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デジタル発電所とは?AI・IoTを活用した遠隔運用の魅力・効果を紹介

燃料の上流・調達・発電を担う大手企業「JERA」が自社工場の火力発電施設に、デジタル発電所を導入しました。従来の発電所とデジタル発電所にはどのような違いがあるのでしょうか。

今回は、デジタル発電所の魅力や導入技術について深掘りしていきます。
遠隔運用する魅力や期待される効果も紹介しているので、発電ビジネスの動向を探るきっかけにしてみてください。

デジタル発電所とは?

デジタル発電所とは、発電所内の設備をスマート工場化し、運用情報や実績、スタッフの動きをデータとして取得する発電所のことです。取得したデータをクラウド上で管理・解析し、発電効率を高めていくために利用されます。

海外で続々とデジタル発電所化が進む中、日本でも徐々にデジタル発電所化を目指す発電企業が増えてきている状況です。日本が抱える少子高齢化問題、そして発電施設の人手不足解消にもつながる重要な取り組みとして、日本国内でも注目が集まっています。

JERAが火力発電施設をすべてデジタル発電所化

JERAがデジタル発電所化を発表

世界最大級の燃料取扱量を誇るJERAは、電力・ガスの供給の半分以上を担う大手エネルギー企業です。そんなJERAが、国内すべての火力発電施設をデジタル発電所(DPP)化すると発表しました。

JERAのデジタル発電所では、発電はもちろんDXに関わる専門家が24時間体制で遠隔サポートするのが特徴です。例えば、次のような目標が掲げられています。

専門家が24時間遠隔サポートして稼働率を改善するとともに、熟練者の技術・知識を蓄積・伝承するのが狙い。1発電所当たり40年間で400億円程度のコスト削減効果を見込んでおり、他社への“外販”も拡大する。

引用:ニュースイッチ「JERAが全火力に「デジタル発電所」導入へ、稼働率改善ともう一つの狙い」

また、JERAではデジタル発電所の外販(外交販売)の実施を予定しています。
社内で改善できたポイントやIoT化のノウハウをもとに、新たなビジネス展開が実施される計画です。

デジタル発電所化の最新動向

JERAが実施するデジタル発電所化は、現在以下の施設で導入が予定されています。

デジタル発電所の導入範囲 対象の火力発電所エリア
デジタル発電所のみ導入 ・千葉県姉崎市
・神奈川県川崎市
・神奈川県横須賀市
・愛知県碧南市
・愛知県武豊市
デジタル発電所の導入およびデータ分析センターの導入 ・上記5エリア
・新潟県上越市
・千葉県千葉市
・千葉県富津市
・神奈川県横浜市
・愛知県新名古屋市
・福島県広野市
・茨城県常陸那珂市
・茨城県常陸那珂共同エリア
データ分析センターのみ導入 ・国内2ヵ所(他社)
・海外3ヵ所(他社)

導入済みのデジタル発電所では、すでに稼働率や熱効率の改善の効果が生まれています。
さらにはIoT化に伴う業務見直しにより、運用コストの削減も生まれている状況です。

デジタル発電所の今後の目標

JERAではデジタル発電所の実現後の目標として、自社発電所のデジタル発電所化を進めることに並行し、製造業といった電力を必要とする業界への外販を計画しています。

製造業の中には自社発電したエネルギーで生産を実施している企業も多く、今後エネルギー発電効率を高めるノウハウを提供するため、発電コストに悩む企業向けにリプレース需要を取り込んでいく予定です。

もしデジタル発電所といったDXの技術に興味をお持ちなら、オンラインセミナーで詳しく学んでみるのはいかがでしょうか。デジタル発電所を含めIoTやDXについて学べます。

JERAが掲げるデジタル発電所の2本柱

JERAは今回のデジタル発電所化を実施するにあたり、2本柱による発電所運用を検討しています。

どのようなポイントからデジタル発電所の運用成功を目指そうとしているのか、詳しく見ていきましょう。

アプリ開発によるデジタル発電所の管理を実現

JERAはデジタル発電所を安定的に稼働させるため、以下の目的を網羅できる自社開発アプリケーションの開発を進めています。

  • 情報収集
  • データ分析
  • 対応決定
  • 実行判断
  • データ評価

また、他にも合計20種類以上の目的に対応できるアプリを開発する予定です。
JERAのデジタル発電所を個別のシステムで複雑に管理するのではなく、ワンストップ対応できるようにJERAの事業に合うアプリの開発を急いでいます。

データ分析センターによる24時間監視

JERAでは、安全にデジタル発電所を運用するために、24時間体制で発電所を遠隔監視できるデータ分析センターを立ち上げる予定です。

デジタル発電所のデータ取得はAIやIoTの技術を活用しますが、すべての管理・運用を機械に任せるのではなく人間の手で24時間監視を実施します。データの取得や分析は新技術に任せ、最終判断を人力で実施することになると予想されます。

デジタル発電所の実現に必要な技術

デジタル発電所に必要な技術

今回紹介したJERAの動向からもわかるように、デジタル発電所化を実施するためには、新技術の導入等が欠かせません。

具体的にどのような技術を導入する必要があるのか、項目に分けて必要性と機能を紹介します。

IoT技術の導入

デジタル発電所に欠かせないのが、既存の設備などから情報を取得するIoT技術です。
IoT技術はアナログな設備等にも追加付与でき、機器の動きはもちろんセンサー等を通じて、次のようなデータを取得できます。

  • 機械の動作状況
  • 発電量・効率

24時間発電を続けるデジタル発電所では、設備の故障などが起きないように細心の注意を払わなければなりません。対してIoT技術を導入すれば、取得したデータをもとに機械の異常を検知できるほか、故障する前に対策できるのが魅力です。

AIによるデータ解析

IoT技術を活用する際には、莫大な情報を分析するためのAIの活用も必要となります。
IoTから取得したビッグデータを人間の目でチェックするのは不可能です。
一方AIの機械・深層学習を活用すれば、短時間で大量のデータを解析できるようになります。

またAIを活用しつづければ、自動で分析するポイント等を学習していくのが魅力です。
IoTの活用とセットで導入するケースが多いため、デジタル発電所に必要不可欠な要素であると覚えておきましょう。

基幹システム・運用システムの導入

デジタル発電所はもちろん、エネルギー企業にとって欠かせないのが、データを見える化する基幹システム・運用システムです。ここで注意すべきなのが、従来の運用システムではなくDXやデジタル化に対応できるシステムを導入することになります。

前述したAI・IoTと連携できることはもちろん、拡張性に優れるシステムを導入することにより、デジタル発電所の長期運用が可能です。ただし、エネルギー企業向けの運用システム等はニーズが限定されるため、自社開発がメインとなるでしょう。

どういった情報を取得すべきなのか、そしてデータをどのように分析するのかを詳しく検討し、自社に必要なシステムを検討することが欠かせません。

他にもDXに役立つ技術を知りたい方は、以下の記事がおすすめです。
国内企業が開発中のDXソリューションについて紹介しています。

データ可視化システムの開発がスタート!国内製造業を救うDXソリューションを紹介

デジタル発電所に期待される効果

デジタル発電所化による効果

既存のアナログな発電所からデジタル発電所に変わることで、大きな変化が生まれると期待されています。今後実現を目指している効果を3つのポイントに分けて整理しました。

発電コストの減少

デジタル発電所の運用により、発電のムダを改善していけば、自然と発電にかかるコストを抑えて少ない労力で大量の電力を生み出せるようになります。結果として、発電コストを大幅に節約でき、JERAから提供される電力の低価格化も可能となるでしょう。

またJERAが提供する外販により、製造業で自家発電のデジタル発電所化が成功すれば、製造業全体でも発電コストの削減につながると予想されます。

近年では海外情勢の影響を受けて、国内製造業のコストが増加し続けている状況です。
デジタル発電所化の普及が広がることにより、国内企業全体でのコストダウンが期待できるかもしれません。

人件費の削減

デジタル発電所の運用が本格化すれば、発電効率が向上することに伴い、人力による手間を必要最小限に抑えられます。エネルギー企業の運用コストの中で大きな割合を占めているのが人件費であるため、作業時間を短縮することで人件費の節約につながるでしょう。

さらに人件費を節約できるだけでなく、時間外労働時間の削減が可能となり、社内満足度の向上も期待できます。同様にJERAの外販によって製造業でも同様の効果が出るでしょう。

また今回のデジタル発電所化の発表をきっかけとして、エネルギー企業そして製造業で、生産性を高める良い結果を生み出せるかもしれません。

技術継承の簡易化

これまでエネルギー企業の技術員指導や技術継承には、度重なるセミナーや講習、実習といった機会を設けなければなりませんでした。一方、デジタル発電所化によって従業員の動きが見える化すれば、技術継承の手間を最小限に抑えられると期待されています。

例えば、センサーやカメラで熟練技術者の動きなどを記録しておけば、熟練技術者の動きをもとにした実習を開催できます。AIの技術などを駆使すれば、熟練技術者との動きの違いを抽出することも可能です。

IoT技術による情報の蓄積が進めば進むほど、人材育成の面でも良い効果が生まれていくと予想できます。

またデジタル発電所化や製造業において重要となるのが「ものづくり白書」に記載されている世界の動向です。詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。

ものづくり白書とは?生産・製造業界に求められるGX・DX

デジタル発電所についてまとめ

今回紹介したJERAのデジタル発電所の発表は、リアルタイムで進められている取り組みのひとつです。掲げられているアプリ開発・データ分析センターの設置という2本柱の中、着実にデジタル発電所の成果が生まれています。

実際に導入した発電所では稼働率・熱効率が改善し、コスト削減効果も生まれている状況です。
デジタル発電所の技術が業界全体に広まっていけば、国内エネルギー生産にも良い影響が生まれていくでしょう。

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