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パワー半導体で電動車の電力効率を向上!SiC採用によって生まれる効果とは?

電動車の開発が進行する中、三菱電機が新たにSiC採用のパワー半導体モジュールの出荷をスタートしました。開発されたパワー半導体にはどのような効果が期待されているのでしょうか。

今回はパワー半導体モジュール開発のニュースをもとに、三菱電機の動向や期待される効果を深掘りします。今後、電動車がどのように変化するのか将来予測も解説しているので、自動車産業の動向を探る参考にしてみてください。

三菱電機が電動車向けのパワー半導体を開発

三菱電機がパワー半導体を開発

家電製品のほか産業機器、宇宙システム、社会インフラといった事業を展開する三菱電機が、電動車向けのパーツとして、最新式のパワー半導体「J3シリーズ」を開発し、サンプル出荷をスタートしました。

当製品は、自動車市場でよく採用されている「トランスファーモールド型パワー半導体モジュール」の次世代パーツとして開発されており、前世代の電動車よりも高い性能を生み出せると注目されています。

大きく変化したのが、パワー半導体に用いられている材料です。
シリコン製の逆導通型絶縁ゲート型バイポーラトランジスタや、熱抵抗を減すSiC(炭化ケイ素)素材を採用しています。ニュース内でも次のように自信のあるコメントが掲載されています。

「(自動車の)大電力化により、SiCの需要が高まるのは間違いない」

引用:ニュースイッチ「パワー半導体にSiC採用、三菱電機が電動車モーター向け強化で一手」

また、製造業の最新動向を追いたい人は、以下の記事をチェックしてみてください。
最新トレンドのチェック方法を詳しく解説しています。

【2024】製造業のトレンドは?今後の動向や対策をチェックしよう

パワー半導体とは

パワー半導体とは、電力変換・制御に用いる半導体のことです。
電動車に搭載されているパーツであり、次のような役割を担います

パワー半導体の役割 概要
電力・電圧変換 直流と交流を変換し、電圧や電流のON・OFFを高速で実施する
周波数変換 コンピュータ制御されているシステム変換を実施する

例えば、電動車に用いられているモーターを駆動させる際、らかな加速・減速になるように制御するのがパワー半導体の効果です。パワー半導体で制御しなければ、電動車が急発進・急停車し、運転手は不快な運転動作に悩まされます。

また、パワー半導体に注目がある待っているのは、現在世界で起きている深刻な電力不足です。
電力消費量を制御できるパワー半導体があれば、電動車の省エネ化が可能となります。
少ない電力で長距離を移動できるようになるため、電動車に欠かせないパーツだと言えます。

パワー半導体と半導体との違い

パワー半導体と、よく耳にする半導体の違いを表にまとめました。

パワー半導体 半導体
用途 電力の制御や変換に用いる 数値計算やデータの保持に用いる
取り扱う電力・電圧の規模 大小さまざま 省電力に対応
モジュールのサイズ 大小さまざま 小規模

パワー半導体と半導体は用途が異なります。
電動車といった大型の機会に用いられるパワー半導体に対し、半導体はPCなどの計算処理やデータ保持に用いるのが特徴です。

サイズ感、取り扱う電力・電圧の規模も異なるため、名前は似ていますがまったく異なるものだと覚えておきましょう。

SiCが採用されたパワー半導体の効果

パワー半導体に期待される効果

今回、三菱電機が開発したパワー半導体には、電動車の電力損失を軽減できるSiC(炭化ケイ素)が採用されています。SiCが採用されたことにより、パワー半導体にどのような効果が生まれるのでしょうか。

モジュールの小型化が可能になる

まず、パワー半導体にSiCを搭載することにより、駆動時の熱抵抗を従来製品の30%もカットできます。また、熱抵抗に強くなったことで、パワー半導体モジュールのサイズを60%も小型化できるのがSiCの魅力です。

高電力・高電圧に対応するパワー半導体モジュールは、規模に合わせて大型化していましたが、SiCを搭載することにより、小規模なモジュールで高電力・高電圧に対応できるようになりました。

また小型化したことによって、スイッチ切り替えに時間のかかっていたインダクタンスの抵抗を30%削減できたのも魅力的な点です。前世代よりもスイッチングが早くなったことにより、スムーズな電力・電圧変換を実現できます。

走行距離を最大10%向上できる

モジュールの小型化により、電動車にSiCパワー半導体モジュールを最大6個搭載できるようになりました。

まずモジュールの数を増やすことによって、前世代の電動車よりも駆動時の電力損失を減らせます。また、品質を下げずに複数個のモジュールを搭載できるため、結果として、小規模電力で長距離を移動できるようになりました。

三菱電機の発表によると、同じ電力で最大10%の走行距離を伸ばせるようになっています。

SiCパワー半導体の工場建設がスタート

今回、三菱電機がSiCパワー半導体モジュールを開発したこと、そしてパワー半導体の需要が低下しないことを見越し、熊本市菊池市にSiCパワー半導体専用の新工場棟を建設すると発表がありました。

三菱電機は今後、半導体を含むパワーデバイス事業に対し、2,600億円以上の設備投資を実施する予定です。IoTの技術や自動化の仕組みを兼ね備えた向上になるとして、製造業のDXにも大きな光線を見せていくと期待されています。

三菱電機における今後の動向

SiCパワー半導体モジュールの開発・出荷を実現した三菱電機は、今後の予定として次のようなコメントを残しています。

「高い成長が見込める自動車分野を強化していく。(SiC基板を供給する)米コヒレントの事業などへの出資も含め、今後のSiC事業の拡大を積極的に進める」

引用:ニュースイッチ「パワー半導体にSiC採用、三菱電機が電動車モーター向け強化で一手」

三菱電機は1997年頃からパワー半導体の量産をスタートしており、電動車への搭載実績が豊富にある半導体分野のパイオニアです。国内での市場拡大を完了したら、電動車の生産に力を入れるアメリカなどにも事業を拡大していく予定だと説明されています。

また、三菱電機が実施する取り組みの中にはDX・AIサービスなども含まれています。
もし自社でもDX・AIの取り組みをスタートしたいなら、オンラインセミナーに参加して人材育成を始めるのがおすすめです。

パワー半導体がもつ現状課題

パワー半導体がもつ現状課題

電動車の長距離駆動、省エネ化を実現できるパワー半導体ですが、複数の課題を抱えています。パワー半導体の魅力の裏側を知る参考として、主な課題を整理しました。

加工時にチップが欠けやすい

SiCパワー半導体は高性能である一方、加工時の熱応力に弱く、生産時に疲労破壊が起きやすいことが課題として挙げられています。こちらの課題は三菱電機の工場が抱える課題になりますが、生産ロスが多ければ多いほど、1製品あたりの単価が高くなることに気を付けなければなりません。

現在、疲労破壊の解決策として、熱を逃がしながら加工できるボンディング素材の活用が検討されています。安定生産が実現するまでは、提供価格が落ちにくいことに注意する必要があります。

従来のパワー半導体よりも寿命が短くなりやすい

SiCパワー半導体は、加工時のチップ破損を避けるために、水冷による冷却が行われています。
しかし、パワー半導体に搭載されているチップやワイヤ、基盤がそれぞれ熱膨脹のスピードが異なるため、冷却を続けるたびに劣化が進みやすくなるのが課題です。

また、熱に弱くデリケートなパーツであるため、万全な防熱処理を実施しなければなりません。熱を遮断する封止材も利用されていますが、駆動時の応力で剥離したりと、まだまだ短寿命化を防止する策が具体化していないのがネックになります。

製造業の課題について詳しく知りたい方は、ものづくり白書の情報をチェックすることも重要です。GX・DXの取り組みが気になる方は以下の記事をご参照ください。

ものづくり白書とは?生産・製造業界に求められるGX・DX

パワー半導体の普及に伴う将来予想

パワー半導体の将来予想

三菱電機が開発したSiCパワー半導体の出荷がスタートしたことに伴い、今後パワー半導体の市場では複数の良い変化が生まれていくと予想できます。

参考として、今後起こるであろう変化を3つまとめました。

電動車の小型化が可能になる

SiCパワー半導体が従来製品よりも60%小型化できることにより、今後電動車の小型化を実現しやすくなると予想されます。

高電力・高電圧の処理を小型のモジュールで対応できるため、社内スペースに余裕を持たせた設計にしやすくなるでしょう。またパワー半導体を小型化した分、他のパーツに余裕を持たせることも可能です。

小型化により電動車の設計に柔軟性を持たせやすくなることから、デザインやサイズのバリエーションが増えていくと予想できます。

省エネ電動車の開発が進行する

前世代のパワー半導体よりも性能が向上したことにより、今後次のポイントで省エネ効果が生まれると予想できます。

  • 少ない電力で長距離移動できるため、カーボンニュートラルを実現しやすくなる
  • 充電回数を減らすことによって電動車が劣化しにくくなる
  • 充電の回数を減らせるため搭乗者の負担を減らせる
  • 充電費用を節約でき、生活負担を減らせる

電動車自体の劣化を減らせるほか、搭乗者の体力的・金銭的な負担を減らしやすくなるのが魅力です。SiCパワー半導体による長距離移動がさらに発展すれば、電動車を所有するトータルコストを抑えやすくなるでしょう。

電動車の低価格化が実現する

パワー半導体の小型化を実現できれば、その分だけ生産費用を抑えやすくなるはずです。
また、電動車台当たりの費用を抑えられるため、エンドユーザーとなる消費者に提供する価格を抑えやすくなるでしょう。

企業は安く電動車を生産でき、消費者も安く電動車を入手できます。
電力消費量を抑えられることも含め、電動車所有に関する広い部分で費用コストを抑えられるようになるでしょう。

パワー半導体についてまとめ

三菱電機が開発したSiC採用のパワー半導体は、従来のパワー半導体を凌駕する品質・性能を持つ魅力的なパーツです。

また、現在でもパワー半導体の改良が進んでいます。
今後さらなる小型化、高効率化を目指せる希望もあるため、価格低下など、消費者がより安く電動車を手に入れやすくなる日が近づいているのかもしれません。

パワー半導体のアイキャッチ
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