自動運転技術の開発を手掛けるティアフォーは、自動運転システム「レベル4」の認可を取得したことに続き、新たに長野県塩尻市の一般道においても同様の認可を獲得しました。
これは、国内の公道において、レベル4自動運転が許可された初めての事例となります。
ティアフォーは、この技術を用いて、最終的には誰もが安全かつ手軽に自動運転の恩恵を受けられる社会の実現を目指しています。
今回は、自動運転の概要や自動運転レベル、実現するとできること、課題を詳しく解説します。
自動運転とは
自動運転とは、人が運転操作を行う代わりに、車が自ら周囲の状況を感知し、判断、操作を行い、安全に目的地まで移動する技術です。
英語では「Autonomous」や「Self-driving」と表現され、国土交通省では、自動運転を「運転操作に関わる認知、予測、判断、操作の全てをシステムが代替し、車両を自動で走らせること」と定義しています。
この技術は、鉄道の「ゆりかもめ」や「ポートライナー」、航空機のオートパイロットなど、すでに様々な分野で活用されてきました。
近年では、自動車への応用が大きく期待されており、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。
一般的に「自動運転」というと、自家用車が自動で走るイメージが強いですが、技術の進歩に伴い、現在では、シャトルバスやタクシーなどの無人走行、配送ロボットの無人稼働など、様々な分野で自動運転技術が活用され始めています。
自動運転レベル
自動車の自動運転レベルは、米国自動車技術者協会(SAE International)が定めた基準に基づいて評価されています。
SAEの基準では、SAE自動運転レベルという以下の0から5までの6段階に分けられ、それぞれ「運転自動化なし」から「完全運転自動化」まで、運転操作の自動化の度合いが細かく定義されています。
SAEレベル0 | 人が直接車両をコントロールする |
SAEレベル1 | ハンドル操作またはアクセル・ブレーキ操作のどちらかを自動で行う |
SAEレベル2 | ハンドル操作とアクセル・ブレーキ操作の両方を自動で行う |
SAEレベル3 | 車両の運転をすべてシステムが担うため、ドライバーは運転操作から解放されるが運転を継続できない状況になった場合、ドライバーに運転が引き継がれる |
SAEレベル4 | 特定のエリア内において、車両が自ら走行に必要なすべての操作を担い、運転者は介入しない |
SAEレベル5 | あらゆる場所で運転に必要な全ての操作をコンピュータが担う |
現在の自動車では、先述したティアフォーが長野県塩尻市の一般道においてSAEレベル4の認可を獲得しています。
SAE4レベルは、GoogleのWaymoやUberといったテクノロジー企業だけでなく、自動車メーカーも技術の開発に力を入れており、実用化が期待されています。
また、SAEレベル5においてはどんな状況やエリアにおいても、ドライバーが手を動かすことなく、車が自律的に走行できるようになります。
このような理想的な状態の実現には、まだ数年という短い期間では難しいかもしれませんが、AIやコンピューターの処理能力が飛躍的に向上し、道路インフラとの連携や車同士の情報交換が実現することで、自動運転の実用化が現実味を帯びてくるでしょう。
自動運転が実現するとできること
SAE4以上の完全自動運転が実現すれば、以下のようなことができるようになります。
- 運転から開放される
- 渋滞を抑制することができる
- 運転事故が削減する可能性がある
- 新しいサービスが生まれる
- 労働力不足の解消ができる
- 環境に及ぼす影響が軽減できる
以下でそれぞれの項目を具体的に解説します。
運転から開放される
実用化が進むレベル4の自動運転では、自動車専用道路や特定の路線、低速走行地域などの限定された条件下において、車両の全運転操作が自動化されます。
そのため、ドライバーは肉体的な疲労や精神的なストレスから解放され、より長距離の運転を快適に行うことができるようになるでしょう。
また、駐車場が離れた場所にあると、車を出し入れするだけでも苦労するものですが、自動運転が実現すれば、このような煩わしい作業から解放され、目的地まで、ただ座っているだけで到着できるようになり、運転する必要がなくなります。
渋滞を抑制することができる
交通渋滞の主な原因は、緩やかな上り坂やトンネルの出入り口など、わずかな速度変化が連鎖的に広がり、渋滞を引き起こしやすい状況が挙げられます。
しかし、自動運転車は一定の車間距離を保ち、急な加減速を避けることで、渋滞の発生を抑制できることが期待されます。
さらに、自動運転車両の導入は、定時運行やルートの最適化など、サービスの質向上にも繋がることが期待されます。
運転事故が削減する可能性がある
自動運転車がドライバーに代わり運転を担うことで、ヒューマンエラーに起因する事故を大幅に減らすことが期待されます。
一方で、自動運転車同士の衝突などの新たなリスクも存在しますが、レベル4以上の高度な自動運転が実現すれば、これらのリスクを最小限に抑えるため、交通事故の減少に繋がると考えられます。
新しいサービスが生まれる
近年、電気自動車メーカーのテスラが提唱する、完全自動運転を活用したライドシェアサービスの構想が注目を集めています。
この構想では、テスラ車のオーナーは、車を必要としない時間に、自動運転モードで車を稼働させることで、収益を得ることが可能となります。
現在、すでに普及しているカーシェアリングサービスと、この自動運転を組み合わせることで、新たなビジネスモデルが誕生する可能性が期待されており、車は単なる移動手段にとどまらず、オーナーに収益をもたらす資産へと変貌する可能性を秘めているのです。
このアイデアは、自動車業界のみならず、シェアリングエコノミーやテクノロジー業界にも大きな影響を与えることが予想されており、将来的には、自動車の所有形態や利用方法が大きく変化し、人々の生活様式も大きく変わっていくかもしれません。
労働力不足の解消ができる
日本は現在、少子高齢化という大きな社会課題を抱えており、労働力不足という新たな問題を引き起こす可能性が懸念されています。
特に、公共交通機関に関しては、特に公共バスやタクシーにおいて、ドライバーの高齢化が深刻な問題となっています。
ドライバー不足は、サービスの継続を困難にし、地域住民の利便性を低下させる要因の一つです。自動運転技術の導入により、ドライバー不足という問題を解消し、公共交通サービスの継続が可能です。
また、単純な輸送作業においては、すでに無人搬送車などの自動化技術が活用されていますが、自動運転技術の進展により、ガイドレールや磁気マーカーなどのインフラに依存することなく、柔軟なルート変更が可能な自動運転車両が登場する可能性があります。
これにより、オンデマンドでの輸送が可能となり、人手を介さずに様々な物を運べるようになるため、さらなる省人化が実現すると考えられます。
無人搬送車については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
環境に及ぼす影響が軽減できる
自動運転車が実現する効率的な走行は、従来の運転に比べて排出ガスを大幅に削減できる可能性があります。
電気自動車や水素自動車などの排出ガスのない車両へのシフトが加速する一方で、ガソリン車も当面は私たちの身近に存在し続けるでしょう。
しかし、自動運転技術をガソリン車にも導入することで、燃費の向上を図り、環境負荷を低減することができます。
例えば、最適な速度やルートをコンピュータが自動で選択することで、無駄な加速や減速を抑制し、燃費効率を最大限に引き出すことが可能です。
特に大都市圏においては、交通渋滞の緩和や交通事故の減少は、大気汚染物質の排出量を減らし、都市部の空気質改善に繋がるでしょう。
また、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を抑制することで、気候変動問題の解決も期待できます。
製造業がサステナビリティに取り組むメリットについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
自動運転における課題
自動運転が様々な分野や乗り物で活用されるためには、様々な課題があります。以下で詳しく解説します。
ドライバーの雇用への影響
自動運転がレベル4、レベル5へと進化すれば、ドライバーの役割は従来とは大きく異なるものとなるでしょう。
運転免許さえあれば、運転技術の高低に関わらず、誰もが自動車を運転できる時代が到来するかもしれません。
これは明るい未来と言える一方で、プロの運転手を必要とする職業が減少することで、深刻な雇用問題が生じる可能性も否定できません。
事故発生時における責任の所存
一般車両に搭載されようとしているレベル3の自動運転では、システムが運転を主導しますが、システムが対応できない状況になると、ドライバーに運転の引き継ぎを要求します。
この引き継ぎの際に事故が発生した場合、果たして誰の責任なのかという点が大きな問題です。
システムが運転を継続できないと判断した時点から、ドライバーが運転を引き継ぐまでの間、運転の主導権がどちらにあるのか、明確な基準がないため、責任の所在を特定することが困難です。
この運転の主導権の移譲における責任問題は、自動運転レベル3の実用化における大きなハードルとなっています。
また、完全自動運転車両が一般車両と混在する未来においても、完全自動運転車両が一般車両と事故を起こした場合、その責任は誰にあるのかという点が大きな懸念事項です。
自動車メーカーや自動運転システムの開発メーカーなど、様々な主体が責任を問われる可能性があり、責任の所在を明確にする必要があります。
法的な課題
ジュネーブ道路交通条約をはじめとする従来の法規制は、運転者が車両を直接操作することを前提とした条項が多く、運転者を必要としないレベル4やレベル5の自動運転車には必ずしも適合しません。
このため、自動運転車の普及に伴う国際的な枠組みにおける新たな条約の検討や締結が不可欠となるでしょう。
現在、各国は自国の自動運転技術開発を促進するため、特定の地域に限定した特区を設けたり、独自の規制を導入したりするなど、独自の取り組みを進めています。
しかし、自動運転の社会実装が本格化すれば、各国間の技術標準化や規制の統一が求められるようになるでしょう。技術標準化をめぐる国際的な競争は激化し、各国の覇権争いに発展する可能性も否定できません。
災害や天候の問題
現在の自動運転技術は、特定の環境下での運用を前提としており、一般社会への普及に伴い、より幅広い自然環境下での走行が求められることが予想されます。
例えば、吹雪や霧、台風などの悪天候だけでなく、イナゴの大群など、想定外の状況下での走行も起こり得るでしょう。
自動運転車は、このような特異な環境下において、適切に機能するのかという点が大きな課題です。
特に、極寒の地など、自動運転が機能しなくなることで人命に関わる事態が発生する可能性も考えられます。
そのため、自動運転車が機能しない場合に備え、自走による走行を可能にするような救済措置が重要となるでしょう。
誤った認識や判断
完全な自動運転の実現には、あらゆる状況下での正確な認識、判断、適切な操作が不可欠です。
しかし、予測不能な状況に遭遇した場合、自動運転システムが誤った判断を下してしまう可能性もあるでしょう。
自動運転車の性能は飛躍的に向上していますが、安全性を第一に考え、自動運転システムの能力を理解し、その範囲内で利用することが重要です。
また、社会全体で自動運転に対する理解を深め、受け入れやすい環境を整備することも不可欠です。
自動運転の実現には、技術開発と並行して、人々が安全に安心して自動運転を利用できる社会の実現に向けて、様々な取り組みを進めていくことが求められます。
自動運転により社会全体の生活の質が向上する
今回は、自動運転の概要や自動運転レベル、実現するとできること、課題を詳しく解説しました。
自動運転の導入は、交通事故の減少による安全性の向上はもちろん、交通渋滞の緩和による時間や燃料の節約も期待できます。さらに、新たなビジネスモデルや雇用機会の創出を通じて、経済成長を促進する力も持っています。
完全自動運転のレベル5の実用化は、まだ実現していませんが、その実現は、自動車という概念自体を根底から覆すような、大きな変革をもたらすでしょう。
新たなマーケットが生まれ、AIや通信といった関連技術だけでなく、様々な業界・業種が参入する可能性も考えられます。この技術の動向を注視し、自社の事業に活かすことが、これからのビジネスにおいて非常に重要です。
自動運転の最新トレンドを把握することで、新たなビジネスチャンスを掴むことができるかもしれません。
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