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マグネシウム合金の降伏強さが向上!増強のメリット・作り方・期待される効果とは?

熊本大学の研究により、軽量化が求められる製品などに使われているマグネシウム合金の降伏強度が、従来の1.1倍まで向上されました。では、マグネシウム合金の降伏強度が向上すると、どのような効果があるのでしょうか。

今回は、マグネシウム合金の降伏強度増加のニュースをもとに、作り方・用途・期待される効果について深掘りしていきます。従来のマグネシウム合金との違いも解説しているので、ぜひチェックしてみてください。

熊本大学がマグネシウム合金の降伏強度を1.1倍に増強

熊本大学がマグネシウム合金を開発

航空機やドローンなどに利用されているマグネシウム合金について、熊本大学が従来のマグネシウム合金よりも降伏強度を1.1倍に増強できたと発表しました。

降伏強度とは、材料の塑性変形(外力で曲がる変形のこと)が生じる強度のことです。
つまり、従来のマグネシウム合金と比べて、変形しにくくなりました。

また、マグネシウム合金は機械類に利用される金属系の素材よりも軽量であるという魅力をもっています。軽く強い素材になったということもあり、今後マグネシウム合金を活用する場面が増えてくるのではないかと期待されています。

また、金属系の製品をつくる記述として、近年では金属3Dプリンターといった技術が開発されています。マグネシウム合金と同じように宇宙事業への活用が期待されているので、興味がある方は以下の記事をチェックしてみてください。

コイワイが金属3Dプリンター技術の向上を狙う!宇宙事業への活用や将来性を解説

マグネシウム合金の降伏強度を増強する方法

熊本大学が新たに生み出した高強度のマグネシウム合金は、硬質層・軟質層を積層させることでつくり出されています。

まず、硬質層は以下に示す素材を加えて作られており、1ナノメートル(1mの10憶分の1)まで薄く作製するのが特徴です。

  • マグネシウム
  • 亜鉛
  • イットリウム

また、生み出した硬質層・軟質層のマグネシウム合金を12ナノメールで積層をつくっていきます。押し加工と呼ばれる圧縮を利用した加工を用いることで、硬質層の細かな結晶素材が折れ曲がり、複雑に混合し合うことによって、素材の変形が起きにくくなるのが増強の仕組みです。

従来のマグネシウム合金との違い

熊本大学が生み出した最新のマグネシウム合金と、従来のマグネシウム合金との違いを下表にまとめました。

最新のマグネシウム合金 従来のマグネシウム合金
抗積層の構造の厚み 12ナノメートル 1ナノメートル
降伏強さ 418メガパスカル 375メガパスカル

降伏強度が従来のマグネシウム合金よりも、43メガパスカルも向上していることから、1.1倍もの強度変化が起きたと言われています。マグネシウム合金と同じような用途に利用されている汎用強度合金の場合、245マガパスカルであることから、高い強度を発揮できるようになりました。

マグネシウム合金とは?

マグネシウム合金とは、実用化されている金属の中でもっとも軽量であり、強度・比重に優れている金属です。例えば、重量だけを見ると次の金属よりも軽いと言われています。

  • アルミニウムの3分の2
  • チタンの3分の1
  • 鉄の4分の1

熱還元法・電解法の2つの方法で作成することができ、ドロマイトと呼ばれる原料を用い、高温での加熱精錬をすることで、高強度のマグネシウム合金を生み出せます。

また、マグネシウム合金は吸音性に優れるほか電波を遮断する性能にも優れているのがメリットです。一方で、燃焼性が高いため、火がつくと一瞬で燃えてしまうこと、また放置するとすぐに腐食して錆びができてしまうというデメリットをもっています。

マグネシウム合金の用途

マグネシウム合金の用途

マグネシウム合金は、現在次のような目的で利用されています。

  • 自動車部品(ステアリングホイールなど)
  • 航空機部品
  • 電子デバイス(パソコン・スマートフォンなど)
  • 福祉用品(車椅子など)

可燃性の高いマグネシウム合金ですが、近年では技術の発展に伴い、不燃性の素材などが登場しました。すでに不燃性のマグネシウム合金が実用化していることから、自動車や航空機などに利用しても、燃える心配がありません。

ちなみに熊本大学がつくり出したマグネシウム合金は、発火温度770℃に対応できると言われています。高温にも耐えられることから、さまざまな製品に材料を活用できると期待されています。

マグネシウム合金の降伏強度が向上するメリット

降伏強度が向上するメリット

熊本大学の研究によりマグネシウム合金の降伏強度が向上しましたが、この成果にはさまざまなメリットがあります。実用化することで材料の活用に起きる変化を含めて、詳しく解説します。

製品が変形しにくくなる

熊本大学がマグネシウム合金の降伏強度を向上させたことにより、今後はマグネシウム合金を利用した製品の強度が向上し、以前よりも変形しにくくなるのが魅力です。

製品が壊れにくくなることはもちろん、外観にも変化が表れにくくなります。
さらには衝突といった被害にも強くなるため、自動車や航空機の安全性が向上するのはもちろん、電子デバイスを落としても破損のリスクを減らせるのが魅力です。

保守・メンテナンスのランニングコストに優れる

マグネシウム合金の降伏強度が向上して、破損や変形の被害を受けにくくなったことにより、今後はメンテナンスにかかるランニングコストを抑えやすくなると考えられます。

メンテナンス時に損傷の評価をされるケースが少なくなるのはもちろん、部品の交換頻度などを抑えることができ、大幅なコストダウンにつながっていくでしょう。なかでも航空機は小さな変形が大きな事故につながることも少なくありません。

変形しにくいことで頻繁に交換する必要も減っていくため、安全性のみならず製品を提供している提供者にもメリットのある研究だと言えます。

マグネシウム合金の降伏強度が向上するデメリット

熊本大学が研究しているマグネシウム合金は、強度やコストに関するメリットをもっている一方で、作製に関するデメリットがあります。何が問題となるのか詳しいポイントを見ていきましょう。

製造工程が複雑化する

従来のマグネシウム合金は、1ナノメートルの積層構造で構成されていますが、最新のマグネシウム合金は12ナノメートルの積層構造であり、12倍もの厚みをつくり出さなければなりません。

また積層する際には非周期的に積み重ねていくことから、規定されたサイズの製品をつくる場合、従来のマグネシウム合金よりも作製の工程が複雑化しやすくなるのがデメリットです。

作業工程が増えると、その分だけ熟練の技術者により対応が必要となります。
現在熊本大学で作製の工程が確立しましたが、実用化した後にはノウハウの共有などに力を入れる必要が出てくるでしょう。

製造コストが増加しやすい

マグネシウム合金は、従来の素材と同じ量をつくるために12倍もの材料(硬質層・軟質層)を積層していかなければなりません。その影響もあり、同じ範囲に利用するマグネシウム合金を生み出すために膨大な材料費がかかる恐れがあります。

製造コストが増加した場合、強度が高いとしても購入できるメーカーなどが少なくなるかもしれません。実用化をするためには、製造コストを抑えやすくする仕組みをつくり出すことが大切でしょう。

また、マグネシウム合金を作製できる専用の機器を導入するというのもネックです。
従来の機器では作成できない場合があるので、研究としては高い降伏強度を生み出せましたが、コスト面で課題を抱えていると覚えておきましょう。

マグネシウム合金に期待される効果

マグネシウム合金に期待される活用方法

熊本大学がつくり出した新たなマグネシウム合金は、降伏強度の高さを注目され、今後さまざまな目的で利用されるのではないかと期待されています。ニュースのなかでも説明されている期待されるポイントについて詳しく見ていきましょう。

ロケットの材料

熊本大学がつくり出したマグネシウム合金は、宇宙飛行に欠かせないロケットの材料に利用できるのではないかと期待されています。ロケットを発射する際には高温の熱が発生するため、高温に対応できる素材を利用しなければなりません。

また、ロケットを飛ばすためには本体の重量を抑える必要があることから、軽量かつ高強度、また高温に耐えられるマグネシウム合金に適用の可能性が生まれています。

現在、ロケットにはアルミニウム合金が使われていますが、さらに軽量であるマグネシウム合金にスポットライトが当たりつつあるのです。

航空機や携帯端末の軽量化

マグネシウム合金は、ほかの実用金属のなかでも軽量で高い強度を発揮できることから、航空機や携帯端末を軽量化する際に役立つのではないかと期待が寄せられています。

例えば航空機は、外気に触れる外側の素材をマグネシウム合金に変えることで、強い風圧にも耐え、変形をしづらくなるのが期待されているポイントです。また、携帯端末についても落として破損する問題を改善するために、高強度のマグネシウム合金が役立つと期待されています。

身近な場所でも活用しやすい素材であることから、マグネシウム合金にはまだまだ高いポテンシャルが秘められていると言えるでしょう。

熊本大学が研究を進めている技術だけでなく、豊富な企業・メーカーが進めている製造技術の動向を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。インダストリー4.0の概要や最新動向を解説しています。

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マグネシウム合金についてまとめ

熊本大学が研究のすえつくり上げたマグネシウム合金は、従来の素材よりも降伏強度が高いという魅力をもっています。1.1倍の強度を生み出せるようになり、さらには実用金属のなかでもかなり軽量です。

ただし、高強度のマグネシウム合金をつくるためには従来素材よりも大量の材料を利用しなければなりません。今後さまざまな活用ができると期待されていますが、実用化するためにはさらなる研究が必要でしょう。

今後もさらに強度が増加するポテンシャルを秘めているため、今後もマグネシウム合金の研究から目が離せません。

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