近年、建設や製造業では老朽化インフラや人材不足による保全業務の負担増加が課題となっています。そこで、人的作業に依存しない効率的なメンテナンスとして注目されているのが、IoTを活用したデジタル振動管理システムです。
本記事では、振動管理の具体的な手順、振動管理の重要性および導入によるメリットを解説します。人気の振動・騒音測定器も紹介するので、振動管理の改善を検討している企業の担当者の方はぜひ参考にしてください。
振動管理とは
振動管理とは、機械の状態を監視し、故障を未然に防ぐ技術です。
機械から発生する振動を常時モニタリングし、データを分析することで、異常を早期に検知し、設備の安定稼働に貢献します。
近年、建設業や製造業での人材不足が深刻化する中、人的負担を軽減する振動管理のデジタル化へのニーズが高まっています。このデジタル化の潮流は建設現場全体の工程にも広がり、ICT施工の普及にも大きく貢献しています。
ICT施工については、以下の記事で紹介しています。
ICT施工の必要性、および建設現場のデジタル化による生産性・品質向上への貢献について解説していますので、ぜひご一読ください。
振動の大きさとパラメータ
振動の大きさを評価する際には、主に「変位」「速度」「加速度」をパラメータとして解析します。これらのパラメータは、それぞれ異なる周波数帯域の振動を効果的に捉え、振動の大きさや激しさを定量的に評価できます。
以下では、それぞれのパラメータの測定対象周波数と測定に適した周波数帯域、そして具体的な振動例を表にまとめました。
パラメータ | 測定対象周波数 | 適した周波数帯域 | 具体例 |
変位 | 1Hz~200Hz | 低・中域周波数 | 洗濯機の振動 |
速度 | 10Hz~1kHz | 中域周波数 | 車のエンジンの振動 |
加速度 | 1kHz以上 | 高周波数 | ドアを強く締めた振動 |
振動を正確に評価するためには、これらのパラメータを適切に使い分けることが重要です。
振動管理に役立つのは振動計
上記のパラメータを適切に使い、振動の大きさの把握・管理に効果を発揮するのが振動計です。振動計は、主に以下の2種類があります。
接触式振動計
接触式振動計は、機械や構造物の表面に直接触れることで振動を検出する振動計です。
代表的なものには以下の3つがあります。
種類 | 特徴 | メリット | 測定できるもの |
圧電式 | 広範囲の周波数に対応 |
|
など |
動電式 | 耐久性・持久性が高い |
|
など |
サーボ式 | 高精度な計測が可能 |
|
など |
非接触式振動計
非接触式振動計は、対象物に直接触れずに振動を測定する振動計です。
主に以下の3種類があります。
種類 | 特徴 | メリット | 測定できるもの |
渦電流式 | 高精度な測定が可能 |
|
など |
静電容量式 | 微小な振動でも正確に測定 |
|
など |
光学式 | レーザーを用いて振動を計測 |
|
など |
振動管理を効果的に行うためには、用途に応じた振動計を利用することが重要です。
一般的に、接触式振動計は機械の回転部分や構造物の安定した表面など、耐久性が求められ、広範囲の周波数の振動を測定したい場面に用います。
非接触式振動計(特に光学式)は非接触を求められる繊細な対象物を測定する場合に活用されています。
建設現場における振動管理の重要性
振動管理の重要性は、主に建設現場や工場などで認識されています。
特に重要性が高いのは、「特定建設作業」に該当する建設作業です。
特定建設作業とは
特定建設作業とは、著しい騒音や振動を発生する建設工事のことです。
これらの作業が引き起こす騒音・振動は、周辺住民の健康や生活環境に悪影響を及ぼすため、1968年の騒音規制法および1976年の振動規制法により、厳格な規制が設けられました。
規制法施行後、苦情件数は減少傾向にあったものの、テレワークの普及や高層ビル建設ラッシュなどの社会環境の変化に伴い、近年再び苦情件数が増加傾向に転じています。
特定建設作業の規制基準値
振動規制基準は自治体によって異なりますが、通常75デシベル(dB)が基準値となっています。
75デジベルは、震度でいうと2.3、窓ガラスがガタガタ音を鳴らす程度の振動が該当します。
基準値や施工時間の規定を超えた現場は、過料や業務停止命令などの行政処分の対象です。
また、騒音・振動の低減措置などの改善命令が出されるケースもあるので必ず遵守しましょう。
特定建設作業については、以下の記事で解説しています。
具体的な法規制の内容についても記述しているので、特定建設作業の規制対象について確認したい事業所の方はぜひ参考にしてください。
振動対策は、周辺環境への配慮だけでなく、作業効率の向上や安全性の確保、機械設備の保全や故障の早期発見にもつながります。
振動管理は法的義務を超えて、安全性の確保や効率的な設備管理、品質向上に不可欠な要素でもあるのです。
製造現場で振動管理をするメリット
建設現場における振動管理の重要性が分かったところで、製造現場での必要性について気になる方もいるでしょう。そこで以下では、製造現場で振動管理をするメリットについて解説します。
- 突発的な故障防止
- 保全コストの削減
- 設備寿命の延長
メリット①突発的な故障防止
製造現場で振動管理をするメリットは、突発的な故障防止です。
適切な振動管理をすることにより、機器の突然の故障を防ぎ、生産ラインの停止による損失を大幅に削減します。
某企業では、携帯型振動計による定期点検で、年間の突発故障が21件から6件、さらに翌年には0件になったという事例も報告されました。
この事例からも、振動管理は予期せぬ生産停止を回避する有効な手段であることが分かります。
メリット②保全コストの削減
製造現場で振動管理をするメリットは、保全コストの削減です。
振動管理を導入することで、設備の状態をリアルタイムに把握し、最適なタイミングでメンテナンスを実施できます。
ある製造業では、携帯型振動計による簡易診断を実施した結果、年間保全費を200万円削減した事例が報告されました。過剰な点検や不要な部品交換を避け、目に見えないコストを削減できるのは、適切な振動管理の上に成り立っていることが分かります。
メリット③設備寿命の延長
製造現場で振動管理をするメリットは、設備寿命の延長も挙げられます。
振動管理は、設備の微細な異常を早期に検知するため、設備の急激な劣化を防ぎます。
振動による主な劣化は、機器の摺動部や回転部に生じる僅かなガタや偏心などです。
これらの異常を初期段階で改善することで、設備寿命の延長、ひいては更新サイクルの長期化や設備投資の最適化につながります。
参照:TTS
人気の振動測定器・騒音測定器
振動管理の重要性・メリットを知ると、次は「どのような振動測定器があるのか気になる」という方も多いかと思います。
そこで以下では、人気の振動測定器、騒音測定器を紹介します。
どちらも簡単に設置できるコンパクトサイズなので、手軽に騒音・振動管理システムを導入したい企業の担当者の方はぜひ参考にしてください。
揺れウォッチャー
揺れウォッチャーは、振動測定を簡単かつ効果的に行える最新型デジタル測定器です。
手のひらサイズのコンパクト設計、外部電源は不要。設置場所を選ばず、さらに複数箇所での同時測定も実現します。測定データ(周波数)を自動で解析してくれるので、振動の原因を迅速に特定できるのも魅力です。
さらに、設定した振動レベルを超えた場合、即座にアラートメールを送信。
作業者への注意喚起や迅速な対応ができるのも、揺れウォッチャ―の大きな特色です。
揺れウォッチャーは、手軽さと高機能を両立したコスト効率抜群の振動計測器です。
振動管理をより効率的かつ経済的に進めたい現場に最適なツールといえるでしょう。
項目 | 従来の測定器 | 揺れウォッチャ― |
サイズ | 大型 | 手のひらサイズ |
設置工事 | 必要 | 不要 |
外部電源 | 必要 | 不要 |
状況確認 | 手動でデータ取得 | リアルタイム確認 |
レンタル費用 | 高額 | 従来の約1/3 |
音ウォッチャー
音ウォッチャーは、コンパクトサイズの騒音測定器です。揺れウォッチャ―同様に外部電源不要なので、場所を問わず設置できます。
スマホでも簡単にデータを閲覧できるので、外出先からの騒音データチェックもスピーディ。
従来の測定器と比較して、レンタル費用が約半額というコスパの良さも魅力です。
振動測定器「揺れウォッチャー」との併用により、振動と騒音の同時監視を実現します。
問題の原因特定をさらに迅速化し、現場全体の安全管理と作業環境の改善に貢献してくれるおすすめツールです。
項目 | 従来の測定器 | 音ウォッチャー |
サイズ | 大型 | コンパクト |
外部電源 | 必要 | 不要 |
設置工事 | 必要 | 不要 |
状況確認 | 手動でデータ取得 | リアルタイム |
レンタル費用 | 高額 | 従来の約1/2 |
振動管理の手順
それでは最後に、振動管理の手順について解説します。
- 現状把握
- 準備
- 測定
- 結果の活用と改善
- 成果の可視化
振動管理の手順①現状把握
振動管理を始める前に、まず現状を正確に把握することが重要です。
後の改善効果を数値化し、具体的な目標を設定するためにも必ず実施しましょう。
チェックしておきたい具体的な項目は以下の通りです。
- 設備の重要度評価
- 設備の重要度評価に合わせた優先順位設定
- 既存の点検・メンテナンス費用の確認
- 年間の修理件数、費用を分析
設備の重要度評価は、設備が1時間故障した際のロスを算出してください。
各設備の生産への影響を金額で評価することが大切です。
また、年間の修理件数、費用を洗い出す際には、修理に要した時間や修理頻度もチェックしましょう。故障原因の特定や予防保全計画を策定するためには、データを詳細に収集することが大切です。
振動管理の手順②準備
現状把握が完了したら、振動管理の導入に向けた準備を始めます。
準備は、以下の3ステップで行ってください。
ステップ1. 設備の厳選
まずは、振動測定を行う設備を厳選します。
全ての設備を対象にする必要はなく、生産への影響が大きく、振動管理による改善効果が期待できる設備を選びましょう。この選定は、先に行なった設備の重要度評価の結果を参考にしてください。
ステップ2. 測定頻度の設定
次に、測定頻度を設定しましょう。
振動測定の頻度は、設備の状態や目的に応じて柔軟に設定することが重要です。
特に、初期段階では設備の挙動を詳細に把握するために、できる限り短期間で頻繁に測定を行うことが推奨されています。
ステップ3. 判定基準値の設定
最後に、異常と正常の境界線となる判定基準値を設定します。
ISO規格やJIS規格などを参考に、暫定的な基準値を定めたら準備は完了です。
振動管理の手順③測定
振動管理の準備が整ったら、いよいよ実際の振動測定を開始します。
振動測定は、準備段階で設定した測定頻度をもとに実施し、その都度データ収集を行います。
振動測定結果のデータは、異常検知のチェックや傾向分析に利用するため、正確かつ継続的に行うことが重要です。
異常検知が出た場合
測定データが事前に設定した基準値を超えた場合や、異常な変動が確認された場合は、以下の手順で対応します。
- 異常変動の推移を過去のグラフで確認
- 振動値を再度測定
- 異常値であるかを確認
- 異常の原因を特定
- 異常に対する処置
- 現場オペレーターとの情報共有
振動管理の手順④結果の活用と改善
振動管理の効果を最大限に引き出すためには、測定データを積極的に活用し、継続的な改善を行うことが重要です。
たとえば、異常検知後に処置を行った場合は、再度振動測定を行い、異常値の推移を観察しましょう。異常が再発する場合は再度分析を行い、さらなる改善策を検討する必要があります。
振動測定時には、異音や振動などの異常を人的に確認する習慣も付けてください。
振動管理は同じ頻度で行うため、オペレーターが経験を重ねるにつれ数値だけでは捉えられない微細な変化に気づくことがあります。
振動管理の手順⑤成果の可視化
振動管理の最終ステップは、振動管理の効果を可視化することです。
振動管理の効果を定量的に示し、関係者に共有することで、組織全体の理解と協力を促進し継続的な改善が目指せます。
可視化する主な成果項目は以下の通りです。
- 突発的な故障の発生件数は減少したか
- 生産機会の損失をどれだけ防止できたか
- 平均故障間隔(MTBF)はどのように変化したか
- 計画保全の実施回数は増えたか
- 保全にかかるコストは削減されたか
振動管理の効果を可視化することで、データに基づいた客観的な評価が実現します。
公正な視点での議論も可能になり、組織全体の理解促進にもつながっていくでしょう。
振動管理についてまとめ
建設現場や製造現場における振動管理をデジタル化することにより、生産性向上や品質改善などの大きなメリットをもたらします。
特に「特定建設作業」の場合は、規定基準を超過すると罰則の対象となるので、振動管理はもはや法的な義務といえるでしょう。
振動管理システムを初めて導入する場合、まずは使いやすさやコスパが気になるものです。
揺れウォッチャ―は、従来価格の1/3でレンタルできるお得な振動管理システムです。
コンパクトで設置も簡単なので、はじめて導入する場合も戸惑うことがありません。
揺れウォッチャ―と音ウォッチャーは併用することでさらなる効果を発揮します。
振動管理をより有効で確実なものにするためにも、ぜひ2つを組み合わせてご活用ください。
