太陽光発電といった再生可能エネルギーは、カーボンニュートラルの実現に向けて欠かせない存在となりました。そして、太陽光発電に用いられているペロブスカイト太陽電池の発電効率を高める技術が登場したことをご存じでしょうか。
今回は、ペロブスカイト太陽電池の発電効率を高めるニュースについて、新技術の仕組みや効果、期待されている要素について深掘りします。ペロブスカイト太陽電池の概要そして環境対策に役立つ技術をぜひチェックしてみてください。
ペロブスカイト太陽電池の発電効率を高める新技術とは？
県内企業の技術力・研究開発力の向上に向けて総合的な支援を提供している「研究機関和歌山県工業技術センター」が、太陽光発電に搭載された次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の発電効率を高める新技術を開発しました。
その名も光アップコンバージョンと呼ばれる技術であり、ペロブスカイト太陽電池が受ける光エネルギーの色を強めることで、発電効率を高める技術です。
ペロブスカイト太陽電池といった太陽電池は光エネルギーの吸収範囲が狭く、低いエネルギーの近赤外光を吸収しにくい特性をもっています。そこで活躍するのが光アップコンバージョンの技術です。
通常だと吸収できない光をペロブスカイト太陽電池で吸収可能な光に変えることで、発電効率を高められると期待されています。
ペロブスカイト太陽電池の発電効率を高める仕組み
ペロブスカイト太陽電池は従来、高エネルギーの可視光のみを吸収できるように設計されており、低エネルギーの光から電力を生み出せずにいました。
そこで考え出されたのが、光アップコンバージョンができる専用のフィルムを太陽電池の底に敷いて低エネルギーの光を変換し、ペロブスカイト太陽電池に吸わせる仕組みです。
高エネルギーの光はペロブスカイト太陽電池が吸い、ペロブスカイト太陽電池で対応できない低エネルギーの光を光アップコンバージョンで変換するという仕組みにより、今まで以上に大量の電力を生み出しやすくなると期待されています。
ペロブスカイト太陽電池とは？
ペロブスカイト太陽電池は、フィルム程度の薄さをしており、軽く柔軟性に優れる次世代太陽電池です。
従来、太陽電池は形状を変更させられず、平面体でしか設計できませんでした。
対してペロブスカイト太陽電池は、柔軟性があることから次のような場所に設置できます。
- 曲線状の地形
- 柱といった曲面部
地形条件などの制約を受けやすい太陽光発電施設にペロブスカイト太陽電池を導入できることはもちろん、電気によって動く電気自動車で導入される次世代型の太陽電池として普及が期待されています。
またペロブスカイト太陽電池だけでなく、中古太陽光パネルの需要も高まってきています。
詳しくは以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
ペロブスカイト太陽電池の種類
ペロブスカイト太陽電池は、太陽光発電のジャンルだけでなく、さまざまな業種における市場拡大が見込まれると期待されています。参考として、ペロブスカイト太陽電池の種類と活用用途を3つ紹介します。
屋内型ペロブスカイト太陽電池
屋内型ペロブスカイト太陽電池は、小型のデバイスなどに搭載できる太陽電池です。
小型であることから大量生産に向いており、持ち運びできるという特性を生かしてモバイルバッテリーといった用途に使用できます。
従来のソーラー充電モバイルバッテリーは発電効率が悪いことから、高い充電性能をもつ屋内型ペロブスカイト太陽電池を活用することで、市場を獲得しやすくなると期待されています。
フレキシブル型ペロブスカイト太陽電池
フレキシブル型ペロブスカイト太陽電池は、薄型かつ柔軟性の高い太陽電池です。
以下に示すような設置ハードルが高い場所に取り付けできます。
- ビルの壁面
- 耐荷重が小さい工場の屋根
従来、太陽光発電設備は耐荷重が高い屋根にしか設置できませんでした。
対してペロブスカイト太陽電池は、本体重量が軽く曲面にも設置できることから、今まで設置が難しかったビルの壁面や素材の薄い屋根にも取り付けが可能です。
太陽光発電設備を設置できずにいた企業も脱炭素に貢献しやすくなるため、カーボンニュートラルの実現に近づきやすくなると期待されています。
超高効率型ペロブスカイト太陽電池
超高効率型ペロブスカイト太陽電池は、メガソーラー発電所や自動車、飛行機など、従来の太陽光発電施設よりも高効率で発電が必要な施設に設置できる太陽電池です。
低コストかつ高効率なコストパフォーマンスに優れる製品であることから、少ない設置数だけで従来の電力をまかないやすくなります。ただし、製造において高い製造ノウハウや量産化の設備の整備といったコストがかかる課題を抱えています。
ペロブスカイト太陽電池と従来電池との違い
ペロブスカイト太陽電池は従来の太陽電池と違い、コスト面・重量面に優れています。
参考として、ペロブスカイト太陽電池と従来電池の違いを以下にまとめました。
| ペロブスカイト太陽電池 | 従来の太陽電池 | |
| コスト | 製造工程が少なく大量生産できる | 製造工程が複雑であり、高いコストがかかる |
| 重量 | 軽量 | 高重量 |
特にペロブスカイト太陽電池は、従来型であるシリコン系の太陽電池と比べ、軽量な「ペロブスカイト結晶構造」と呼ばれる膜（フィルム）で構成されているため、薄く軽量なのが特徴です。フィルムに直接印刷・塗布して制作できることも含め、製造工程を必要最小限に抑えられます。
折り曲げても利用できるほか、ゆがみにも強いことから、従来の太陽光電池と違い、衝撃などの影響にも耐えられるのがペロブスカイト太陽電池の特徴です。
ペロブスカイト太陽電池に光アップコンバージョンを適用する課題
現在、ペロブスカイト太陽電池のさらなる発電効率向上に役立つ技術として光アップコンバージョンが適用されつつありますが、複数の課題が立ちはだかっています。参考として、ニュースでも語られているペロブスカイト太陽電池の発電効率の向上に関わる課題を2つまとめました。
実用化のためには変換効率の向上が必要になる
現状として、ペロブスカイト太陽電池に搭載する光アップコンバージョンは、太陽光の数倍の光エネルギーを照射しなければ、うまく光エネルギーとして変換できない状況です。ただし実用化には時間がかかる一方で、主任研究員は以下のように説明しています。
実験で使用したLED光の数十分の1の強度の弱い光で同様に光らせることができれば実用化が見えてくる
ペロブスカイト太陽電池に搭載する光アップコンバージョンの技術は着実に発達しているため、今後弱い光エネルギーに対しても太陽できるようになると期待されています。
既存の太陽光発電システムの交換に時間がかかる
ペロブスカイト太陽電池および光アップコンバージョンの技術を搭載した太陽光発電システムが完成したとしても、既存の太陽光発電施設への交換に時間がかかるという課題を抱えています。
まず太陽光発電設備の寿命は25～30年程度だと言われており、機材に不備やトラブル等がなければ、長く使用され続けます。そのため、ペロブスカイト太陽電池を太陽光発電の機材は、新規の施設にしか導入することができず、普及には時間がかかると考えられます。
早期に普及させるためには、交換する費用対効果を上回るくらいに発電効率を高めること、そしてリーズナブルな価格で提供するための製造環境を構築することが欠かせません。
もし太陽光発電や製造業、業務効率化ソフトといった新技術についてお悩みなら、キャド研の無料相談窓口にお問い合わせください。課題解決のご相談に対応しております。
ペロブスカイト太陽電池の活用事例
ペロブスカイト太陽電池がどのように利用されているのかイメージする参考として、実際に導入された企業事例を紹介します。
積水化学工業株式会社
積水化学工業株式会社は、NTTデータと協同して既存建物の外壁にペロブスカイト太陽電池を搭載した太陽電池モジュールの設置実証実験を開始しました。
設置するのは2社が運営している既存建物の壁面であり、高効率で発電できる設置位置の検討や塩害といった外的要因の影響をモニタリングするために検証が続けられています。
また当検証は、都心部の既存建物の脱炭素化に貢献する目的で活動しています。
本検証データをもとに、将来的には公共交通機関の建物や公共施設などへの導入を進めていく計画です。
JR西日本
JR西日本は近年開業予定のうめきた（大阪）地下鉄に、ペロブスカイト太陽電池を設置すると発表しました。自社発電して施設を運営することはもちろん、レアメタルといった希少金属を利用しないことから、低コストで導入できるが注目されています。
またペロブスカイト太陽電池は、うめきた（大阪）地下鉄に設けられた駅広場に設置される計画です。一般共用施設におけるペロブスカイト太陽電池の設置は世界初の試みであり、最終的には年間7,000tものCO2排出量を削減できると期待されています。
また電池関連の新技術を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
コジェネや燃料電池に関する仕組みや期待される効果を紹介しています。
ペロブスカイト太陽電池についてまとめ
ペロブスカイト太陽電池の発電効率を高める光アップコンバージョンの技術が登場したこともあり、今後さらにペロブスカイト太陽電池の需要が高まっていくと予想されます。
またペロブスカイト太陽電池が実用化することによって、一般利用・事業利用を含めて国内外での普及させる計画です。従来の太陽電池よりも高効率で発電できる魅力的な技術であるため、さらなる進展に期待が集まっています。
