「モノづくり大国」としての日本を支える、製造業の素晴らしい技術の数々。
しかし、今製造業はたくさんの課題を抱えています。
その一つが「技術を正確に伝達すること」に関する問題です。
この課題の解決を目指したツールが注目を集めています。
その名も、3Dドキュメントツール「Scene」。
2022年11月30日、Scene株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役:ビジャヤン スワティナト)は、3D CAD データの活用により組立工程の情報伝達を10倍効率化する3Dドキュメントツール「Scene」の開発をさらに加速するため、シードラウンドで1.1億円の資金調達を実施しました。
同社は今回集まった資金を、エンジニアチームの増員および新機能の拡充に投じる予定。
今回のtopicsでは、「Scene」の紹介を通じて、製造業の課題を解決する3D CAD技術の可能性について解説します。
製造業における技術伝達の課題とは
日本製造業が培ってきた素晴らしい技術は、職人の熟練の技や経験、勘などに支えられてきました。
いわば、熟練者に依存しているといって良いかもしれません。
熟練技術者が高齢化するなか、後進の育成は喫緊の課題となっています。
しかし、高度な技術は一朝一夕では身に付くはずがなく、一人前の技術者になるためには、OJTを中心に少なくとも数年の修業期間が必要と考える企業が少なくありません。
こういった課題への対策として、継承すべき技術を言語化し、マニュアルやテキストに落とし込む試みがされてきました。
とはいっても、写真と文章でつくられたマニュアルでは「飛ばし読み」「思い込み作業」が発生しがちという問題があります。
そのため最近では、画像や動画を盛り込んだマニュアル作成のためのツールなども登場し、できるだけわかりやすく技術を伝達するための手段が試行錯誤されています。
ここには、最近の若い世代は文章を読むよりも動画を視聴した方が学びやすいといった傾向や、日本語が得意でない海外人材に技術を教えるためといった副次的な効果も期待されています。
見やすく、わかりやすく。見よう見まねで技術が習得できるということが、製造業マニュアル作成ツールの一大テーマであるようです。
数々のツールの登場により、製造業の「技術伝達DX」は少しずつ進んでいますが、ベテラン技術者のノウハウや勘、経験を的確に伝えるためには、まだまだ進化が必要な領域といえます。
生産性向上と業務効率化の課題
製造業全般にいえるのが、短納期化や多品種化の傾向です。
短納期のなか少量生産品では組立指示書が作成されることは少なく、断面図や分解図だけを現場に渡すことがほとんどです。
これまではベテラン技術者の勘と経験に基づいて組み立てられていましたが、熟練者の高齢による退職などにより徐々に困難になっています。
また、作業者による品質のバラツキや、作業の手戻り、ノウハウのブラックボックス化にもつながっています。
また、作業のための資料は、試作品や初ロットの組立作業を撮影した写真をエクセルに貼り付けて作成しており、資料作成が生産技術部門の30-50%の作業時間を占めていることもあるといいます。
このような時間を削減し、効率的かつ的確な作業を行うために他業界ではDXが推し進められていますが、製造業の場合、短納期、少量生産といった状況ではなかなか難しい現状がありました。
製造現場で使われているマニュアルの一例。作成に手間もかかり、わかりづらい。(画像出典:株式会社Scene公式HP)
資料作りのために写真や動画をいちいち撮っていてはめんどうですし、写真や動画では伝えきれない形状や組立方法などもあります。
これらをクリアするマニュアル作成ができなければ、いつまで経っても「技術の伝達」は効率化しないでしょう。
3Dドキュメントツール「Scene」とは
そんな課題を解決するのが3D CADデータです。
確かに、部品の構造や手順を知る上では、3D CADのわかりやすさは一番といって良いかもしれません。
しかし、これまでは3D CADを簡単に取り扱えるツールは存在しませんでした。
作業手順がここまでわかりやすくなった。操作性はシンプルで、作成時間の短縮になる。(画像出典:株式会社Scene公式HP)
「Scene」は、3D CADファイルをベースにした資料作成が誰でも簡単にできることを目指したツールです。
一般的なスペックのWindows / Macで使用することができるので、3D CADツールからステップ形式(STEP、 STP)で出力したデータを用いて短時間でマニュアル・手順書の作成ができます。
マニュアル制作者に3D CADスキルが必要ないのは革新的ですね。
3D CADデータの上にテキスト、画像、アニメーションなどを簡単に追加できるので、わかりやすく見やすいマニュアル作成ができるという訳です。
URLを相手に送るだけで、相手はワンクリックで資料を閲覧できる。(画像出典:株式会社Scene公式HP)
これなら、ベテラン技術者のノウハウを可視化・標準化でき、新人や海外人材の教育も効率化できるでしょう。
マニュアル作成時間の短縮や品質のばらつき改善、手戻り削減の効果も実証しているそうです。
今後の展開
株式会社Sceneでは、今後の計画として、マニュアル作成にとどまらず、設計情報・製造情報を紐づけ、各部門が共通のデジタル情報にアクセスでき、横断的なやり取りが可能なコミュニケーションプラットフォームを構築していきたいとしています。
3Dデータを中心に部門横断でコミュニケーションを行っていくイメージ(画像出典:株式会社Scene公式HP)
設計部門で制作された3Dデータが全工程に展開されれば、さまざまな部門の仕事が同時並行に処理できるメリットがあるでしょう。
まさに、フロントローディング・コンカレントエンジニアリングの実現を目指しているということですね。
3D CADの技術が広く活用されるのはとても嬉しいこと。
3Dだからこそのわかりやすさ、見やすさが製造業の課題を解決すると信じています!