世界中で脱炭素社会を目指す取り組みが進む中、国内建設大手の清水建設と早稲田大学がタッグを組み、共同研究開発をスタートすると発表しました。具体的にどのような取り組みが実施される予定なのでしょうか。
今回は、清水建設・早稲田大学の共同研究を深掘りし、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを詳しく紹介します。また、国内企業が実施する事例も解説しているので、環境対策の動向を探る参考にしてみてください。
脱炭素社会とは
脱酸素社会とは、CO2排出による環境への悪影響のない社会のことです。
地球温暖化や気候変動といった問題を引き起こす原因である炭素の排出を減らすために、次のポイントを改善しなければならないと問題視されています。
改善すべきポイント | 排出の割合 |
火力発電によるCO2排出 | CO2排出の4割 |
工場稼働によるCO2排出 | CO2排出の2.5割 |
自動車による排ガス排出 | CO2排出の2割 |
人間社会の繁栄のために仕方のない排出とはいえ、環境への影響が大きく、将来人間に悪い影響として返ってくるのが特徴です。すでにCO2排出の影響が出ていることから、今後の影響を抑えて改善していくために、脱炭素社会が目指されています。
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脱炭素社会とカーボンニュートラルとの違い
脱炭素社会の話をするうえで理解しておかなければならないのが「カーボンニュートラル」という考えです。
脱炭素社会はCO2の排出をゼロにすることに対し、カーボンニュートラルではCO2を含む温室効果ガスの排出をさまざまな方法で相殺し、実質ゼロを目指します。つまり、ゼロを目指す方法が違うのが特徴です
ですが、実質的にやることは変わりません。
日本は脱炭素社会への取り組みとして、2030年までに排出量を46%削減し、2050年には排出量の実質ゼロを目指すという目標を掲げています。
排出量実質ゼロとは
「脱炭素社会=完全にCO2を排出しなくなる」というイメージを持たれがちですが、実際にCO2の排出をゼロにするのは不可能です。そこで現在「実質ゼロ」と掲げられているのは、排出と吸収を按分した結果の値だということに注意してください。
例えば、脱炭素社会のために排出量を減らすことを前提として、減らしきれない分については、植林等によるCO2吸収といった取り組みで調整します。もし10%分のCO2排出量が残っていたとしても、10%を補える植林ができれば、実質ゼロにできます。
つまり脱炭素社会を目指すためには、CO2の削減と環境維持・拡大が必要です。
日本における脱炭素社会の動向
国立環境研究所が公表している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」によると、国内におけるCO2排出量は、発電による影響が4割、工場による影響が2割5分、自動車等による影響は2割近くあると算出されています。
将来的には各エネルギーの生産方法、消費方法を転換し、脱炭素社会に向けてゼロを目指していく予定です。
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脱炭素社会の実現に向けて企業・大学が連携
日本で脱炭素社会が推進されだしたことに伴い、国内企業でも脱炭素社会に向けた取り組みが始まっています。その中でも注目を集めているのが、建設業界大手の清水建設と早稲田大学による共同研究の発表です。
具体的な研究開発は今後詰めていく予定だと発表されていますが、今回の共同研究には次のような意味があると説明されています。
我々の強みは、開発した技術を現場で実証できること。大学と我々の技術を融合し、実際の建物で検証していく
また、現在予定されているのが、建設業で利用されているAI・や3Dモデリング技術を活用した環境対策の取り組みです。建設業で利用されている重機のCO2排出量を抑えることも含めて、企業・大学の連携により効率的な研究を進めていくこととなっています。
脱炭素社会の実現に向けた日本国内の取り組み
清水建設と早稲田大学の連携のみならず、日本では脱炭素社会の実現に向けた取り組みがスタートしています。参考として、環境省が公開している事例集をもとに、脱炭素社会に向けた企業・自治体の事例をまとめました。
北海道川下町による木質バイオマス地域熱の供給
北海道にある下川町では森林地域が多いことを活かし、木質バイオマスを活用した燃料の削減を実現しました。従来、地域で利用されている電力は火力発電等に頼らなければなりません。対して、バイオマスボイラーを導入したことによって次の効果を生み出しました。
- 1,600万円の燃料費を削減
- 削減費用のうち800万円を子育て支援に活用
木質バイオマスを使った発電設備の導入により、役場や公民館、福祉センターなどの電力をまかなえているほか、子育てに優しいまちづくりにも貢献できているのが特徴です。
静岡県浜松市による太陽光発電事業の提供
静岡県浜松市では、日照時間が日本で最も長い地域であることを活かし、太陽光発電事業に力を入れて脱炭素社会を推進しています。自治体主導で太陽光発電設備の屋根貸し事業を提供しており、教育施設などを中心に一部電力をもらい受ける仕組みを作っています。
自治体は場所を借りながら発電をまかなえることに並行し、屋根貸しした施設は安く太陽光発電施設を導入できるのが特徴です。両者がWin-Winの関係になれる仕組みを作り出すことにより、脱炭素社会を目指しやすくなります。
三井不動産による建築物のZEB・ZEH化
住宅・不動産事業を展開する三井不動産は、脱炭素社会に向けた取り組みとして、新規物件をゼロエネルギー化するZEB・ZEH化を基本水準にすると発表しました。例えば次のような手法で省エネを実現しています。
- 空調負荷の最適化
- 太陽光発電設備の設置
- 気密性の向上
- 屋内照明の省エネ化
三井不動産ではビルディングのほか、大型ショッピングセンター、ホテル施設でもZEB・ZEH化を実施しています。国内の物件が環境対応型になることによって、電気代の節約となり、発電施設による発電量を減らせるのが特徴です。
阪急阪神ホールディングスによる鉄道省エネ化
鉄道事業を展開している阪急阪神ホールディングスは、脱炭素社会に向けた取り組みとして、自社運用中の鉄道を省エネ化し、従来の半数近い値まで消費電力を削減するという目標を掲げています。参考として取り組みの概要をまとめました。
- 社内照明のLED化
- 駅舎内のLED化
- モーター機器の効率化
阪急阪神ホールディングスの消費コストのうち、鉄道の運行にかかるエネルギーが4割を占めていることから、大幅な電力消費量の削減になると期待されています。また、同社が提供するバス・タクシー事業でも同様にエコドライブの取り組みをスタートしました。
企業として脱炭素社会に向けた取り組みをスタートしたいなら、補助金制度を活用するのがおすすめです。ものづくり補助金に関する情報が知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
脱炭素社会の実現に向けた海外での取り組み
脱炭素社会に向けた取り組みは、海外でも積極的に実施されているのが特徴です。
直近の調査によると世界125か国・1地域が脱炭素社会に向けた取り組みを実施しています。
参考として、各国が実施する脱炭素社会に向けた取り組みをまとめました。
EU諸国による脱炭素社会ビジョンの設定
EU諸国は脱炭素社会の実現に向けて「A clean planet forall」という目標を掲げました。
このビジョンでは8つのシナリオからなるシナリオが掲げられており、省エネルギーや電化、といったポイントで建物や産業など部門ごとに取り組む内容がまとめられています。
また、掲げられている目標ごとに削減すべきCO2の目標値も設定されているのが特徴です。
自治体・企業がどういった取り組みを実施すべきかまとめられていることも含め、EU諸国で早急な環境対策が進んでいる状況です。
イギリスによるネットゼロシナリオの設定
イギリスでは脱炭素社会の実現に向けて、電気分野での将来像として「ネットゼロシナリオ」という戦略を掲げました。この政策には次の項目がまとめられています。
- 電気自動車への移行・普及
- 熱需要の電化
社会生活で利用する電力をすべて電化した設備から供給するほか、どうしても石油等に頼らなければならない農業・航空業をまかなうため、環境対策を講じるべきであると説明されています。
アメリカによる目標の同時達成
アメリカでは、以下に示す3つの項目を同時に達成する「ウィン・ウィン・ウィン」という取り組みをスタートしています。
- 気候変動への対応
- クリーンエネルギーの活用
- 雇用増
例えばクリーンエネルギーを活用した産業のサプライチェーンの強化に力を入れるほか、住宅、イノベーションといった分野に2兆ドルもの投資を始めている状況です。
インフラの整備からスタートした結果、すでに数百万人もの雇用が生まれるなど、脱炭素社会へと着実に歩みを進めています。
脱炭素社会についてまとめ
CO2の排出量ゼロを目指す脱炭素社会を実現するため、日本ならびに世界中の国々が環境対策をスタートしています。国内では国だけでなく自治体・企業も積極的な対策に取り組んでおり、消費電力の削減等に貢献している状況です。
また海外でも脱炭素社会の実現に向けた目標を掲げ、具体的な施策を公表し、国による投資サポートも進んでいます。脱炭素社会の目標年が迫ることも含め、今後の対策から目が離せません。