伊藤忠商事は、2013年にフレックスタイム制を廃止し、社員の生活リズムが整い、睡眠時間の確保や通勤時間の短縮に繋がったようです。
しかし、子育てや介護といった事情で、朝型勤務が難しい社員にとっては、働きづらさを感じることがあり、業務内容によっては、フレックスタイム制の方が効率的な場合もあるようです。
製造業においては、フレックスタイム制の導入は容易ではなく、製造ラインの稼働時間やチームワークが求められる業務など、フレックスタイム制になじまない要素も多くあります。
しかし、近年では、製造業においてもフレックスタイム制を導入する企業が増えており、人手不足や働き手の多様化といった社会的な変化があるようです。
今回は、製造業におけるフレックスタイム制の成功事例を解説します。また、得られるメリットや導入する際の注意点についても合わせてご紹介します。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、従業員が自身の勤務時間を柔軟に選択できる制度です。従来の固定時間制とは異なり、従業員は1日の所定労働時間を遵守しつつ、始業・終業時刻を自由に決めることができます。
フレックスタイム制では、一般的に以下の2つの時間帯が設定されます。
コアタイム | 従業員が必ず勤務していなければならない時間帯 |
フレキシブルタイム | 従業員が出勤・退勤時間を自由に決めることができる時間帯 |
コアタイムは、部署間の連携や会議など、チームとしての業務遂行に必要な時間を確保するために設定され、フレキシブルタイムは自身のライフスタイルや業務の状況に合わせた時間帯に勤務することができます。
企業によっては、コアタイムが設定されていない場合もあり、従業員は完全に自由な時間帯に出退勤することができます。
製造業の現場では、多様な働き方へのニーズが高まっており、その解決策の一つとして、フレックスタイム制の導入が注目されているのです。
フレックスタイム制に適した業種
フレックスタイム制は、多くの業種で導入可能な働き方改革の選択肢の一つですが、業務の性質によって適性が異なります。
例えば、IT・ソフトウェア開発は、個人の裁量で仕事を進めやすく、成果物で評価でき、フレックスタイム制との相性が良い一方で、製造業における生産ラインは、繁忙時間帯に多くの従業員を配置する必要があるため、フレックスタイム制は不向きでしょう。
フレックスタイム制に適している | フレックスタイム制に適していない |
デザイン・クリエイティブ | 小売業(店舗販売) |
製造業(生産ライン以外の部門) | 製造業(生産ライン) |
経理・財務 | 医療・介護 |
コンサルティング | 消防、救急などの緊急サービス |
ただし、同じ業種でも、職種や役割によってフレックスタイム制の適性は異なります。例えば、小売業でもバックオフィス業務はフレックスタイム制を導入しやすい場合や製造業でも研究開発部門はフレックスタイム制に適しているでしょう。
フレックスタイム制で得られるメリット
柔軟な働き方を求める従業員が増加する現代において、企業が生き残るためには、時代の変化に対応する必要があります。
以下では、製造業におけるフレックスタイム制導入から得られる様々なメリットについて解説します。
ワークライフバランスがとりやすい
従業員は、自身のライフスタイルや都合に合わせて勤務時間を調整できるため、仕事とプライベートの両立がしやすくなります。
例えば、平日の午前中に病院に行く必要がある場合、遅めの出勤や早めの退勤を選択できたり、子どもの送り迎えや学校行事などに合わせて、勤務時間を調整できたりします。
多くの場合で、1ヶ月などの清算期間が設けられており、この期間内であれば、労働時間を柔軟に調整できるため、繁忙期には長めに働き、閑散期には短めに働くといったメリハリのついた働き方が可能です。
個々の事情に合わせて働き方を選択できるため、ストレス軽減や満足度向上に繋がるため、従業員の自由度を高め、働きがいを向上させる効果もあります。
質の良い仕事ができる
自身の生産性が高い時間帯に集中して業務に取り組むことで、より効率的にタスクをこなすことができます。
また、仕事とプライベートのバランスが取れることで、心身ともにゆとりが生まれ、仕事へのモチベーションも高まります。仕事の質が向上すれば、こなせる業務量も増えます。
フレックスタイム制を活用して効率的に業務をこなし、成果を上げることで、社内からの評価も高まるでしょう。
残業の削減に繋がる
従来の固定時間制では、繁忙期には残業が発生しやすく、閑散期には仕事がなくても退勤時刻まで働くといった、時間の配分に無駄が生じることがあります。
一方、フレックスタイム制では、清算期間内で総労働時間を従業員が自由に割り振ることができるため、仕事の少ない日は早めに退勤し、繁忙期にその分多く働くといった柔軟な働き方が可能になります。
従業員が自身のペースで働けるため、無駄な残業が減り、残業代の削減に繋がるのです。
人件費が削減できる
フレックスタイム制の導入は、従業員と企業双方に多くのメリットをもたらしますが、経営側の視点からは人件費の削減という大きなメリットも挙げられます。
従業員が最も仕事に集中しやすい時間帯を選択することで、生産性が向上し、無駄な残業だけではなく、休日出勤も減る可能性があるでしょう。
人件費は会社に関する経費の多くを占めており、コスト削減を試みている企業は少なくありません。フレックスタイム制度を導入することで、仕事の質の向上はもちろん、人件費も削減できるため、経営的目線から見てもメリットのある制度と言えるのです。
コスト削減に繋がるSCM戦略については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
多様な人材が確保できる
柔軟な働き方を求める求職者にとって、フレックスタイム制は魅力的な制度であり、優秀な人材の確保・定着にも繋がります。
特に、製造業においては、若手人材の獲得や定着が課題となっている企業も多く、フレックスタイム制は有効な手段となりえます。
また、従業員の働きやすさを重視する企業姿勢は、社会的な評価を高め、企業イメージ向上に繋がるでしょう。
製造業において優秀な人材を確保するコツについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
ライフスタイルが変化しても働きやすい
製造業の現場では、育児や結婚などライフスタイルの変化に合わせて働き方を見直す従業員が増えています。
特に近年は、性別に関わらず子育てに参加する文化が浸透しつつありますが、「仕事が忙しくて育児ができない」「時間が思うように作れない」といった理由で転職を考える方も少なくありません。
このような状況において、フレックスタイム制の導入は、従業員がライフスタイルに合わせて柔軟に働ける環境を提供し、仕事と育児の両立を支援する有効な手段となるでしょう。
製造業におけるフレックスタイム制の成功事例
実際に製造業でフレックスタイム制を導入し、成功を収めている企業の事例をご紹介します。これらの成功事例から、製造業におけるフレックスタイム制導入のヒントを学び、自社に最適な制度設計の参考にしてください。
株式会社昭栄精機
株式会社昭栄精機では、職場改善アンケートの結果を受け、従業員からフレックスタイム制度及びそれに近い制度の利用を希望する声が半数を超えたことをきっかけに、フレックスタイム制の導入に向けた検討を開始しました。
年間休日を107日から120日へ増加させつつ、制度設計にあたっては、システムを一手に担う会社や社労士などの協力を得て、「法律的観点」と「システム的観点」の両面から実現可能なフレックスタイム制度の模索を行いました。
制度の利用者は、届出手続き等の関係ですぐには増えませんでしたが、徐々に利用者が増えているようです。
利用者は、体調不良や通院の際に利用したり、「今日は集中してまとめて業務を行いたい!」という時に活用するなど、仕事とプライベートの両立支援を理由に制度を利用しつつ、結果的に業務効率も向上しています。
ブラザー工業株式会社
ブラザー工業株式会社では、20時以降の残業を届け出制にすることで、長時間労働の削減に成功しました。
以前はフレックスタイム制を導入していましたが、それが裏目に出て深夜までの残業が常態化し、育児との両立が難しいという女性社員の声が上がっていました。
そこで、コアタイムを朝9時半から14時までに前倒しし、20時以降の残業を届け出制に変更したことで、22時以降の深夜就業は95%減少し、サービス残業を見逃さないシステムも導入することで、徹底的に深夜残業を減らすことに成功したのです。
YKK株式会社
YKK株式会社は、2020年度にはすでにフレックス勤務制度を積極的に推進し、利用人数を増やしました。
フレックスタイム制以外にも、性別に関わらず育児休業制度を取得できるような制度設計や、テレワーク、時短勤務などの多様な働き方を許容する制度を導入しています。
これらの取り組みは、経済産業省が主催する「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出されるなど、外部からも高い評価を受けています。
YKK株式会社の事例は、製造業においても、従業員の多様な働き方を支援し、働きがいのある職場環境を構築することが可能であることを示しています。
製造業がフレックスタイム制を導入する際の注意点
製造業がフレックスタイム制を導入するには、いくつかの注意点があります。以下で詳しく解説します。
フレックスタイム制を正しく理解してもらう
フレックスタイム制は、従業員の自主性を尊重する制度ですが、適切な労働時間管理は欠かせません。
従業員が安心して働くためには、労働時間や休憩時間、時間外労働の計算方法などについて、明確なルールを定める必要があります。
また、フレックスタイム制における中抜け時間の取り扱いについても、事前に労使間で合意しておくことが重要です。
遅刻や早退などの管理が困難になる
フレックスタイム制では、従業員ごとに始業・終業時刻が異なるため、従来の画一的な時間管理が困難になります。
遅刻や早退の概念が曖昧になるほか、従業員が実際に働いた時間や時間帯を正確に把握する必要があるでしょう。
業務の連携やコミュニケーションを円滑にするため、先述したコアタイムを設定したり、従業員の労働時間が長時間化していないか、適切に管理されているかを定期的にチェックしたりする取り組みが重要です。
また、フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムを導入し、時間外労働の把握や適切な時間管理を行うのも有効です。
就業規則を規定する
就業規則とは、企業が労働者と守るべき雇用に関するルールを定めた書面であり、労働基準法に基づいて労働条件や職場内の規律などを具体的に定めた規則です。
フレックスタイム制を製造業に導入する際は、この就業規則に以下の内容を必ず盛り込む必要があります。
- 始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨
- コアタイムやフレキシブルタイム、適用する労働者の範囲などフレックスタイム制に関する基本的なルール
これらのルールを明確にすることで、従業員は安心してフレックスタイム制を利用でき、企業側も労務管理を適切に行うことができるでしょう。
労使協定を締結する
フレックスタイム制を導入する際には、労使協定の締結が必須です。労使協定とは、使用者(会社)と労働者(従業員)が話し合って合意した労働環境に関する取り決めです。
労働基準法や育児介護休業法などの法令で定められた原則を外れた労働条件を定める場合に締結されます。
なお、フレックスタイム制に関する労使協定には、以下の項目を定める必要があります。
- フレックスタイム制の対象となる従業員の範囲
- フレックスタイム制における労働時間の過不足を精算する期間
- 清算期間中に従業員が労働すべき総労働時間
- フレックスタイム制における標準的な1日の労働時間
- 具体的なコアタイム
- 具体的なフレキシブルタイム
必要に応じて協定届を作成する
清算期間が1カ月を超える場合は、就業規則と労使協定に加え、「清算期間が1カ月を超えるフレックスタイム制に関する協定届」を作成し、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
協定届には、労使協定の内容を転記し、労使双方の署名または記名・押印が必要です。労使協定書と協定届を兼ねる場合には、両方の欄に署名または記名・押印が必要となります。
清算期間が1カ月以内の場合は、協定届の提出は不要です。
フレックスタイム制の導入で柔軟な働き方をしよう
今回は、製造業におけるフレックスタイム制の成功事例や得られるメリット、導入する際の注意点を解説しました。
フレックスタイム制は製造業において、多様な働き方を支援し、生産性を向上させるための有効な手段として注目されています。
その導入にあたっては、労使間の合意や就業規則への明記、コアタイムの設定など、注意すべき点もありますが、適切な運用により、企業と従業員双方に大きなメリットをもたらすことができるでしょう。
ぜひ、貴社においてもフレックスタイム制の導入を検討し、より働きやすく、生産性の高い職場環境を実現してください。
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