ヤマハ発動機と自動運転ソフトウェア開発のティアフォーが共同設立したeve autonomyは、2022年から屋外無人搬送車「eve auto」を提供しています。eve autoは、広大な敷地を持つ工場や物流施設において、従来人手で行われていた製品や部品の搬送を自動化し、生産性向上と安全性確保に貢献しています。
そこで今回は、無人運搬車の概要や自律移動ロボットとの違い、無人運搬車を導入するメリット、導入する際のポイントを詳しく解説します。
無人運搬車とは
無人運搬車は、AGV(Automatic Guided Vehicle)とも呼ばれ、自動的に誘導される車両を意味し、1980年代から物流業界で利用が始まりました。当初は、床面に貼られた磁気テープに沿って一定のルートを走行するタイプがほとんどでしたが、AIやセンサー技術の発展により、状況に応じて柔軟にルートを調整できる高度な無人運搬車が活躍しています。
無人運搬車は、自動運転機能やナビゲーション機能、運搬機能などを備え、人手を介さずに効率的に物を運搬するため、様々なメリットが期待できます。また、無人運搬車の導入は作業者の通路として併用できるため、現在の設備に簡単に取り入れることができます。この手軽さも、無人運搬車が幅広い分野で採用されている理由の一つと言えるでしょう。
無人運搬車は生産現場の自動化において重要な役割を担っており、今後もその活躍の場はますます広がっていくと予想されます。
無人運搬車(AGV)と自律移動ロボット(AMR)との違い
無人搬送車(AGV)と自律移動ロボット(AMR)は、共に工場や倉庫での自動化を推進する上で重要な役割を担っていますが、その特徴は大きく異なります。自律移動ロボットは、AMR(Autonomous Mobile Robot)と呼ばれる自律的に移動して搬送作業を行うロボットです。無人搬送車との違いは、走行経路の設定方法にあります。
無人搬送車は、床に磁気テープなどを設置したラインに沿って走行するのに対し、自律移動ロボットは周囲の環境を認識し、自ら判断して最適な経路を生成し走行します。
無人搬送車 | 自律移動ロボット | |
ナビゲーション | 予め設定されたルート(柔軟にルートを調整できる無人搬送車もある) | 環境認識による自律走行 |
柔軟性 | 低い | 高い |
コスト | 低い | 高い |
導入のしやすさ | 導入しやすい | 導入しにくい |
適した作業 | 繰り返し行う作業 | 状況に応じた柔軟な作業 |
無人運搬車の種類
無人搬送車は、搬送方式によって様々な種類に分類され、荷物をどのように運ぶかによって大きく異なります。それぞれの搬送方式には、それぞれ特徴や適する場面があり、工場や倉庫のレイアウトや搬送する荷物、作業環境などに応じた最適な無人運搬車を選ぶことが重要です。以下で、無人運搬車の種類を詳しく見ていきましょう。
積載型
積載型無人搬送車は、荷物を無人運搬車本体の台車に載せて運搬するタイプで、人が行っていた荷積みや運転などの作業を自動化し、作業を省力化することができます。積載型無人搬送車では、荷物を無人運搬車に載せる方法として、以下の2つの方式が一般的です。段ボールやコンテナなどの荷物を運搬する際に有効です。
手動積載方式 | 自動積載方式 | |
方法 | 直接、台車に荷物を載せる | 荷物を自動的に積み込む |
特徴 | 柔軟な対応が可能 | 作業効率の向上と人件費の削減 |
積載型無人搬送車は、これらの積載方式と自動運転による搬送機能を組み合わせることで、搬送作業の効率化を実現しています。
牽引型
牽引型の無人運搬車は、後方に台車などを連結し、引っ張って搬送するタイプです。シンプルな構造と運用方法から、比較的低コストで導入できることが大きな特徴であり、長年にわたり多くの現場で実績を積み重ねてきました。
複数の台車を連結させることで、一度に大量の荷物を運搬できるため、物流効率の向上にもつながります。ただし、牽引型の無人運搬車には内輪差による制約があり、すべての車両に連結できるわけではありません。導入にあたっては、作業現場のレイアウトや搬送する荷物の種類などを考慮し、最適な無人運搬車を選ぶことが重要です。
低床型
低床型の無人搬送車は、床面から高さが非常に低いタイプの無人搬送車です。この特徴を生かし、パレットや棚などの下に潜り込み、リフトのように持ち上げて運ぶことで、従来の人力による搬送作業を自動化します。
1台の低床型無人搬送車で複数の荷物をまとめて運搬できるため、搬送作業の効率化ができたり、車輪のないパレットや牽引装置が取付けできない台車など、様々な種類の荷物を搬送することができます。
屋外型
屋外型無人搬送車は、舗装された屋内環境だけでなく、凹凸や障害物が多い屋外での走行に対応できるよう設計されました。路面状況の悪さに対応するため、通常の無人搬送車よりも高い走行性能が求められます。また、屋外での作業を想定し、雨や風などの悪天候にも耐えられるように設計されているものが多く、様々な環境下で安定した稼働が可能です。
安全性確保のため、障害物センサーなどの安全装置が搭載されているのはもちろん、有人運転モードを搭載したモデルもあり、状況に応じて有人・無人での運用を選択できる柔軟性も備えています。屋外型無人搬送車は、建設現場や物流倉庫の屋外エリアなど、従来では活躍できなかった場所での活用ができるでしょう。
重量型
重量型の無人搬送車は、何十トンもの重量物を運搬するために特化しています。その特徴は、単に重量物を運べるだけでなく、多様な動力源に対応している点にあります。
従来のバッテリー駆動に加え、ディーゼルエンジンや電気モーターなどの動力源を採用した製品も存在します。メーカーによっては、数百トンという超重量級の荷物を搬送可能なモデルも開発されており、その運搬能力は日々進化しています。
特殊型
特殊型無人搬送車は、用途に合わせた幅広いカスタマイズが可能な点が特徴です。例えば、積載型の無人搬送車にフォークリフトを取り付けることで、パレット単位での荷物の積み下ろしを自動化することができたり、屋外での使用を想定し、雨天時でも稼働できるよう屋根付きのモデルも存在したりします。
このように、特殊型無人搬送車は、顧客のニーズや現場の状況に合わせた多種多様な形態で提供されています。
無人運搬車を導入すると得られるメリット
近年、無人搬送車は、工場や倉庫など、さまざまな作業現場でその活躍の場を広げており、以下のようなメリットを得ることができます。
- 生産性が向上する
- 安全性が向上する
- コストの削減ができる
- リアルタイムで運搬状況を把握できる
以下で詳しく解説します。
生産性が向上する
無人搬送車は単純な運搬作業を自動化することで、人材をより付加価値の高い生産工程に配置することが可能になります。そのため、人的資源の有効活用が実現され、全体的な生産性の向上につながります。24時間稼働が可能で、人手による作業に比べて稼働時間を大幅に増やすことができるため、生産ラインの稼働率が向上し、生産性の低下につながるダウンタイムを最小限に抑えることができます。
また、無人搬送車はあらかじめ設定されたルートを正確かつ一定の速度で走行するため、人による作業で発生しがちなムラや遅延を解消できます。この安定した動作が、全体の生産プロセスを最適化し、高品質な製品を安定的に供給することにつながるのです。
このように、無人搬送車は生産現場の効率化と生産性の向上に不可欠なツールとして、その重要性を増しています。
生産現場の効率化や生産性の向上につながるDXについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
安全性が向上する
従来、人間が行っていた重量物の運搬作業を無人搬送車が行うことで、作業者の身体的な負担を大幅に軽減することができます。無人搬送車は、設定されたルートだけでなく、搭載されたセンサーにより障害物を回避しながら走行することができるため、人や設備との接触事故のリスクを低減することが可能です。
コストの削減ができる
無人搬送車の導入は企業にとって、人件費や備品購入費など、運搬作業に関わる様々なコスト削減に繋がります。従来、人手で行っていた運搬作業の自動化により、人件費を抑制できるだけでなく、作業者の負担軽減による離職率の低下も期待できるでしょう。
初期投資は必要となるものの、長期的な視点で見ると、無人搬送車導入によるコスト削減効果は非常に大きいと言えるでしょう。特に、電力効率の向上など、無人搬送車の技術革新が進むにつれて、さらなるコスト削減が期待できます。
物流コスト改善の効果的な削減方法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
リアルタイムで運搬状況を把握できる
無人搬送車をネットワークに接続することで、稼働状況をリアルタイムで把握できます。各無人搬送車の位置情報や稼働時間、バッテリー残量などを中央管理システムで一元的に管理することで、運搬作業の進捗状況を常に把握することが可能です。
さらに、これらのデータを分析することで、無人搬送車の稼働率などを可視化できるため、運搬作業の生産性を定量的に評価し、改善に繋げるための貴重な情報を得ることができます。
無人運搬車を導入する際のポイント
無人運搬車をスムーズに導入するためには、事前に綿密な計画を立てることが重要です。特に、現場の環境や作業に最適な搬送方法を選ぶことは、導入後の稼働率や効率性に大きく影響します。以下で導入前に検討すべきポイントをご紹介します。
床の状態を確認する
無人運搬車をスムーズに導入し、安定した稼働を実現するためには、作業環境となる床面の整備が重要です。工場の床面は、長年のフォークリフトの使用による損傷や、建物の構造上の傾斜などの様々な要因により、平坦で均一な状態ではないことが多く見られます。無人運搬車は、高精度なセンサーで周囲を認識し自律走行するため、床面の状態が無人運搬車の性能に直接影響します。
傾斜の目安 | 2%以下 |
凹凸の目安 | 5mm以下 |
水濡れ | 水が入らないような対策が必要 |
一般的に傾斜があると、安定して走行できず、誤動作や事故につながる可能性があります。また、凹凸や水漏れも無人運搬車の走行に影響を与えるでしょう。
無人運搬車の導入を検討する際には、これらの床面に関する問題点を事前に把握し、必要な対策を施すことが不可欠です。床面の状況に応じて、補修工事やコーティングなど、適切な対策を検討しましょう。
自社の運用に合うバッテリーの充電方法を選ぶ
無人搬送車のバッテリー駆動時間は、機種やメーカーによって大きく異なりますが、一般的に5〜8時間が最大稼働時間となることが多いです。しかし、中には2時間程度でバッテリーが切れてしまう機種も存在します。
自社の運用において、バッテリーの交換・充電方法を検討する際には、手動での交換・充電と、自動充電のいずれを選ぶかが大きな分岐点となります。自動充電モデルを選ぶ場合でも、急速充電対応や充電方式が様々なため、導入コストやサイクルなどを考慮した上で、最適な機種を選ぶ必要があるでしょう。
また、無人搬送車本体の価格が安くても、充電器が高額になる場合もあるため、トータルの導入コストを把握し、長期的な視点で費用対効果を評価することが重要です。
走行ルートを確認する
無人搬送車の走行ルートを決定する際には、スタート地点からゴール地点までの経路だけでなく、経由する地点の有無や走行中に他の無人搬送車や人とのすれ違いが可能かという点も考慮する必要があります。すれ違いができない場合は、一方の無人搬送車が通過するまで待機となり、作業効率が低下します。
また、歩行者やフォークリフトも通行する可能性があるため、十分な幅がある通路を選ぶ必要があるでしょう。
1日の稼働時間を確認する
無人搬送車の導入を検討する際、1日に搬送する荷物の量や搬送距離、所要時間などの要素により、必要な無人搬送車の台数が大きく変動します。例えば、1回の搬送量を増やすことで、無人搬送車の総台数を減らすことは可能ですが、搬送量が増えるほど、各無人搬送車の待機時間が長くなり、全体の作業効率が低下する可能性があるでしょう。
また、搬送する重量が大きくなると、対応可能な無人搬送車が限られてしまうという制約もあるため、無人搬送車を導入する際は、搬送効率とコストのバランスを考慮しながら、最適な台数を決定することが重要です。
安全対策ガイドラインを認識する
無人搬送車を導入する際には、安全対策をしっかりと講じることが不可欠です。日本工業規格(JIS)では、AGVの利用における安全性を確保するための安全対策ガイドラインが定められています。
このガイドラインには、無人搬送車の速度や点検・補修、走行時の挙動、緊急停止の方法、作業環境の整備など、多岐にわたる安全対策に関する規定が盛り込まれています。無人搬送車の導入を検討する際は、この安全対策ガイドラインを十分に理解し、自社の環境に合わせた適切な安全対策を講じるようにしましょう。
無人搬送車を導入して最大限の効果を発揮しよう!
今回は、無人運搬車の概要や自律移動ロボットとの違い、無人運搬車を導入するメリット、導入する際のポイントを解説しました。無人搬送車は、人手に頼っていた運搬作業を自動化することで、従業員の負担軽減や人為的なミスによる製品の破損や納期遅延などの発生リスクを低減できるため、多くの企業で無人運搬車の導入が検討されています。
しかし、無人運搬車の導入には、初期投資として高額な費用がかかることが大きな課題です。そのため、無人運搬車を導入する際には十分な予算を確保し、導入計画を慎重に進める必要があるでしょう。また、導入前に自社の工場や倉庫のレイアウト、搬送する荷物の種類や量、作業フローなどを詳細に分析し、無人運搬車がどのように活用できるのかを検討することが重要です。