経済産業省が公開している「2024年版ものづくり白書」によると、製造業に国内回帰の動きが始まっていることが判明しました。では、どのような地域への国内回帰が増えているのでしょうか。
今回は、製造業における国内回帰のニュースをもとに、ニーズが高まっている地域の傾向について深掘りしていきます。また、国内回帰するメリットや経済産業省の取り組みも解説しているので、製造業の動向を探る参考にしてみてください。
製造業で国内回帰の動きが強まる
経済産業省が取りまとめた2024年版の「ものづくり白書」によると、調査対象となる400社のうち約半数の会社が直近1年で事業所の移転や増設を始めていることがわかっています。
また、400社のうち354社がさらなる事業所増設を検討していることがわかっており、維持拡大について強い考えをもっている状況です。
さらに海外に拠点をもつ日本企業においても、今後国内の生産機能を増やしていく考えがあります。グローバル化が進んでいた状況である反面、世界をとりまく問題などの影響を受けて、サプライチェーンの安定化を図るために新たな動きが始まっているようです。
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製造業における国内回帰の状況
すでに多くの日本企業が国内回帰の動きをみせていますが、次のような問題を抱えていることから、すべての需要に対応できない状況です。
- 国内の用地不足
- 人手不足
上記の問題を解決するため、国や自治体などで国内回帰を始めた製造業をフォローアップする動きが始まっています。手続きのスピードアップはもちろん、手間のかかる開発許可の柔軟化、取り利用の迅速化など、豊富な支援策が整備されていく予定です。
製造業における国内回帰の傾向
日本企業の国内回帰について、以下に示す都道府県で立地件数が増えていることがわかっています。
順位 | 都道府県 | 立地件数 |
1位 | 茨城県 | 75件 |
2位 | 愛知県 | 62件 |
3位 | 静岡県 | 47件 |
4位 | 群馬県 | 41件 |
5位 | 栃木県 | 34件 |
5位タイ | 北海道 | 34件 |
7位 | 岐阜県 | 32件 |
8位 | 兵庫県 | 29件 |
8位タイ | 福岡県 | 29件 |
10位 | 奈良県 | 28件 |
上記のなかでも、ニュースで詳しく取り上げられている「茨城県」「栃木県」「北海道」の動向について深掘りしていきます。
茨城県の国内回帰
茨城県は、首都圏へのアクセスが良好であり、さらには茨城県独自で提供している補助金の効果により、次のような製造業が国内回帰で注目を集めています。
- Pale Blue(東大発のスタートアップ企業)
- 日立建機
国内回帰を含む立地件数も75件と1位を獲得しており、県内の高速道路周辺に大規模な産業用地を持っているのが特徴です。運送業も盛んであることから、製造業・運送業のサプライチェーンを組みやすい環境が整っています。
将来的には自動車道の4車線化が実現する計画です。
輸送能力の増加も含めて、今後製造業の国内回帰が進展していくと予想されています。
また、茨城県は近年需要の高まる「半導体」「次世代自動車」に対する補助金を支援しています。建設費の補助や電気料金の削減など、事業を進めやすくなる環境が整備されているため、今後も国内回帰のニーズが高まっていくでしょう。
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栃木県の国内回帰
栃木県では、国内回帰を目指す企業への優遇制度を展開し、成長産業の集積に力を入れています。また、栃木県も首都圏へのアクセス性に優れ、地域の災害リスクの低さ、土地価格の安さなども企業に注目されている状況です。
例えば、製造業を含む日本企業への助成を目的として「不動産取得税課税評価額」の補助率を3%から5%へ引き上げが行われました。1億円の投資に対し、300万円だった補助が500万円まで増額されるため、より栃木県への国内回帰が進んでいくと期待されています。
さらには、半導体や蓄電池関連の補助率上限の増額や、産業団地の拡大整備などが実施されています。すでに7社の補助金が決定しており、国内回帰する企業も増え続けている状況です。
北海道の国内回帰
北海道では、広大な土地を活かして再生可能エネルギーの導入など、グリーン・トランス・フォーメーション(GX)に取り組む製造業を含む企業の誘致、そして国内回帰を目指して取り組みがスタートしています。
例えば、半導体事業を展開している「ラピダス」は、北海道千歳市への進出を決定したほか、経済産業省・総務省を主体とした「データセンター中核拠点」を北海道に設置すると発表しました。ちなみに工場立地の動向について、自治体が次のようにコメントしています。
(北海道への進出企業数は)急に増えたわけではなく、コロナ禍前に戻りつつあるといった印象
さらに大手通信企業のソフトバンクもデータセンターを立地するなど、今後、製造業などの国内誘致が進んでいくのではないかと期待されています。北海道は食資源に関する製造業が多いエリアでしたが、国内回帰の流れを受けて今後は技術系の製造業が増えていくと予想されています。
製造業の国内回帰が進む背景
製造業の国内回帰が進むことは、日本にとって国内総生産を高める良い機会となります。
しかし、なぜ製造業の国内回帰が進んでいるのでしょうか。
ここでは、国内回帰が検討されだした背景について詳しく解説します。
治安の悪化
現在、世界各国で国際的なトラブルが多発しており、戦争などの被害を受けやすくなりました。
特に製造業の場合は、材料の供給がストップするなど、戦争による貿易の影響をダイレクトに受けてしまうのが問題です。
なかでも海外拠点の製造業、材料を供給するまでにどうしても時間がかかることから、治安の悪化を避けるために国内回帰を検討し出す企業が増えていると考えられます。
流行病への対応
2020年に新型コロナウイルスが流行した際、世界中での貿易が一時的に停止した問題を受け、製造業の生産がストップするリスクを回避するために、国内回帰を目指す製造業が増えています。
国内の拠点を増やせば、もしウイルスといった流行病が発生しても、内部で補い合うことが可能です。対して、海外拠点の場合には、1国1拠点というように、内部で補い合うことができません。
今後、いつウイルスがまん延するかわからない状況であることから、流行病が起きても事業を継続できるように、国内回帰を進める製造業が増えている状況です。
人件費の高騰
円安ドル高といった人件費の高騰をきっかけに、製造業を国内回帰させる流れが生まれています。
為替市場の変動が激しいこともあり、近年では円安が続き、一時的に1ドル150円をこえるような事態に発展していました。その影響を受け、海外拠点では製造業に関わる従業員の人件費が高騰し、膨大なコスト増加に悩まされる結果となりました。
一方で、円安が続くほか、為替市場が安定している日本に国内回帰をすれば、人件費を最小限に抑えやすくなるのが魅力です。世界情勢が安定しない限り、今後も製造業の国内回帰が進んでいくと予想されます。
大手製造業における国内回帰の事例
製造業の国内回帰は、前述した地域だけでなく国内全土でも同様の現象が起きています。
参考として、過去に国内回帰を果たした大手製造業の概要や目的について整理しました。
パナソニック
国内大手製造業であるパナソニックは、家庭用エアコンの国内生産を増加する目的で、滋賀県草津市への国内回帰を発表しました。今まで中国で対応していた一部の工場を国内回帰させており、現在1割程度の国内拠点を4割まで引き上げる計画です。
またパナソニックが国内回帰を進める背景として、日本の住宅でZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)が進んでいることも関係しています。高気密・高断熱で電力を実質ゼロにできる家を目指し、省エネの空調設備を製造するために工場を国内回帰させる予定です。
ミツワ電機工業
マグネシウム部品を専門として製造業を展開しているミツワ電気工業は、本社のある大阪府に新工場を建設する計画を発表しました。
当社は海外にも拠点を展開している大手企業ですが、まわりを取り囲む世界情勢の影響を考え、国内回帰を視野に入れて製造業の新たな動き方を模索しています。世界シェアの8割近くを抱えていることも含め、今後の国内回帰の動向に注目が寄せられています。
古河電工
自動車事業・エネルギーインフラ事業などを展開している古河電工は、2030年までを目標とした事業戦略として、一部の事業の国内回帰を発表しました。
例えば、自動車事業では、新たに愛知県刈谷市にラボを構える計画です。
日本と貿易が盛んなアメリカでも製造業の国内回帰の流れが生まれていることから、今後の古河電工の動向に注目が集まっています。
製造業が国内回帰するメリット
製造業が国内回帰をすることには、次のようなメリットがあります。
- 人件費の削減
- 国内流通の加速
- 製造の安定化
円安問題が続く日本に拠点を増やせば、人件費を最小限に抑えられるほか、国内流通を加速できます。もし世界情勢の影響を受けても国内での生産を維持できることから、将来的な世界情勢の不安を解消できるのがメリットです。
国内回帰する製造業についてまとめ
日本企業のなかでも製造業の国内回帰が増えており、特にアクセス面に優れるエリアや広大な土地を持つエリアに大手製造業が集中し始めています。
今後さらに国内回帰が加速すると予想され、国内総生産の回復などが期待されることから、向かい風を受けていた製造業に追い風がやってきたのかもしれません。