3D CADソフト『Fusion 360(フュージョン・スリーシックスティ)』の活用事例を紹介するこちらのコーナー。
第20回は、Fusion 360を活用してパーソナルモビリティや、人の動きに反応して動く照明器具であるスマートライトなどの製作に取り組み、さらに、まるで魔法のような世界も”実装”してしまった、ものづくりの有志団体「MONO Creator’s Lab」の小林竜太氏にお話を伺いました。
独力で作ったパーソナルモビリティ「Amper」
MONO Creator’s Labは、某自動車メーカー社内で開催された「ものづくりコンテスト」をきっかけに誕生した、同社の社員有志によるものづくり集団です。
現在、中心になって活動しているメンバーはおよそ5~6人で、就業後の夜や、土日などの会社が休みの日にものづくりに励んでいます。
現在の活動内容は主に、コンテストに出品する作品の製作や、Maker Faire Tokyoのようなイベントへの出展など。
小林氏は、そのMONO Creator’s Labの中核メンバーの一人として活躍されていますが、実はMONO Creator’s Lab誕生以前に、独力で一人乗り用の立ち乗り型パーソナルモビリティ「Amper」を開発し、Maker Faire Tokyo 2017に出展した経験があります。
Amperを作ることになった経緯を、小林氏は次のように語りました。
不思議に思ってその理由を周囲の人に聞いてみると、『乗り物を作るにはお金がかかる』とか『難しそう』という理由を挙げる人が多かったのですね。
そこで、そうしたイメージを払拭し、個人でも安く簡単に乗り物を作れることを証明したいと思って、Amperを製作することにしました。
ところで小林氏が感じる「パーソナルモビリティ」の魅力はどのようなところにあるのでしょうか。
大きさそのものもクルマよりもはるかに小さいので、狭い場所でも問題なく、ほぼ自分が行きたい所にスイスイ移動できます。
そしてまた、Fusion 360に出会ったことも、Amperを作るきっかけになったそうです。
それで『これを使って何か作ってみたい!』と思ったのです。
そこで思いついたのが、安価に作れるパーソナルモビリティ「Amper」でした。
モーターとそれを動かすモーターアンプは高価なので、モーター1個で実現したことが最大の工夫だと思っています。
製作コストも5万円くらいで済みました。
小林氏が独力で作り上げた「Amper」
Amperの乗車イメージ。モーター1個で自由自在に移動できる
Amperは、小林氏がFusion 360を使って製作した最初の作品
魔法使いの世界を実現したext-broom
続いて、MONO Creator’s Labに参画した小林氏が仲間とともに製作したのが、ホウキの形をしたパーソナルモビリティ「ext-broom」です。
ちなみに、この作品は、社内のアイデアコンテストに出展したものが原型となっているとのこと。
そして小林氏は、有名な魔法使いの映画に登場する、空飛ぶホウキに乗ってボールを追いかける競技の実現を目指すことになったのです。
リアルの世界には、テクノロジーでスポーツを再発明するという『超人スポーツ』という競技がありますが、そのような、まだ誰も体験したことのないような競技をext-broomで実現したいと思いました。
ただ1台だけでは、動き回ることはできても競技はできないので、2台作らなければならなくて、そこにちょっと苦労しましたね。
それから、ホウキを作るのも大変でした。
レーザーカッターでヒノキを切断して作ったのですが、昔ながらのホウキの持ついい意味での古くささとテクノロジーを駆使している近未来的な雰囲気を、どう両立させるのかが課題でした。
ext-broomは、まさにホウキのような形です。
そして、両足にインラインスケートをはき、またがるように乗って操縦するのですが、インラインスケートが苦手な人のために、座って乗れる補助輪も製作しました。
またこの競技を再現するには、ホウキだけではなく空を飛び回る球も必要ですが、こちらはドローンとディープラーニングによって実現しています。
ドローンにはカメラが2台搭載されています。
そしてディープラーニングによって、正面のカメラで人を認識したら人から逃げる方向へ飛ぶようにプログラミングされています。
またもう一つの下向きのカメラを使って、コートの枠線を認識し、その枠内から外に出ないように制御しています。
さすが人間が空を飛ぶことはできませんが(笑)、かなり魔法使いの世界観を実装できているのではないかと思います。
ext-broomの外観。2台製作された
ext-broomの乗車イメージ。足にはインラインスケートを装着する
インラインスケートが苦手な人のために座って乗れる補助輪を製作した
空飛ぶ球の役割をするドローンも製作。ディープラーニングにより人を識別し、人から逃げるように飛ぶ
ext-broomもFusion 360を使って設計されている。これはFusion 360によるレンダリング画像
人の動きや顔を認識して動くスマートライト「AKARI」
そして、MONO Creator’s Labの最新作品が、人の動きに反応する照明器具であるスマートライト「AKARI」です。
これは、半導体メーカーNVIDIAが主催するJetsonコンテストに出品するために作られました。
AKARIは、人の顔や動作を認識して、それに合わせて動いたり、踊ったりすることができますが、サーボモーターを使った小型ロボットを作るのは小林氏にとっても初めての経験であり、複雑な動きを実現するには苦労したそうです。
スマートライト「AKARI」。3つのサーボモーターを搭載している
Fusion 360の干渉チェック機能などを活用してAKARIが設計された
Fusion 360のクラウド機能を便利に活用
小林氏はFusion 360を使い始めて1年半ほどになりますが、機能には十分満足しているそうです。
また、Fusion 360はクラウドでデータ管理を行っていますが、それがとても便利だと思いました。
MONO Creator’s Labのメンバーで共有できますし、モデルのバージョン管理もミスが発生しにくいと思います。
さらに、WindowsとMacのOS間の問題もありませんし、スマホアプリでもFusion 360のビューアが用意されているので、出先で誰かに作品の説明をするときでも、3Dモデルを見せることができるのでとても便利です。
ハッカソンに取り組む小林氏
小林氏は、今後は今までの作品のブラッシュアップをやってみたいと語りました。
ですから今後は、Fusion 360を使ってそれらの進化版みたいなものを作ってみたいです。
あと強度ですね。
自動車会社の人間なので、そういった面にこだわってものづくりに取り組んでいきたいと思います。