ドイツが推進するインダストリー4.0の構想が公表されてから、長い年月が経過しました。
そして現在、世界ではどのような取り組みが実施されているのでしょうか。
この記事では、インダストリー4.0の動向を説明しているニュースから、現状課題や今後の動き方について深掘りしていきます。製造業のIT化、新技術導入に関わるポイントを詳しく見ていきましょう。
インダストリー4.0とは
インダストリー4.0は、ドイツ政府が製造業向けの産業政策として推進している取り組みです。
別名「第4次産業革命」とも言われており、次のような技術進化の中で、新たに新技術・システムを取り込んだスマート工場を生み出す計画が立てられています。
産業革命の変遷 | 概要 |
第1次産業革命 | 水力・蒸気機関による産業の発達 |
第2次産業革命 | 石油・電力を活用した産業の発達 |
第3次産業革命 | IT技術を導入した産業の発達 |
第4次産業革命 | IoT技術・新システムを導入した産業の発達(予定) |
現在の最新技術を活用して生産を効率化することはもちろん、サプライチェーンの連携企業も含めて、工場の自動化・スマート化を目指すのがインダストリー4.0の目的です。
世界中の先進国で問題化している少子高齢化の波に対抗するため、ドイツだけでなく日本を含む先進国がインダストリー4.0に取り組んでいます。
インダストリー4.0の取り組みに全世界152社が加盟
現在、インダストリー4.0の取り組みには、ドイツを中心とした大手企業152社が加盟しています。日本でも大手企業「旭化成」「デンソー」「富士通」などが参加表明をしており、インダストリー4.0のイベント「ハノーバーメッセ」等で意見交換会が実施されました。
また直近で実施されたイベントの中では、以下のような動きがありました。
- 世界約30社からなるManufacturing-Xの運営委員会を発足
- Catena-Xのβ版を公表
- 大手自動車メーカー等でCofinity-Xを設立
中でも注目すべきポイントなのが、大手製造業メーカーがインダストリー4.0に向けて動き始めていることです。大手企業の積極的な取り組みの実施により、つながりを持つサプライチェーン企業でも新技術導入が進み、製造業でのベースアップが期待されています。
Manufacturing-Xの目的
世界約30社で構成されているManufacturing-Xは、以下の目的で運営委員会を発足しています。
- レジリエンスの向上
- 持続可能性の実現
- 競争力の向上
主に産業内におけるサプライチェーンのデジタル化を土台として、製造業全体のデータ共有を実現するために運営される団体です。製造業全体のスマート工場化が進めばManufacturing-Xで共有されるデータを活用することによって、生産体制が飛躍的に向上します。
将来を見据えた製造業の安定化や成長として、今後も取り組みが進められていく予定です。
Catena-Xのβ版に期待されるポイント
自動車メーカーが取り組むインダストリー4.0の中でも特に注目されているのが「Catena-X」です。
Catena-Xは、参加企業全体で自動車産業の標準データや仕組みに関する情報を交換できるプラットフォームです。自動車産業のさらなる発展に向けて数多くの企業がCatena-Xを活用したインダストリー4.0に力を入れています。
またCatena-Xを活用することによって次の情報共有の効率化が可能です。
サプライチェーン(供給網)でのカーボンフットプリント(CFP)把握、部品・製品・リサイクル材料といった履歴管理のほか、供給網の混乱といった事態に情報を素早く共有し、機敏に対処するのにも役立つという。
Catena-Xを活用すれば、大手企業とつながりのあるサプライチェーン起業の情報共有スピードが効率化します。機敏に生産業務を進行できることから、現在世界中の企業がCatena-Xへの参加を表明している状況です。
Cofinity-Xの取り組み
インダストリー4.0のイベントで登場したCofinity-Xは、大手自動車メーカーが集まりアプリケーション型のオープンマーケットプレイスの運営のため、Catena-Xとユーザーをつなぐ組織として設立しました。
現在設立したばかりのベンチャーグループですが、まずは拠点となる欧州市場でインダストリー4.0に向けた取り組みやオープンマーケットプレイスの事業に取り組むと発表しています。
これまで自動車メーカーおよびサプライチェーン企業は、オフラインでのやり取りがメインでした。一方で、Cofinity-Xの事業展開が進めば、インターネット上で手軽に部品やシステムなどを取引できると業界から期待が寄せられています。
また、各取り組みやインダストリー4.0については経済産業省が公開しているものづくり白書の中でも語られています。詳しくは以下の記事をご参考ください。
インダストリー4.0に期待されている技術・システム
インダストリー4.0の実現に向けて世界中の製造業がスマート工場化を目指しています。
その中でも、インダストリー4.0の実現に欠かせないのが次のような技術・システムです。
- IoT
- デジタルツイン
- AI
- セキュリティ
- クラウドコンピューティング
- エッジコンピューティング
インダストリー4.0では、上記の6つのテクノロジーを柱としています。
複数の技術を複合的に導入することによって、人の手がかからないスマート工場を実現できるのが特徴です。
例えば、データをすべてクラウド上で管理し、工場生産のプロセスをAIに判断させるほか、IoT技術を活用して遠隔操作できます。また、デジタルツイン技術を使ってバーチャル上で生産状況をチェックすることも可能です。
まるで映画の世界で登場した未来の工場を作り出すのが、インダストリー4.0の終着点だと言えるでしょう。
また、デジタルツイン技術について興味をお持ちの方は、以下の記事をチェックしてみてください。デジタルツイン技術を活用した工場の事例を詳しく紹介しています。
インダストリー4.0における日本の動向
数多くの企業が参加したインダストリー4.0のイベントにおける、日本企業の動向をまとめました。
インダストリー4.0にてウラノスエコシステムとの連携に期待が集まる
アメリカのオースティンで開催されたインダストリー4.0のイベント「北米ハブ」において、Catena-Xの自動車部門代表ハーゲン・ホイバッハ氏から、次のような言葉をもらいました。
覚書を結ぶ日本自動車工業会や、経済産業省が4月に発表したデータ連携イニシアティブのウラノス(Ouranos)エコシステムとも連携・協力を進めたい
日本独自のクラウド共有システム「ウラノスシステム」との連携により、日本でも欧州が提供するCatena-Xへの参加が可能となる予定です。日本でのハブ稼働が目指されていることから、国内における製造業DXにも拍車がかかると話題を集めています。
Manufacturing-Xに日本企業が参加
Catena-Xの取り組みをもとに製造業のデータ共有効率化を広げるために立ち上げられた「Manufacturing-X」に、次の日本企業が加わりました。
- DMG森精機(製造業デジタルソリューション)
- ISTOS(デジタルネットワーク化事業)
各社、製造業DXに欠かせないデジタル化の技術や新技術に関する知識・技術を持っています。Manufacturing-Xへの参加により、他国へデータを提供するだけでなく、他国で共有されているデータを活用して、日本企業の成長につなげられるかもしれません。
インダストリー4.0における現状課題
世界規模で推進されているインダストリー4.0ですが、日本企業を含めてまだ複数の課題があると考えられています。参考として、ニュースの中で説明されている課題について深掘りしました。
製造業の人材不足
ドイツや日本を含め、世界の製造業はどこも新技術を活用できる人材が不足しています。
新たな取り組みを導入したいと考えても、そもそものリソースが不足しているため、インダストリー4.0の実現に手が届かないと悩む国も多いようです。
少子高齢化の波は、日本を筆頭に先進国であるほど高い傾向があります。
今後、少子高齢化による人材不足の影響を少しでも改善するためにも、人材確保や育成にも力を入れなければなりません。
中小企業によるデジタル化の遅れ
インダストリー4.0の推進に力を入れている製造業大手メーカーですが、次のような中小企業の場合、デジタル化に遅れが生じていると説明されています。
- 大手企業とのサプライチェーンがつながっていない中小企業
- 大手企業とのサプライチェーンから離れている企業
大手企業が主軸となるインダストリー4.0は、大手企業に近い中小企業であるほど、新技術導入をしやすくなります。一方で、大手企業との関りがない、サプライチェーンから離れすぎている企業の場合は、恩恵を得られにくいのが特徴です。
相乗的なベースアップができない環境にいることから、今後はCatena-Xなど、データ共有・連携によって数多くの中小企業とのつながりが持てる環境構築が重要になるでしょう。
新技術の活用やDXについて学ぶためには、オンラインセミナー等への参加が重要です。
製造業DXについて学びたい方は、以下のようなセミナーへの参加をおすすめします。
インダストリー4.0についてまとめ
インダストリー4.0の発表から長い時間が経過しましたが、現在はまだ発展途上な部分が目立ちます。またインダストリー4.0の実現に向けて、大手企業等の動きは加速していますが中小企業の動きは以前と変わらない状況です。
今後、Catena-Xといった取り組みが日本でも連携される予定ですので、製造業にどういった変化が表れるのか、今後の動向から目が離せません。