半導体の性能を高める「3D半導体」が進展する一方で、製造品質に関わる複数の課題が発生するのではないかと不安視されています。そこで日立ハイテクは、3D半導体の品質維持のために、新たな検査装置の開発をスタートしました。
今回は3D半導体の製造品質に関わるニュースをもとに、3D半導体が抱える課題や新たに開発が進んでいる検査装置の特徴について深掘りします。3D半導体の製造に関わる裏側を見ていきましょう。
日立ハイテクが3D半導体用の検査装置を開発中
電子製品を提供する日立グループのなかでも、計測・分析に特化した技術をもつ「日立ハイテク」が、新たに3D半導体を検査するための新型装置を開発すると発表しました。
当検査装置にはセンサーの機能が搭載されており、製造段階で3D半導体の品質をチェックすることで、3D半導体の製造で抱えている課題をうまく解決できると期待が寄せられています。
平面上に製造されている従来の半導体にはない、複数の層を垂直に積み上げて製造する3D半導体ならではの課題解決に欠かせない機能です。なぜ日立ハイテクが3D半導体の検査装置の開発を急いでいるのか詳しく見ていきましょう。
3D半導体の検査装置が求められる背景
現在、日立ハイテクでは半導体の製造に関わる裏面電源供給(トランジスタに電力供給する電源線、および信号のやり取りをする信号線を別の層に分ける技術)の適応が検討中です。
それに伴い、裏面電源供給に対応できる3D半導体の製造も進めなければなりません。
しかし、現状では3D半導体を製造するための歩留まりが低い状態であり、思うような品質の3D半導体を大量生産できないのがネックです。
よって日立ハイテクは、歩留まりの低さを解決する取り組みとして、3D半導体の検査装置開発をスタートしました。
3D半導体とは
3D半導体とは、文字通り立体的な形状をした半導体のことです。
「3次元集積化」と呼ばれる半導体を重ねて製造できる技術でつくられた製品であり、次のような特徴を持っています。
- 複数層をまとめて製造することによる製造コストの削減
- 3D半導体1製品当たりにかかる消費電力の節約
- 複数層の半導体を作成することによる性能の向上
高集積化された3D半導体は、従来の半導体チップよりも高いデータ容量に対応できます。
製造の効率化を図ることはもちろん、製品自体の性能アップに欠かせない技術として、近年多くの工場で3D半導体の製造がスタートしています。
また、半導体の概要や仕組みから知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
作り方も含めて初心者向けにわかりやすく解説しています。
3D半導体が抱える課題
半導体製造の効率化や製造コストの削減に役立つ3D半導体ですが、現時点で品質に関わる複数の課題があります。日立ハイテクが検査装置の開発に乗り出したきっかけとなる課題について、詳しくみていきましょう。
構造の複雑化する
3D半導体は従来の1層タイプの半導体とは違い、複数層から構成されているため、複数層を接合する専用機器の導入が必要です。とはいえ3D半導体はまだ登場したばかりの技術・製品であるため関連する専用機器に膨大なコストがかかります。
構造が複雑化することで性能はアップしますが、反対に製造が複雑化することで対応できる企業が限られてしまうこと、新たな機器の導入が必要になるといった課題が挙げられます。
歩留まりが低下しやすい
3D半導体のように1製品をつくるための製造工程が増えると、歩留まり(完成品の割合)が低下しやすいという課題があります。
構造が複雑になると、機械で製造するといえど一部の品質低下などが起こるかもしれません。
また、製造途中で破損するケースも予想されます。
もし3D半導体の製造環境を整備できても、歩留まりが低ければ製造コストが高くなり、思うような利益を生み出せないおそれがあります。日立ハイテクはこの問題に着目し、3D半導体の歩留まり低下のリスクを減らすために、センサーを活用した検査装置の開発に取り組み始めました。
3D半導体の検査装置がもつ魅力
日立ハイテクが開発を進めている3D半導体の検査装置には、さまざまな魅力が隠れています。
検査装置の詳しい特徴についてわかりやすくまとめました。
なぜ3D半導体の品質を維持するために検査装置が必要なのか詳しく見ていきましょう。
日立ハイテクの電子線・光学技術と組み合わせられる
日立ハイテクはもともと計測・分析といった技術力をもつ企業であることから、以下に示す既存技術を活用して3D半導体の検査装置を開発しようと動いています。
- 電子線
- 光学技術
簡単に説明すると「センサー」を用いた技術のことであり、3D半導体の製造に合わせてセンサーで製造工程を逐一チェックすることによって、プロセスの早い段階で品質の変化に気がつけると期待されています。
製造後の最終工程でチェックして品質基準を満たせないと判明するよりも、製造段階で早く問題に気付き、スピーディーに対処するほうが製造コストの削減につなげられるのが魅力です。
歩留まり低下のリスクを削減できる
3D半導体を製造途中で検査できる装置はまだ実用化されていないことから、日立ハイテクが開発に成功すれば、3D半導体市場で大きなシェア率を獲得できるのが魅力です。
現状の課題である歩留まり低下のリスクの削減にもつながるため、3D半導体市場の全体品質をベースアップできるのではないかと注目されています。
日立ハイテクにおける3D半導体検査の展望
日立ハイテクはすでにウェーハの計測・検査のエッチング装置(ウェーハの薄膜形状を化学腐食・蝕刻加工する装置)で半導体の計測に関わる強みを持っている企業です。
しかし3D半導体に関わる装置に対応できていない状況であるため、既存のセンサー技術などを組み合わせつつ半導体チップ市場への参入を計画しています。
マーケティング調査を実施するナレッジストアによると、3D半導体を含め、AI向け半導体チップの市場は毎年上昇傾向にあり、5年ほどで10兆円規模の市場に拡大すると予想されています。
伸び続ける市場において着実なシェア率を確保するためにも、3D半導体の検査装置開発を急がなければなりません。
3D半導体の検査装置に関する企業事例
3D半導体の検査装置は、日立ハイテクだけでなく世界各国でも開発が進められています。
現状における最新動向を詳しくまとめました。
日本セミラボの検査装置
総合測定装置メーカーである日本セミラボは、3D構造デバイス(3D半導体)の利用傾向が強まっている状況に対応すべく、トレンチ形状検査装置を開発しました。
トレンチ形状検査装置は、ウェーハ製造時の非破壊・非接触試験を実施できるシステムであり、次の項目をまとめて検査できるのが魅力です。
- エッチング構造・膜の寸法
- 膜厚
- 組成
- 均一性
また、日本セミラボでは3D半導体の細部までチェックできる走査型プローブ顕微鏡というものも開発しています。従来の電子顕微鏡で調べることができない細かなポイントまで計測が可能であり、表面構造をイメージングできるのが特徴です。
YAMAHAの検査装置
3D半導体の製造事業を展開しているYAMAHAでは、2D検査・3D検査および複数のカメラアングルで製品の品質をチェックできる「新型検査ヘッド」を開発しました。
新型検査ヘッドは、従来の高性能顕微鏡の1.6~2.0倍の詳細度を肉眼でチェックできるのが特徴です。また、8つのセンサーを搭載した3D検査により、360度すべての方向から最大25mmの3D半導体を自動検査できます。
ほかにもAI機能を搭載した部品の自動マッチングなど、自動で3D半導体の品質をチェックする機能も搭載されています。読み込ませるデータが多いほど検査品質がアップするため、回数を増やすほど3D半導体の歩留まり低下を削減できるのが魅力です。
Canonの検査装置
カメラ媒体や半導体の製造などを手掛けるCanonは、自動で3D半導体のウェーハ外観を検査する「ウェーハ自動外観検査装置」を開発しました。
当検査装置は3D半導体の画像処理をして、品質基準を満たしているのかをチェックするのが特徴です。例えば次のような情報を自動で解析できます。
- 欠陥検査(2次元解析)
- 測長(2次元・3次元解析)
最大0.8マイクロメートルまで検査できることから、細かな品質の違いも見逃しません。
3D半導体の世界シェア率
市場調査を実施しているFORTUNE BUSINESS INSIGHTSによると、日立ハイテクが取り組む3D半導体の市場は、主に次のような地域で構成されています。
減産地域のエリア | 3D半導体の市場割合 |
アジア太平洋 | 49% |
北米 | 26% |
EU諸国 | 16% |
中東・アフリカ | 6% |
南米 | 3% |
日本を含むアジア太平洋地域が市場の約半分のシェア率をもっており、日本国内の複数の企業も3D半導体の市場へと踏み込み始めています。
特に中国・日本・台湾・韓国には3D半導体の製造をスタートした大手メーカーが多いことから、地域による検査装置のニーズが高まっていくと予想されます。
半導体産業全体の動向や、今後の変化について詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。毎年開催されている半導体産業のイベントの情報について解説しています。
3D半導体についてまとめ
3D半導体の製造ニーズが高まる一方で、まだ製品の検査・品質チェックに利用できる装置の数が少ない状態です。日立ハイテクが取り組む検査装置の開発が進行して実用化が進めば、今後3D半導体市場に大きな変化が生まれます。
3D半導体の歩留まり低下を防止しやすくなるのはもちろん、製品が完成する前に品質の違いに気がつけるようになることから、今後実用化が進めば、3D半導体の製造メーカー全体にとって良い効果を生まれていくでしょう。