国内外に科学事業を展開しているレゾナックが、電気自動車の品質を高める部品として最新の「ディスクブレーキパッド」が開発しました。では、従来のディスクブレーキパッドとはなにが違うのでしょうか。
今回は、開発された高性能ディスクブレーキパッドのニュースをもとに、高性能ディスクブレーキパッドの性能や電気自動車に導入する役割・欠点について深掘りしていきます。どのような点で注目されているのか詳しく見ていきましょう。
レゾナックが高性能ディスクブレーキパッドを開発
元日立グループに所属していた株式会社レゾナックが、電気自動車産業への参入を目的とし、新たに高性能なディスクブレーキパッドを開発しました。
開発されたディスクブレーキパッドは、ノンアスベスト系の摩擦材が利用されており、人体に有害なアスベストが使われていないのはもちろん、高いブレーキ性能を実現できると注目されています。
現在、EUで適合性評価を実施するティア1ブレーキシステムメーカー(完成車メーカーに直接部品を供給するメーカー)に、製品のサンプルを提供している段階です。
実用可能と評価されれば、近いうちに最新のディスクブレーキパッドを搭載した電気自動車が生産される予定となっています。
レゾナックの会社概要
レゾナックはもともと国内大手企業の日立グループに所属していた企業であり、科学事業を中心として実績を積み上げていました。現在は、日立グループから独立し、昭和電工や昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)との統合を経てレゾナックという組織が生まれました。
特に、近年注目が集まる半導体事業・自動車部品事業・電子デバイス事業で、多数の分野で活躍を見せている企業です。1939年から蓄積してきた技術を活かし、国内外で独自の科学技術を活かして、世の中に役立つさまざまな製品をつくり出しています。
会社名 | 株式会社レゾナック・ホールディングス |
設立年 | 1939年6月 |
資本金 | 1,821億円 |
事業内容 | エレクトロニクス・モビリティ(自動車)・機能材料・石油化学・基礎化学品・グラファイト・電子デバイス・自然科学 |
また、半導体事業に関する情報に興味がある人は、以下の記事をチェックしてみてください。
半導体の概要についてわかりやすく解説しています。
ディスクブレーキパッドとは
ディスクブレーキパッドとは、自動車や自転車などの車輪を回転させるディスクローターという部品をゴム製のブレーキパッドで挟み込み、摩擦力の効果でブレーキを起こすシステムのことです。
つまり加速している走行車を安全に止めるために重要な部品のことであり、ほとんどすべての自動車にディスクブレーキパッドが搭載されています。
ディスクブレーキパッドの役割
ディスクブレーキパッドは、走行しているものを「安全」に停止させるために必要な部品です。
例えば、ディスクブレーキパッドを搭載していない状態でブレーキをかけた場合、急停車してしまい、乗客が感性の力で前方に飛ばされたり、自動車等がスリップする恐れがあります。
また、人間の技術だけでは滑らかにブレーキをかけることができませんが、ディスクブレーキパッドを搭載した車両の場合は、ディスクブレーキパッド自体がブレーキを制御してくれるため、緩やかに停車できるようになるのが特徴です。
つまり、自動車等を安全に乗りこなすために欠かせない部品だと覚えておきましょう。
ディスクブレーキパッドの欠点
自動車や自転車等の車輪を安全に停止させる際に欠かせないディスクブレーキパッドですが、次のような欠点があります。
- 油分や汚れに弱い
- 摩擦に弱く消耗しやすい
例えば、ディスクブレーキパッドに油分が付着すると、キュルキュルと音鳴りがするほか、制動力が低下してブレーキがかかるまでに時間がかかりやすくなります。
また摩擦力を利用してブレーキをかけるため、ブレーキの回数が多いほど性能が失われてしまいます。長期間利用すると交換が必要になることから、ランニングコストが発生しやすいのがデメリットです。
ディスクブレーキパッドの仕組み
ディスクブレーキパッドは、以下に示す4つのパーツから構成されています。
- ディスクローター
- ブレーキキャリパー
- ブレーキパッド
- ピストン
まずディスクローターが車輪と連結されており、ブレーキをかけるためのブレーキキャリパーの力を使って車輪の制動(減速・静止)を管理できます。
また、ブレーキキャリパーを動作させるためには、車内にあるブレーキを踏む必要があり、ピストンの力を利用して制動の強さを調整できるのが特徴です。
車輪を停めるためには、ピストンとブレーキキャリパー内のゴムの力を利用し、摩擦の力が必要です。特に摩擦の力を受け持つディスクブレーキパッドは、強い摩擦と熱の力に耐える性能を有しておかなければなりません。
最新のディスクブレーキパッドと従来品との違い
レゾナックが開発した電気自動車向けのディスクブレーキパッドと、従来品との違いを下表にまとめました。
最新のディスクブレーキパッド | 従来品 | |
材質 | ノンアスベスト系摩擦材 | レジン(合成繊維樹脂)、メタル(金属粒子)、セミメタル(樹脂・金属混合) |
摩擦粉の排出量 | 少量 | やや少量 |
まず最新のディスクブレーキパッドには、人体に有害なアスベスト(石綿)が含まれていません。摩擦が起きても摩擦粉(微粒子の粉状の素材)が出にくく、従来品の30%以下に抑えられるのが特徴です。
粉じんが少ない素材であることから、昨今の環境対策にも効果を発揮し、将来的に規制されるブレーキによる粉じんの対応としても早めの準備ができると期待されています。
EU主流のロースチール系ブレーキパッドと同等の性能を発揮
レゾナックが開発したディスクブレーキパッドは、EUで主流とされている高性能なロースチール系ブレーキパッドと同等の性能を発揮できるのが魅力です。
ロースチール系ブレーキパッドは、鳴き・異音・振動を起こしにくいのはもちろん、熱伝導率が低いため、摩擦が起きても熱で変形しにくいと言われています。また耐久性も高いことから、長期間の交換が必要ないといったメリットをもっています。
ただし、レゾナックが開発したディスクブレーキパッドのほうがブレーキ鳴き・粉塵の発生を抑制できるのが魅力です。最新のディスクブレーキパッドは、ロースチール系ブレーキパッドのさらに上をいく性能を持つ魅力的な部品だと覚えておきましょう。
最新のディスクブレーキパッドを導入する魅力
電気自動車にレゾナックが開発したディスクブレーキパッドをどう際する魅力を3つの項目に分けて解説します。
交換時期を延長できる
最新のディスクブレーキパッドは、摩擦に強い性能を持つことから、劣化しづらく長期間の利用ができると期待されています。
従来のディスクブレーキパッドは摩擦によって消耗し、品質が落ちやすいため頻繁に交換しなければならなかった一方で、レゾナックが開発したディスクブレーキパッドは、品質を維持しやすいのが魅力です。
点検やメンテナンスのたびに交換するといった手間がかかりにくくなり、電気自動車の維持管理におけるコストを必要最小限に抑えられるでしょう。
また、高い摩擦性能を持つディスクブレーキパッドがあれば、運転者の技術によって変化する摩耗の度合いを均等にしやすくなるのがメリットです。長い期間、快適な走行を維持しやすくなるため、電気自動車の乗り心地が良くなると注目されています。
部品の交換費用を削減できる
レゾナックが開発したディスクブレーキパッドを導入すれば、自動車部品の交換費用を削減しやしくなるのがメリットです。
一般的にディスクブレーキパッドの交換費用は、整備工場などによって変化しますが、おおよそ5,000~6,000円だと言われています。またディスクブレーキパッドの寿命は3,000~5,000km程度だと言われているので、1年間に3,000km以上走行している人だと年1回の交換が必要です。
対して、レゾナックが開発したディスクブレーキパッドは、摩擦による損耗を約30%も抑えられることから、単純計算で最低5,000km以上走行しなければ、製品自体の交換が必要なくなります。
つまり、1年に1回ペースの交換が、約1年半~2年に1回ペースの交換に変わるイメージです。
交換費用をおおよそ3分の2~2分の1程度に抑えられるため、電気自動車の購入者負担を削減しやすくなると言えます。
脱炭素社会の実現に役立つ
レゾナックが開発したディスクブレーキパッドの摩擦性能を有した電気自動車が増えれば、今後は脱炭素社会の実現に役立つと期待されています。
自動車は世界的に利用されている重要な機械であり、毎年数えきれないほど多くの方たちがディスクブレーキパッドの交換をしている状況です。また、ディスクブレーキパッドの交換が必要ということは、その分だけ素材をつくるために二酸化炭素を排出しなければなりません。
対してレゾナックが開発したディスクブレーキパッドなら、損耗の期間を延ばしやすくなるため、交換するための製品製造の頻度を減らせます。二酸化炭素排出の削減につながることから、脱炭素社会、そして2050年を目標としているカーボンニュートラルの実現に近づけるはずです。
脱炭素社会の実現に向けた取り組みについて詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。企業や大学が連携して実施している取り組みについて解説しています。
ディスクブレーキパッドについてまとめ
レゾナックが開発したディスクブレーキパッドは、性能評価が終わり次第、電気自動車への導入が進んでいくと考えられています。ブレーキ性能を高める部品ということもあり、自動車のバージョンアップに役立つはずです。
また、ディスクブレーキパッドを含む自動車関連の進化は、現在も留まることを知りません。
今後も自動車の進化が続いていくので、ぜひ今後の動向をチェックし続けていきましょう。