アメリカ合衆国で制定されたCHIPS法は、国内の半導体産業を振興させることを目的とした法律です。
バイデン政権はトランプ政権が政権を握る前に、CHIPS法で計上された資金を、より多くの半導体メーカーに配分しようと急いでいました。
次期トランプ政権が再びアメリカ半導体業界に新たな投資の波を引き寄せる可能性があったためです。
トランプ政権が再び政権を握った現在、新たな投資が誘致される可能性があるとされています。
今回は、CHIPS法が導入された背景や法案を急いだ理由、CHIPS法が国内メーカーにもたらす影響を詳しく解説します。
CHIPS法とは

CHIPS法は、アメリカ国内の半導体産業を強化するための政策です。この法案は、トランプ前政権時代、国防授権法の一部として成立し、アメリカ国内での半導体製造に対する連邦政府からの資金援助が認められることとなりました。
半導体の製造をアメリカ国内に戻し、半導体に関する研究開発を促進することを目的としています。
具体的には、アメリカ政府は半導体企業に対して500億ドル以上の補助金を支給し、最先端のロジックチップやメモリチップの製造、既存チップの新たな製造能力の強化、新しい半導体材料の開発など、幅広い分野に投資します。
また、半導体の製造拠点となる施設の建設にも力を入れており、アメリカ国内における半導体サプライチェーンを強化し、半導体産業の雇用創出にも貢献しています。
半導体については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
CHIPS法とCHIPSプラス法の違い
CHIPS法の他にCHIPSプラス法があります。いずれもアメリカ国内の半導体産業を強化することを目的とした法律ですが、その内容にはいくつかの違いがあります。
CHIPS法は、半導体製造の強化に焦点を当て、国内での製造能力の拡大を後押しすることを目的としています。
一方、CHIPSプラス法は、CHIPS法をさらに発展させ、半導体サプライチェーン全体の強化や研究開発への投資、人材育成までを視野に入れた包括的な法律です。
| CHIPS法 | アメリカ国内における半導体産業の振興を目的とした法律 |
| CHIPSプラス法 | CHIPS法を具体化し具体的な支援策を盛り込んだ法律 |
これらの法律によって、アメリカは半導体製造における自国の地位を確立し、半導体分野におけるリーダーシップを維持することを目指しています。
CHIPS法が導入された背景

かつて、半導体はアメリカが技術をリードし、世界シェアの37%を占めるなど、圧倒的な存在感を示していました。
しかし、時代は流れ、日本や韓国、台湾などのアジア諸国が半導体製造において大きく成長し、アメリカのシェアは相対的に低下したのです。
このような状況下で、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行とそれに伴う経済活動の停滞、急速な回復が重なり、世界的に半導体不足が深刻化し、自動車産業をはじめとする多くの産業で半導体の供給が滞り、生産に大きな影響が出ました。
この半導体不足は、アメリカが長年にわたって半導体製造を海外に依存してきた結果、自国の産業が海外の供給状況に大きく左右されるという脆さを露呈したためです。
このような危機感を背景に、アメリカ政府は自国の半導体産業を振興し、サプライチェーンの安定化を図るため、CHIPS法を制定したのです。
CHIPS法案を急いだ理由
米国のCHIPS法がなぜ今、これほど急ピッチで進められていたのでしょうか。その背景には、米中間の半導体覇権争いが深く関わっています。
中国は、習近平国家主席が巨額投資を宣言するなど、半導体産業の育成に力を入れており、アメリカにとって強力な競争相手となっています。
CHIPS法に盛り込まれた中国への投資制限は、こうした中国の台頭をけん制し、自国の半導体産業を保護育成するための措置と言えるでしょう。
CHIPS法は、半導体産業の振興を図るだけでなく、米中間の技術覇権争いにおける重要な一局面を担っており、アメリカは、この法案を通じて、先端技術分野における中国の影響力を抑制し、自国の優位性を維持しようとしているのです。
しかし、中国市場は巨大であり、その市場から撤退することは大きな損失につながる可能性があります。
CHIPS法の補助金は魅力的ですが、中国との関係を断絶するリスクを伴うため、企業は苦渋の決断を迫られているのです。
一方、中国も米国の動きに対抗し、さらに大規模な投資計画を検討していると言われており、半導体産業を巡る米中の争いは、ますます激化することが予想されます。
CHIPS法が国内メーカーにもたらす影響
米国が推進するCHIPS法は、国内半導体産業の振興を目的としていますが、その補助金には取引先や従業員に対して、以下の制限が課される「ガードレール条項」と呼ばれる企業が重要技術を保護するための契約条項が課せられています。
| ガードレール条項における制限 | 内容 |
| 重要技術に関わる人員の制限 | 機密情報の漏洩リスクを最小限に抑えるため、必要最低限の人員でプロジェクトを進める |
| 技術流出防止のための誓約 | 従業員の退職時や取引先にも企業の技術を持ち出さないという秘密保持契約を締結する |
| 米国半導体産業の競争力保護のための制限 | 中国における最先端の半導体製造への投資を10年間禁止する |
半導体製造への投資制限は特に、韓国の半導体大手であるサムスン電子とSKハイニックスに大きな影響を与えており、中国にある大規模な半導体工場で生産されるメモリは、世界市場において大きなシェアを占めています。
CHIPS法の補助金を受け取るためには、これらの中国工場への投資を停止せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。
一方、国内メーカーにはどのような影響があるのでしょうか。日本の装置や材料メーカーにCHIPS法がもたらす影響を詳しく解説します。
半導体受託製造に取り組む主要メーカーについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がある
米国への半導体工場建設が活発化する中、日本の装置や材料メーカーにとっては、新たなビジネスチャンスが生まれます。
補助金を受け取った場合は、サムスン電子の受託生産に伴い、周辺に新たな拠点を構える装置メーカーが増えると予想されています。
また、米国に材料工場を建設する動きも活発化し、日本の材料メーカーにとっても米国市場でのシェア拡大が期待できるでしょう。
ビジネスが縮小する可能性がある
先述したCHIPS法のガードレールにより、サムスン電子やSKハイニックスは中国での先端メモリ工場への投資を制限されることになります。
中国が世界最大の半導体製造装置市場であることを考えると、日本の装置メーカーにとって大きな痛手となるでしょう。
これまで、日本の装置メーカーは中国市場で高いシェアを確保してきましたが、この規制により、そのビジネスが大幅に縮小する可能性があります。
また、日本の材料メーカーは、中国のメモリ工場に多くの製品を供給してきたため、中国でのメモリ工場の新増設が制限されることで、日本の材料メーカーのビジネスも連鎖的に悪影響を受けることが懸念されます。
メモリ工場に大きなダメージが出る可能性がある
米国による中国への制裁が強化される中、サムスン電子とSKグループは、中国市場とのバランスをどのように取るべきかという難しい判断を迫られています。
万が一、補助金を受け取らない場合、中国のメモリ工場への投資を抑制せざるを得ない状況に追い込まれるかもしれません。
CHIPS法の補助金を受け取らない場合は、サムスン電子やSKグループだけでなく、グローバルな半導体市場全体に大きな影響を与える可能性も考えられるのです。
CHIPS法における課題

CHIPS法は、アメリカの半導体製造シェアを大幅に拡大し、国内産業の競争力強化を目指し、2030年までにアメリカの半導体製造シェアを引き上げることを目標としています。
しかし、この目標達成には、以下のような課題が存在します。
- 最新の製造技術や労働力の育成不足
- プロジェクトで遅延が発生している
以下で、CHIPS法における課題を詳しく解説します。
最新の製造技術や労働力の育成不足
最先端の半導体工場の建設には、数年単位の長期的な準備期間が必要となります。特に、製造工程の微細化が進む中で、設備の調整や生産歩留まりの向上には、高度な専門知識とスキルを持つ人材が欠かせません。
しかし、アメリカでは、これらの技術を持つ労働者の数が十分に確保できていない状況です。アメリカの半導体工場の従業員数を大幅に増やす必要があるものの、人員増に対応するためには、大規模な教育・訓練プログラムの整備が急務です。
半導体製造に関する専門知識や技術を習得できる教育機関の拡充や、実務経験豊富な人材の育成が求められます。
人材育成の遅れは、半導体製造能力の向上を阻み、アメリカの技術覇権を揺るがしかねない深刻な問題と言えるでしょう。
プロジェクトで遅延が発生している
CHIPS法の施行を受け、Intelをはじめとする多くの企業が新たな半導体工場の建設に乗り出しましたが、当初の計画から大幅な遅延が発生しているのが現状です。
例えば、Intelはオハイオ州に建設中の工場の完成時期を2026年まで遅らせることを発表しました。この遅延は、半導体業界全体のサプライチェーンの混乱や、建設コストの上昇といった様々な要因が複合的に影響していると考えられます。
また、CHIPS法で提供される資金は、巨額の投資が必要となる半導体工場の建設費用を全て賄うものではありません。
企業は、政府からの助成金に加えて、自社でも多額の資金を調達する必要があり、資金力に乏しい中小企業にとっては、この追加的な投資が大きな負担となり、プロジェクトの進行を遅らせる要因の一つとなっているのです。
CHIPS法による半導体生産の動向に注目しよう
今回は、CHIPS法が導入された背景や法案を急いでいだ理由、CHIPS法が国内メーカーにもたらす影響を解説しました。
CHIPS法は、アメリカの半導体産業の国内回帰を促し、その競争力を強化するための政策として注目を集めています。
しかし、この法案の実現に向けては、多くの課題が浮上しており、当初の期待とは異なる状況も生まれています。
半導体メーカーをはじめとする関連企業は、CHIPS法による巨額の投資を背景に、国内での生産能力拡大を目指しています。
しかし、高騰する原材料費や急激な金利上昇などがこれらの企業を苦しめています。また、高度な半導体製造に必要な熟練工の不足も深刻な問題となっており、多くのプロジェクトが当初の計画から遅延しているのが現状です。
CHIPS法はアメリカの半導体産業の再生に不可欠な一歩ですが、その効果を最大限に引き出すためには、企業だけでなく政府も協力して、これらの課題を克服していく必要があるのです。
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