企業のデジタル化が当たり前になりつつある近年、SAPをクラウドで運用する、という選択肢が現実味を帯びてきました。
しかし、そもそもクラウドSAPって何?オンプレミスと何が違うの?費用やセキュリティ面の不安もあるし、メリットだけじゃないはず、と感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、クラウドSAPの基本からメリット・デメリット、導入時の注意点や選び方を徹底解説します。
クラウドSAPとは

クラウドSAPとは、企業の会計や人事、販売管理などのコア業務を支えるSAP社のERPをクラウド環境で利用できるサービスのことです。
従来のオンプレミス型とは異なり、自社でサーバーを持たずにインターネット経由でシステムを運用できるため、導入のハードルがグッと下がっています。
クラウドERPでできることについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
クラウドSAPとオンプレミスSAPとの違い
近年では、導入や運用の柔軟さや初期コストの低さなどから、オンプレミスからクラウドへ移行する企業が増えています。しかし、何がどう変わるのか、どんな企業でも活用できるのか、と、疑問や不安を感じる方も少なくありません。
クラウドSAPとオンプレミスSAPとの違いは、以下の通りです。
| 導入方法 | コスト | 運用・保守 | インターネット | |
| クラウド | クラウドで提供 | 低い | ベンダー | 必須 |
| オンプレミス | 自社で構築 | 高い | 自社 | 必須ではない |
オンプレミスは、社内にサーバーを置いて自社で管理・運用する従来の形です。一方、クラウドSAPはインターネットを通じてサービスとして提供されるため、設備が要りません。
初期費用が抑えやすく、メンテナンスやアップデートもベンダーが行うため、負担を軽減できますが、カスタマイズの制限や常にネット接続が必須という特有の課題も存在します。そのため、どちらが優れているのかではなく、企業のニーズや業務内容に応じて合うか合わないかが分かれるところでしょう。
クラウドSAPを導入するメリット

クラウドSAPが注目されている背景には、従来では得られなかったいくつかのメリットがあります。以下で、クラウドSAPを導入するメリットを見ていきましょう。
導入コストが削減できる
先述したように、クラウドSAPの大きな魅力の一つが、初期導入コストの低さです。オンプレミスでは、自社サーバーやライセンス購入、設置や設定にかかる人件費など、導入の際に大きな負担が発生します。
一方クラウド型では、サブスクリプション型の料金体系が多く、導入コストのハードルがグッと下がっています。大規模なIT投資は難しいけどERPは導入したい、という企業にとって、手を出しやすいのです。
ビジネスの変化に柔軟に対応できる
ビジネス環境は常に変化しているからこそ、クラウドSAPの必要なときに必要な分だけ使えるという柔軟性は、価値が高いでしょう。新しい拠点の立ち上げや業務の拡張にも迅速に対応できるのは、クラウドSAPならではです。
リソースの追加や制約もなくほぼリアルタイムで対応できるため、システムがついてこられない、というジレンマも回避できます。特に、成長段階にある企業や、時期により業務量が変動する企業では、伸びしろのある運用が重宝するでしょう。
日々の運用を任せられる
オンプレミスでは、定期的なアップデートや不具合への対応など、多くのリソースをIT部門が担う必要がありました。しかし、クラウドSAPなら、このような作業の多くをベンダーが自動で行ってくれるため、社内で行う運用負担がグッと軽くなるのです。
そのため、気づいたらシステムが最新の状態に保たれており、セキュリティ面でも安心感があるという環境です。限られた人員で業務を行う企業にとっては、とても頼もしい存在でしょう。
最新技術を活用しやすい
クラウドSAPは、AIやIoTなどの最新テクノロジーとの連携がしやすいです。オンプレミスでは、最新技術を取り入れるたびにリニューアルが必要になることがありますが、クラウドSAPならアップデートが継続的に行われるため、常に最新の環境にいられるのが魅力です。
そのため、クラウドSAPの導入で、企業全体の進化スピードを底上げできる可能性があるでしょう。
セキュリティ対策をプロに任せられる
クラウドSAPのように大手が提供するサービスでは、セキュリティ面において高い基準が設けられています。例えば、以下のようなプロならではのセキュリティ対策を受けられるのが強みでしょう。
- 24時間365日の監視
- 脅威検知システム
- 最新の暗号化技術など
万が一のリスクに備え、外部の専門家に防衛力を任せることにより、本来の業務に集中できるでしょう。
クラウドSAP導入の注意点
便利で柔軟なクラウドSAPですが、すべての企業に合うわけではありません。クラウドSAP導入前に知っておきたい注意点を見ていきましょう。
できるカスタマイズに制限がある
クラウドSAPは、あらかじめ用意された機能を使って運用するシステムです。そのため、オンプレミスのように自社専用にカスタマイズして作り込むことが制限されることがあります。
ある程度の設定変更や拡張はできますが、ゼロからの作り込みには不向きです。特に、独自開発のワークフローを行ってきた企業は、クラウドSAPは思っていたよりも自由がきかない、と感じるシーンが出てくるかもしれません。
とはいえ、業務を見直す良いきっかけと捉える企業も少なくなく、導入前の条件確認が鍵となりそうです。
オンラインが前提になる
クラウドSAPは、オンラインでアクセスする仕組みのため、インターネット環境が安定していないと業務自体がストップする恐れがあります。特に、拠点が複数あり地域によって通信環境のばらつきがある場合には、その影響が見過ごせません。
例えば、急いで処理をしたいときに限って繋がらないということも考えられます。最近の回線は従来よりも安定傾向にありますが、万が一に備えたBCPや、余裕をもたせたネットワーク環境の検討は必要になるでしょう。
クラウドSAPを最大限に活かすには、インフラの整備も導入条件の一つと言えそうです。
ベンダーに任せ過ぎると他の道が見えにくくなる
クラウドSAPの導入後は、ベンダーがほとんどの管理や保守を行ってくれるため、運用を任せることが基本になります。大きなメリットとなるものの、その快適さに慣れすぎてしまうと、気づかないうちに他の選択肢を検討する視点が持ちにくくなることも。
クラウドSAPをずっと使う前提で設計することは大切ですが、いつでも他の選択肢を選ぶことができるか、という視点も忘れずに持っておくことがリスク回避に繋がるでしょう。
セキュリティ対策を丸投げすれば良いわけではない
クラウドSAPのセキュリティはハイレベルとはいえ、ベンダーに任せておけば絶対に安心というわけではありません。例えば、ユーザーごとのアクセス権限や2段階認証の導入、内部不正に対する対策など、自社で考えなければならないセキュリティ対策も存在します。
また、クラウドならではのサイバー攻撃リスクの可能性も考えられるため、利用する側にもある程度のリテラシーが求められます。そのため、事前のセキュリティ方針とルールの整理が欠かせません。
サイバー犯罪から身を守る対策については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
移行するにはいくつかのハードルがある
クラウドSAPへの移行は、ただシステムを切り替えるだけでは済みません。現行業務との整合性、データの移行手順、社内メンバーの理解や習熟度など、移行プロセスにはいくつもの見えない壁が存在します。
特に、これまで独自にカスタマイズしてきた業務フローをクラウドに合わせるには、相応の業務見直しが必要になる場合も少なくありません。想定より時間がかかった、一部の機能が移行後に使いにくくなったなど、移行時に発生しがちなつまずきも多いため、事前の綿密な準備と段階的な導入計画が重要です。
移行は、導入のスタートラインでもあることを忘れずにいたいところです。
クラウドSAPの導入ステップ

クラウドSAPを自社に合った形で活用するには、導入までの各ステップをしっかり踏みながら、段階的に進めることが重要なのです。以下で、クラウドSAPの導入ステップを解説します。
①現状と理想のギャップを明確にする
クラウドSAP導入の第一歩は、自社の業務やシステム環境をしっかり見つめ直すことです。どの部署がどんな業務で何を使っているのか、課題はどこにあるのかを洗い出し、クラウドで解決したいことを明確にしていきます。
ここが曖昧なままだと、後で思っていたのと違くなりがちです。また、クラウドSAPの標準機能だけではまかなえない場合も。
その際は、追加開発が必要になるため、現状分析と条件定義は欠かせないのです。
②自社に合ったクラウドプロバイダーを選ぶ
クラウドSAPを導入する際には、SAPをどのクラウド環境で稼働させるかを選ぶ必要があります。代表的なクラウド環境には、Microsoft Azure、AWS(Amazon Web Services)、Google Cloudなどがありますが、それぞれ以下のように特性が異なります。
| 特徴 | |
| Microsoft Azure |
|
| AWS |
|
| Google Cloud |
|
例えば、すでに他の業務システムをクラウドで運用している場合は、その延長で統一するのが効率的かもしれません。一方、新しく導入するのであれば、将来拡張するかどうかや連携のしやすさも選ぶ時のポイントになります。
スムーズにクラウドSAPを運用するには、自社の運用体制に合ったクラウドを選ぶことが大切です。
③導入プランを立てる
クラウドSAPの導入は、一度きりのイベントではなく変化していくものです。だからこそ、いつ・誰が・何を担当するのかを明確にした導入プランが欠かせません。
そのため、プランを甘く見積もってしまうと、途中で予定が崩れたり、業務が止まったりといったトラブルの原因になりかねません。そのため、調整や従業員への教育期間も含めて、現実的なスケジュールとリソースの割り当てを設定することが重要です。
また、関係者間の認識をすり合わせておくことで、迷いやブレも減らすことができるでしょう。
④システムの構築とデータを移行する
導入プランが整ったら、実際のシステム構築とデータ移行の段階に移ります。プラン通りにSAPの環境を構築し、既存システムから必要なデータを移す作業が中心です。
ここで重要なのは、データの精度と一貫性です。移行する時にミスが生じると後の業務トラブルに繋がるため、ダブルチェックや事前テストなどの検証が欠かせません。
また、移行と同時に業務フローを再構築する場合も多く、社内との連携がより厳しく求められる時期でもあります。見えにくい部分にこそ丁寧さがポイントになります。
⑤テストの実行と運用する準備を行う
システムが完成しても、すぐに稼働させるのは時期尚早です。動作テストとユーザー目線での使い勝手を確認しましょう。設定ミスや想定外のエラーが見つかることも少なくないため、想定通りの動作を確認することがとても重要です。
また、操作マニュアルの作成や従業員研修の実施など、ユーザーの視点に立った運用準備も欠かせません。クラウドSAPの機能を最大限に活かすには、導入前の準備にどれだけ力を注げるかが大切なのです。
⑥本格的に稼働する
テストを終えたら、いよいよ本番環境での稼働です。ただし、本格稼働はゴールではなく、クラウドSAPとの付き合いが始まるタイミングです。そのため、稼働直後は小さな不具合や現場からの問い合わせが集中しがちです。
専用のサポート体制を整えておくことで、安定した運用ができるでしょう。また、定期的なアップデートやセキュリティ強化も欠かせません。導入後も継続的にクラウドSAPを育てていく姿勢が、真の能力を引き出すための鍵になるでしょう。
クラウドSAPの選び方

ここでは、自社に最適なクラウドSAPを選ぶためのポイントを見ていきましょう。
自社の要件に合っているか
業種や規模、既存の業務内容によって必要な機能や運用の形は異なります。例えば、販売管理が中心の企業と、製造業で在庫や工程管理が複雑な企業とでは、求めるSAPの機能は全く違います。
そのため、導入してから考えるのではなく、事前に自社の優先事項や妥協できないポイントを洗い出し、それに合うSAPサービスを比較することが重要です。導入後に無理なく日常に溶け込むシステムを選ぶことが成功の鍵になります。
SLAの確認を行う
SLAは、提供サービスの稼働率やサポート体制、障害対応時間などを明確化した品質保証です。クラウドSAPでは、ベンダーごとにこの内容が異なるため、導入前にしっかりと確認しておくことが重要です。
また、トラブル時の対応時間や返金ポリシーなど、実際のトラブル時の対応をしっかり見ておくことで、後悔のない選択ができます。導入を急いでしまい、契約内容の確認を後回しにしてしまうと、万が一のときに泣きを見ることもあるでしょう。
セキュリティ対策を確認する
クラウドサービスのセキュリティは年々強化されていますが、それでも提供元によって対策レベルや方針にばらつきがあるものです。そのため、データ暗号化の方式やアクセス制御の仕組み、2段階認証の有無、バックアップ体制など、細かい点まで確認しておくことが重要です。
また、国や地域によって適用される法律やガイドラインも異なるため、自社が扱うデータの質によっては、ISO/IEC 27001などのセキュリティ基準も要チェックです。見えにくい部分だからこそ、慎重に確認しておきましょう。
サポート体制を確認する
クラウドSAPを導入すると、日々の運用でどのように対応したらいいのか分からない、という場面が必ず出てきます。そんな時、迅速かつ的確なサポート体制があるかどうかは、安心して運用を続けるうえで欠かせません。
電話やチャットなどの問い合わせ方法や対応可能時間、日本語でのサポート可否、緊急時のトラブル対応フローは、事前に確認しておきたいポイントです。また、サポート担当者の知識レベルや対応履歴の可視化などの質も、選ぶ基準に入れておくと後悔しないでしょう。
長く継続できる
クラウドSAPのコストは初期費用が抑えられるものの、月額料金や追加オプションなど継続的にかかる費用があるため、先行きを見ることが重要です。サービスによっては、サポート費用やストレージ容量、アップグレード費用などが基本料金に含まれていないこともあるため、導入前に総合的なコストを見積もることが重要です。
また、企業の成長や拠点の増加に伴い、将来的にかかるコストも想定しておくと安心です。自社の業務に合ったプランで、無理なく長く使えるかを基準にすることが、失敗しない選び方に繋がるのです。
まとめ
今回は、クラウドSAPの基本からメリット・デメリット、導入時の注意点や選び方を徹底解説しました。クラウドSAPは、ただのITツールの置き換えではなく、企業全体の状況を見直すきっかけを与えてくれる存在です。
導入には注意点もありますが、正しく選び、段階的に導入していけば、業務の効率化だけでなく、組織の柔軟性や判断力も底上げしてくれるでしょう。うちにはまだ早いかも、と思う前に、自社の課題や未来像と向き合い、クラウドSAPを真剣に検討してみる価値はあるはずです。
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