文章や動画などのコンテンツ作成で生成AIが注目されています。CADにおいても、図面作成や設計に応用できないか考える方は多いのではないでしょうか。
しかし「自社のCADでどう活かせばよいのか」「導入しても生産性の向上が期待できるのか」と不安になる企業もいるかと思います。
そこで、本記事では生成AIをCADで使うメリットとおすすめツール、企業の活用事例などを紹介します。最後まで読めば生成AIをCADで使うべきか判断できるので、ぜひ参考にしてください。
生成AIとは?CADで応用する前にチェック!
生成AIとは多様なコンテンツを作成するAIで、データから学習した規則性を元にテキストや画像、動画音声などのコンテンツを作成することができます。
従来のAIとの違いは、1から新しいコンテンツを作れるか否かです。従来のAIであれば、人間が与えたデータを元に決められたルール内で行為を自動化してきました。例えばチャットボットが簡単な質問にYesかNoで答えるといったようにです。
一方、生成AIは与えたデータの特徴や傾向を学習するため、データの規則性や枠組みを超えた新しいコンテンツを生み出すことができます。
また、ディープラーニングを繰り返すことで品質を上げているため、専門スキルがなくても高度なコンテンツを作れる点が魅力です。
生成AIをCADで利用するメリット3つ
生成AIが作るコンテンツの質は年々高まっていますが、CADで利用するメリットが見えてこない方もいるでしょう。生成AIをCADで応用するメリットは主に3つあります。
- 設計・図面作成を効率化できる
- 人材不足の解消を期待できる
- 成果物の品質向上が期待できる
業界の現状や今後の展望を交えて解説します。
設計・図面作成を効率化できる
初期の行程を生成AIに任せることで、設計・図面作成を効率化することができます。例えば従来のCADでは、図面を作る際にソフトのコマンドを使い図枠や寸法線などを決める必要がありました。
しかし生成AIを応用すれば「○○のネジを設計して」といった簡単な命令でプロトタイプを作ってくれるため、設計・図面作成にかける時間を短縮できます。
また設計目標や制約(優先材料やコストなど)を指定するだけで、多数の設計案を提示する生成AIも開発されています。これまで人が思いつかなかった案も出てくるため、アイデアを出す時間の削減も期待できるでしょう。
人材不足の解消を期待できる
生成AIを導入することでCAD人材の不足を解消できる可能性が高まります。CADがよく使われている建設業界では、1997年から2021年の間に技術者が6万人減少しました。人材不足を補うにも、CADオペレーターは専門職種のため育成に時間がかかります。
生成AIを導入すると人手作業を任せられるだけでなく、専門知識がない人でも設計や図面作成を担えるため教育の手間を減らせるでしょう。
成果物の品質向上が期待できる
従来のCADだと、パラメーターの設定誤りや知識不足による設計ミスなどで図面品質の低下が起こりえます。しかし、生成AIに任せると複雑な設計・図面作成を簡略化できるため、ミスを犯すリスクが減るでしょう。
また、工程の一部を生成AIに任せることで、新規開発や品質改善といったクリエイティブに時間を割くことが可能。このように長期的に見ると、成果物の品質向上も期待できます。
生成AIを応用したCADツール・サービス5選!図面作成や設計に応用できる
ここからは生成AIを応用したCADツール・サービスを5つ紹介します。それぞれに特徴があるため、自社のニーズに合わせて利用しましょう。
CADツール・サービス | 特徴・機能 |
3D・2D図面AI | 企業のユースケースに合わせた設計が可能 |
Autodesk Fusion | 設計目標と制約に応じて多くの設計案を提示 |
3D Structure Creator | ユーザーの利用傾向に合わせて設計アイデアを提案 |
Solid Edge24 | クラウドベースのデータ共有が可能 |
Creo | ARや人間工学に基づいた設計など多機能 |
他にもおすすめのCADを知りたい方は、下の記事も参考にしてください。
3D・2D図面AI
3D・2D図面AIは、コンサルファームのrenueと先端技術開発企業のWOGOが共同開発した生成AIです。「六角ボルトを作って」といった人間に指示するようなプロンプトで、3Dや2Dのモデルを作ることができます。そのため、簡単な図面処理なら数日かかっていた工程を数分に短縮した例もあります。
また、企業ごとのユースケース(システムを利用するユーザーやシステムとのやり取りを定義したもの)に対応できる点も魅力です。
従来のCADソフトだと企業の仕様に合わせることが難しく、非効率な設計プロセスが必要でした。しかし、3D・2D図面AIならモデルをプログラムで完全に表現するため、パラメーターを調整するごとにモデルを修正できます。
製品の設計変更やカスタマイズが容易になる点が強みといえるでしょう。
Autodesk Fusion
Autodesk Fusionは、3D技術を使った設計、エンジニアリングソフトウェア事業を展開する「オートデスク」が開発したツールです。
大きな特徴は、ジェネレーティブデザインAIを搭載していること。設計目標と拘束(オブジェクト同士の関係や寸法を制御する機能)を入力すると、コストや候補の設計パターンを提示してくれます。設計案が大量に示されるため、人では思いつかないようなアイデアを入手することも可能です。
また、使用する材料やコスト、性能なども考慮されるため、各利用者の条件に合わせて工程を最適化できます。独創的な設計と工程短縮の両面で期待できるといえるでしょう。
3D Structure Creator
3D Structure Creatorは、CADや解析ソフトウェアなどの事業を展開しているSOLIDWORKSが開発したツールです。
特徴はDesign Assistantを搭載していることです。AIを活用してユーザーの傾向に基づいて提案を行うため、単調な作業の排除と質の高い設計が可能になります。
また、概念設計・製造・設計の全工程に必要な要素が備わっている点も魅力。ツールバーやコンテキスト メニューなどが構造設計に合わせてカスタマイズされるため、使用性に優れているといえるでしょう。
もし、SOLIDWORKSの製品の使い方について詳しく学びたい方は、「SOLIDWORKSセミナー」の参加がおすすめ。2日間で基礎と応用を網羅できるので短期間でマスターしたい方は要チェックです。
Solid Edge24
Solid Edge24は、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアが開発した機械設計ソフトウェアです。
特徴は、従来のSolid EdgeにAIの設計サポート機能を搭載していること。例えば、アセンブリ内の部品置換の際に、インテリジェント(設計プロセスにおける表層的な計算や作図、設計者の知的活動をサポートすること)に有効な選択肢を先回りして提示することができます。
また利用者のパターンを学習して、適切な関連コマンドを出せる点も魅力。クラウドベースのデータ共有もできるため、分野横断的に設計を展開できるでしょう。
Creo
Creoは産業用ソフトウェア事業を主としているPTCが開発した3DCADです。
優先したい材料や製造プロセスなどの要素を指定すると、AIが設計要件から最適な設計を導き出すことができます。AIから生成された設計は経験則から得られないものが多いため、過剰設計のリスクを抑えられます。
また、工業デザインや2Dモデリングだけでなく、ARや人間工学に基づいた設計など多機能な点も魅力。ジェネレーティブAIを豊富な機能と組み合わせて使いたい企業におすすめです。
Coreについてさらに詳しく知りたい方は、下の記事も読んでみてください。
生成AIを搭載したCADの導入事例
生成AIをCADで利用するメリットやおすすめのツール、サービスを紹介しましたが、それだけでは自社で導入する場面がイメージできないかもしれません。
ここでは、生成AI搭載のCADを導入した企業事例を紹介します。具体的な企業名や成果も載せているので、自社の現状と照らし合わせながら読み進めてください。
CAD作業を従来の1/30に短縮|住友林業
住友林業では建物の構造を設計する際に、構造計算や安全性の技術基準の評価、納期調整などに苦慮していました。加えて、住友林業独自の業務に対する理解や経験も必要なため、人材によって業務プロセスが変わる点も課題でした。
そこで、構造設計業務の一部を生成AIに移行。建物の形や梁の位置などから、適した部材と断面、接合部の仕様選定を自動化しました。
その結果、CADで行っていた部材選定と構造計算を従来の1/30に短縮。最適な施工順序や生産量も踏まえて設計するため、施工精度の向上やコストカットにも貢献したとのことです。
属人的な業務を排除しつつ、複雑なCAD作業を削減した好例といえるでしょう。
部品重量の半減に成功|jacobs社
航空宇宙産業に従事するjacobs社では、宇宙飛行士が使う生命維持バックパックの改良に取り組んでいます。
航空宇宙業界の製品は、安全性と信頼性、軽量化を実現するために適切なバランスをキープしなければいけません。またロケットを発射させる際に、積載製品の重量が打ち上げコストに大きな影響を及ぼします。
そこで、生命維持バックパックを最適に設計するためにCreoのジェネレーティブデザインを採用。固定概念から離れた設計手法を発案しました。
数百ある製造プロセスから最適な手法を短期間で探り出し、部品重量を最大50%カットを実現。燃料費の節減と宇宙飛行士の機動性向上にも寄与したとのことです。
生成AIを活用し、従来型の設計から脱却できた事例といえるでしょう。
生成AIをCADで利用する際の注意点2つ
生成AIを応用すれば煩雑なCAD作業を削減できますが、万能というわけではありません。ここでは生成AIをCADで利用する際の注意点を2つ紹介します。
「生成AIを使っても意味がなかった」と後悔しないためにも、ここでしっかり押さえておきましょう。
生成AIを導入する理由を明らかにする
なぜ、自社のCAD作業で生成AIを導入したいのか明確にしましょう。例えば「人材不足を生成AIで補完したい」「今のままでは革新的な商品を作れないから生成AIの設計案が必要」といったようにです。
人材不足を補いたいのであれば、ジェネレーティブデザインの品質はそこまで追求しなくても良いかもしれません。一方、固定概念を排除した設計が必要なのであれば、アイデアを多く出してくれる生成AIが必要です。
このように導入目的によって利用するツール・サービスの方向性は変わります。投資してからだと予算を無駄にする可能性があるので、導入目的はしっかり言語化しましょう。
汎用の生成AIでは活用が難しい
CADに特化していない生成AIだと活用するのは難しいです。プロンプトを細かく設定しなければいけないうえに、抽象的な結果しか返さないケースが多いからです。
代表的な生成AIツールで図面作成を試みると以下のような結果になります。
代表的な生成AIツール | 図面作成を指示した結果 |
ChatGPT4o | 図面で必要な品質を満たしていない 形状変更の指示は理解できるが、実用化できるかどうかは未知数 |
Claude 3.5 Sonnet | 図面作成はできず文章でアドバイスするのみ |
2024年9月時点の検証結果ですが、CAD作業の代行という面では実用性は低いといえます。
多少初期投資がかかっても、ベンダーが開発した生成AI搭載のCADを使った方が良いでしょう。
生成AIを使ったCADについてのまとめ
今回は生成AIをCADで利用するメリットとおすすめのCADツール・サービス、生成AI搭載のCADを使う際の注意点を解説しました。
生成AIを活用することで、これまで複雑だったCAD業務の簡略化や業務プロセスの標準化を実現できます。加えて従来の設計では得られなかったアイデアも得られるため、クリエティビティの向上も期待できます。
生成AIの効果を最大限引き出すためには、導入目的を明らかにすることが大切。自社の現状や課題と照らし合わせて生成AIをCADに活用してください。
