3D CADソフトにもさまざまな種類があり、自社はどのようなソフトを導入したら良いか迷う人もいるでしょう。大規模な設計になるほど、ピッタリ合う3D CADソフトは限られておりその選び方を見極める必要があります。
今回、PTC ジャパンの財前氏にお話を聞ける機会がありましたので、自社開発している3D CADソフト「Creo」について詳しく解説いただきました。
PTC ジャパン株式会社
製品技術事業部 副事業部長 執行役員
財前 紀行
2008年PTC ジャパンに入社。CAD製品のプリセールス・エンジニアとして、数多くのCAD技術提案や既存顧客のサポートに携わる。2018 年より、CAD技術本部長に就任し、CAD製品のプリセールス・エンジニアとコンサルティングを統括。2022年より、製品担当プリセールス・エンジニアを統括。
Creoとは
CreoとはPTCが提供する3D CADソフトであり、小規模な製品開発から大規模な製品開発まで行える便利なソフトです。3D CAD上で解析もできたり、ジェネレーティブデザインのAI自動化に成功していたりと画期的なシステムが多々搭載されています。
活用事例としては新幹線やトラック・バスやエンジンの設計にも利用されており、中小企業から数十億ドル規模の企業まで安心して利用できる3D CADソフトウェアとなっています。
Creoの開発コンセプト
Creoの開発コンセプトとして、大きく3つございます。
- パラメトリック
- フィーチャーベース
- シングルデータベース(相互連携性)
これらのコンセプトは現在では多くのCADが採用していますが、1988年にPTCが世界で初めて設計者向け3DパラメトリックCADとしてリリースしました(当時の名称はPro/ENGINEER)。
Creoリリース前は「2Dで設計し、3D化して活用」という3D CADのレベルでしたが、この3つのコンセプトを取り入れたCreoのリリースによって、「3Dで設計し、活用」という新時代の幕開けとなりました。
では、3つのコンセプトをご説明します。
Creoの開発コンセプト 1.パラメトリック
1つ目の「パラメトリック」は、3Dデータを数値・変数でコントロールする考え方です。
設計要件を組み込むことができ、設計の最適化・自動化が行えるようになります。
Creoの開発コンセプト 2.フィーチャーベース
2つ目の「フィーチャーベース」は、3Dデータの形状を単なる数値情報だけでなく、「穴」、「スロット」、「フィレット」などの特徴・属性を持たせる考え方です。
フィーチャーによって、設計の管理・編集が容易になります。
Creoの開発コンセプト 3.シングルデータベース
3つ目の「シングルデータベース」は、1つの製品に関する様々なデータ(3Dモデル・図面・解析データなど)が1つのデータベースとして管理され、相互連携し、修正内容が関連データ全てに反映される仕組みです。
シングルデータベースの実現により、構想設計→詳細設計→解析→製図→製造の一連のプロセスがスムーズに行えます。
またそれだけでなく、従来のソフトでは前工程が完了してから次の工程に進むシーケンシャル・プロセスしか行なえませんでしたが、シングルデータベースの相互連携性により、平行して工程をすすめるコンカレント・プロセスが実現できるようになり、製品開発期間の短縮が実現できるようになりました。
Creoの特徴や導入メリット
Creoの主な特徴は次の5点になります。
- データが軽い
- レスポンスが良い
- 大規模アセンブリ対応
- 設計変更に強い
- 設計の自動化に最適
導入メリットについて、実際の導入事例をご紹介します。
導入メリット:ローレンス・リバモア国立研究所
ローレンス・リバモア国立研究所の核融合研究施設の国立点火施設の開発事例では、75万点の独自設計部品で構成された350万点以上のコンポーネントによる高度な設計を達成しています。
導入メリット:ゴルフクラブ
自動設計・設計の最適化では、ゴルフクラブの設計例を紹介します。
最適なバランスの要件として、「『クラブの重心を通り、クラブの面に垂直な軸』と『シャフトの軸』が重心で交わる」があります。この要件を組み込むことができるため、最適化された設計のみが行えるようになります。
導入メリット:NASA
AI技術を取り入れたジェネレーティブデザイン機能も評価いただいています。
ジェネレーティブデザインはNASAの新しい宇宙服開発に採用されています。ジェネレーティブデザインにより、いくつかの部品の小型化(最大50パーセント)も達成できています。
そして、今まで紹介した機能で作成されたデータも「シングルデータベース」のコンセプトで一元化され、相互連携しているため、最適な最終製品に向けて最短で進むことができます。
Creoが選ばれる理由
CreoはCAD演算のベースとなっているカーネルが完全オリジナルであり、カーネル自体を改善できるため、全ての機能の最適化が行なえます。
他社のカーネルはPTCが「パラメトリック」、「フィーチャーベース」、「シングルデータベース」を発表する前から開発されていたため、それぞれの機能は後付の状態です。
3つのコンセプトが前提として開発されているカーネルはCreoのみで、完全最適化されているのもCreoのみということです。
そのため、メリットで挙げたポイントは他社でもPRポイントとして挙げられますが、実際に使用していただくとCreoの優位性を実感していただけます。
特に「シングルデータベース」の連携性は他社と比較しても非常に強固で、高い信頼性があるため、ユーザー様に高く評価していただいています。
世界での評価
シェアや評価は調査機関によって異なるため、一概には言えませんが、いくつか評価いただいた内容をご紹介します。
アメリカの投資銀行 GRIFFIN SECURITIES
まず、アメリカの投資銀行 GRIFFIN SECURITIESから2022年に「3年以上に渡って最も急速なベース成長を達成している」と評価されました。
ISG Provider Lens
調査会社のISG Provider Lensから2020年に「製造業において、最も魅力のある製品群かつ最も競争力の企業」として評価されました。
ABI Research
また、最先端技術であるジェネレーティブデザインは、調査会社のABI Researchから「CADベンターの中で最も革新的で実用的」と評価されました。
Creoの人気機能
まずはCreoのシングルデータベースを活かした「トップダウン設計」が行えることです。
「スケルトンモデル」という形式で構想設計を行い、コンカレント(同時並行)に詳細設計が行なえます。シングルデータベースで相互連携しているため、リードタイムを大幅に短縮できます。
直接の機能ではありませんが、UIのわかり易さも喜ばれています。UIが整理されている事に加えて操作の一貫性があるため、操作がしやすく、ストレスが軽減されています。
また、操作性の向上については、よく組み合わせて使用する2つのコマンドを1つのコマンドで行えるようにした工夫も喜ばれています。
3Dアノテーション(MBD)を使われているユーザーにはSigmetrix社の「GD&T Advisor」が組み込まれていることも喜ばれています。これはMBDの公差設定の不備をチェックしてくれるため、正しいMBDが素早く設定できるようになります。
このように、一見すると地味に思えるかもしれませんが、継続して使用していただく中では、業務の中で頻繁に使用される基本的な機能の操作性や安定性の向上が喜ばれています。
Creoの今後の開発ロードマップ
現在、Creoとしての注力分野は次の項目になります。
- ユーザーの生産性向上
- 複合材を使用した設計
- モデルベースの定義(MBD)
- シミュレーション駆動の設計
- ジェネレーティブデザイン
- 付加製造のための設計
- SaaS化
もちろん「ユーザーの生産性向上」が一番優先度の高い項目となります。
SaaS化は機能の話では無く、プラットフォームとしての形態の話になるため、他の機能のロードマップとは別軸の話になります。Creoについては「Creo+」という名称でSaaS版をリリースしています。
最新版Creo 10の新機能
注力分野についてありがとうございました。
新機能は大きく7つございます。
- 複合材のための設計
- 電動化のための設計
- 人間工学を考慮した設計
- 生産性とユーザビリティ
- MBDとデジタルスレッド
- シミュレーションとジェネレーティブ
- 製造
Creo 10新機能 ①複合材のための設計
「複合材のための設計」では、「完全な複合材構造を正確に定義してキャプチャ」、「製造性の問題を検証して特定」、「デジタル作業指示書の作成」などが行なえます。
Creo 10新機能 ②電動化のための設計
「電動化のための設計」は「ハーネス構造の視認性向上」、「協調的なハーネス設計ワークフロー」、「ハーネス サブシステムの再利用」などが可能になります。
Creo 10新機能 ③人間工学を考慮した設計
「人間工学を考慮した設計」は「可視性企画に準拠するようにモデルを分析」、「マネキンライブラリのデータ管理が容易」、「マネキンの位置を正確に制御」ということが可能になります。
Creo 10新機能 ④生産性とユーザビリティ
「生産性とユーザビリティ」は「モデルツリーの改善」、「コマンドの強化」、「サーフェシングの改善」がされています。
Creo 10新機能 ⑤MBDとデジタルスレッド
「MBDとデジタルスレッド」は「関連シンボル機能」、「GD&T Advisorの改善」、「EZ Toleranceの改善」が行われています。
Creo 10新機能 ⑥シミュレーションとジェネレーティブ
「シミュレーションとジェネレーティブ」は「Ansysの統合」、「Flow & Simulateの改善」、「ジェネレーティブデザインの改善」が行われています。
Creo 10新機能 ⑦製造
「製造」は「付加製造の格子の強化」、「HSM(高速切削)の強化」、「切削加工の強化」が行われています。
Creo+の特徴やおすすめのユーザー
まず、SaaS化はCreoだけでなく、他の製品も含めて進めています。
もちろん、従来のオンプレミス製品も継続してリリースしていきます。
SaaS版Creo+のメリット
SaaS版の大きなメリットは以下の6点になります。
- 柔軟なコラボレーション
- イノベーションの加速
- アベイラビリティとモビリティ
- 総所有コストの低減
- セキュアでスケーラブル
- より優れたユーザーエクスペリエンス
Creo+はCreoの素晴らしい機能に加えて、SaaSとしてのメリットが追加されています。
そのため、基本的には全てのお客様にお勧めできる製品になっています。
Creo+のみ搭載されている機能で特に強いのが「コラボレーション機能」になります。
Creo+ではSaaSの強みを活かして「リアルタイムコラボレーション」や「ブランチ(分岐)機能」が使用できます。
「リアルタイムコラボレーション」は文字通り複数の関係者が何人でもリアルタイムで製品デザインの検討、確認、編集が行えます。
「ブランチ機能」では、複数の設計案を並行して進める事ができ、採用するものをマージ(結合)する事で、効率よく設計が進めることができます。
このように、SaaS版のCreo+はオンプレミス版のCreoの上位互換となるため、全てのお客様にお勧めできる製品となっています。
まとめ
今回、Creoのお話を詳しく聞かせていただき印象深かった事は、パラメトリックCADのパイオニアとして「根本的なCAD機能が強力かつ信頼性が高い」、「先進的な機能もどんどん追加されていく」という事でした。
根本的なCAD機能については、「Creoの特徴や導入メリット」でご紹介しましたが、全てのユーザーが恩恵を受ける内容ですので、ユーザーからの評価が高いのが納得できます。
先進的な機能の中では、単純なCAD機能以外の「SaaS版Creo+」が特に印象的でした。
他社ソフトでも一部の機能がSaaSとして提供されている事はありますが、Creo+は「オンプレミス版の上位互換」としてリリースしているのが凄い点です。SaaSのメリットは様々ありますが、ハードウェア導入の障壁を取り除けるのも大きなメリットだと思います。
このように、ユーザーの要望に応えるための開発はもちろん、ユーザー自身が意識していない将来必要となる機能も先読みして開発していく姿勢がユーザーから評価されているポイントだと感じました。
皆様の課題解決・業務改善のツールとして、CreoまたはCreo+をぜひご検討ください。