近年、研究・開発機関において、ラボラトリーオートメーションの市場拡大が著しく進んでいます。具体的に、どのような変化が起きているのでしょうか。
今回は、ラボラトリーオートメーションの市場拡大のニュースを深掘りし、実現できる技術や業界の変化について解説します。ラボラトリーオートメーションにより解決できる問題も説明しているので、ロボット・AI技術の最新動向をチェックしてみてください。
ラボラトリーオートメーション(研究自動化)とは?
ラボラトリーオートメーションとは、従来、人間の手で実施されていた研究開発を、ロボット・AI技術に任せる取り組みのことです。日本語訳で「研究自動化」と言い、研究の効率化を目指して導入が進んでいます。
莫大なデータを収集・分析できるAI技術を使って人間では気がつけない細かな情報を処理できるのが特徴です。また、ロボットを活用して研究を実施することにより、人力によるミスを防止しやすくなります。
ラボラトリーオートメーションを実現できれば、トライアンドエラーが必要な研究作業の生産性を向上できると期待されています。すでに豊富な製品が登場しているため、研究市場において著しい変化が起きつつある状況です。
また製造業界では製造業のファクトリーオートメーションが進んでいます。
最新の動向を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
ラボラトリーオートメーションの導入機器とは?
研究業界では、すでにラボラトリーオートメーション化が進みつつあります。
参考として、現在導入されているラボラトリーオートメーションの周辺機器をまとめました。
アームロボット
ラボラトリーオートメーションに欠かせないのが、人間の手の代わりに作業を実施するアームロボットです。アームロボットがあれば、次の作業を実現できます。
- 人間の手によるミスを防止できる
- 滅菌した状態で研究を実施できる
またアームロボットの動きを設定すれば、液体の調合時間や攪拌回数などを細かく設定できるのが魅力です。トライアンドエラーに役立つ設定を自由に調整できるため、より正確な研究が可能となります。
加圧プロセッサー
液体の調合・攪拌の品質を高められる加圧プロセッサーも、ラボラトリーオートメーションにとって重要な機器です。
専用の機器内で液体を移動させることにより、液体全体が均一に混ざり合った状態で抽出されます。「部分的に濃度が違う」「キレイに混ざり切らずに沈殿した」といったミスを防止できることから、研究品質を上げたい施設のラボラトリーオートメーションで導入が進んでいます。
自動化システム・ソフトウェア
AI技術を用いたラボラトリーオートメーション機器として注目されているのが、取得したデータを分析・解析できる自動化システム・ソフトウェアです。
何万通りものパターンを短時間で分析できるため、人間による繰り返しの試験の手間を削減できます。また、人間の動きと連動して分析・解析を設定できるシステム等も登場しています。
検体ごとの解析の手間を減らせるほか、検体の保管時間を短くし、品質を落とさないまま研究を繰り返せるのが自動化システム・ソフトウェアの魅力です。
ラボラトリーオートメーションの標準規格LADSが策定
研究・開発を含め、産業用標準規格には「OPC UA」という規格が策定・運用されています。
そして、ラボラトリーオートメーションの普及に伴い、新たな標準規格LADSが策定されました。
LADSは研究室で取得したデータを製造部門で使い、製造部門のデータを研究に反映するために定められた企画です。一連の流れを自動化し研究を加速するために策定され、OPC UA規格の上で機能しています。
今後、ラボラトリーオートメーションの機器を提供するメーカーは、LADS対応の製品を開発中です。また、既存の機器については通信を仲介するゲートウェイ端末を用いてLADS規格に対応させる見通しとなっています。
測定データ用に共有データフォーマットMaiMLを開発
ラボラトリーオートメーションのデータ規格については、経済産業省が主軸となり、共有データフォーマット「MaiML」を開発しました。
MaiMLを活用すれば、測定したデータがクラウド上のデータベースに収集され、同じくクラウド上にあるソフトウェアを通じ、自動でデータを解析できるのが特徴です。
現在は、まだラボラトリーオートメーションのルール・仕組みが定まっていない部分もあります。対して今後は、機器間接続や測定データ、自動化といった各種階層が標準化していく見通しです。
ロボット用ミドルウェアORiNを開発
ラボラトリーオートメーションで用いるアームロボットといった機器に関しては、日本ロボット工業会が主体となり、研究機器同士をつなぐミドルウェア「ORiN」を開発しました。ORiNを導入することにより、次のメリットがあります。
導入するメリット | 解決できるポイント |
経営課題の解決 | ORiNを経由することにより、メーカー・機種を問わず接続が可能となる |
研究・開発工数の削減 | 古い機器からの交換が不要であり、機器ごとのモジュール開発の手間が不要になる |
新たな産業の創出 | 研究・開発の枠を超え、農業・工場・医療分野にも活用できる |
ORiNは今回紹介するラボラトリーオートメーション以外にも、多分野で役立つミドルウェアです。既存の構成を崩すことなく導入ができるため、研究予算を圧迫せずにラボラトリーオートメーションが可能となります。
もしAI技術を活用したロボット・システム開発に興味があるのなら、以下のサポートを活用してみてください。プロジェクトのプランニングから支援を受けられます。
ラボラトリーオートメーションの世界市場が9,700億円に
海外の調査会社「Mordor Intelligent」によると、ラボラトリーオートメーションの世界市場が9,700億円に到達したと発表がありました。今後も市場規模が拡大し、数年後には1兆3,400億円まで上昇していくと予想されています。
また、年平均成長率が6%と大きく、今後も成長が止まらないものだと投資家から注目されているのが特徴です。第4次産業革命であるIoT・AI・DXといった要素と同じく、研究業界の新たな動きに世界的な注目が集まっています。
第4次産業革命について興味がある方は、以下の記事をチェックしてみてください。
インダストリー4.0の最新情報を紹介しています。
ラボラトリーオートメーションの最新事例
ラボラトリーオートメーションの市場拡大に合わせ、国内企業・メーカーも市場参入をスタートしています。参考として、ラボラトリーオートメーション関連機器を製造する企業・メーカーの最新事例をまとめました。
デンソーウェーブが卓上協働ロボットを開発
産業用ロボットの開発・製造を展開しているデンソーウェーブが、ラボラトリーオートメーションの卓上協働ロボット「COBOTTA」を開発しました。
COBOTTAは、粉体秤量や混合撹拌といった機能が搭載されたモジュールです。
複数のモジュールを組み合わせることにより、一連の実験工程を自動化できます。
またCOBOTTAにはハンドカメラが付き画像認識機能などを搭載できるのが特徴です。
汎用性の高い研究開発に活用できることから、ニュースの中でも次のような発言がありました。
実験装置のボタンを押したり、試料を見て向きを判断したりといった人がしてきた動作を担える
今後、市場競争が加速することにより、改良がくわえられ、導入コストを抑えやすくなると予想されています。
中国・シンセン・ユージェン・テクノロジーがDOBOTを開発
中国にある教育用ロボットを開発・販売する「中国・シンセン・ユージェン・テクノロジー」は、前述したCOBOTTAの市場価値を見て、新たに安価な研究ロボットの提供としてDOBOTを開発しました。
DOBOTは、搭載されたアームだけを比べると、COBOTTAの数分の一の価格になると説明されています。ただし、DOBOTは周辺機器との連携の面でまだまだ課題が多く、COBOTTAのような汎用性のある対応が難しいという評価に落ち着いている状況です。
ラボラトリーオートメーションにおける現状課題
ラボラトリーオートメーションは徐々に拡大している魅力的な取り組みですが、現在システムインテグレーターが不足していると問題視されています。
現在は、企画・構築・運用業務を一括で請け負うシステムインテグレーターではなく、一部の業務だけを請け負う限定的なラボラトリーオートメーションにとどまっている状況です。
研究業界の近代化が遅れ気味であることから、製造業を対象としたファクトリーオートメーションの進展と比べると、ラボラトリーオートメーションはまだまだ始まったばかりであり、課題の多い取り組みだと考えられています。
システムインテグレーターに求められる能力
ラボラトリーオートメーションでは現在、分析機器のメーカーのみが動き始めている取り組みであるため、今後ベンチャー企業といった新たなシステムインテグレーターが求められています。
特に必要とされているのが、メーカーとエンドユーザーをつなぐ橋渡し的な存在です。
ラボラトリーオートメーションや機器の知識・ノウハウをもちつつ、マーケティングに優れる企業が増えれば、国内市場が大幅に拡大していると予想されています。
ラボラトリーオートメーションについてまとめ
近年、研究業界の自動化として、ラボラトリーオートメーションの市場が拡大し、9,700億円もの市場価値が生まれています。
日本は研究開発に強い国であるため、ラボラトリーオートメーションの普及により、さらなる発展をとげると予想されます。リアルタイムで成長し続けているため、手間のかかる研究作業を自動化できる技術の発展から、今後も目が離せません。