中小製造業にとって、設備の安定稼働は生産性向上に不可欠なものの、従来の定期的な点検中心の設備保全管理では、予期せぬ設備停止や品質不良が発生するリスクがあります。
そこで注目されているのが、IoTを活用したCBMです。CBMを導入することで、TBMだけでなく、設備の実際の状態に基づいたメンテナンスが可能になります。
結果として、無駄な点検工数やメンテナンスコストを削減し、設備の安定稼働を実現できるのです。今回は、CBM導入で得られるメリットや導入方法、CBMの導入が難しい際の対処法を解説します。
CBMとは
CBMとは設備の現在の状態をリアルタイムで監視し、そのデータに基づいて保全の必要性を判断する保全方式です。
従来の定期的な保全とは異なり、設備の状況に応じて適切なタイミングで保全を実施するため、無駄な作業を減らし、効率的な保全計画を実現することができます。
保全には、大きく分けて「予防保全」と「事後保全」の2種類があります。
予防保全 | 設備が故障する前に保全活動を実施し、故障の可能性を低減させる |
事後保全 | 設備が故障した後に修理や交換を行う |
CBMは、予防保全の一種であり、設備の故障を未然に防ぐための有効な手段となります。
CBM以外の予防保全とその違い
予防保全にはCBM以外にも様々な種類がありますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
いずれの保全方法も機器・設備を安定稼働させることが目的ですが、メンテナンスの手法が異なるため、それぞれの特徴を理解し、最適な保全方法を選択することが重要です。
CBM(状態基準保全) | 故障やトラブルの兆候を検知した時点で対処する |
TBM(時間基準保全) | 定期的に部品交換などを行い、故障の発生率を下げる |
RBM(リスク基準保全) | リスクが許容範囲内に留まるように保全計画を立てる |
RCM(信頼性中心保全) | 故障が発生しやすい箇所を重点的に保全する |
TBMは一定期間ごとに定期的にメンテナンスを行う方法です。例えば、「〇ヶ月ごとに部品交換を行う」「〇時間稼働ごとに点検を行う」といった形で、時間を基準に保全計画を立てますが、状態に関わらず部品交換などを行うため、コストがかかる場合があります。
RBMは、設備の故障リスクを評価し、リスクの高い設備から優先的にメンテナンスを行う方法です。 故障した場合の影響が大きい設備や故障しやすい設備に対して、重点的に保全計画を立てます。
RCMは設備の故障パターンを分析し、信頼性の高い保全方式を決定する方法です。 各設備の故障モードや原因を詳細に分析し、最適な保全方法を選択します。
CBM導入で得られるメリット
生産現場にCBMを導入することで、業務効率やコスト面など様々な課題解決に繋がることが期待できます。
しかし、その効果を最大限に引き出すためには、以下のようなメリットを理解することが大切です。
- 安定的な稼働や信頼性を高める
- 機械の寿命を延ばす効果が期待できる
- 保全業務の標準化に繋がる
- 不要なメンテナンス作業を削減できる
- コスト削減ができる
以下で詳しく見ていきましょう。
安定的な稼働や信頼性を高める
CBMでは、従来の定期的なメンテナンスとは異なり、AIやIoTセンサーが設備の状態を常時監視します。 故障や不具合はもちろん、その予兆となるわずかな変化も即座に検知できるため、突発的な停止を未然に防ぎ、安定稼働率を向上させることができます。
また、リアルタイムなデータに基づいて適切な処置を講じることで、設備の寿命を延ばし、信頼性を高めることも可能です。
高額な設備を導入している場合は、故障による損失は莫大なものとなります。CBMによって故障を未然に防ぐことは、将来的な大きな支出を抑制し、経営リスクや事業リスクを軽減することに繋がるでしょう。
CBMは必要最低限のメンテナンスのみを行うため、部品交換や修理の頻度を減らし、メンテナンスコストを最適化することもできます。
機械の寿命を延ばす効果が期待できる
CBMでは、センサーなどを用いて機械の状態を常時監視します。 温度や振動、圧力などのデータを収集し、AIや専門家が分析することで、 異常の兆候を早期に捉えることが可能です。
異常が検知された時点で適切なメンテナンスを行うことで、 機械の過度な劣化や故障を防ぎ、結果として機械の寿命を延ばすことができます。
例えば、風力発電のタービンは過酷な環境下で稼働し、故障のリスクが高い設備です。CBMを導入することで、タービンの状態をリアルタイムで監視し、 異常が検知された時点でメンテナンスを行うことが可能です。
これにより、タービンの過度な劣化や故障を防ぎ、寿命を延ばすことができるでしょう。
保全業務の標準化に繋がる
従来の保全業務は、経験豊富な従業員の知識や勘に頼ることが多く、属人化が進んでいることが課題でした。しかし、CBMではセンサーを備えたIoT機器が設備の状態を常時監視するため、経験豊富な従業員による監視は不要となります。
CBM導入により、保全業務の属人化を解消し、誰でも対応できる標準化された業務プロセスを構築できるため、経験の浅い人材でも比較的容易に保全業務に対応できるようになり、人材育成にも繋がるでしょう。
例えば、製造業におけるプラントの保全業務は、従業員の経験や技術に依存していることが課題となっています。
そこで、CBMを導入すれば、センサーを備えたIoT機器による監視を行えるため、経験豊富な従業員の監視は不要となり、保全業務を標準化し、経験の浅い人材でも比較的対応しやすい環境を作ることができるでしょう。
IoT導入を成功させるためのポイントについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
不要なメンテナンス作業を削減できる
従来の定期的なメンテナンスとは異なり、CBMは設備のリアルタイム監視に基づき、問題が発生した場合のみ対処します。
メンテナンスのムダを省くことで、担当者を他の現場に配置することができるので、人的リソースの節約だけでなく、より戦略的な業務への人員配置も可能です。
コスト削減ができる
AIやIoTといった最新技術の導入は、初期費用や維持費用が気になるものです。CBMも例外ではありませんが、導入によって以下のようなコスト削減効果が期待できます。
- 部品交換コストの削減
- 人件費の削減
- 設備更新コストの削減
- トラブル対応コストの削減
CBM導入によるコスト削減効果を最大化するためには、綿密なプランニングが重要です。事前にしっかりと検討することで、より効果的なCBM運用が可能になります。
CBMを導入する方法
CBMの導入は、設備の安定稼働と保全コストの最適化に不可欠な取り組みです。しかし、CBM導入を成功させるためには、段階的なアプローチが重要となります。
以下で、CBMを導入する方法を解説します。
①データの収集及び可視化
CBM導入の最初のステップは、有効なデータを収集し可視化することです。設備や機器の故障予兆を早期に把握するためには、リアルタイムでのデータ収集が可能なセンサーの設置が不可欠です。
温度や振動、圧力、電流値など、設備の異常を検知するために必要なデータを網羅的に収集できるセンサーを選定しましょう。
収集したデータを可視化する仕組みも重要です。データが収集されただけで、その内容を理解し、活用できなければ意味がありません。
収集したデータをグラフやチャートなどで分かりやすく表示し、異常の早期発見に役立てる必要があります。
②適切なAIアルゴリズムの検証
製造現場で発生するデータは多種多様であり、その中から精度の高い故障予測を行うためには、適切なAIアルゴリズムを選択し、検証を重ねる必要があります。
アルゴリズムの選択を誤ると、予測精度が低下し、誤った判断に繋がる可能性があるため、複数のアルゴリズム候補の中から最適なものを選ぶためには、十分な検証が必要です。
過去のデータやシミュレーションデータを用いて、各アルゴリズムの予測精度を評価し、比較検討を行って下さい。
また、現場の専門家やデータサイエンティストと協力し、アルゴリズムの改善やチューニングを行うことも重要です。
AIで用いられるアルゴリズムについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
③システムの実装
CBMは製造現場に設置されたセンサー、データを送信するネットワーク、大容量データを処理・分析する基盤など、複合的な要素で構成されるシステムとして実装されます。
センサーは設備の振動や温度、圧力などのデータを収集し、ネットワークを通じて分析基盤に送信します。分析基盤では、収集されたデータをAIや機械学習などの技術を用いて解析し、設備の故障予測を行います。
CBMはシステムとして稼働した後も運用フェーズに入り、日々の故障予測の精度を検証し、必要に応じてAIモデルの精度監視や再構築を行うなど、継続的な改善が求められます。
また、予測された故障に基づいた保全計画を立て、運用を通じて得られたデータや経験を基に、システム全体の改善を図る必要もあるでしょう。
例えば、センサーの設置場所や種類の見直し、データ分析アルゴリズムの改善、保全計画の最適化などが挙げられます。継続的な改善を行うことで、CBMの精度を高め、より効果的な設備保全を実現することができるのです。
④自律化の実現
日々の改善を経て最適なAIモデルが構築されると、製造現場では多くの故障予測や状況判断を自律的に完結することが可能です。
これは、例外的な事象を除き、AIが人間の手を介さずに自ら判断し、対応できる領域が拡大することを意味します。
しかし、自律化を実現するためには、継続的な改善や現場との連携、人材育成などが欠かせません。
これらの要素をバランス良く進めることで、AIは製造現場においてより重要な役割を担い、企業の競争力を高めることに繋がるでしょう。
CBM導入時の注意点
CBMは設備の故障を未然に防ぎ、保全コストを最適化できるなど、多くのメリットがありますが、万能なメンテナンス手法ではありません。
生産現場によっては、BDMやTBMの方が望ましい場合もあります。以下で、CBM導入時の注意点を解説します。
システムを導入しない場合は管理者に大きく左右される
専用システムを導入しない場合、設備に詳しい管理者による定期的なチェックで、ある程度の効果が期待できます。
しかし、この方法では管理者のスキルに大きく左右されるという側面があり、管理者が設備の故障リスクを想定できていなければ、深刻なトラブルが発生するまで気づかない可能性があります。
このような属人的な管理体制では、リスク管理が不十分になる恐れがあるでしょう。
全てのリスクに対応できるわけではない
CBMは専用システムや検知機器を用いて、人よりも高精度かつ高頻度な検査を行うことができますが、システムが想定していないリスクや予期せぬ事態には対応できない場合があります。
例えば、センサーの故障や誤作動、ソフトウェアのバグなど、システム側の問題によって故障兆候を見落とす可能性があります。 また、経年劣化以外の突発的な故障や複合的な要因が絡み合った複雑な故障も、CBMでは検知が難しい場合があるでしょう。
CBMはTBMと比較して、より効率的な保全方法と言えますが、CBMだけに頼ると、故障兆候の見落としによるトラブル発生確率が上がる可能性もあります。
特に、安全性が求められる設備や停止による影響が大きい設備については、定期的なメンテナンスを併用することを検討しましょう。
導入コストが高額になる
CBM専用システムは、センサーやデータ解析機能、情報収集システム、IoT機能など、様々なデジタル技術を駆使して構築されているため、導入コストが高額になることは避けられません。
また、CBM導入によって生産性が向上しても、導入コストがそれを上回れば赤字になってしまうため、システムの維持費や光熱費なども考慮し、費用対効果をしっかりと確認する必要があります。
CBMの導入が難しい際の対処法
CBMの導入は、設備の安定稼働に不可欠ですが、コスト面が課題となるケースも少なくありません。そこで、CBM導入が難しい場合に検討すべき2つの対処法をご紹介します。
CBM管理者の育成を行う
CBMを導入する際は高度なシステムに頼らずとも、知識とスキルを備えた管理者がいれば、CBMを導入することができます。
CBMの管理者には、高度な知識とスキルが求められるため、育成には長期的な計画が必要となり、ベテランや職人と呼ばれる域に達するまでには、経験と時間を要します。
人材育成には手間とコストがかかるため、中小企業にとっては難しい選択となる可能性があります。しかし、外部の専門家による研修プログラムなどを活用することで、人材育成の負担を軽減することができるでしょう。
中小企業はRBMの選択が現実的
中小企業にとって、設備の保全は重要課題ですが、 大規模な設備投資や人員配置は難しいのが現状です。 そこで、現実的な選択肢として注目されるのが、先述したRBMです。
RBMは、重要な設備には重点的に保全を行い、そうでない設備には最低限の保全を行うという考え方です。中小企業は、大企業に比べて人材や予算が限られているため、RBMを導入することで、効率的に設備保全を行い、事業の継続性を高めることができるでしょう。
CBM導入で生産効率向上とコスト削減を目指そう
今回は、CBM導入で得られるメリットや導入方法、CBMの導入が難しい際の対処法を解説しました。
CBMの導入にあたっては、課題やリスクも考慮する必要がありますが、長期的な視点で見ると、CBMは企業の成長に貢献する有効な手段と言えるでしょう。
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