日本の小売市場はコンビニやスーパー、ドラッグストアなど、あらゆる業態で店舗数が膨れ上がり、競争は激化の一途を辿っています。この過剰な競争環境下で、各小売企業は収益の維持や向上に苦心しており、その対策としてプライベートブランドに注目が集まっています。プライベートブランドは低価格で提供できることが多いため、消費者の購買意欲が価格に敏感になっている昨今、魅力的な選択肢として受け入れられています。
今回は、プライベートブランドが成功している事例や得られるメリット、成功させるためのポイントを詳しく解説します。
プライベートブランドとは何か
プライベートブランドは自社ブランドを販売するために、独自に企画して開発した商品です。一般的には、製造は他の企業に委託するケースが多いことから、Private Brandの頭文字を取り、PB商品とも呼ばれています。
プライベートブランド商品が初めて登場した頃は、「安かろう悪かろう」といったイメージが強く、消費者に広く受け入れられていませんでしたが、近年では、顧客のニーズを深く理解し、高品質な商品を開発する動きが広がり、販売比率は増加傾向にあります。
プライベートブランドは、自社で企画から製造を行い、販売までの一連のプロセスに関わることで、商品ラインナップを構築することができます。さらに、顧客との関係性を深め、顧客ロイヤリティの向上にもつながることが期待されています。
OEMや留め型との違い
OEM | 留め型 | |
プライベートブランドとの違い | 企画の主導権がどこにあるか | メーカーのブランド名が入っているかどうか |
プライベートブランド商品とよく似たものに、OEMがあります。OEMとは、他の企業から依頼を受けて、その企業のブランドで販売される製品を製造する一方で、プライベートブランドは、主に自社が企画を行い製造を委託します。
さらに、プライベートブランドのように小売店で販売される商品では、留め型と呼ばれるメーカー企画で製造した商品を小売店の要望に合わせてカスタマイズしたものがあります。メーカーのブランド名が入っている点がプライベートブランド商品と大きく違う点です。
OEMについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
ナショナルブランドやストアブランドとの違い
私たちが日々手に取る商品は、大きく分けて「ナショナルブランド」と「プライベートブランド」に分類できます。さらに、プライベートブランドと似た概念として「ストアブランド」があります。これらの違いを以下で詳しく見ていきましょう。
プライベートブランド | 自社で企画して開発した商品 |
ナショナルブランド | メーカーが製造・販売する商品 |
ストアブランド | 既存の商品を改良して開発した商品 |
プライベートブランドは、自社の店舗やECサイトでしか販売されないことが一般的で、メーカーのブランドではなく、小売店のブランドが前面に出されています。また、ナショナルブランドは、誰もが一度は耳にしたことがあるような特定のメーカーのロゴが目立つ商品が挙げられます。メーカーが商品企画から製造、販売までを担っており、全国のさまざまな小売店で取り扱われるため、高い知名度と信頼性を持っているのが特徴です。
一方、ストアブランドは、既存の商品を改良して開発されるものが多く、プライベートブランドは顧客のニーズを基に全く新しい商品を開発することが多いという違いがあります。
プライベートブランドで得られるメリット
プライベートブランドには、以下のようなメリットがあります。
- コストを最適化できる
- 高い利益率が期待できる
- 顧客のニーズにマッチした商品を提供できる
- 競合他社と差別化が図れる
以下でそれぞれの項目を具体的に解説します。
コストを最適化できる
ナショナルブランドは、メーカーが商品開発から製造を行って、販売促進などにかかる費用などを製品価格に反映させています。一方、プライベートブランドは、企画元が商品開発から販売までを自らの裁量で進めることができるため、コスト構造を最適化できます。
さらに、プライベートブランドは、独自の流通経路を構築しやすいという特徴も持ち合わせており、ナショナルブランド商品のように、複数の流通経路を経る必要がないため、流通コストを大幅に削減できるのです。
物流コストの改善については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
高い利益率が期待できる
プライベートブランドは、他の商品に比べて高い利益率が期待できる点が大きな魅力の一つです。小売店などが商品企画から携わり、自社のブランドで販売するため、中間マージンが発生する部分が少なく、仕入れコストを抑えられるためです。
通常、商品が消費者の手に渡るまでには、製造メーカーや商社、代理店など、複数の企業が関与し、それぞれが利益を上乗せします。ただし、プライベートブランドは中間業者の関与を最小限に抑えることができるため、仕入れ価格を低く抑えることができるのです。
顧客のニーズにマッチした商品を提供できる
プライベートブランドの大きな強みの一つは、顧客の声を直接的に捉え、商品開発に活かせることでしょう。小売店は自社の店舗で顧客と直接接する機会が多いため、顧客のニーズや要望をいち早く把握することができます。この情報を基に、顧客に喜ばれるオリジナル商品を開発し、提供できるのです。
また、店舗限定や地域限定など他の商品とは異なる独自の販売戦略を展開しやすいという特徴もあります。商品のパッケージデザインを統一することで、ブランドイメージを確立し、戦略的なブランディングを実現することができ、根強い人気を獲得することが期待できます。
競合他社と差別化が図れる
プライベートブランドは、自社独自の強みを活かしたオリジナリティあふれる商品開発を可能にするという大きなメリットがあります。また、自社でしか取り扱えない商品という希少性を確立し、競合他社との差別化を図ることができます。
さらに、市場のトレンドや顧客のニーズの変化に合わせて、柔軟に商品の改良を行うことも簡単です。自社の判断で、いつでも商品の改善やリニューアルを実施できるため、常に新鮮な商品を提供し続けることが可能です。
プライベートブランドのデメリット
コスト削減や顧客の囲い込みといったメリットが期待できるプライベートブランドですが、導入にあたっては、事前に注意すべきデメリットもいくつか存在します。以下で詳しく解説します。
メーカーに返品できない
プライベートブランドはナショナルブランド同様、メーカーに返品できないため、在庫を抱えるのは自社となります。商品の需要を正確に予測し、製造量を適切に調整することが重要です。
需要を過剰に見積もって大量に生産してしまうと、売れ残りが発生し、在庫として抱え込むことになり、結果的に大きな損失につながる可能性があるでしょう。
ナショナルブランドの売上が低下する
プライベートブランドの売り上げが伸びるということは、ナショナルブランドの売り上げが減少している可能性があります。これは、消費者の購買行動がプライベートブランドへとシフトしていることを示しています。
また、プライベートブランドが売り場の大半になると、消費者が商品を選ぶ楽しみが減ってしまう可能性があります。売上げが一時的に伸びても、長期的に見ると顧客が離れてしまう恐れもあります。
クレームは自社で対応する必要がある
ナショナルブランドでは、メーカーが商品企画から製造、販売までの一貫した責任を負うため、商品に関するトラブルが発生した場合、メーカーが直接顧客に対応するのが一般的です。
一方、プライベートブランドは自社企画の商品のため、製造を外部に委託するOEM方式を採用している場合であっても、最終的な責任は販売を行う自社にあります。そのため、OEM先との連携を密にし、品質管理体制をしっかりと構築しておくことが重要です。
プライベートブランドが成功した事例
プライベートブランドで売上アップを実現した成功事例をいくつかご紹介します。これらの事例から、自社の店舗運営に活かせるヒントが見つかるかもしれません。
セブンプレミアム
セブン&アイ・ホールディングスが展開する「セブンプレミアム」は、プライベートブランドの成功事例として広く知られています。セブン&アイ・ホールディングスは、プライベートブランドが単に価格の安い商品という概念にとどまらず、高品質で独自性の高い商品を提供できることを実証しました。
セブン&アイは、セブンプレミアム以外にも、以下のようなプライベートブランドを展開しています。
セブンフレッシュフード | 作りたての美味しさを追求した食品 |
セブンプレミアムライフスタイル | サステナブルな消費を求める消費者向けの商品 |
これらの多様なプライベートブランド展開を通じて、セブン&アイは幅広い顧客のニーズに対応し、顧客満足度の向上に努めています。
みなさまのお墨付き
西友が展開するプライベートブランド「みなさまのお墨付き」では、新商品を発売する前に、100人以上の消費者による試食テストを実施しています。味や量、価格などを総合的に評価し、80%以上の高い評価を得た商品のみを販売するという厳しい基準を設けています。
また、一度発売された商品も定期的に消費者テストを行い、評価が80%を下回った場合は、商品の改良や販売中止などの対策を講じています。このサイクルを繰り返すことで、消費者のニーズに合わせた商品を常に提供し、高い顧客満足度を実現しているのです。
matsukiyo
マツモトキヨシのプライベートブランド「matsukiyo」は機能性や価格に特化するのではなく、スタイリッシュなパッケージデザインを採用することで、他のプライベートブランド商品との差別化に成功しました。薬剤師や管理栄養士の専門知識に基づいた、実用的な商品であるという点も高い評価を得ています。
消費者の目を楽しませ、購買意欲を刺激するデザインは、商品の魅力を最大限に引き出し、ブランドイメージの向上にもつながるでしょう。
企業がプライベートブランドを成功させるためのポイント
企業がプライベートブランドを立ち上げ、市場で成功させるためには、いくつかの重要なポイントを踏まえる必要があります。以下で詳しく解説します。
ブランドコンセプトを確立する
プライベートブランドは、ナショナルブランドに比べて認知度が低く、品質や信頼性に対する消費者の不安が大きいため、ブランドコンセプトを明確にし、それを効果的に発信することが重要です。ブランドコンセプトとは、ブランドが目指す姿や消費者に届けたい価値を一言で表したものです。
プライベートブランドのブランドコンセプトを確率する際は、ナショナルブランドとの差別化を図るとともに、消費者の不安を解消できるような内容であることが重要です。商品の開発ストーリーや品質へのこだわりを売り場やWebサイトで詳しく紹介することで、消費者の理解を深め、信頼感を高めることができるでしょう。
また、近年では、SDGsの観点から環境に配慮した商品やサステナブルな消費を提案することが求められているため、リサイクル可能な包装材やフェアトレードの原料を使用すれば、消費者の共感を呼ぶことができるでしょう。
ブランド戦略に基づいた商品を展開する
ブランド戦略とは市場において自社製品を際立たせ、ターゲットとする顧客に選ばれるために、ブランドをどう活用していくかという計画を立てることです。特に、プライベートブランドでは、自社のブランドを確立することが競合他社との差別化に不可欠でしょう。
例えば、ある商品が非常に人気になった場合、すぐに競合他社が類似の商品を発売することがありますが、その商品が強いブランド力を有していれば、顧客は簡単に他の商品に乗り換えることはありません。ブランド戦略が成功していれば、自社の商品に対する顧客の忠誠心を高め、競合他社の参入を阻むことができるのです。
消費者の声にダイレクトに耳を傾ける
消費者の意見は重要な参考資料です。プライベートブランドは、自社の店舗やECサイトなどを通じて顧客と直接的な関係を築くことができるため、顧客の声をリアルタイムで収集し、商品開発に反映させることが可能です。
消費者のニーズを的確に捉え、それを商品に落とし込むことで、顧客の満足度を高め、リピート購入につながる可能性が高まります。これは、プライベートブランドが競合他社との差別化を図り、市場で成功するための重要な鍵と言えるでしょう。
食品には製造元を表示しなければならない
食品を販売する際には、食品表示法に基づいた消費者に正確な情報を提供することが義務付けられています。その中でも特に重要なのが、「製造所の所在地及び製造者の氏名または名称」の表示です。
この表示は、消費者がどの企業がその食品を製造しているのか、また、どこで製造されているのかを把握し、安心して商品を選ぶためのものです。消費者の知る権利を尊重し、必要な情報を適切に提供することが大切です。
適切な販売計画を立てる
プライベートブランドは、自社で商品を企画・開発するため、売れ残った場合の在庫リスクを自ら負う必要があります。商品の需要を正確に予測し、最適な製造量を計画することは、プライベートブランドの成功にとって重要です。
過剰な在庫は、保管費用や廃棄費用などの余計なコスト負担につながるだけでなく、商品の鮮度低下や新たな商品の導入を妨げる可能性もあるためです。
全店同一価格で販売する
プライベートブランドは、自社で価格設定を行う自由度が高い一方で、価格設定には細心の注意を払う必要があります。特に、同一商圏内の複数の店舗で同じ商品を販売する場合、価格が統一されていないと、消費者に混乱や不信感を与え、ブランドイメージを損なう可能性があるでしょう。
自社の強みをプライベートブランドで活かそう!
今回は、プライベートブランドのメリットや成功事例、成功させるためのポイントを解説しました。プライベートブランドは、小売店や卸売業者が自社のブランドで販売するために、独自に企画・開発した商品やブランドそのものを指します。一般的には、商品企画やデザインは自社で行い、製造は他の企業に委託するOEMが採用されますが、自社で製造を行うケースもあり、企業によりその方法は様々です。
プライベートブランドは、中間コストや広告宣伝費を削減できるメリットが挙げられますが、一方で、在庫リスクや商品に関するクレーム対応など、新たなデメリットも発生します。そのため、プライベートブランドを展開する際には、メリットとデメリットを慎重に比較検討することが重要です。
