少子高齢化が進む現在、慢性的な人手不足に頭を悩ませている企業は少なくありません。人手不足の問題は単に採用を強化するだけでは解決できず、即効性のある施策と、将来を見据えた人材育成の両輪で取り組むことが求められます。
この記事では、「人手不足の原因は何か?」を明らかにしたうえで、実践的かつ効果的な12の解決策と、際に人手不足を克服した企業の成功事例をご紹介します。
ぜひ本記事を参考に、自社に最適な人手不足対策を考える第一歩としてご活用ください。
人手不足の主な原因
多くの企業が直面している人手不足問題。その背景には、単に「人が足りない」というだけでは片付けられない複数の要因が潜んでいます。ここでは、人手不足の本質に迫る主要な原因を整理していきましょう。
少子高齢化による労働人口の減少
日本の人手不足問題の根本にあるのが、少子高齢化による労働人口の減少です。
総務省のデータによると、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少に転じ、2050年には約5,275万人にまで減少すると予測されています。出生率の低下により若年層の人口が減少し続けている一方で、高齢者の割合は年々増加しており、人口構造のバランスが大きく崩れつつあることが分かります。
このような傾向が、労働力不足をはじめ国内市場の縮小や社会保障制度への負担増など、社会・経済に深刻な影響を及ぼす要因となっているのです。
人材のミスマッチ
人手不足の一因として見過ごせないのが、人材のミスマッチです。これは、企業が求めるスキルや経験と求職者が持つ能力や希望との間にズレが生じている状態を指します。
このようなミスマッチは採用活動が長期化する要因となり、人手不足の慢性化を招きます。また、採用できたとしても早期離職につながる恐れがあるため、企業には求人内容の明確化や柔軟な人材戦略が必要です。
人材不足が特に深刻な業種
2024年11月時点のデータによると、全国の有効求人倍率は1.18倍となっています。有効求人倍率は1.0を上回るほど求職者数に対して求人が多く、人手不足が深刻であることを示します。
中でも、有効求人倍率が特に深刻な職種をまとめてみましょう。
業種 | 有効求人倍率 |
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建設躯体工事従事者 | 8.87倍 |
土木作業従事者 | 6.82倍 |
建築・土木・測量技術者 | 5.97倍 |
機械整備・修理従事者 | 4.26倍 |
介護サービス職業従事者 | 4.12倍 |
このように業種によっては深刻な人手不足が見られる一方で、一般事務従事者の有効求人倍率は0.35、会計事務従事者は0.67、運搬・清掃・包装等従事者は0.75と、求人数より求職者数が上回る「人材が過剰な職種」も存在します。
こうした職種間のミスマッチが続けば、必要な分野での人材確保が進まず、人手不足の深刻化に拍車をかける恐れがあります。
働き方の多様化と業務の複雑化
近年働き方の価値観が多様化し、従来の「フルタイム・出社勤務」を前提とした雇用形態が通用しにくくなっています。
リモートワークや時短勤務、副業・兼業などを希望する労働者が増える一方で、企業側がそれに対応しきれず、人材の確保に苦戦しているケースが少なくありません。業務そのものも高度化・複雑化しており、一人ひとりに求められるスキルや対応範囲が拡大しています。
こうした状況では従来の採用・教育体制では人材の定着が難しく、結果的に人手不足が深刻化してしまう一因となっているのです。
人手不足の効果的な12の解決策
人手不足は単に採用数を増やすだけでは解消できず、現場の状況に応じた多角的な対策の実行が必要です。ここでは、即効性と持続性の両面から有効とされる12の解決策を紹介します。
施策 | 概要 | 期待される効果 |
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①RPAやAIによる業務の自動化 | ルーティン業務を自動化し、人的作業を削減 |
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②多様な人材の活用 | シニア・女性・外国人などを積極採用 |
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③社員のスキルアップと社内教育の強化 | 社内教育やDX研修を実施 |
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④柔軟な働き方の導入 | リモートワークや時短勤務の整備 |
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⑤アウトソーシング・業務委託の活用 | 外部委託により業務を分散 |
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⑥採用活動の強化 | SNSや自社メディアを活用した発信 |
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⑦職場環境・待遇の改善 | 労働条件・福利厚生の見直し |
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⑧離職防止対策の徹底 | メンタルケアや評価制度の整備 |
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⑨復職支援制度の整備 | 出産・介護後の復職支援 |
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⑩地方・海外の人材とのマッチング強化 | 地方在住者・外国人との連携採用 |
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⑪リスキリング(再教育)の推進 | 新しいスキルの習得支援 |
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⑫インターンシップや職業体験制度の活用 | 学生・若年層の体験機会を提供 |
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1.RPAやAIによる業務の自動化
人手不足に最も効果的な方法が、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIの導入による業務の自動化です。
ルーティン業務や定型作業を自動化することで作業時間を大幅に短縮でき、限られた人的リソースでも生産性の向上やヒューマンエラーの防止が見込めます。
初期投資こそ必要ですが、中長期的には人材不足への対応とコスト削減の両面で大きな成果につながるでしょう。
2.多様な人材の活用
人手不足の解決においては、これまで十分に活用されてこなかった人材層に目を向けることも重要です。例えば定年後も働く意欲のあるシニア層、出産・育児後の復職を希望する女性、そして働く意欲を持つ外国人労働者などが挙げられます。
多様な人材を積極的に活用することで、社内に新たな視点や価値観が生まれ、組織の活性化にもつながります。
3.社員のスキルアップと社内教育の強化
人手不足を根本から解決するためには、外部からの採用だけでなく、社内人材のスキルアップや教育の強化が不可欠です。
既存の社員が多様な業務に対応できるようになれば、限られた人員でも高い生産性を維持できます。
近年ではオンライン講座やDX・AIに関する学習プログラムを取り入れる企業も増加しています。社員のスキルアップ・社内教育の強化には、実践的かつ最新の知識を取り入れられる「企業向けDX・AI人材育成サービス」がおすすめです。
このような外部サービスも活用しつつ、将来を見据えて人材を「採用する」から「育てる」へと発想を転換することが、持続可能な人手不足対策につながるでしょう。
また、社内のDXに向けた研修を受講するのも効果的です。DX研修に興味がある方は、こちらも参考にしてください。
4.柔軟な働き方の導入
リモートワークや時短勤務、フレックスタイム制など、多様な働き方の導入も、人材不足の解決策として効果的です。
これまで就業が難しかった人材――例えば育児中の親や通勤が困難な人、地方在住者、副業希望者など、従来の雇用形態では取りこぼしていた層を採用でき、社内での活躍が期待できます。
また柔軟な勤務形態は従業員にとってもワークライフバランスの向上につながり、離職防止や定着率の向上にも寄与します。
5.アウトソーシング・業務委託の活用
人材不足の解決策として、専門性の高い業務や繁忙期の作業をアウトソーシング・業務委託といった外部パートナーに委託する方法もあります。
社内の人的リソースをコア業務に集中させることで、限られた人員でも持続可能な業務体制を構築できます。特に中小企業にとっては、フルタイム人材を確保するよりもコストを抑えられるのが大きなメリットです。
6.採用活動の強化
人手不足を解消するには、SNSや自社メディアを活用した採用活動を強化することも重要です。特に若年層においては、求人サイトよりもInstagramやX(旧Twitter)などを通じて企業を知るケースが増えており、発信力がそのまま採用力に直結します。
「どのような職場で、どのような人が働いているか」といったリアルな情報を可視化することで、求職者とのマッチング精度が高まり、応募の質と定着率の向上にもつながります。
7.職場環境・待遇の改善
人手不足の解消には、働きやすい職場づくりも欠かせません。社員が安心して長く働ける環境を整えることで、離職率を下げるだけでなく、企業への信頼感やエンゲージメントも高まります。
例えば長時間労働の是正や有給休暇の取得促進、明確な評価制度の導入などは、従業員満足度の向上に直結します。また、福利厚生の充実やキャリアアップ支援制度の導入も有効です。
8.離職防止対策の徹底
人手不足の根本的な解決には、新たな人材を採用するだけでなく、既存の社員が辞めない環境を整える必要があります。特に離職防止においては、メンタルヘルスへの配慮と、公正で納得感のある評価制度の構築が重要です。
具体的には、定期的な面談やストレスチェック、外部カウンセリングの導入などが挙げられます。また、努力や成果がきちんと報われる仕組みを整えることで、社員のモチベーションを維持できるでしょう。
9.復職支援制度の整備
人手不足の解消には、ライフイベントを機に一時的に離職した人材の復職を支援する制度の整備も欠かせません。
出産・育児・介護・病気などにより、働く意欲があっても復職が難しかった人に対して、柔軟な働き方や段階的な就業再開の仕組みを用意することで、優秀な人材を再び活かすことが可能です。また、こうした支援があれば、従業員も安心して長期的なキャリアを描けます。
具体的な施策としては、時短勤務や在宅勤務の導入、復職前後の研修プログラム、復帰に関する相談窓口の設置などが有効です。
10.地方・海外の人材とのマッチング強化
地方人材や外国人材の積極的な採用も、人手不足を解決するための現実的な選択肢です。テレワークやオンライン面接が普及した今、地方や海外にいる優秀な人材とのマッチング強化は、労働力の供給源を広げる有効な手段となります。
海外の人材に関しては、受け入れ体制の整備や言語・文化面のサポートが鍵となります。一方、地方在住の求職者には、Uターン・Iターンを促進する働き方や移住支援制度との連携が有効です。
11.リスキリングの推進
人材の流出を防ぎながら社内の人手不足に対応できる手段として、既存社員に新たなスキルを習得させるリスキリング(再教育)の推進も有効です。
社内研修の充実や外部教育機関との連携に加え、個々のキャリア目標に応じた柔軟な学習機会を提供することで、社員の成長意欲を高め、企業の持続的な競争力強化にもつながります。
なお、リスキリングにはさまざまな助成金制度が提供されています。興味のある方は、こちらも参考にしてください。
12.インターンシップや職業体験制度の活用
インターンシップや職業体験制度の活用は、将来の人材確保に向けた中長期的なアプローチとして効果的です。学生や若年層に早期から企業の現場を体験してもらうことで、自社の魅力や業務内容を理解してもらい、将来的な入社につなげることが期待できます。
職場の雰囲気や実際の仕事内容を知ってもらうことで、採用後のミスマッチや早期離職のリスクを減らす効果もあります。社会貢献や地域連携の観点からも評価される取り組みのため、企業のブランド価値向上にも寄与できるでしょう。
人手不足解消策の成功事例
人手不足の課題に対して、実際に取り組みを行い成果を上げた企業も数多く存在します。ここでは、中小企業庁がまとめた事例集の中から、特に効果的な対策を講じた成功事例を3つご紹介しましょう。
①AI・IoT活用と業務棚卸で残業時間を大幅削減
ある製造業の企業では、長時間労働の常態化や部署間での利益率のばらつきが問題となっており、特に利益率の低い部門では社員のモチベーション維持が課題でした。
こうした状況を受けて、働き方改革を推進。業務の可視化とITの活用により、残業時間の大幅削減と社員の意欲向上という成果を上げました。
実際に行われた主な施策は以下の通りです。
- 業務内容を棚卸・分析し、無人化・遠隔化を検討
- AI・IoTによる業務の自動化・効率化
- Web会議やメールを活用した非対面営業への転換
- 月1日以上の有休取得を義務化
- 週1回のノー残業デーを実施
- 部署別採算表を導入し、収益状況を見える化
このような取り組みによって、社員の自発的な業務改善も進み、働き方改革の好事例となりました。
②社内ルールの徹底と福利厚生改革で離職率が改善
ある建設業の企業では従業員の定着率が低く、人手不足が慢性化していました。特に若手社員の離職が相次ぎ、育成の負担が企業全体に重くのしかかっていたといいます。
この状況を打開するため、就業ルールの整備と福利厚生制度の見直しを軸とした働き方改革に取り組みました。実施された施策は次の通りです。
- 残業計画表の提出を義務化し、事前管理を徹底
- 月60時間超の残業には追加人員や上司の業務改善サポートを実施
- 残業への意識改革を目的に、外部講師による勉強会を開催
- 健康診断の再検査・治療通院には有休利用+補助を支給
- 家族旅行で有休取得した場合も、人数に応じた補助を支給
- 経営トップが有休取得を奨励し、管理職向け研修で取得しやすい雰囲気を醸成
- 新入社員には1か月の教育+メンター制度を導入し、定着を支援
このような取り組みにより社員のワークライフバランスが改善され、休暇取得率の向上とともに離職率も大幅に低下。さらに新卒採用では応募者数が増加し、企業の魅力が高まる好循環を生み出しました。
③属人化の排除とビジネスモデル転換で負担を平準化
あるIT系企業では、業務の属人化が進行し、一部の社員に業務負担が集中していたことで、離職率の上昇と生産性の低下が深刻な課題となっていました。そこで同社は、ビジネスモデルの転換と開発体制の再構築を通じて、組織全体の生産性向上と人的負担の平準化を実現しました。
主な取り組み内容は次のとおりです。
- 受託開発からパッケージ提供型へ事業を転換
- ECサイトやアプリ開発の知見を活かし、独自のECアプリパッケージを開発
- 制作費を従来比2~4割削減し、低コスト導入を実現
- パッケージ専任の固定開発チームを編成
- 体制転換により業務を標準化し、属人化を解消
このような取り組みにより業務の平準化と効率化が進み、社員一人ひとりの負担が均等化。さらに、開発スピードと品質を両立できる組織体制が構築され、業務効率の向上と社員満足度の改善につながりました。
人手不足の根本解決には人材育成がカギ
人手不足に対する即効性のある施策は数多くありますが、長期的かつ持続可能な解決策として最も重要となるのが「人材育成」です。採用に頼るだけでは限界があり、既存の社員一人ひとりのスキルを引き上げることで、組織全体のパフォーマンスを底上げすることが求められています。
そこでおすすめしたいのが、「企業向けDX・AI人材育成サービス」です。企業それぞれが抱える課題に対して、業務に直結するDXやAIに関するスキルを実践的なカリキュラムで効率よく学べるようご提案します。
DX推進や業務効率化を社内で進めたいと考えている企業は、これからの人材戦略を支える有力な選択肢としてぜひご検討ください。
人手不足の本質を見極め、最適な解決策を実行しよう
日本企業が直面している人手不足の問題は、少子高齢化や価値観の多様化、業務の複雑化など、さまざまな要因が複雑に絡み合った構造的な課題です。簡単に解消できるものではありませんが、業務効率化や多様な人材の活用、そして何よりも人材育成に注力することで、持続可能な改善は十分に可能です。
人手不足に悩む企業は、まず現状を正しく把握し、この記事で紹介した対策を参考にしながら、自社に合った解決策を検討してみてください。外部サービスの活用も視野に入れ、できることから一歩ずつ取り組むことが、未来の安定と成長につながります。
