「高性能なCAMソフトウェアと言われているESPRITとは?」「ESPRITはどんな企業におすすめ?」と疑問を持つ方も多いでしょう。ESPRITは世界中の製造現場で使われているCAMソフトウェアで、生産性向上や品質の安定性を実現できます。
本記事では、ESPRITの概要をはじめ、価格、基本的な機能や導入事例を踏まえて、最終的にESPRITの導入がおすすめな企業についても紹介します。
高性能CAMソフトウェアのESPRITとは?

出典:HEXAGON
ESPRITは、DP Technology社が開発したCAMソフトウェアで、現在はスウェーデンの計測・ソフトウェア大手Hexagonグループの製品として提供されています。1つのソフトで、
- マシニングセンタ
- NC旋盤
- 複合旋盤
- スイス式自動旋盤
- ワイヤー放電加工機
まで利用でき、幅広いCNC工作機械のNCプログラムを作成できるのがESPRITの特徴です。
近年はAIエンジンとデジタルツイン技術を搭載した「ESPRIT EDGE」へと進化しており、工作機械・工具・治具をパソコン上に丸ごと再現して、編集不要のGコードを出力できる次世代型CAMとして注目されています。
ESPRITの価格
結論からお伝えすると、ESPRITの価格は公式には公開されておらず、見積もりベースの「要問い合わせ」となっています。
開発元のHexagonや国内代理店も、Webサイト上に定価を掲載しておらず、ESPRITの価格詳細は問い合わせが必要と案内しています。なぜ価格が公開されていないのかというと、ESPRITはユーザーの環境に合わせて構成を組むソフトウェアだからです。
具体的には、次のような要素で総額が変わります。
- 使用する機能モジュール
- 保有する工作機械に合わせたポストプロセッサの数
- ライセンス数
- トレーニングや保守サポートの契約内容
そのため、比較検討の際はソフト単体の価格だけでなく、トレーニング費用や年間保守費まで含めた総コストで見積もりを取り、複数の代理店に相談するのがおすすめです。
そもそもCAMソフトとCADソフトの違いは?
CADとCAMは名前が似ているのでよく混同されますが、役割は異なります。ひとことで言えば、CADは「形を設計する」ためのソフト、CAMは「その形を実際に削り出すための加工プログラムを作る」ソフトです。
主な違いは以下の表をご覧ください。
| 比較項目 | CADソフト | CAMソフト |
|---|---|---|
| 役割 | 製品の形状を設計する | 加工用のNCプログラムを作る |
| 主な成果物 | 2D図面・3Dモデル | Gコード(NCデータ) |
| 使う場面 | 設計・開発工程 | 製造・加工工程 |
| 代表的なソフト | SolidWorks、CATIA、NXなど | ESPRIT、Mastercamなど |
CADで3Dモデルを作っただけでは、工作機械は1ミリも動きません。機械を動かすには、工具の動き・回転数・送り速度などを記述したNCプログラムが必要で、これを3Dモデルから効率よく作成するのがCAMの仕事です。
CAMの概要や選び方について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。
ESPRITの基本的な機能
ここからは、ESPRITの代表的な5つの機能を見ていきましょう。
- CADフィーチャ自動認識
- フルマシンシミュレーション
- 同時3軸ミル加工
- ワイヤーEDM機能
- 旋盤加工
①CADフィーチャ自動認識
ESPRITには、CADの3Dモデルから形状の特徴を自動で認識し、加工領域の抽出や工程の決定を自動化する機能があります。フィーチャ自動認識を使えば、認識した形状に対して最適な加工条件や工具条件まで自動で設定できるため、プログラミング作業を短縮できます。
さらに便利なのが設計変更への強さです。ESPRITは取り込んだ3Dモデルに変更が入っても、加工範囲やツールパスを再計算できるので、設計が直ったからプログラムを最初から作り直しという手戻りを避けられます。
②フルマシンシミュレーション
ESPRITは、工作機械本体・工具・ホルダー・治具・素材までをパソコン上に再現し、実機に近い環境で加工の動きを検証できるフルマシンシミュレーション機能を備えています。いわゆる「デジタルツイン」の考え方で、工具だけでなくホルダーまで含めた干渉チェックが行えるため、実機で削る前に衝突リスクを潰し込めるのが強みです。
また、ESPRITは加工定義のバックグラウンドで工程ごとのシミュレーション結果を計算しているため、確認したい工程だけを「前工程までの削り残し状態」からすぐにチェックできます。
③同時3軸ミル加工
同時3軸ミル加工は、X・Y・Zの3軸を同時に動かしながら曲面を削り出す加工方法で、金型や意匠面など滑らかな自由曲面が求められる部品には必要です。ESPRITの同時3軸加工では、CADのソリッドモデルを直接使ってツールパスを作成できるため、面データへの変換などの手間なく効率的にプログラムを組めます。
ESPRITは、加工パターンも用意されており、荒取りから仕上げまで一連の流れをカバーできます。割り出し後の同時3軸加工(3+2軸加工)にも対応しているので、5軸機で角度を割り出してから3軸で仕上げる、といった実務的な使い方もESPRITなら可能です。
④ワイヤーEDM機能
ワイヤーEDMは、細いワイヤー電極に電気を流して金属を溶かしながら切断する加工方法で、焼き入れ後の硬い材料や精密な抜き型の加工に使われます。ESPRITは2軸から5軸までのワイヤーEDMプログラミングに対応しており、ソリッドモデルから上下異形状の加工設定を簡単に行えます。
特徴的なのは、ワイヤー放電加工機のメーカーを指定すると、そのメーカーのコントローラと違和感のない操作感で加工条件を定義できる点です。ESPRITには、機械固有のノウハウがソフト側に組み込まれているため、夜間の無人運転を前提とした安定的な加工戦略も立てやすくなります。
⑤旋盤加工
旋盤加工はESPRITが特に高い評価を得ている領域です。2軸の汎用的なNC旋盤はもちろん、
- 最大22軸・5スピンドル5タレットの同時同期制御が必要な多軸旋盤
- スイス式自動旋盤
- マシニングと旋盤を1台でこなす複合旋盤
まで幅広く対応します。
1つの部品に対して「1次工程は旋盤加工、2次工程は同時3軸ミル加工」のような混在した工程を1つのプログラムとして扱えるため、ESPRITであれば、複合加工機の能力を最大限に引き出せます。
ESPRITを導入するメリット

次にESPRITを導入することで得られる3つのメリットを解説します。
- 迅速かつ正確なプログラム作成が可能
- 複数の加工を同一の操作画面で一元管理できる
- AIエンジンとデジタルツインで加工そのものを最適化できる
①迅速かつ正確なプログラム作成が可能
ESPRITを導入する1つ目のメリットは、NCプログラム作成のスピードと正確さです。ESPRITは工作機械メーカーとの連携によって開発された「検証済みポストプロセッサ」を提供しており、出力されるGコードは原則としてそのまま機械に流せる編集不要の品質を目指して作られています。
CAMから出したコードを手作業で修正する工程は、時間がかかるうえにヒューマンエラーの温床になりがちですが、ESPRITの導入でここを削減できる効果は大きいといえます。
②複数の加工を同一の操作画面で一元管理できる
2つ目のメリットは、マシニング・旋盤・ワイヤーEDMという性質の異なる加工を、ESPRITならすべて同じ操作画面で扱える点です。一般的に、加工の種類ごとに別々のCAMソフトを導入すると、その分費用がかかり、オペレーターがソフトごとの操作を覚え直す教育コストも発生します。
ESPRITなら1本のソフトであらゆるCNC工作機械に対応できるため、複数のCAMを併用する必要がありません。操作体系が統一されていることで、旋盤担当者がミル加工のプログラムを覚える、といった多能工化も進めやすくなります。
③AIエンジンとデジタルツインで加工そのものを最適化できる
3つ目のメリットは、プログラム作成の効率化にとどまらず、加工そのものの生産性を引き上げられる点です。最新のESPRITに搭載されたAIエンジンは、工作機械・工具・ワーク保持具のデジタルツインを活用し、
- 加工サイクル間の早送り移動を干渉なく自動生成
- 機械を変更した際にプログラムを新しい機械の能力に合わせて自動更新
できるなど、これまで熟練プログラマーが経験で行っていた判断を支援してくれます。
また、ESPRITは工具への負荷を監視しながら切削条件を最適化する機能「ProfitMilling」を搭載しており、サイクルタイムの削減が可能です。
ここまでESPRITの基本機能や特徴を解説しましたが、「難しそう」「使いこなせるかわからない」という方はCAD/CAM/CAEを1つのソフトに統合している「Autodesk Fusion」の導入がおすすめです。ただ、初心者にも使いやすいですが、操作に自信がない方は「Autodesk Fusion CAMセミナー講習」の受講を検討しましょう。
Autodesk Fusion CAMセミナー講習は加工機に合わせた加工方向の設定方法から、卓上切削加工機を使用して、多面加工ができるようになるまで短期間で学習が可能です。もちろん、ESPRITに関連したスキルやノウハウも学習できるため、まずは以下のリンクから詳細をチェックしてみてください。
| セミナー名 | Autodesk Fusion CAMセミナー講習 |
|---|---|
| 運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
| 価格(税込) | 58,300円〜 |
| 受講期間 | 2日間 |
| 受講形式 | 対面(東京) |
ESPRITの企業導入事例

次にESPRITを導入した企業事例を2つ紹介します。
- Arundel Machine Tool社|サイクルタイムを50%削減
- Forbidn社|MAZAK INTEGREXで複雑部品を4倍高速に加工
①Arundel Machine Tool社|サイクルタイムを50%削減
Arundel Machine Tool社は、国内でも特に要求の厳しい産業向けの部品加工を手がける受注生産型の企業です。工場には40台を超えるCNC工作機械が並んでおり、これだけの設備を回すうえでは効率がすべてであり、CAMソフトにも機械に見合った処理能力が求められていました。
そこでESPRITを導入し、同社は最先端の工作機械とESPRITによるCAMの最適化を組み合わせることで、加工のサイクルタイムを50%削減することに成功しています。
出典:HEXAGON
②Forbidn社|MAZAK INTEGREXで複雑部品を4倍高速に加工
Forbidn社の事例は、ヤマザキマザックの複合加工機「INTEGREX」とESPRITの組み合わせによって、複雑部品の生産スピードを4倍に高めたというものです。
同社の部品は形状が複雑で、複数のオペレーションをプログラムするのに多くの時間を要していたため、ESPRITのポストプロセッサが「編集不要のGコード」を出力できることが成功の決め手になっています。
出典:HEXAGON
ESPRITの導入がおすすめな企業

ここまでの内容を踏まえて、ESPRITの導入が特におすすめできる企業を3つのタイプに分けて解説します。ESPRITの導入を検討している方は参考にしてください。
- 複合加工機・多軸加工機の性能を最大限に引き出したい企業
- 多品種少量生産でプログラム作成・段取り時間を削減したい企業
①複合加工機・多軸加工機の性能を最大限に引き出したい企業
ESPRIT導入にまずおすすめしたいのが、複合旋盤やスイス式自動旋盤、同時5軸加工機といった高機能な工作機械をすでに保有している、あるいは導入を予定している企業です。
こうした機械は本体価格が高額なぶん、使いこなせるかどうかで投資対効果が変わります。ESPRITは最大22軸の同時同期制御に対応し、マザック、DMG森精機など主要メーカーと連携した検証済みポストプロセッサを備えているため、機械の能力を引き出すための土台がはじめから整っています。
②多品種少量生産でプログラム作成・段取り時間を削減したい企業
次にESPRIT導入がおすすめなのは、受注生産や試作を中心とした多品種少量生産の企業です。品種が多い現場では、加工そのものよりもプログラム作成と段取り替えに時間を取られがちで、ここを短縮できるかどうかが納期と利益率を左右します。
ESPRITはフィーチャ自動認識で、
- 工程の自動化
- 設計変更時のツールパス再計算
- 編集不要のGコード出力
といった機能で、プログラム作成のリードタイムを圧縮できます。
さまざまなCAMソフトを比較して、ESPRITの導入を検討したいという方は以下の記事でおすすめのCAMソフトを紹介しているので、あわせてご確認ください。
ESPRITについてのまとめ
ESPRITは、幅広いCNC工作機械に対応する高性能なCAMソフトウェアです。ESPRITを導入することで、NCプログラム作成の効率化だけでなく、干渉リスクの低減や加工時間の短縮、品質の安定化まで期待できます。
特に、複合加工機・多軸加工機の性能を十分に引き出したい企業や、多品種少量生産でプログラム作成・段取り時間を削減したい企業にESPRITは適しています。導入を検討する際は、自社の工作機械や加工内容との適合性、年間保守費まで含めて比較し、費用対効果を見極めることが重要です。