キャディ社が2024年8月に実施した製造業のセキュリティに関する実態調査の結果、9割以上の企業がサプライチェーン全体のセキュリティが重要であると回答しました。また、取引先や協力会社へのセキュリティ対応については、約8割の企業が自社と同等以上のレベルを求めていることが分かりました。
この結果は、製造業においてサプライチェーン全体のセキュリティ意識がますます高まっていることを示唆しています。今回は、製造業のセキュリティリスクやおさえるべき5つの対策方法、セキュリティ対策のポイントを解説します。
製造業のセキュリティリスクの現状
サイバー攻撃による製造業への脅威は深刻さを増しており、工場が停止に追い込まれる事例が後を絶ちません。特に近年では、ランサムウェアによるデータの暗号化やシステムのロック、サプライチェーンリスクによるサプライヤー経由での攻撃が顕著です。
これらの攻撃は、製造業のセキュリティに深刻な影響を与え、生産の停止、品質の低下、ブランドイメージの損失など、多岐にわたる損害をもたらします。
以下で詳しく解説します。
ランサムウェア
ランサムウェアとは、コンピューターに侵入し、データを暗号化したり、システムをロックしたりする悪意のあるソフトウェアの一種です。被害に遭うと、データを復元するために高額な身代金を支払うことを要求されます。
製造業の場合、生産設備や制御システムにランサムウェアが感染すると、生産ラインが停止し、多くの経済的な損失が発生します。2021年にはアメリカの燃料パイプライン会社がランサムウェア攻撃を受け、大規模な供給停止に追い込まれるという事態が発生しました。
このような事例からもわかるように、ランサムウェアによる攻撃は、企業の存続を危うくするほどの深刻な事態を引き起こす可能性があります。
サプライチェーンリスク
従来、サイバー攻撃は、大手企業のような主要な目標を直接狙うケースが多く見られてきましたが、近年では、セキュリティ体制が比較的弱い下請け企業やベンダーや国内外のグループ企業などが狙われており、そこから最終的な標的である大企業へと攻撃が波及するケースが増加しています。
このタイプの攻撃では、まず、下請け企業などにメールやリモートアクセス経路を通じて侵入し、そこから最終目標となる企業の機密情報を盗み出したり、保守用回線などを利用して直接侵入し、システムにダメージを与えるといった手法が一般的です。
さらに、大企業自体が直接攻撃を受けるわけではなくても、サプライチェーン上の取引先がサイバー攻撃を受け、稼働が停止してしまうことで部品供給が滞り、最終的な製品の生産に大きな影響が出るケースも少なくありません。2022年には、国内の大手自動車メーカーがサプライヤーへのサイバー攻撃を受け、複数の工場の稼働を停止せざるを得ない事態となり、生産に大きな影響が出たという事例もあります。
サプライチェーンについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
製造業のセキュリティリスク
DXを推進する製造業においては、サイバーセキュリティのリスクが深刻化しています。以下では、代表的な4つのリスクについて解説します。
データの漏えい
製造業では、製品設計図や生産ノウハウなどの技術情報、顧客の個人情報、サプライチェーンに関する機密情報など、多くの機密情報を扱います。クラウドサービスを利用する際、これらの情報が不正アクセスにより漏洩すると、競合企業への技術流出や顧客からの信頼喪失、ブランドイメージの低下などの深刻な事態を招くだけでなく、個人情報保護法違反による法的処罰を受ける可能性もあります。
また、データの漏洩が発覚した場合、調査や対応に多大な時間と費用を要し、企業の業務に大きな影響を与えることも考えられるのです。
データの消失
製造業において、クラウドに保存した設計図や生産データが誤操作や災害によって失われるリスクは常に存在します。これらのデータは、製品開発や生産計画に不可欠であり、消失すると納期遅延や品質低下といった深刻な問題に繋がる可能性があります。
多くのクラウドサービスはバックアップ機能を提供していますが、万が一に備え、企業側でも迅速なデータ復元策を講じておくことが重要です。
不正アクセスによる情報改ざん
マルウェア感染や管理体制の不備により、IDやパスワードが漏洩すると個人情報が流出したり、アカウントが不正に使用されたりして、不正アクセスが発生する可能性があります。
不正アクセスが起こると、企業の機密情報が改ざんされるリスクが高まります。特に製造業では、改ざんが設備・機器・システムの誤動作や不具合を誘発し、生産ラインの停止に繋がる恐れがあります。
生産ラインが停止すると、取引先や顧客への製品供給が遅延し、サプライチェーン全体に悪影響を及ぼす可能性も考えられるのです。
サイバー攻撃
サイバー攻撃は製造業にとって無視できない脅威となっています。特に、サーバーダウンやブルートフォースアタックによる不正アクセス、ランサムウェアによるシステムの停止などは、工場の稼働を停止させ生産活動を麻痺させる可能性があります。
製造業で設備や機器が停止することは、顧客への製品供給が滞り、取引関係の悪化や損失に直結します。また、生産ラインの停止は、企業の評判を大きく損なうだけでなく、競争力低下にもつながる恐れがあるのです。
製造業のセキュリティにおける5つの対策方法
製造業におけるセキュリティリスクから自社を守るために、どのような対策を実施すれば良いのでしょうか。以下で具体的な対策を5つご紹介します。
①ガイドラインを策定する
初めに、自社が抱えるサイバー攻撃のリスクを具体的に洗い出し、そのリスクに対応するためのセキュリティガイドラインを作成します。経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」などを参考に、全社的な対策体制を構築し、効果的なセキュリティ対策を推進しましょう。
②セキュリティソフトやサービスを導入する
セキュリティソフトやサービスを導入し、OSやアプリケーションを最新の状態に保つことは、サイバー攻撃に対する基本的な防御策です。しかし、サイバー攻撃は日々巧妙化しており、これらの対策だけでは完全な防御は難しいのが現状です。
そこで、侵入検知・対応システムのような高度な監視ツールが重要になってきます。高度な監視ツールは、ネットワークを24時間監視し、異常な動きを早期に検知し、ウイルス感染や不正アクセスを未然に防ぎ、被害拡大を防ぐことができるでしょう。
③経営層や関係部署の了解を得る
セキュリティ対策の強化には、経営層や関係部署の理解を得ることが重要です。そのためには、具体的な対策と得られる効果を明確にすることが重要です。
まず、自社が抱えるセキュリティリスクを洗い出し、必要な対策を具体的にリストアップしましょう。対策にかかる費用と比較して、事故による損失がいかに大きいかを可視化することで、経営層への説得力を高めることができるでしょう。
④IT人材を確保する
製造業のセキュリティ対策を成功させるためには、セキュリティシステムの構築だけでなく、運用・保守までを一貫して担える人材が不可欠です。理想的な人材は、セキュリティに関する専門知識と工場の生産設備・システムに対する深い理解を併せ持っていることです。
しかし、ITの人材不足が深刻化する昨今、即戦力となる人材の確保は容易ではありません。そのため、長期的な視点で人材育成や採用戦略を立て、組織全体のセキュリティ意識を高めることが重要です。
製造業の求人票の出し方については以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
⑤従業員のITリテラシーの向上させる
従業員のITリテラシーの向上は、製造業のセキュリティ対策において重要です。万全のセキュリティソフトやサービスを導入していても、従業員の操作ミスが原因で情報漏えいやサイバー攻撃に繋がる可能性は常に存在します。
そのため、定期的な研修や注意喚起を通し、全従業員がセキュリティ意識を持ち、安全な情報取り扱いを習慣化することが不可欠です。一人ひとりがセキュリティの重要性を理解し、日々の業務の中で注意を払うことで、より強固なセキュリティ体制を築くことができるでしょう。
製造業のセキュリティ教育には人材育成サービスがおすすめ
自社の従業員のセキュリティ意識向上やITリテラシーの向上を高めるためには、製造業のセキュリティに関する専門知識を習得できる人材育成サービスの導入がおすすめです。人材育成サービスでは、最新の脅威や対策方法、具体的な事例などを学ぶことができ、従業員一人ひとりが自覚を持ってセキュリティ対策に取り組むことができるようになります。
以下でおすすめの人材育成サービスをご紹介します。
CAD・CAM・CAE人材育成サービス
CROSS TECHのCAD・CAM・CAE人材育成サービスは、ソフトウェアの使い方を教えるだけでなく、企業の課題解決に繋がるような実践的な教育を提供しています。CAD・CAM・CAE人材育成サービスでは、企業のニーズに合わせて、教育内容をカスタマイズできるのが特徴です。
例えば、実践的な演習や現場で直面する課題を解決するためのノウハウも学ぶことができます。そのため、自社の課題を客観的に見直し、より効果的なセキュリティ対策を検討することができます。セミナー受講は、従業員のモチベーション向上にも繋がり、組織全体のセキュリティレベル向上に貢献します。
ぜひ、セミナーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
製造業のセキュリティ対策のポイント
製造業は規模や業種を問わず、サイバー攻撃の脅威に常に晒されているため、万全なセキュリティ対策が不可欠です。以下では、経済産業省が策定した「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」を基に、製造業におけるセキュリティ対策の重要ポイントを解説します。
参考:工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン|経済産業省
守るべき資産を整理する
まず、システム全体の把握をするため、ネットワークや各種機器、重要なデータなどシステムを構成する様々な要素を詳細に洗い出し、関係性を明確にする必要があります。
特に、OT(Operational Technology)環境は、様々な種類の機器が複雑に連携しており、どの機器がどのネットワークに接続されているのかを正確に把握することが不可欠です。システムの全体像が把握できたら、次に、保護の優先順位付けを行います。
全ての資産を同等に扱うのではなく、事業継続に不可欠なデータや、外部からの不正アクセスによって大きな影響を受ける可能性のある機器など、保護の優先度が高い資産を明確にしましょう。優先順位に基づき、それぞれに考えられるセキュリティリスクを洗い出します。これらのリスクに対して、どのような対策を講じるべきか、具体的な対策案を検討していくことが重要です。
セキュリティ対策を立案する
企業の大切な資産を守るためには、万全なセキュリティ対策が不可欠です。具体的な対策としては、以下のことが挙げられます。
具体的な対策 | 内容 |
ネットワークをしっかり守る | 侵入を防ぐ壁を築き、パスワードを厳重に管理する・最新のセキュリティ対策を常に実施する |
機器を安全に利用する | ウイルスから守り、USBメモリなどの持ち込みには注意する・データのバックアップをこまめに行う |
サービスを選ぶ際は注意する | 利用規約をしっかり読み、セキュリティ機能が充実しているかを確認する |
これらの対策を組み合わせることで、強固なセキュリティ体制を構築することができるでしょう。
対策を実行しPDCAを回す
セキュリティ対策をPDCAサイクルで運用し、定期的な見直しと改善を実施します。PDCAサイクルとは、「計画」「実行」「評価」「改善」という以下の4ステップを繰り返すことで、業務を継続的に改善していく手法です。
PLAN(計画) | 目標を設定し、達成するための具体的な行動計画を立てる |
DO(実行) | 立てた計画に基づいて行動に移す |
CHECK(評価) | 実行結果を目標と照らし合わせ、達成度を評価する |
ACTION(改善) | 評価結果に基づき次の計画に繋げるための改善を行う |
上記のサイクルを回すことで、組織や個人のパフォーマンスを向上させることができます。侵入検知システムなどによる監視体制を強化し、異常発生時には迅速な対応ができるよう、担当者と手順を明確化しましょう。また、外部のセキュリティ専門家と連携し、高度な脅威への対応力を強化することが大切です。
製造業のセキュリティ対策は見直して強化することが重要
今回は、製造業のセキュリティリスクやおさえるべき5つの対策方法、セキュリティ対策のポイントを解説しました。製造業は、生産ラインの停止や機密情報の漏洩など、甚大な被害をもたらすサイバー攻撃に常に晒されています。
特にマルウェアによる侵入は、工場の操業を停止させ、莫大な経済損失を引き起こす可能性があります。製造業者は規模の大小に関わらず、自社のセキュリティ対策を今一度見直し、強化することが喫緊の課題です。
サイバー攻撃は他人事ではないため、万全の対策を講じて、安全な生産環境を構築しましょう。