3Dプリンター産業は世界中で急速に成長しており、韓国も例外ではありません。本記事では、最新の市場動向、政府の支援策、主要な技術トレンド、活用事例について解説します。
韓国最大の3Dプリント製造施設の開設や、医療や建設分野での応用事例を見ていきましょう。
韓国の3Dプリンター市場の現状
韓国の3Dプリンター市場は、技術革新と多様な応用分野の拡大に伴い、急速に成長しています。
この章では、韓国の3Dプリンター市場規模と政府の支援と政策について解説します。
3Dプリンターの市場規模
矢野経済研究所の最新調査によると、産業用3Dプリンターの世界市場は2023年に3万台の出荷台数を記録し、前年比113.2%増加しました。背景には、新型コロナウイルスの影響で一時的に停滞した市場が2021年以降急速に回復し、特に医療物資の不足を背景に産業用3Dプリンターの需要が高まりました。
地域別に見ると、特に欧州を中心とした欧米の市場が活発であり、さらに韓国の市場も成長しています。
今後、金属を材料とする3Dプリンターの成長が予測されています。金属3Dプリンターの需要増加は、最終製品の製造や試作コストの削減、自由な形状の造形が容易になったことが要因です。
また、産業用3Dプリンター市場は引き続き成長が見込まれ、性能向上や周辺サービスの充実、材料の多様化が市場拡大を支えています。
日本国内の3Dプリンターの市場規模を知りたい方は下記をご覧ください。
政府の支援と政策
韓国政府は3Dプリンター産業の発展を支援するため、政策を実施しています。
2014年6月には、産業通商資源部と未来創造科学部は下記二つの組織を発足させました。
- 3Dプリンティング産業発展協議会
- 3Dプリンティング発展推進団
上記の組織は、省庁間の連携を強化し、3Dプリンティング産業を取り巻く経済・社会環境を分析し、革新的な技術の開発を推進するための政策的バックアップや規制緩和を行っています。また、技術開発ロードマップの作成や、3Dプリンターを使用した付加価値の高い分野のアイデア創出にも取り組んでいるようです。
さらに、地方自治体では、3Dプリンターの普及を目的とした無料教室が開催されています。このような取り組みによって、一般市民や学生が3Dプリンターの技術に触れる機会が増え、技術の普及と人材育成が進むでしょう。
韓国の3Dプリンター市場トレンド
韓国の3Dプリンター市場は、最新技術の導入と製造能力の向上により、ますます注目を集めています。
この章では、韓国最大の3Dプリント製造施設の開設と3DプリンターメーカーCarimaの台頭について見ていきましょう。
韓国最大の3Dプリント製造施設の開設
韓国の財閥グループ企業である斗山重工業が、国内最大の3Dプリンティング製造施設を昌原本社の敷地内に開設しました。この施設は、3Dプリント技術の最先端を行くものであり、発電所用大型ガスタービンや韓国の戦闘機「KF-21」の試作部品など、多岐にわたる分野での製品開発を支援しています。
機械名 | 特徴 |
---|---|
GE Concept Laser X-line 2000 | 世界最大級のPBF金属3Dプリンタであり、連続生産が可能 |
GE Concept LaserおよびEOS金属用3Dプリンタ | 高度な製造プロセスを実現し、多岐にわたる産業分野での応用 |
斗山重工業は、発電所用ガスタービンの製造技術向上のため、2014年から3Dプリント技術の採用を開始しました。同社は、3Dプリンティング技術を活用して、さまざまな産業分野で高精度かつ効率的な製品を提供しています。
今回の施設開設により、さらに多くの3Dプリント部品の生産が可能となり、韓国の3Dプリント市場全体の成長にも寄与することが期待されるでしょう。
3DプリンターメーカーCarimaの台頭
韓国の3DプリンターメーカーであるCarima(カリマ)は、革新的な技術と製品ラインアップで急速に市場シェアを拡大しています。同社の前身であるCK産業は、光学機器の製造を手掛けており、その技術を応用して3Dプリンタの開発を行ってきました。現在、CarimaはDLP(Digital Light Processing)方式の3Dプリンタを中心に、高速高精度な造形技術を提供しています。
高速高精度のDLP方式3Dプリンタ「DM4K」
Carimaの最新モデルである「DM4K」は、DLP方式を採用し、大容量の高速造形を実現しています。このモデルは、3840×2160の4K光学エンジンを搭載し、細かなディテールも高精度に再現可能です。造形サイズは250×140×350mmであり、大型の製品の製造から小型部品の大量生産まで幅広い用途に対応しています。
また、オープンマテリアル仕様であるため、Carima以外のレジンも使用でき、コスト削減や特定の材料ニーズにも柔軟に対応可能です。
独自技術「C-CAT」を搭載した「imp」
Carimaはさらに、独自の「C-CAT(Carima-Continuous Additive 3D Printing Technology)」を搭載したDLP方式3Dプリンタ「imp」を開発しました。この技術により、従来のDLP方式3Dプリンタと比べて約400倍の高速造形が可能となり、1分間に10mmの高さまで造形できる性能を持っています。
これにより、ジュエリー製作や試作モデルの迅速な製造が可能となり、製造業の効率化に大きく貢献しています。
韓国における3Dプリンターの技術と活用事例
韓国の3Dプリンター技術は、多岐にわたる産業分野での応用が進んでおり、特に金属3Dプリンティング、医療分野、建設業界での技術開発が注目されています。
この章では、それぞれの分野における最新の進展と具体的な活用事例について見ていきましょう。
金属3Dプリンティングの進展
韓国における金属3Dプリンティング技術は、産業の多様な分野で進展しています。
代表的な企業であるINSSTEKは、レーザーアディティブマニュファクチャリング(LAM)技術を開発し、航空宇宙、自動車、発電分野における部品製造に利用しています。この技術は、金属粉末をレーザーで溶融して積層することで、高強度かつ高精度な部品を製造することができ、従来の製造方法に比べて設計の自由度と製造効率が向上するでしょう。
斗山重工業も同様に、発電所用大型ガスタービンや韓国の戦闘機「KF-21」の試作部品製造に金属3Dプリンティング技術を採用しています。同社は、世界最大級のPBF金属3Dプリンタ「GE Concept Laser X-line 2000」やEOSの金属用3Dプリンタを保有し、産業規模の連続生産を可能にしています。
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医療分野での3Dプリンティング
韓国では、医療分野における3Dプリンティングの応用が急速に進展しています。
成均館大学のペク・ジョンファン教授は、3Dプリンティング技術を活用して副鼻腔がんの手術に成功し、手術後の副作用を最小化することができました。この技術により、患者ごとにカスタムメイドのインプラントや手術ガイドが製作され、手術の精度と安全性が向上しています。例えば、副鼻腔がんの手術では、3Dプリンティング技術を用いて患者の顔の形状に合わせた骨や軟骨を製作することで、手術の精度を高め、術後の回復が促進されるでしょう。
また、3Dプリンティング技術は人工骨や関節の製作にも利用されています。患者の個別ニーズに合わせたインプラントを迅速に製作することで、手術の待機時間を短縮し、患者のリハビリテーション期間を大幅に短縮することが可能となります。
医療分野などでは、3Dプリンターでの製造プロセスの最初のステップとして、CADを利用して設計図やモデルをデジタルで作成します。
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建設業界における技術開発
韓国では、建設業界においても3Dプリンティング技術の活用が進んでいます。韓国の建設技術研究所は、3Dプリンティング技術を駆使して、数日で住宅を建設することに成功しました。この技術により、建設コストの削減と工期の短縮が可能となり、迅速かつ低コストで住宅を提供することができるようになっています。
具体的には、3Dプリンターを用いて建設資材を積層することで、従来の建設方法と比べて資材の浪費を減らし、環境負荷を軽減することができるのです。例えば、韓国のスタートアップ企業は、3Dプリンターを使用してコンクリートの壁や柱を迅速に造形する技術を開発しており、これにより従来の建設方法と比べて大幅なコスト削減を実現しています。
さらに、3Dプリンティング技術は、災害時の迅速な住宅提供や低所得者向けの安価な住宅建設など、社会的な課題解決にも貢献しています。
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韓国の3Dプリンター市場はこれからも発展を続ける
韓国の3Dプリンター市場は、技術革新と多様な応用分野の拡大により、今後も着実に発展を続けると予想されます。政府の支援策や政策が整備されつつあり、産業全体の基盤が強化されることで、3Dプリンティング技術の導入が加速するでしょう。
特に、医療、航空宇宙、自動車、建設などの主要分野における応用が進展し、各分野での生産効率の向上とコスト削減が実現されています 。
また、韓国の主要な3Dプリンターメーカーやスタートアップ企業の技術革新も、市場の成長を支える重要な要素となっています。
これらの取り組みにより、韓国は今後も3Dプリンティング技術のリーダーとしての地位を強化し、グローバル市場での競争力を高めることが期待されるでしょう。