建築・土木でよく登場する「土留め」について、理解を深めたいと考えていないでしょうか。
しかし、種類や条件が豊富であるため、全容を把握しきれずにいる人も多いはずです。
そこでこの記事では、土留め工法に関する基礎知識や種類など、検討に必要な情報をわかりやすくまとめました。建築・土木の業務で検討が必要な方は、ぜひ参考にしてみてください。
土留めとは
土留め(どどめ)は、土砂が崩壊しないように対策する工法です。
読んで字のごとく「土を留める」という意味があります。
例えば、土を垂直に掘り進めるときには、重力の影響や位置作用、他にも滑りなどの影響を受け、土砂が掘削している方向へ流れ込むのが特徴です。
ただ、掘削施工をする際に土砂が流れ込むと、次のような問題が発生します。
- コンクリートを打設できない
- 養生中にコンクリートと土砂が混ざってしまう
- 土砂が作業員に覆い被さるおそれがある
上記の問題が起こると施工効率が落ちることはもちろん、人命にも影響します。
そのため土砂は、土留め工事で対策しなければなりません。
また土留めは施工中(仮設)のみならず、コンクリート壁などを設置して半永久的に土砂が移動しないようにする場合にも利用するのが特徴です。
土留め工法は、掘削・盛土が伴うほとんどの工事で登場するので、ぜひ土留めの全容を把握していきましょう。
土留めと擁壁との違い
土留めと擁壁は、それぞれの概念が異なります。
まず土留めは仮設構造物としての機能を持っており、掘削した法面や崖、盛土などが崩壊しないように対策する工法です。
一方で擁壁は、背面の土砂がすべらないように用いられる構造物を指します。擁壁工法と呼ばれる永久構造物としての役割があり、盛土・掘削された土砂が崩れないように保つ際に利用するのが特徴です。
つまり土留めは「工法」のことを指し、逆に擁壁は擁壁工法という分野における「構造物」のことを指すのが主な違いです。「土留め=擁壁」ではなく、永久構造物が必要になった場合のひとつの選択が擁壁だと覚えておきましょう。
土留めのメリット
土留めを実施するメリットは次の通りです。
- 土砂崩れを防止できる
- 防犯効果を期待できる
- 土地境界を明確にできる
まず土木工事などで土留めを実施すれば、施工中の土砂崩れを防止できます。
また、住宅地などの土留めは高低差をつくることにより防犯効果を期待できるほか、土留めのために設置した構造物で土地の境界を示すことができるため、土地トラブルを防止できます。
地盤や土地に関するトラブルを回避できるのが土留めです。
より詳しく土留めのメリットを知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
土木工事における土留めの種類
土木工事における土留めは大きく「土留め壁」「土留め掘削」という2種類に分類されます。
そのなかでもさまざまな工法が用いられるため、具体的な種類とその概要を整理しました。
土留め壁の種類
土留め壁とは、鋼材などの壁を設けて土砂が施工範囲内に流れ込まないようにする対策のことです。仮設の目的や土質条件に合わせて、次のような工法が用いられています。
土留め壁の工法 | 概要 | 主な利用箇所 |
親杭横矢板工法 | H鋼を等間隔のピッチで地中に挿入し、H鋼の隙間を木材等の横矢板で埋めて背面の土圧に対応する工法 | 比較的土留め高が低く、地下水の影響を受けない硬質な地盤 |
鋼矢板工法 | 凹凸状の鋼矢板を地中に埋め込んで背面の土圧に対応する工法 | 硬質~軟弱地盤に対応しており地下水の影響を受ける地盤にも適用可能 |
鋼管矢板工法 | 円柱状の鋼管矢板を並べて継ぎ合わせることにより背面の土圧に対応する工法 | 耐久性に優れる鋼管矢板を用いることから、土留め高があり、軟弱な地盤などに適用可能 |
地中連続壁工法 (ソイルセメント工法) (泥水固化工法) |
セメント溶液などを撹拌することで柱状の固化地盤をつくり、固化する前にH鋼を挿入して背面の土圧に対応する工法 | 仮設構造物としてだけではなく永久構造物としても兼用できることから橋梁基礎やトンネル工事などに適用可能 |
なお、紹介した工法は種類によって自立できる掘削深さや設置できる土質条件が異なります。
工法を選定する際には、国土交通省や各自治体が公開している基準書などを利用しつつ、適切な工法を選ばなければなりません。
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土留め掘削の種類
土留め掘削とは、法面を設けながら掘削して土留めをする対策のことです。
参考として、主な掘削工法をまとめました。
土留め掘削の工法 | 概要 | 主な利用箇所 |
のり切りオープンカット工法 | 土質の安定勾配に合わせてオープンカットで法面を設けながら掘削していく工法 | 法面を設けられる広さのある施工箇所であり、地下水の影響を受けにくい地盤で適用 |
土留め壁オープンカット | 掘削範囲内の周辺に土留め壁を打ち込み内側に法面を設けながら掘削していく工法 | 施工範囲の制約があり、オープンカットのみで対応できない場合に適用 |
アイランド工法 | あらかじめ掘削位置に構造物をつくって切ばりを斜め方向に張って支持しながら掘削していく工法 | 土留めのコストを抑えつつ土留め高さが浅い現場で適用 |
トレンチカット工法 | 掘削範囲の外周にトレンチ(溝)を掘削して構造物を構築する工法 | 構造物を土留めできる範囲が狭くあらかじめつくった構造物で土留めをしたい場合に適用 |
なお土留め掘削は法面を設けるため、前述した土留め壁よりも広範囲な施工ヤードが必要です。
住宅街やまわりに重要構造物などがある場合などには適用できないケースも少なくありません。
建築工事で用いられる土留めの種類
家を建てるときなど、建築工事のためにが造成が必要な場合には盛土部などに土留めとして、永久構造物を設置する場合があります。参考として、建築工事の土留め目的で利用される構造物の種類を整理しました。
土留めの種類 | 概要 |
コンクリート擁壁 | L型・逆T型擁壁など、鉄筋コンクリートで構成された擁壁を設置して、背面の土圧に対応する工法 |
ブロック積み・石積み擁壁 | ブロックや石材を積んで勾配のある壁を設ける工法 |
造成などに利用する擁壁などは、建築基準法に基づいて選定しなければなりません。
また、土留めの目的で擁壁を利用する場合には、安定計算などを実施して設置する構造物で土圧に対応できるのかを確認する必要があります。
土留め工法の選定条件
土留め工法には複数の種類があり、それぞれ適用できる条件などが大きく変化します。
そのなかでも現場条件に合う土留め工法を選び抜くために押さえておきたい条件をまとめました。
土留め高さによる対策の変化
土砂は掘削深さが大きくなるほど土圧・水圧の影響が強まるため、土留め高さに応じて次のような対策を施さなければなりません。
土留め高さ | 対策 |
浅い | 自立 |
深い | アンカー 切ばり |
特に掘削深さが大きくなった場合には、仮設構造物で掘削周辺を囲むのではなく、土圧や水圧がかかる方向に並行して鋼材などの支え(支保工)を設けるのが一般的です。
ただし土留め高さが浅い場合(鋼矢板Ⅲ型なら3m)には、支保工を設けずに自立で対応できます。なお、土留めの種類に合わせて条件が変化するので、安定計算などが必要です。
土質条件による土圧の変化
土留め工法は、背面(根入れ部は前面も)の土圧がどのように影響するのかを検討しなければなりません。
参考として、土圧の計算に用いる一般的な土の単位重量を以下にまとめました。
地盤 | 土質 | ゆるいもの | 密なもの |
自然地盤 | 砂・砂れき | 18 | 20 |
砂質土 | 17 | 19 | |
粘質土 | 14 | 18 | |
盛土地盤 | 砂・砂れき | 20 | |
砂質土 | 19 | ||
粘質土 | 18 |
例えば、単位体積重量が重い土質であるほど、受ける土圧が大きくなります。
また、自然地盤を掘削するのか、盛土をするのかで受領が変化する点にも注意が必要です。
なお、上表の単位体積重量はあくまで目安です。
実際の設計検討では地盤調査により判明した正しい土質条件をもとに計算をしなければならないため、調査会社から受け取った報告書や柱状図などを見ながら土圧の計算を実施しましょう。
また土留めの検討をする際には図面作成や計算ソフトなどが必要です。
設計ツールを探している方は、キャド研の無料相談窓口までお問い合わせください。
土留めをDIYする際にかかる費用相場
土留め工法は主に土木や建築工事の現場で用いられている仮設工法ですが、一般家庭のDIYとして家庭菜園や簡易造成のために土留めをする場合があります。参考として、自宅の造成などのために土留めをDIYする場合の材料費を以下にまとめました。
土留めに使う材料 | DIYの流れ | 費用相場 |
コンクリートブロック | コンクリートブロックを並べて鉄筋を差し込み、セメントで固定する | 1mあたり5,000円程度 |
重力式ブロック | 木材等で型枠をつくりコンクリートモルタルを流し込んで固定する | 1mあたり10,000~15,000円程度 |
間知ブロック擁壁 | ブロック擁壁を組み立てて固定する | 1mあたり20,000~30,000円程度 |
木材 | 支柱を打ち込み横向きに木材を差し込んでいく | 1m当たり1,000~2,000円程度 |
なお、上記の費用相場はすべて自身でDIYをした場合の目安であるため、そのほとんどが材料費で構成されています。また、材料の種類によってはホームセンターでは入手できず、専門の販売店でしか購入できない場合があることに注意してください。
また、DIYをする際には事前に設計検討をしなければサイズを間違えてしまうかもしれません。
キレイな土留め擁壁を設置したいなら、以下の記事を参考に、DIYに役立つCADソフトを探してみてください。
土留めについてまとめ
土留めとは、土砂崩れを防止するために欠かせない対策のひとつであり、法面を設けたり仮設構造物を設置したりすることで崩壊の危険性を回避できるようになります。
なお、土留めを検討する際には安定計算といた検討が欠かせません。
これから土木・建築業務のために検討をする予定の方は、種類を把握したうえで工法を選定していきましょう。
