数多くの技術職員を抱える東京工業大学が、技術職員のさらなるキャリアアップを後押しする仕組みとして「TCカレッジ」の拡大に取り組み始めました。ではなぜ、技術職員のキャリアアップが必要なのでしょうか。
今回は、技術職員に関するニュースをもとに、キャリアアップの仕組みが必要な理由や、提供が始まった認定制度の内容について深掘りしていきます。技術職員として活用している方は、自身のキャリアアップの参考にしてみてください。
技術職員のキャリアアップのためにTCカレッジが拡大
東京工業大学は、工業技術を持つ人材を多数輩出している日本有数の国立大学です。
例えば、AI技術の活用や再生可能エネルギーの開発など、さまざまな技術研究に取り組んでいます。
そんな東京工業大学が現在、社会における技術職員の扱いの改善を目指すために、TCカレッジの拡大をスタートし始めました。
TCカレッジとは、高度な実技研修を実施して「テクニカルコンダクター(TC)」という認定を目指す仕組みです。以下に示す機器メーカーの協力のもと、最先端機器の分解や、ディスカッション、演習などに取り組みます。
- 日本電子
- 島津製作所
なお、テクニカルコンダクターは、東京工業大学の独自認定資格です。
特定の勉学や機器操作、開発を経て成長し、技術職員として活用する人材の待遇をよくするため、人事施策のひとつとしてつなげていく計画となります。
技術職員の待遇向上につながるTCカレッジの概要
技術職員向けの新たな資格「テクニカルコンダクター」を取得できるTCカレッジは、東京工業大学をはじめ、山口大学、長岡技術科学大学の国立3大学と連携して、毎年50名ほどの技術職員が参加できます。
主な対象者は研究の支援業務で実績を持つ技術職員であり、約2年間の実践を経て単位を取得できる仕組みです。
なお、単位を取得するためには技術支援に関する論文審査が待ち構えています。
ハイレベルな資格であることから、難易度も技術職員を経験した人材に合わせてあるのが特徴です。
コース内容 | ・材料評価 ・バイオ ・情報 ・マネジメント |
TCカレッジの目的 | ・組織研究戦略の理解を深める ・研究データの効率的な分析 ・プロジェクトの予算確保 ・企画立案力の向上 |
カリキュラムの内容 | ・メーカー社長や理事とのディスカッション ・先端機器の分解 |
また、今後は国立3学のみならず、技術職員を含めた受講生派遣を北海道大学や広島大学など、全国の大学に広げていく計画です。
技術職員のためにあるTCカレッジの設備
技術職員が参加するTCカレッジには、参加者が自由に利用できる「共用設備」が数多く用意されています。参考として、技術職員がすぐに利用できる主な設備や装置について整理しました。
分析部門
東京工業大学の分析部門では、主に次の装置のセルフ利用が可能です。
- X線分析
- 元素分析・分光分析
- 電子顕微鏡・試料作製
1台当たり数千万円にも上る高額な設備や装置をセルフ利用できます。
工業系の会社(主に製造業)などで利用する機器も多いことから、技術職員の自己学習意欲を高めることにつながると期待されています。
東工大ナノ構造造形支援事業
東京工業大学では、文部科学省の事業のひとつである「東工大ナノ構造造形支援事業」として、次のような設備利用が可能です。
- ウェハプローバ
- ウェハ洗浄装置
- 走査型電子顕微鏡
- UVナノインプリント露光装置
一部有償で利用しなければならないものありますが、機器によっては半導体の製造などに関わるものも数多く存在します。製造開発分野、化学開発分野に役立つ機器も多いため、技術職員の能力アップや実技研修などで利用する機会があります。
半導体について詳しく知りたい方は、以下の記事がおすすめです。
技術職員とは
技術職員とは、研究開発をサポートするエンジニア職員のことです。
主に研究開発期間に所属しており、公務員試験を経て研究所などに入所するスタッフなども少なくありません。
また、技術職員は実験装置の開発や製作、管理維持、研究環境の整備など技術分野で活躍するのが仕事です。安全に設備や機器を利用できるように、対応することから、工業系の専門知識を有する人材しか活躍できない分野だと言えます。
研究者・技術者・技能者との違い
技術職員と似た職業に「研究者」「技術者」「技能者」というものがありますが、具体的にはそれぞれの目的や業務が異なります。以下に3つの職業の違いをまとめました。
技術職員 | 研究者 | 技術者 | 技能者 | |
主な業務 | 研究開発をサポートする | メインで研究開発を実施する | 土木事業で設計・計画を担当する | 機械オペレーターなど製造業で活躍する |
技術職員との関わり | ― | 技術職員のサポートを受けながら研究開発を進行する | 特になし | 技術職員などにより研究開発された機器や製品を利用する |
それぞれ似た名称の業種ですが、携わる仕事の内容が異なります。
技術職員と直接つながりがあるのは研究者になると覚えておきましょう。
なお技術職員は、以下に示す記事ような研究開発に携わる場合があります。
技術職員にあたらなキャリアアップが必要な理由
技術職員は、理系の花形とも言える魅力的な仕事です。
しかし、専門知識を有する技術職員にはキャリアに関するさまざまな課題を抱えています。
ここでは、技術職員を取り囲む現状について解説します。
給与条件が全国平均に近い
技術職員の給与は高いものだと考えられがちですが、実際には全国平均に近いのが現状です。
三重大学の教職員組合が公開している資料によると、平均年齢40歳前後の技術職員が多いなか、平均年間収入は500万~600万円となっています。
一方で国税庁が公開している全国平均を見ると、平均年数は461万円です。
技術職員の下限値と大きく変化しないことがわかります。
専門知識を有するほか、膨大な研究・開発をサポートする時間を必要としながら、大きく収入を得ることができずモチベーションを維持できません。以上の理由から、仕事に対する金銭的な評価を高めるためにTCカレッジによるキャリアアップの必要性が増しています。
研修の機会が乏しくキャリアアップが難しい
技術職員は、長年の経験と知識量を活かすことで自身のキャリアを積んでいきますが、職場によっては研修に参加できる機会が少なく、自己研鑽でしかキャリアを積めない状況です。
つまり技術職員を取り囲む環境によって、人材育成に大きな差が出てしまうことに他なりません。
また、通常の企業社員とは違い、キャリアアップの道筋や方向性を定めにくいことも技術職員の課題です。TCカレッジは、そういった将来に悩む技術職員に幅広い知識と知見を与えることで、技術面・マネジメント面で育成していくために欠かせない機会だと言えます。
多分野の設備・機械に触れられない
技術職員は、配属された特定の分野で研究開発に取り組むことから、工業技術のなかでも一部の設備や機械にしか触れることができません。
また設備や機械を導入する際には、数千万~数億円規模のコストがかかるほか、運用費も膨大です。技術職員が触れられるのは既存の設備がほとんどであるため、成長の機会を失いやすいことに問題を抱えています。
一方でTCカレッジといった機関で最先端機器や特別演習などを受講できれば、技術面のスキルアップ、そしてマネジメントなどの幅広い知識を学べます。技術職員の仕事に欠かせないプロジェクト予算を獲得する方法も学べるため、新たな機会創出としてTCカレッジが注目されています。
技術職員のキャリアアップに期待されること
技術職員が現在よりも働きやすく、効率的に業務を進行できるようになれば、それが研究開発事業にとってのメリットになります。なぜ技術職員のキャリアアップが期待されているのか、生まれる効果についてまとめました。
研究開発の効率が向上する
TCカレッジに参加した技術職員は、従来の技術職員よりも広い知見と研究開発に関わる機器、設備の知識を網羅的に理解したうえで業務に望めます。
つまり、TCカレッジに参加する前と比べて自身で業務をマネジメントしやすくなるほか、研究開発分野のことを理解したうえで業務を進行できるのが魅力です。高い品質で研究開発を進めやすくなることも含め、業務効率が上がり研究成果を生み出しやすくなると期待されています。
プロジェクトの予算を確保しやすくなる
TCカレッジに参加した技術職員は、今までよりもプロジェクトに関わる予算を確保しやすくなるのが魅力です。
例えばTCカレッジでは、マネジメント科目の知識だけでなく、経営者とディスカッションを実施して、経営者目線での知識や知見を得られます。一般の技術職員としての目線だけではなく、管理職や先を見据えた経営者としての目線でプロジェクトを立案することが可能です。
上級職への昇任につながりやすくなる
TCカレッジで知識とスキルを積んでいけば、従来の技術職員よりも上級職として承認しやすくなると期待されています。一般的な技術職員に不足している知識や技術を学べることから、周囲からの評価を得やすくなると言えます。
また、TCカレッジ(東京工業大学など)の独自資格である「テクニカルコンダクター」の資格が全国に広まれば、それが昇給やプロジェクト参加の条件につながっていくでしょう。
より良い職場環境で働きやすくなることも含め、ただ能力を高めるのではなく、対価を得やすくなるのがTCカレッジの魅力です。
技術職員のキャリアアップについてまとめ
膨大な知識量と専門性が必要な技術職員ですが、まだまだ待遇といった面が良くない状況です。
また、研修といった機会が少なくキャリアアップを望めない技術職員も少なくありません。
一方で東京工業大学などの大学が設立した「TCカレッジ」を活用すれば、現在のキャリアに悩む技術職員のレベルアップを期待できます。現在全国に広まりつつある仕組みであるため、今後の展開に期待が集まっています。
