世界中でスマート工場化が進行する中、日本でも世界の先進的な工場「Lighthouse」の取得を目指し新技術の導入が進んでいるというニュースを見ました。ただし、現在の日本にはレガシーシステムに多くの課題があるようです。
この記事では、シュナイダーエレクトリックが発表した、製造業界全体の課題である2025年の崖、そしてレガシーシステムの課題についてまとめました。今後の動向も含めて解説しているので、移行が求められているレガシーシステムについて、再認識する参考にしてみてください。
レガシーシステムとは
レガシーシステムとは、過去の技術や仕組みによるシステムのことです。
「過去の遺物」という意味があり、現代の技術では必要性が薄くなっているシステム・デバイス・OSなどがあります。参考として、レガシーシステムに該当するものをまとめました。
レガシーシステムに該当するもの | 概要 |
メインフレーム(汎用機) | 基幹システム運用に用いる大型コンピュータ |
オフコン(オフィスコンピュータ) | 事務処理特化型の小型コンピュータ |
レガシーシステムは、現代の最新システムのような柔軟性・情報共有力に乏しく、製造業のスマート工場化など新技術の導入を阻む要素です。すでにレガシーシステムの生産終了等が相次いでおり、早急な新技術システムへの移行が求められています。
レガシーシステムの課題
「過去の遺物」となりつつあるレガシーシステムは、今後スマート工場化を目指すうえで重要な課題になるとニュースで紹介されていました。
参考として、レガシーシステムと深い関係のある製造業界の課題「2025年の崖」の重要ポイントを紹介します。
デジタル技術への移行を妨げる
レガシーシステムに依存し続けた会社の場合、アナログな技術に頼りすぎてしまい、次のようなデジタル技術への転換が難しくなると言われています。
- AI
- IoT
まずデータ収集・分析に基づく判断を実施するデータドリブンな動き方ができないことから、競合他社から技術面で差を付けられてしまいます。また、レガシーシステムへの依存のせいで従業員の属人化が進み、転換時に人材問題が起きる恐れもがあるのも事実です。
また、レガシーシステムを使った業務環境から変化することにより、一時的な業務停滞が発生する可能性もあります。従業員が最新の技術に慣れるまでに時間がかかるため、対策しなければ業務遂行の品質が低下するかもしれません。
最大12兆円の経済損失が生まれる
レガシーシステムから新技術へ移行する際、特に問題視されているのが、移行時に発生する経済損失です。国土交通省が公開しているDXレポートによると、2025〜2030年にかけて、1年間当たり最大12兆円の経済損失が生まれる可能性があると言われています。
レガシーシステムが安価で運用できた反面、新たなITシステムを導入する際には、維持管理費用が大幅に増大します。またセキュリティ対策やIT技術を担当する人材を確保できないなど、既存業務よりもアクシデントや損失が発生しやすくなるかもしれません。
レガシーシステムの運用を続けると、品質問題が起きるかもしれません。
ブラックボックスになりやすいレガシーシステムの問題を知りたい方は以下の記事をご参照ください。
スマート工場の実現に必要なシステム
レガシーシステムを運用している会社がスマート工場化を目指す際には、まずスマート工場にどのようなデータが必要なのかを考えなければなりません。
なぜなら、収集するデータがわからないままレガシーシステムからの脱却を目指しても、うまく制御できずに経営が悪化する可能性があるからです。
参考として、ニュースでも語られるスマート工場の実現に必要な4つのシステムを紹介します。
SCADA
SCADAとは、工場の稼働状況をリアルタイムで情報収集してくれるシステムです。
工場の稼働状況が今どうなっているのか、稼働時間がどれくらいなのかといった情報を、IoTの機器やセンサーから取得します。
現場全体の動きを見える化できるのはもちろん、工場内の人・設備・生産の流れを一元管理できるようになるのがメリットです。レガシーシステムでは、情報の見える化ができなかったため、SCADAの導入で生産効率がアップします。
MES
MESとは、以下に示す管理を実施し、供給管理に必要なデータを収集するシステムです。
- 人
- モノ
- 製造工程
例えば、人材配置計画やスケジュール管理、製品の品質管理といった機能が搭載されています。
受注後の生産の動きを取得し、無駄のない製造プロセスを確立できるのが特徴です。
レガシーシステムを運用した場合、すべて人力での分析、判断が求められるケースも多かったでしょう。一方、MESを導入することにより、データ収集・分析の手間が減り、品質向上や製造コスト削減を実現しやすくなります。
CMMS
CMMSとは、工場内設備の予兆を管理するシステムです。
主に設備の維持管理向けに利用されており、次のようなデータを取得できます。
- 内部部品の稼働回数
- 製造ラインの生産時間
例えば、日々稼働している設備がおかしな動きをしていないか、基準値通りの成果を出しているのかといった情報を調べられるのが特徴です。早期に問題の予兆を発見することにより、メンテナンスの効率化、修理コストの削減といった効果を期待できます。
レガシーシステムの場合、稼働状況など工場の表面的な動きしか取得できないことが多々ありました。一方CMMSは、IoTの技術と組み合わせることによって、生産性の向上を生み出せるのが魅力です。
QMS
QMSとは、工場に影響を及ぼすサイバー攻撃から身を守るセキュリティ対策向けのシステムです。まず、莫大なデータと技術が組み込まれた工場がサイバー攻撃を受けると、次のようなリスクが発生します。
- 製造ラインの停止
- 顧客からのクレーム
- 重要データの情報流出
レガシーシステムで工場を運用していた場合、独自で別途セキュリティ対策を実施しなければ、サイバー攻撃の被害をもろに受けるような状況でした。対してQMSがあれば、サイバー攻撃を自動で検知するほか、最新のセキュリティ対策情報を取得・対策できます。
もしレガシーシステムから脱却し、スマート工業化を目指しているのなら、EXPO等に参加してみるのがおすすめです。開催されているイベント情報を知りたい方は以下の記事をご参照ください。
スマート工場化をサポートする企業事例
レガシーシステムの運用を脱却し、スマート工場化を目指すのであれば、システムの導入が必要不可欠です。しかし、製品の種類が多くメーカー選びにお悩みの方も多いのではないでしょうか。
参考として、スマート工場化に役立つシステムを提供する企業事例を紹介します。
AVEVA
ニュースの中でおすすめだと紹介されていたのが、国内シェア最大手の会社である「AVEVA」です。世界180か国で12万以上の施設をサポートしている会社であり、スマート工場化に役立つSCADAのシステムを提供しています。
運用効率や生産性、設備効率を向上するために必要なデータを取得でき、従来のレガシーシステムによるアナログな管理方法から脱却できるのが強みです。
例えば、AVEVAを導入したインドネシア工場では、製造ラインのモニタリングのためにSCADAの製品を導入しました。情報が見える化したことにより、マシンのダウンタイム・業務効率が大幅に改善しています。
伊東商会
ニュースで紹介されていた企業以外にも、スマート工場化に役立つ製品を提供する会社が複数あります。中でも供給管理のデータ取得に役立つ「MES」を導入したいのなら伊藤商会が有名です。
伊藤商会の製品を導入した包装材料の製造工場では、当初レガシーシステムによる運営の影響で、生産パフォーマンスを分析できない、手動での機械操作を把握できないといったことに悩んでいました。
一方、MESの製品を導入した結果、リアルタイムで工場の稼働状況がわかるようになり、既存の働き方から20%生産性が向上しています。
レガシーシステムの解決策
レガシーシステムを導入している企業にとって、スマート工場化の道のりは長く、効率的な運用環境の整備が急がれています。その中でも、特に問題視しなければならないのが製造業における重要課題「2025年の崖」です。
今後、経済損失を出さずにレガシーシステムからスマート工場へと移行したい方向けに、ニュースの中で語られていた解決策を紹介します。
IT・OT人材の確保
まず重要なのが、スマート工場化を実現するためのIT・OT人材を確保することです。
IT人材がいなければ新技術の運用・保守ができないため、事前に人材確保に力を入れましょう。
また、IT人材を確保した後は、継続的な教育・学習が求められます。
DX関連のセミナーも豊富に開催されているため、気になるセミナーを探して参加してみてください。
導入システムの選定
レガシーシステムの課題を解決するシステムは複数ありますが、すべてをまとめて導入するのはおすすめできません。なぜなら、うまく運用できることが導入の前提条件だからです。
もしシステムを選べないのなら、SCADAに対象を絞るのが良いとニュースで語られています。
これまでに成果を挙げてきた企業が提供する新技術・システム等をチェックし、自社に最適なSCADAといった製品を導入することにより、必要最低限のコストでスマート工場化を実現しやすくなります。
レガシーシステムを導入している状況を抜け出すためにも、まずは自社の課題を抽出して、導入するシステムを検討してみてください。
レガシーシステム移行における今後の動向
来年にまで迫っている「2025年の崖」により、今後1年間に12兆円もの経済損失の損失が生まれる可能性があると言われています。また、レガシーシステムが相次いで提供を終了していることから、早期移行が求められている状況です。
そのような中、多くの企業は以下の3つの方法でレガシーシステムからの脱却を目指しています。
- モダナイゼーション(新技術への置き換え)
- マイグレーション(新環境への移行)
- レガシーフリー(新仕様への変更)
製造業の場合、特にモダナイゼーションが求められています。
2025年の崖をきっかけとして、この機会にレガシーシステムからの置き換えを検討してみてはいかがでしょうか。
レガシーシステムについてまとめ
世界の企業がスマート工場化を目指す一方で、まだレガシーシステムによる工場運営を実施する企業が数多くあります。しかし、レガシーシステムの提供終了が相次ぐ中、その状況を継続するのは得策ではありません。
もしレガシーシステムからスマート工場化への意向を検討しているのなら、新システムの導入が必要です。レガシーシステム導入時の課題を抽出し、複数あるうちのどういったシステムを導入すべきか検討してみてください。