自動車メーカーである豊田自動織機から、武者修行をこなした技能者が、フランスで開催される構造物鉄工の技能国際大会に出場するというニュースがありました。いったい、どのような大会が実施されるのでしょうか。
今回は、構造物鉄工の技能大会のニュースをもとに、大会の内容や構造物鉄工のやり方、難しさについて詳しく解説します。日本の「ものづくり」を世に広める重要な大会について、詳しく見ていきましょう。
豊田自動織機の技能者が構造物鉄工の技能大会に参戦
日本や世界に向けて以下の自動車部品を提供する「豊田自動織機」の従業員が、第47回技能国際大会に出場すると発表しました。
- 車両
- エンジン
- コンプレッサー
本大会は、新型コロナウイルスのまん延によって分散開催されていた技能大会の状況が改善し、久しぶりにフランスのリヨンで一同開催されることとなりました。
日本を含めて60か国・地域が参戦し、合計1,313名の選手と死闘を繰り広げます。
なお日本からは産業機械・自動車板金、美容・理容、車体塗装、再生可能エネルギーの種目にて、構造物鉄工の技能者を含め、合計55名が参加しました。
大会名称 | 第47回 技能五輪国際大会 (フランス共和国・リヨン大会) |
参加国数 | 60か国・地域 |
参加者 | 1,313名 |
競技種目 | 59種目 |
構造物鉄工の技能大会では銅メダルを獲得
第47回技能国際大会に出場した技能者は、見事上位の成績を残し、銅メダルを獲得しました。
惜しくも3位という結果でしたが、日本のものづくりの技術、そして技能者の鍛錬の結果で勝ち取れた成績です。
また、ほか部門を含めると、日本選手団は合計5種目で金メダルを獲得しています。
金銀銅を合わせれば、合計14枚のメダルを獲得しているほか、上位成績を残した参加者に贈られる敢闘賞の受賞者が半数を占める結果となりました。
繊細な技術を発揮しなければならない構造物鉄工の技術はもちろん、日本全体の技術を評価される良い大会となりました。
構造物鉄工の技能大会に参加した技能者の概要
第47回技能国際大会の構造物鉄工の部門に参加したのは、豊田自動織機で従事する若手技術者の「天野玲」さんです。天野さんは、高校生のときに豊田自動織機の技能専修学園へやって来て、入社後の短い期間で構造物鉄工の技術力を磨いてきました。
豊田自動織機は、2022年の技能大会で金メダル、2023年においても2連覇を達成した凄腕の技能者を選出している会社であり、今回新たに選出された天野さんは、期待の技能者として社内の注目を集めています。
さらに構造物鉄工の技能を磨くべく、天野さんは大会前にフランスで2週間の武者修行を実施しました。フランスのもと技能五輪選手と一緒に訓練を重ね、万全の準備を整えたうえで技能大会に出場したのです。
構造物鉄工の技能大会の競技課題

天野さんが出場した構造物鉄工の競技大会では、上画像と同じ4本脚をした構造物の制作が課題として挙げられました。
競技会場には専用の工具や設備などが用意されており、10時間にもおよぶ作業時間のなかで図面と寸分変わらない構造物を完成させなければなりません。
ちなみに課題の図面や課題内容は、競技開催日よりも前に公開されるため、事前準備に対応できるのが特徴です。しかし、練習地・会場での環境の違いやプレッシャーに耐える必要があります。
単純そうに見えて熟練の経験と技術がものを言う競技であるため、天野さんといった武者修行をこなした技能者でなければ、高い評価を得ることができないでしょう。
構造物鉄工の採点項目
技能国際大会の構造物鉄工の試合では、主に次の項目を採点して優勝者を決めていきます。
- 寸法精度(高さ・幅・角度・ゆがみなど)
- 出来栄え(切断面の滑らかさ、曲げの品質、溶接の丁寧さなど)
- 組み立て調整(寸法や高さの誤差、可動部の状態など)
- 安全管理(ケガや事故防止対策を実施したか)
- 競技態度(作業中やほか参加者への態度など)
合計3日間にもおよぶ競技のなか、上記のポイントを高得点にできれば、優勝に近づけます。
大型の構造物を作る構造物鉄工は、時間がかかるほか集中力が切れやすい作業です。
メダル獲得を目指すためには、尋常ならざる集中力と技術を磨かなければなりません。
構造物鉄工とは
所定の工具、用意してある図面などを利用し、鋼材を加工しながら求められる形状・品質を作り上げていきます。また、前述した構造物鉄工の技能大会はもちろん、日常的な業務でもミリ単位の詳細な制度を求められ、最高水準の技能がも要求される技能をこなさなければなりません。
設計図の記されている情報から、制作者の意図を読み鋼材に現図を描くことで、寸分たがわない精密な作業を実施します。熟練の技が光る技能ということもあり、誰にでもできるスキルではありません。
また、構造物鉄工をはじめ製造に関わる業種は今、人手不足という問題に悩まされています。
人手不足の原因や改善策を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
構造物鉄工の業務内容
構造物鉄工の業務は、以下に示す3つの項目に分かれており、それぞれ業務で対応できる範囲が異なります。
構造物鉄工 第1号技能実習 | ・読図 ・けがき ・鉄工用工作機械による鋼板の切断・穴あけ ・グラインダによる研削 ・鋼板のガス切断 ・組立図による溶接 ・ボルトを用いた構造物組み立て ・製品測定 |
構造物鉄工 第2号技能実習 | ・第1号技能実習の全作業 ・型板製作 ・鋼板および形鋼のガス切断 ・手作業による曲げ加工作業 ・補修作業 |
構造物鉄工 第3号技能実習 | ・第2号技能実習の全作業 ・適用する作業方法の決定とその作業のダンドリ ・プレスまたは曲げローラによる曲げ加工 ・材料および製品のひずみ取り作業 ・製品検査 |
号数が上がるほど、精密かつ複雑な作業を任せられるのが特徴です。
専門資格がなければ仕事ができないことはもちろん、命を落とすおそれのある危険な作業であるため、構造物鉄工の業務では、特に安全対策に力を入れなければなりません。
構造物鉄工の種類
構造物鉄工の業務は、大きく「鉄構造物」「製缶」「造船」3種類に分かれます。
各業務の作業内容や、作業の流れについて見ていきましょう。
鉄構造物
鉄構造物では、鋼材を用いて次のような設備・施設・構造物を制作するのが仕事です。
- 建築物に利用する鋼材
- 機械設備
- モニュメント
- プラント
- 橋梁
- 海洋構造物
- 発電施設
強度が求められる構造物を制作する際には、構造物鉄工の技能が欠かせません。
平鋼など平面でできている鋼材を曲げたり、接合したりすることで、曲線や直角のある鋼材に生まれ変わらせます。
インフラ事業で利用されることはもちろん、デザイン力が求められるモニュメントの制作を展開する構造物鉄工の会社もあるようです。
製缶
製缶とは、鉄やステンレスといった金属を加工して、クレーンや船、建築物の部品を制作する仕事です。円柱状の鋼材をつくり出すことはもちろん、パソコンなどに使用されている複雑な形をしたフレームなども製缶によってつくられています。
構造物鉄工のなかでも作業工程や範囲が広く、一連の業務を担当するためには20種類もの資格を取得しなければならないと言われているほど、難しさを極める仕事です。
なお、製缶は機械化も進んでいますが、受注製造をする会社では、人力と機会を組み合わせて製缶をすることも少なくありません。
造船
造船は、文字通り船を製造するための金属加工などに対応する仕事です。
鉄のかたまりである船をまるごと製造することから、主に造船所などで構造物鉄工の技能を発揮できます。
船の場合、転覆や浸水のリスクをなくす必要があることから、ミリ単位のズレも許されません。
大型船になればなるほど熟練の技能者や最新の機械でしか対応できなくなるなど、構造物鉄工のスキルが欠かせない仕事となっています。
あわせて、高い技術力が求められる専門的な製造業では、デジタル化が進まないという課題に直面しています。何が原因でデジタル化しないのか詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
構造物鉄工に必要な資格
構造物鉄工の業務に従事するためには、国家資格である「鉄工技能士」の資格を持つ必要があります。
鉄工技能士の資格を取得するためには、都道府県職業能力開発協会が実施する、構造物鉄工の学科そして実技試験に合格しなければなりません。なお、構造物鉄工は1級・2級の2種類があり合格率はおよそ40~50%と、半数の人たちしか受からない状況です。
また、鉄工技能士の受験資格として2級の場合は2年以上の実務経験、1級の場合は7年以上の実務経験(もしくは2級合格後2年間の実務経験)が必要になります。実務で知識と技術を身に就けなければ受験資格がないことから、限られた技能者しか対応できない特別な仕事だと言えます。
鉄工技能士の資格試験内容
鉄工技能士の資格試験の課題内容を、学科・技能別にまとめました。
学科試験 | 実技試験 | |
試験内容 | ・鉄工作業法一般 ・材料 ・材料力学 ・機械工作法 ・製図 ・試験および検査 ・安全衛生 ・製缶作業法(選択) ・構造物鉄工作業法(選択) ・構造物現図製作法(選択) |
以下3種から選択 ・製缶作業 ・構造物鉄工作業 ・構造物現図作業 |
合格基準 | 100点満点の65点以上 | 100点満点の60点以上 |
材料工学や安全管理など、技術系の学校でしか学べない知識をフル活用しなければなりません。
専門書などを読み込むほか、実際に業務を経験しなければ、試験合格が難しいと言えます。
構造物鉄工についてまとめ
構造物鉄工は、金属加工を専門とする一部の技能者しか持たないスキルであり、国家資格がなければ難しい仕事を任せられません。
そういったなか、豊田自動織機から技能国際大会に出場した天野さんは、見事銅メダルを獲得しました。日本のものづくりの技術を世界に知らしめるきっかけとなったことから、今後も天野さんの活躍から目が離せません。
