生成AIの普及により、RAGという新しい概念が注目を集めています。RAGは、生成AIがより正確な回答を生成するために、外部情報を検索し、その結果を生成プロセスに組み込む技術です。しかし、この技術をどのように自社のビジネスに活用すれば良いのか、具体的なイメージが湧かない企業も多いのが現状です。
サイオステクノロジーは、Elastic社のソリューションを日本に展開することで、この状況を打開しようとしています。特に「サーチ」ソリューションは、RAGの実現に不可欠な技術であり、生成AIとの組み合わせによって、より高度な情報検索・分析が可能になると期待されています。
今回は、生成AIの普及で注目のRAGの概要やファインチューニングとの違い、生成AIにおけるRAGの仕組み、メリット、注意点を解説します。
生成AIの普及で注目のRAGとは?
RAGは、検索拡張生成とも呼ばれる検索機能と生成AIの両方の長所を活かした技術です。従来の検索機能が膨大な情報の中からキーワードに一致するものを並べるだけの作業だったのに対し、RAGは、生成AIの能力を用いて、ユーザーの質問に対して回答を生成します。
また、生成AI単体では、学習済みの情報にしか回答できませんでしたが、RAGは外部のデータベースから情報を取得することで、より幅広い知識に対応することができるのです。
生成AIについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
生成AIにおけるRAGとファインチューニングの違い
生成AIが機密情報を扱う際には、RAG以外にも「ファインチューニング」という手法が用いられます。RAGとファインチューニングは、AIに新たな情報を組み込むという点で異なるアプローチを取ります。
ファインチューニングは、AI自身に情報を学習させ、その知識をAIの内部に定着させるようなものです。これにより、AIは学習した情報に基づいて、より高度なタスクを実行できるようになります。
一方、RAGはAIに直接情報を学習させるのではなく、AIが参照できる外部のデータベースを用意します。AIは必要に応じてこのデータベースから情報を検索し、その情報を基に回答を生成する仕組みです。
RAG | AIが利用できる情報の範囲を広げる |
ファインチューニング | AIの知識そのものを拡張する |
生成AIにおけるRAGの仕組み
RAGの動作は、大きく分けて以下の検索フェーズと生成フェーズという2つの段階に分けられます。この2つのフェーズを繰り返すことで、RAGは人間のように、質問に対して的確かつ自然な回答を生成することができるのです。
検索フェーズ | ユーザーの質問に関連する情報を、大量のデータの中から探し出す |
生成フェーズ | 検索で見つかった情報をもとに、自然な文章で回答を生成する |
以下でそれぞれの仕組みをより詳しく解説します。
検索フェーズ
先述したように、RAGを用いた生成AIでは、ユーザーの質問に対して、LLM(大規模言語モデル)が直接答えられない場合、外部データから必要な情報を検索します。この検索フェーズでは、自社内の蓄積された知識や最新の外部情報の中から、質問に最も関連性の高い情報を探し出します。
LLMの知識の空白を外部データで補完しているのです。
生成フェーズ
生成フェーズでは、検索で得られた関連情報とユーザーの質問を組み合わせ、LLMに指示を出します。LLMは、この指示に基づいて回答を生成し、最終的にユーザーに提示します。
この際、LLMは単なる質問だけでなく、関連情報という文脈も理解することで、より正確かつ適切な回答を導き出すことができるのです。
生成AIにおけるRAGのメリット
生成AIが急速に進化する中、RAGがどのように生成AIの性能を引き出し、私たちの生活やビジネスに革新をもたらすのか、そのメリットを深掘りしていきます。
ハルシネーションのリスクを回避できる
ハルシネーションとは、AIが事実と異なる情報や存在しない情報をあたかも事実であるかのように生成してしまう現象です。このハルシネーションの問題に対し、RAGのデータベースに、正確な情報のみを登録しておけば、AIはデータベースから情報を参照し、より信頼性の高い回答を生成できるようになります。
さらに、RAGは、データベースに該当する情報が存在しない場合、「答えが見つかりません」と回答することも可能です。そのため、AIが根拠のない情報をでっち上げることを防ぎ、より正直で信頼性の高い回答を得ることができるでしょう。
情報を幅広く取り扱うことができる
生成AIは、インターネット上の膨大な情報を学習し、私たちの質問に対して自然な文章で応答してくれます。生成AIが学習する情報は、基本的にインターネット上で公開されている情報に限られるため、企業の社内規定や顧客情報など、外部に公開できない機密情報は、生成AIが直接扱うことはできません。
また、生成AIが学習する情報は、定期的に更新されるものではないので、ChatGPTの無料版は、2022年1月までの情報しか学習していません。そのため、それ以降に起こった出来事に関する質問には正確に答えられないことがあります。
一方、RAGは生成AIが学習した一般的な知識に加えて、企業が保有するデータベースに登録された情報を活用することができるため、企業の社内規定や顧客情報をデータベースに登録しておけば、生成AIはこれらの情報に基づいて、社内問い合わせへの回答や顧客分析を行うことが可能になるのです。
ChatGPTについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
生成AIでRAGを利用する際の注意点
RAGの利用には、メリットがある一方でいくつかの注意すべき点があります。以下で詳しく解説します。
生成AIに比べると回答に時間がかかる
RAGは、情報検索機能を備えることでより正確な回答を生成できる反面、生成AIに比べると回答生成に時間がかかるという課題を抱えています。これは、RAGが膨大なデータベースから関連する情報を検索し、その結果に基づいて回答を生成するためです。特に、データベースの情報量が多いほど、検索に要する時間は長くなります。
回答時間が長引くと、ユーザーの満足度が低下するため、特に顧客問い合わせ対応においては、見込み客の離脱につながる可能性も否めません。RAGを用いたシステムを利用する際には、「回答までに時間がかかる場合があります」と明記しておくことで、ユーザーの不満を軽減し、より円滑なコミュニケーションを促進することができるでしょう。
データの質により回答の精度が左右される
RAGは、データベースに蓄積された情報を参照し、質問に対する回答を生成するため、データベースに登録された情報の正確性が生成される回答の信頼性に直結します。万が一、データベースに誤った情報が登録されていた場合、RAGはそれを鵜呑みにして、誤った情報を回答として提示してしまう可能性があるためです。
そのため、定期的にデータベース内の情報を更新し、最新の情報を反映させることで、RAGが生成する回答の精度を維持することができるでしょう。
生成AIにおけるRAGの活用事例
生成AIにおけるRAGの活用事例は以下の通りです。
- 問い合わせ対応
- ビジネス文書の作成
- 分析
それぞれの活用事例を詳しく見ていきましょう。
問い合わせ対応
顧客にとって、RAGは24時間365日いつでも疑問に答えてくれる頼れる存在です。 従来のように電話やメールで問い合わせをしなくてもチャット上で手軽に質問し、即座に回答を得ることができます。そのため、顧客は問い合わせ対応にかかる時間や手間を大幅に削減でき、よりスムーズにサービスを利用できるようになります。
また、複雑な手続きや専門的な知識が必要な場合でも、RAGが丁寧に案内してくれるため、顧客満足度が向上する効果も期待できるでしょう。
ビジネス文書の作成
RAGは、営業資料やメール文などのビジネス文書の生成で力を発揮します。従来ChatGPTなどの生成AIサービスでもコンテンツを作成することは可能でしたが、自社の資料の形式や文体に厳密に沿ったコンテンツを生成させるためには、膨大な量の参考資料を学習させる必要があり、時間と労力を要するものでした。
一方、RAGは、生成AIに学習させたい資料をデータベースに登録するだけで、資料に基づいた高品質なコンテンツを生成することができます。これは、RAGが、生成AIに与えられた質問に対して、関連する情報をデータベースから検索し、その情報を基に回答を生成する仕組みを持っているためです。
また、テキストだけでなく、画像や映像、音声などの形式のコンテンツ生成にも対応しています。この機能を活用することで、魅力的で説得力のあるプレゼンテーション資料や動画コンテンツを作成することが可能です。
膨大なデータの分析
RAGに顧客データや市場調査レポートなどのデータを登録すれば、人間が手作業で行うよりもはるかに効率的に、膨大なデータを分析することができます。RAGは、人間では見つけ出すことが難しいようなデータ間の複雑な関連性や隠れたパターンを迅速かつ正確に特定する能力を持っています。
例えば、顧客分析においては、RAGは顧客の属性や行動パターンを詳細に分析し、それぞれの顧客層に対して最も効果的なアプローチを特定するため、企業は製品やサービスの購入確率を高めるための戦略を立案することが可能になります。
さらに、RAGはグラフや表などを用いて分析結果を視覚的にわかりやすい形式で出力することができます。これにより、経営層や関係者は、複雑なデータから得られた知見を、容易に理解し、意思決定に活かすことができるでしょう。
生成AIによるRAG技術のさらなる活躍が期待できる
今回は、生成AIの普及で注目のRAGの概要やファインチューニングとの違い、生成AIにおけるRAGの仕組み、メリット、注意点を解説しました。RAGは、従来の検索機能と生成AIの両方の長所を活かした技術です。この技術により、ビジネスにおける様々な業務を効率化し、生産性を大幅に向上させることが可能になります。
RAGの最大の特徴は、信頼性の高い情報に基づいて生成AIが回答を生成する点にあります。これにより、生成AIが生成する回答の精度が飛躍的に向上し、より正確な情報を得ることができます。
ただし、RAGの強みを最大限に引き出すためには、技術的な知識だけでなく、豊富な経験に基づいたノウハウも必要です。キャド研は、生成AIに関する深い理解と実績を有しており、お客様の課題を解決するための最適な解決策をご提案いたします。
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