3D CADソフト『Fusion 360』(フュージョン・スリーシックスティ)の活用事例を紹介するこちらのコーナー。第15回目は、Fusion 360を活用して、変形する「可変金物」を製作されている金属造形作家の坪島悠貴氏に、お話を伺いました。
自由な形を作れる金属に惹かれ、金属造形作家を目指す
坪島氏は、卵がペンギンに変形したり、毬がクラゲに変形したりする、ユニークで美しい「可変金物」の製作者として有名な金属造形作家です。坪島氏は、大学で工芸工業デザインを専攻しましたが、そのときに木工やガラス、金属などさまざまな素材に触れました。その中で、金属が一番自由な形を作れるということがわかり、金属造形作家を目指すことにしたそうです。
「例えば、カーデザインなら、自分の作りたいものというよりは、課題にそったもの、最終的にはお客様の要望に沿ったものをデザインするというのが最終目的ですし、ガラスだと、ガラスの性質上、作れる形に制限が出たりします。金属が個人でも一番自由に形を作れることがわかったので、金工の道に進みました。」(坪島氏)
可変龍蜂(カヘンリュウホウ)
変形ロボットから可変金物というコンセプトを思いつく
坪島氏は、大学を卒業後、打ち出しという技法を使った金属造形作品の制作を始めました。小さい頃から、変形ロボット玩具「トランスフォーマー」が好きだった坪島氏は、2014年に、それまでになかった可変する金工作品というコンセプトを思いつき、「可変金物」の制作に取り組みました。当初は3D CADを使わずに、スケッチを描いて変形機構を考え、手作業でパーツを作っていました。しかし、手作業ではパーツ1つを作るにも1週間くらいかかります。そこで坪島氏は、自身が出展する個展に間に合わせるために、3D CADと3Dプリンターを使うことを決意しました。
当初はこのようにすべて手作業でパーツを作っていた
関節可動のシミュレーションができるFusion 360を導入
坪島氏は、いくつかの3D CADを試して、Fusion 360を選びました。関節可動のシミュレーションができることが決め手になったそうです。
「内部機構の設計にどうしても関節可動のシミュレーションが必要だったのですが、無料で使える3D CADで唯一それができたのがFusion 360でした。当時は英語版のみで日本語版がリリースされていなかったのですが、使い方が説明されているサイトなどを見て独学で習得しました。」(坪島氏)
最初は機構設計のみFusion 360を使うつもりだったそうですが、スカルプトモデリングの面白さに惹かれ、今では設計のほとんどすべてをFusion 360で行っています。
「基本的にはスカルプトで外側を全部作っています。また、内部機構はスケッチの押し出しで作り、アセンブリ機能を使ってその動きをシミュレーションしています。」(坪島氏)
Fusion 360のスカルプト機能を利用して、ボディを設計する
Fusion 360のアセンブリ機能を利用して、関節可動のシミュレーションを行う
可変猛禽虫(カヘンモウキンチュウ) 。Fusion 360のレンダリング機能を利用して、レンダリングしたもの
Fusion 360と3Dプリンターによってより複雑な可変機構が可能に
Fusion 360を使い始める前は、紙に設計図を書き、それをトレーシングペーパーで写し取って変形のシミュレーションをしていたそうですが、Fusion 360の導入によって、3次元的なパーツの動きもシミュレーションできるようになり、より複雑な可変機構を実現できるようになりました。また、パーツの制作は、業務用3Dプリンターを利用して、アクリル樹脂として出力したものを原型として仕上げているのだとか。それを型どりしてロストワックス法で、金属をキャストして作っているそうです。
Fusion 360と業務用3Dプリンターを活用して制作された「可変金物」。左から、可変卵鳥(カヘンランチョウ)、可変手毬海月(カヘンテマリクラゲ)、絡繰餌乞雛(カラクリエサコイヒヨコ)と名付けられている
可変卵鳥、可変手毬海月、絡繰餌乞雛は、それぞれこのように変形する
今後はイベント出展や金属以外の素材にも挑戦したい
坪島氏に今後の展開や新たに挑戦したい分野について伺ってみました。
「基本的には発表の機会をもっと増やしたいと思っています。今までの展示はギャラリーなどからお誘いを受けて出品させていただくことが多かったんですが、今後はワンダーフェスティバルやデザインフェスティバルなどのイベント系にも挑戦していきたいと考えています。
それに合わせて、素材も金属だけでなく樹脂を使ったキーホルダーなども作れたら面白いかなと思っています。樹脂なら素材の原価も下げられますので、イベントで手頃な価格のシリーズとして展開できたらと思います。」(坪島氏)
今後も、坪島氏の作品に注目していきたいですね。