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全固体電池の小型化が正念場を迎える!実用化に向けた取り組みや開発状況も解説

液体電池と比べて寿命が長く、耐久性のある全固体電池の小型化が正念場を迎えました。
すでに海外メーカーも開発に取り組んでいる小型の全固体電池について、日本企業がうまく需要を取り込めるのでしょうか。

今回は、小型全固体電池のニュースをもとに、全固体電池の今、そして今後の動きについて深掘りします。また、全固体電池の実用化に向けた動きや、基礎知識も解説しているので、電池技術の発展を知る参考にしてみてください。

小型全固体電池の普及が正念場を迎える

正念場を迎える小型全固体電池

液体電池よりも高い性能を誇る「全固体電池」が生まれ、小型化した全固体電池が登場しました。そして、あと数年には次のような用途で実用化が迫りつつあると言われている状況です。

  • ウェアラブル端末
  • 産業機器

しかし、全固体電池はメーカー各社が性能向上に取り組む一方で、量産にこぎつけられた企業はほんの少数にとどまっています。また正念場を迎えた今、実用化に向けて小型全固体電池が抱えている課題がいくつも残っています。

難易度の高い市場参入・拡大が必要な全固体電池ですが、今後製造メーカーはどのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。本記事では、実用化に向けて必須となる取り組みについて深掘りしていきます。

小型全固体電池に立ちふさがる3つの壁

小型全固体電池の前に立ちふさがる壁

開発が進み、性能向上などが確認され始めている小型全固体電池ですが、実用化を目指すためには3つの壁を乗り越えなければなりません。直面している問題、そして解決に必要な動き方について解説します。

海外メーカーといった競合が多数いる

小型全固体電池を開発しているのは、日本企業だけではなく世界中の数ある製造メーカーが競合となります。例えば、アメリカのミシガン州でバッテリー工場を運営しているGeneral Motorや、韓国のSAMSUNG ELECTRONICSなど、大手企業も小型全固体電池の競争に参加している状況です。

そういったなか、日本で開発した小型全固体電池で市場割合を確保するためには、いかに早く高品質な製品をつくり出すことが欠かせません。海外メーカーも、日本と同様に小型全固体電池の生産で正念場を迎える状況であるため、スピーディーな開発が求められています。

低価格化を目指さなければならない

小型全固体電池はただ性能を高めるのではなく、製品を購入してもらうための低価格化を目指さなければなりません。

どんなに良い製品だとしても費用対効果を生み出せなければ意味がなく、小型全固体電池から供給できる電力と、費用面のバランスが整わなければ、市場確保を期待できないのが課題です。

小型全固体電池の低価格化を実現するためには、大量生産できる体制の構築はもちろん、サプライチェーン全体の仕組み化などを計画していく必要があります。良いものをつくることと同時に、今後は価格面に関する改良が必要になっていくでしょう。

規格づくりが必要になる

小型全固体電池はまだ新しい製品であることから、利用できるデバイスや機器を増やすために規格をつくらなければなりません。

規格は、以下に示す項目を設定するルールのようなものであり、小型全固体電池を利用した製品をつくるために欠かせない情報です。

  • 形状
  • 寸法
  • 材質
  • 成分
  • 品質
  • 性能
  • 耐久性
  • 安全性
  • 機能

規格を定めなければ、小型全固体電池を利用できる製品が増えにくいことから、実用化をするうえで欠かせない準備だと言えます。

小型全固体電池のメーカー動向

小型全固体電池の開発動向

さまざまな課題を抱えている小型全固体電池の動向を詳しく見ていくため、ここからはニュースでも説明されている、メーカーの最新動向を深掘りしていきます。

菱洋エレクトロが全固体電池の販売をスタート

半導体やシステム情報機器、エンベデッドといった事業を展開している「菱洋エレクトロ」は、すでに全固体電池の販売をスタートしています。おもに海外メーカーが開発した小型全固体電池を、ヘルスケア事業を展開する会社や、産業機器分野などに販売している状況です。

しかし、顧客からの反応が冷静な状況であり、購入者・購入希望者からは次のような要望が出ています。

温度対応 小型全固体電池を基盤にはんだ付けをする際に、高温の熱が発生するため、小型全固体電池も高温に対応できるスペックが必要である
容量 小型の全固体電池であるがゆえに容量が小さく、機器の長時間できないため、電池容量を増やして長時間化してほしい

上記の対応として、菱洋エレクトロとつながりのある太陽誘電は、容量向上の取り組みをスタートしました。また、製造メーカーのマクセルも大容量の小型全固体電池に対応するために、200mAで円筒型の小型全固体電池を開発しました。

FDKがカスタマイズできる小型全固体電池を開発中

各種電池やパワーソリューションの事業を展開している「FDK株式会社」は、顧客の小型全固体電池に対するさまざまな要望に対応するため、汎用性の高い特定顧客向けのカスタマイズ品を開発中です。なお開発では、次のポイントに取り組まれています。

  • 充電特性の向上
  • 温度環境を問わず安定的に充電できる仕組みづくり

夏場・冬場などの温度変化に弱い電池であること、小型でありすぐに電池容量を失ってしまうポイントの解決に向けて、FDK株式会社は力を注いでいる状況です。今後開発が進めば、小型でありながら長時間利用でき、手軽に充電できる全固体電池が生まれるかもしれません。

村田製作所が高温条件下の全固体電池を市場として見出す

電子部品メーカーである村田製作所は、小型全固体電池のニーズが高温条件下の問題解決にあるとターゲティングし、問題を解決することで新たな市場を獲得できると想定して開発を進めています。

高温にも対応できる酸化物系材料を使った小型全固体電池の開発にも乗り出しており、将来を見据えて量産体制も整備中とのことです。地球温暖化などにより平均気温が上昇しているなか、小型全固体電池の寿命や安全性を延ばせるのではないかと期待が寄せられています。

小型全固体電池の仕組み

小型全固体電池とは、言葉のとおり全固体電池を小型化した製品のことです。
従来、液体を用いて製造されてきた電池ですが、固体の素材を使うことにより、液体よりも劣化しにくく継続的に利用できると注目されてきました。

なお小型全固体電池は、電流を起こすための「正極」「負極」「電解質」のすべてに固体の材料を使用します。電解質には酸化物系のセラミックや硫黄物系、ポリマー系の材料などが用いられているのが特徴です。

そして現在、技術の発展により製品の小型化が進んできています。
今までは大型の全固体電池しかつくれずにいたため、電気自動車など、大型のバッテリーを積んでいる機器にしか適用できませんでした。

対して小型化が進めば、私たちが普段から利用している電池式の製品にも利用できると期待されています。

また、電気自動車における全固体電池の実用化について詳しく知りたい方は、以下の記事がおすすめです。全固体電池に期待されている効果についても解説しています。

日産が全固体電池の実用化を進行中!EV競争力を高める新たな取り組みとは?

小型全固体電池のメリット

小型全固体電池のメリット

小型全固体電池には、従来の電池を上回る多数のメリットがあります。
電池を利用する私たちにとっての魅力を詳しく見ていきましょう。

安全性が高い

小型全固体電池は、従来の液体電池と比べて以下のような問題が起きにくいことから、安全性が高いと言われています。

  • 液体電池のように液漏れが発生しない
  • 不具合による発火が起きにくい
  • 冬季に電解質が凍結しにくい

従来の液体電池は、傷がつくと液漏れをしたり、可燃物の近くで発火したり、冬場に十分な性能を発揮できなかったりと、複数のリスクを抱えていました。一方で小型全固体電池は、上記のリスクをすべて軽減できます。

より安全性が増すため、電池の使用範囲・用途を広げやすくなると期待されています。

形状などを自由に設計しやすい

小型全固体電池は液漏れの心配がないことから、自由な形状の電池を設計できるのが魅力です。

例えば本記事のメインである小型化はもちろん、折り曲げて使うこともできます。
すでに折りたたみ式のスマートフォンに小型の全固体電池が使われているというように、自由に変形させても電力を維持できると期待されています。

また、形状を変えて利用できるのにもかかわらず、液体電池よりも寿命が長いのもメリットです。外的要因による劣化のリスクを減らせることから、長時間の電池使用が可能になるかもしれません。

全固体電池のほかにも、近年では耐久性の高いコイン型電池の製造などに力を入れている製造メーカーが増えています。詳しくは以下の記事で生産状況を解説しているので、あわせてチェックしてみてください。

コイン形電池を増産する狙いとは?投資拡大の背景や蓄電池技術の最新動向を解説

小型全固体電池を実用化できないと言われている理由

開発が進み、すでに販売や生産体制が整おうとしている小型全固体電池ですが「小型全固体電池は実用化できない」という意見が数多くみられます。なぜ、そのような意見が挙がるのか、現状の課題も踏まえて実用化を難しくしている要因をまとめました。

  • 耐久性に乏しい
  • 寿命が短い

小型全固体電池は小型であるがゆえに、衝撃といった外部要因に弱いのがデメリットです。
また、何度も充放電をしていると劣化の影響で性能が落ちてしまいやすいため、寿命が短いポイントも課題だと考えられています。

充電への対応などは開発が進んでいますが、今まで何十年にもわたって課題を解決できずにいたことから、今でも「小型全固体電池は実用化できないだろう」という声が挙がるのです。

小型全固体電池についてまとめ

小型全固体電池の開発が、とうとう正念場を迎えました。
残り少ない課題を解決すれば、何十年も研究されてきた小型全固体電池がようやく世に出回ることとなるでしょう。

しかし、競合となる製造メーカーが多いなど、生産後の課題が残っています。
日本企業がうまく市場を勝ち取れるのか、今後の動向から目が離せません。

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