「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、今や多くの企業が取り組んでいる業務効率化・改善の取り組みのひとつです。しかし「何から始めればいいのか」「IT化と何が違うのか」といった疑問を感じている方も多いでしょう。
そこでこの記事では、DXを導入するにあたって理解しておきたい用語の定義やよくある勘違い、メリット・デメリットについてわかりやすくまとめました。また、導入手順やわかりやすい例も紹介しているので、DX化に取り組む参考にしてみてください。
DX導入とは?わかりやすく解説

DX導入とは、企業がデジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを土台の部分から変革(トランスフォーメーション)し、持続可能で生産性の高い競争力をつくりだす取り組みです。
単にITツールを導入するだけではなく、以下を含む全社的な変革を実現できます。
- 経営
- 業務
- 文化
たとえば、経済産業省が公開している「DX動向2024」によると、特に製造業や建設業、金融業などで取り組みの意欲が高い(取り組んでいないのは全体の1~2割程度)ことがわかっています。
なかでも少子高齢化社会の影響を受けて人手不足倒産が相次ぐ日本では、データ活用による意思決定の高速や、サプライチェーンの柔軟化、また競合他社との差別化として、DXの導入およびその技術の利活用が欠かせなくなっている状況です。
DXの「X」とは?
DXの「X」は、トランスフォーメーション(Transformation)の略です。トランスフォーメーションは日本語で変革と言い、単なるITの導入ではなく、企業の抜本的な変化を意味します。
なお、頭文字にTではなくXが使われているのは、ビジネスや学術の分野で、変換・交差・融合を表す「X(クロス)」が変革を象徴する記号として使われてきたためです。
IT化・デジタル化との違い
DX導入とよく混同されやすい言葉に「IT化」「デジタル化」があります。
参考として以下に、DX導入を含めた3つの違いを整理しました。
DX導入(DX化) | IT化 | デジタル化 | |
---|---|---|---|
定義 | ビジネス全体の変革 | 業務をITツールで効率化 | 情報をデジタルデータ化 |
対象範囲 | 経営・組織・ビジネスモデル全体 | 部分的な業務 | 情報・媒体 |
目標 | 競争優位性の確立・価値創出 | 効率向上・コスト削減 | 書類や処理の簡略化 |
わかりやすい例 | 顧客接点(アプローチなど)のデジタル化およびサービス変革 | 勤怠管理をクラウド化 | 紙の申込書をPDFに変換 |
上記からわかるように、DX導入・IT化・デジタル化はそれぞれ、本質的に「目的」と「効果範囲」が異なります。
IT化・デジタル化はそれぞれDXのなかに含まれる要素です。
そのため、ITやデジタルを活用してDX化を目指す場合には、ただ導入に終わるのではなく、その導入をきっかけとして、業務プロセスを効率化する抜本的な改善を目指すことが欠かせません。
なおDXに関する知識を得るために研修参加を検討している方は、以下の記事もチェックしてみてください。
DX導入に関するよくある勘違い
本記事で取り扱っている「DX導入」という言葉は、よく利用されている用語のひとつです。
しかし、DX導入という言葉は言いやすさから生まれた造語であり、本当の意味合いに違いがあります。
DXの概念を正しく理解するためにも、ここではよくある勘違いと、正しい使い方について紹介します。
正しくはDX推進
「DX導入」という言葉が一般的になっていますが、正確な表現は「DX推進」「DXの取り組み」です。なぜなら、DXとは単一のツールや技術を導入して終わるのではなく、継続的に組織を変革していくプロセスのことを指すためです。
そのためDXは「ITツール導入」などと意味合いが違い、全体の概念的な要素である点に注意してください。本記事では、DX導入というわかりやすい表現を用いていますが、実際には「推し進めるもの」であり「取り組むもの」である点を理解して読み進めましょう。
DX導入・DX活用という言い方はおかしい
DXについて、導入や活用という言葉の意味合いを掘り下げて解説します。
たとえば「DXを導入する」と言うと、概念自体を導入するという抽象的な意味合いになってしまいます。おおよその意味合いは伝わりますが、DXは導き入れるものではなく、自社で推し進めるものであるため、具体的にはおかしい言い方であると覚えておきましょう。
またDX活用についても同様です。
DXという概念自体を活用するという誤った表現であるため、正しい表現との違いを理解する必要があります。
なお、導入や活用という言葉を使うのなら「DXのためにITツールを導入する(活用する)」といった表現が正しいです。
DX導入で得られるメリット
DXのためにさまざまなツールを導入し、業務の変革を実現していくことには複数のメリットがあります。
業務の効率化とコスト削減
DXの大きなメリットとして挙げられるのが、業務の効率化とコスト削減の実現です。
特に中小企業では、少人数で多くの業務をこなす必要があるため、DXによる業務自動化や可視化は極めて効果的だと言えます。参考として以下に、効率化・コスト削減の具体例をまとめました。
DXによる施策 | 効果のわかりやすい例 |
---|---|
RPAによる定型業務の自動化 | 月100時間の業務削減 |
クラウド勤怠管理システム導入 | 出退勤集計作業の削減、残業抑制 |
電子契約・電子請求書導入 | 印紙代・郵送代などの事務コスト削減 |
スマホ・タブレット導入 | 作業報告・写真報告の即時性向上 |
単なる「時短」ではなく、人材の再配置やサービス品質向上にもつながるのがDXに取り組む魅力です。
競争力の強化と新しい価値創出
DXは効率化だけではなく、企業の競争力を高めたり、新たな価値を創出したりする手段としても有効です。以下に競争力を高める施策のわかりやすい例をまとめました。
- 顧客データに基づいたサービス改善
- サブスクリプションモデルの導入
- IoTによる利用状況の可視化とサポート自動化
- マーケティング自動化による反応率アップ
たとえばデジタル技術を活用することで、既存顧客との接点(つながり)が増え、新しいニーズに応える製品・サービスを開発・提供できるようになります。
また、デジタルツインやIoTといった技術を活用することにより、リアルタイムでの現場管理や、データ取得および利活用が可能となります。
DX導入で発生しやすいデメリット
DXに取り組むことには多くのメリットがある一方で、ITツール等の導入を進める段階で、以下より紹介する2つのデメリットに突き当たることがあります。
初期コスト・時間の負担大
DXの最大の壁となるのが、初期費用や導入準備にかかる時間的コストの大きさです。
以下に発生する初期コストを整理しました。
- システム導入・ライセンス費用
- 社内スタッフの研修・教育コスト
- 現在の業務からの移行に伴う業務停滞リスク
- コンサルティング費用やツールの選定費
特にDXに関するノウハウがない中小企業にとっては「どのシステムを選べばよいのか分からない」「人材がいない」「移行の負担が大きすぎる」といった声が多く聞かれます。
ただし、DXの推進は将来的な業務改善や売上アップなどに欠かせない要素です。
短期コストと捉えず、長期的な投資として評価することが欠かせません。
現場のITリテラシー格差と抵抗感

DXの推進を阻む要素として挙げられるのが、現場のITリテラシー格差と変化への抵抗感です。
特にIT技術などのノウハウが少ないベテラン層ほど「操作に慣れている今のやり方を変えたくない」と感じる傾向があります。
また、上に掲載したグラフからもわかるように、特にDXやITに関する知識やリソースが不足している企業ほど、取り組み関する意欲が減少しやすいことがわかっています。障壁となるポイントを解決するためにも、現場を置き去りにしない進め方を整備することが欠かせません。
DXの導入ステップ
ITツール等を導入および業務プロセスの変革を実施し、DXを成功させるためには、段階的なステップを踏んで、現場との合意形成を図りながら進めていく必要があります。以下に、失敗のリスクを抑えやすい導入手順をまとめました。
現状分析と課題を洗い出す
DXを導入するためには、まず業務の現状と課題を明確にすることが重要です。
漠然と「DXを進めよう」としても、どこに課題があるかを把握していなければ、的確な施策は打てないため、自社の現状を明確に分析することが欠かせません。
DXの目的を決めてゴールを設定する
DXは「ゴールが明確」でなければ失敗しやすくなるのが特徴です。
目的があいまいだと、導入すべきツールや予算、担当範囲がブレてしまい、現場の納得感も得られません。
「定量的な目標設定」が重要ですので、業務の数字や顧客の反応をもとに、DXの価値を測りましょう。
体制づくりと人材確保に取り組む
DXは「人」が中心に動かすものですので、推進チームを明確にしたうえで、必要な人材や外部支援も検討しましょう。
なお、専門知識がなくても問題ありません。重要なのは「旗振り役」と「適切な伴走者」を決めることですので、情報収集をしながらDXを推進する土台をつくり上げていきましょう。
小さく始めて検証する
DXのために活用するITツール・システムの選定をする際には、いきなり全社導入をせずに、小さなプロジェクトでテスト・検証を行うことが重要です。
スモールスタートなら、現場に混乱を招くことなく問題を改善できるほか、効果も検証しやすく、成功体験を積むことで社内の賛同も得られます。
スモールスタートで体制を整えたうえで全社展開するのが王道ですので、まずは小さくスタートすることから始めましょう。
PDCAサイクルを回して継続的に改善に努める
DXは導入して終わりではなく、PDCAサイクルを回して継続的な改善をすること、また他部署への水平展開が欠かせません。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Act(改善)
技術の進化や業務の変化に対応するためには、定期的な見直しと柔軟な対応力が必要です。
担当者任せにせず、全社の文化にすることを意識して推進を続けていきましょう。
また、DXでITツールを導入する際には、補助金を活用できるケースがあります。
詳しい情報を知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
DXの導入事例

DXは、すでに大企業だけではなく、中小・中堅企業でも取り組まれています。
参考として、経済産業省が公開している「DX取り組み事例集」をもとに、解決できた課題の一例を整理しました。
企業名 | 課題 | 実施したDXの施策 | 改善ポイント |
---|---|---|---|
株式会社樋口製作所 | ・製造現場とIT部門の連携不足 ・属人的な作業によるミスや非効率 |
・ブリッジエンジニアによる現場とITの橋渡し ・IoTデバイスの開発 ・eラーニングコンテンツの整備 |
・部門間のデータ共有による品質向上 ・社員のスキルアップと教育体制の強化 |
株式会社ヒバラコーポレーション | ・受発注業務の属人化と非効率 ・紙ベースの業務プロセス |
・クラウド型の受発注システムの導入 ・業務プロセスのデジタル化 |
・業務の効率化とミスの削減 ・顧客満足度の向上 |
「DXで失敗したくない」という方は、どのように成功に導けるのかを理解したうえで、推進をスタートしましょう。
DXの導入についてよくある質問
中小企業でもDX導入できる?
DX人材がいない場合はどうやって導入する?
DXの導入についてまとめ
DXを進めるために重要なのは「DX=ツール導入」ではなく「ビジネス変革の継続プロセス」だという理解です。特に中小企業では、リソースが限られている分、スモールスタートでの導入や、外部支援の活用、そして目的を見失わない進め方が成功を左右します。
「わかっていれば、誰でもDXに取り組める時代」ですので、自社の強みや課題に合わせた戦略的なDX推進で、持続可能な成長を目指してみてはいかがでしょうか。
