価することが重要です。製品設計や作業指導、リモートアシスタンス、トレーニングなど、XRの活用範囲は広範ですが、すべての製造現場がXR導入に適しているわけではありません。
例えば、高温多湿や振動が激しい環境では、XRの性能が低下する可能性があります。また、XRは汎用性が高い一方で、特定の製造プロセスや作業に最適化するためには、カスタマイズが必要となるケースも少なくありません。
従業員に十分な教育とサポートを行う
XRのような新しい技術を導入する際には、従業員がその技術を最大限に活用できるよう、十分な教育とサポート体制を整えることが大切です。新しい技術に対する抵抗感や不安は、従業員にとって自然な反応です。
このような心理的な障壁を乗り越え、スムーズな導入を推進するためには、従業員の意見に耳を傾け、彼らの理解を深めるために以下のような人材育成プログラムを提供することが重要です。
CAD人材育成サービス
ProSkilllのCAD人材育成サービスは、御社の業務内容や育成したいCAD人材について、詳しくお伺いし、最適な教育プログラムをご提案します。研修プログラムはeラーニングにも対応しており、御社に合わせてカスタマイズし、納品することも可能です。
研修後には現場の課題解決につなげられる具体的な支援を行い、企業が求める即戦力となる人材育成を目指します。しかし、開発や設計、製造など、多忙な業務を抱える企業様にとって、新しい技術を習得することは容易ではありません。
私たちは、製造業を中心に10年以上のコンサルティング経験を持つ専門家です。CADでXRを導入する際の人材育成だけでなく、製造業に関する幅広い知識と経験を持ち合わせています。これらの知識と経験を活かし、業務効率化や新製品開発など、企業様の様々な課題解決を支援しております。
無料相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
費用対効果を検討する
XRの導入には、高額な初期投資が伴うため、その投資がもたらす効果を正確に評価することは、企業にとって重要です。具体的には、以下のような多岐にわたるコストを考慮する必要があるでしょう。
- XRシステムの購入費用
- カスタマイズや既存システムとの統合にかかる費用
- 従業員のトレーニング費用
- 継続的なシステム維持管理費用など
また、単にXRを導入するだけでなく、XRが企業の生産性向上や製品品質の改善、労働環境の最適化にどれほどの貢献をもたらすのかを定期的に評価することが求められます。XR導入の目的は、最新の技術を導入すること自体ではなく、長期的に企業のビジネス目標達成に貢献し、製造プロセスの効率化やコスト削減を実現することです。
評価プロセスを経ることで限られた経営資源を配分し、自社の長期的な成長戦略に沿ったXR導入計画を策定することができるでしょう。
柔軟なセキュリティ対策を行う
XRは性質上、ユーザーの個人情報を扱う機会が多く、悪意のある第三者による情報漏えいのリスクが常に存在します。まず、データの暗号化が重要です。データ送信時や保存時に暗号化技術を適用することで、第三者による不正なアクセスやデータ漏えいを防ぐことができるでしょう。
また、認証・アクセス制御の強化として、強力なパスワードや二段階認証を導入し、不正アクセスを未然に防ぐ仕組みを構築しましょう。新たなセキュリティ脅威は常に発生するため、システムやソフトウェアの脆弱性を迅速に修正し、最新のセキュリティを適用することで、攻撃に備える必要があります。
セキュリティ対策は常に変化するため、最新の技術動向やセキュリティ脅威に関する情報を収集し、柔軟に対策を調整していくことが重要です。
著作権侵害に気をつける
製造業へのXR導入が進む中、著作権問題は避けて通れない重要な課題です。特に、建物やアニメの世界観など、既存の著作物をXR空間に取り入れる際に、著作権侵害のリスクが伴います。
この問題を解決するためには、著作権者の許諾を得ることが最も確実な方法です。正式な契約に基づいたコンテンツを使用することで、法的リスクを最小限に抑えることができます。ただし、契約内容によっては、使用範囲や期間が制限される場合があるため、注意して下さい。
また、オリジナルコンテンツを作成するという方法があります。自社で独自の世界観やデザインを開発し、XRに適用することで、著作権侵害のリスクを完全に回避できます。ただし、高品質なオリジナルコンテンツを作成するためには、専門的な知識や技術が必要となるでしょう。
さらに、著作権に関する知識として、XR技術のユーザーや開発者に対して、著作権法や適切なコンテンツ利用方法について教育を行い、著作権に対する意識を高めましょう。このような対策を実施することで、XRにおける著作権問題を解決することができます。
製造業にXRを活用して新たな可能性を追求しよう
今回は、製造業でXRを活用するメリットや導入する際のポイントを解説しました。XRは、今や製造業の様々な場面で活用され、生産性の向上や新たな価値創造に貢献しています。設計から生産、社員教育に至るまで、XRは従来の製造プロセスを革新し、企業の競争力強化に重要な存在です。
弊社では、長年にわたり製造業のコンサルティングを行ってきた経験と実績をもとに、貴社のXR導入を全面的にサポートいたします。XRを導入したいけど、何から始めればいいか分からない、といったお悩みをお持ちでしたら、お気軽にご相談ください。お客様のご要望に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。
