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総桐箪笥和光の斬新な桐たんす「風浪」。Fusion 360で制作

3D CADソフト『Fusion 360』(フュージョン・スリーシックスティ)の活用事例を紹介するこちらのコーナー。第16回目は、Fusion 360と木工用CNC(コンピューター数値制御によって、複雑な形状の加工を得意とする工作機械)を活用して、斬新なデザインの桐たんすや桐ベッドを製作・販売している株式会社総桐箪笥和光の代表取締役・加島清治氏に、お話を伺いました。

斬新なデザインの桐たんす「風浪」が経済産業大臣賞を受賞

福岡県にある株式会社総桐箪笥和光は、1977年から桐たんすの製造を始めた、福岡では老舗の桐たんす製造会社です。同社は、2017年10月に開催された「OKAWA The Future Furniture 2017 第27回新作デザインコンペ」に、海と波をテーマにした桐たんす「風浪」を出品し、見事に経済産業大臣賞を受賞しました。

桐たんす「風浪」海と波をテーマとした桐たんす「風浪」。「OKAWA The Future Furniture 2017 第27回新作デザインコンペ」で経済産業大臣賞を受賞した

幼少期からクリエイティブ。高校時代の代表作は木彫りのドレッサー

加島氏のご両親は、株式会社総桐箪笥和光の創立者。加島氏は、彫刻家であり、桐たんす職人でもあった父親の作業を幼い頃から見て育ち、小学校高学年くらいから、ノミを使って自分の作品を作るようになりました。高校時代には、彫刻を施したドレッサーを制作し、職人魂を発揮しました。

「高校の実技の課題でドレッサーを制作しました。実は最初は違うものを作ろうと思っていたんですよ。民芸調の茶棚を作ろうと思って、学校の先生にそれを相談したら、形だけ見て、『これは10分くらいでできるから、やめておけ』と言われたんです。私としては、ほぞとか止めとか、いろんな細工をして茶棚を作るつもりだったんですが、そういう風に言われたものだから、ビジュアル的にインパクトがあってわかりやすいものにしようということで、ドレッサーにしたんです。」(加島氏)

高校時代の代表作・彫刻入りドレッサー高校時代の代表作・彫刻入りドレッサー。凝ったデザインは当時の先生や同級生を驚かせました

パソコン登場以前からコンピューターに精通

加島氏は、パソコンが登場するよりもずっと前からコンピューターに触れ、プログラミングを習得していたそうです。

「高校1年生の時、毎週日曜日にコンピューターを習いに行っており、富士通のFACOM 230を使って勉強していました。コンピューターを習うことを薦めたのは父で、『新しいものは覚えておけ』と。当時まだコンピューターは非常に高価なもので、とても個人が買えるようなものではなかったですね。
2年間程通い、その後、職人としての技術を磨くため、しばらくコンピューターからは離れていました。28歳の時に新日本電気株式会社(現・日本電気ホームエレクトロニクス株式会社)が発売したPC-6001という、当時の他のパソコン機種と比較するとかなり安価な機種が発売されたので、周辺機器も揃えていろいろやってみることにしたんです。」(加島氏)

その後も、MS-DOS時代からWindowsの時代へと移り変わりますが、ずっとパソコンを使い続けてきたそうです。

2D CADで桐たんすを設計。デジタル化を開始

加島氏は、30歳の時にたんすの図面を描くために、2D製図CAD「DynaCAD」を導入しました。DynaCADは本来、建築用の2D CADですが、加島氏は桐たんすの設計に活用しました。

「以前は棒尺という、細長い棒に数字をつけて、ここからここまでは天板用とか、ここからここまでが側板用とかって人間の感覚に頼って測っていました。しかし、それだと次に同じものを作る時に若干ずれてしまったり、組み立てがうまくいかなかったりという悩みがありました。感覚に頼りすぎず、ちゃんと数値化しなくちゃいけないなと。それで寸法は巻き尺で測って、それをDynaCADでデータ化していったんです。」(加島氏)

しかし、当時はパソコンで使えるような3D CADはなく、当然、気軽に導入できるような3Dプリンターや木工用CNCもありませんでした。そのため、製造はあくまで手作業で行っていたのだそう。

木工用CNC導入がきっかけで、Fusion 360と出会う

加島氏は、以前からデジタル加工に興味がありました。桐たんすや桐ベッド作りの効率を上げるために、木工用CNCの本格的な導入を決意します。

「木工用CNCを導入したのは2014年6月ですが、業者に相談をしたところ、導入には半年以上かかると言われました。それなら導入が完了するまでの間、先に3Dプリンターを買って、いろいろやってみたいと思ったんです。

3Dプリンターを使うには、3D CADや3D CGソフトが必要になります。私の弟はShadeを使っていたんですが、私はどうしても馴染めなくて、DesignSparkを使って3Dモデリングをして、3Dプリンターで出力していました。DesignSparkを使っていた時は、モデリングは結構さくさくとうまくできたのですが、レンダリング機能がないソフトだったので、実物のイメージがつかみにくいという悩みがありました。

その後レンダリング機能があるFusion 360を知り、講座にも何度か行きました。ただ、その時Fusion 360は英語版しかなかったので、自分が習得するにはちょっとハードルが高いなと感じていました。

前任の弟が他界し、どうしても私が3D CADを使わなくてはならなくなり、困っていたんですが、ちょうどいいタイミングでFusion 360の日本語版がリリースされました。また、Shadeで作った3DデータはそのままFusion 360上でも読み込めることを知り、絶対このソフトを習得しようと思いました。」(加島氏)

加島氏は、多くの企業で3D CAD導入の教育やコンサルティングを行っているAutodesk社公認のFusion 360の講師 スリプリ 三谷氏の講座を受けたり、三谷氏が執筆したFusion 360の書籍を参考にしたりして、Fusion 360をマスターしていったそうです。しかし、Fusion 360で会社の木工用CNCを利用できるようにするのが大変だったといいます。

「木工用CNCとFusion 360をどうやって関連付けるかがよくわかりませんでした。その時、三谷さんが福岡で、Fusion 360のCAM機能の講座を開講されたので、私もその講座を受講しました。そこで、三谷さんに木工用CNCをFusion 360と繋げて使いたいと相談したところ、木工用CNCを使うにはポスト処理が必要になると言われ、実際にこちらに来ていただいて、そのポスト処理の設定を行ってもらいました。」(加島氏)

Fusion 360で木工用CNCを制御できるようになり、桐たんす作りの作業フローも大きく変わったのだとか。複雑な構造のたんすでも3D CADなら、自由に回転したり、拡大縮小したりして見せることができるので、職人たちが納得して作ってくれるようになったそうです。

桐たんす「風浪」の表面の波打ちもFusion 360で設計

「OKAWA The Future Furniture 2017 第27回新作デザインコンペ」で経済産業大臣賞を受賞した桐たんす「風浪」のアイデアは、加島氏の趣味から生まれました。加島氏は、2000年頃から、カイトボードという海の上を大きな凧で引っぱって進んでいくスポーツをやっていました。

唐津でカイトボードを楽しむ様子

「そこで、波をモチーフにした家具を作りたいと思い、風浪を作りました。実は15年くらい前に、一度同じようなものを作ったんですが、その時はデータを外部の研究所に作ってもらったんですね。また、コンクールに出したんですが、賞がもらえなかったので、悔しい思いもあり、今度は木工用CNCとFusion 360があるから、もう一度チャレンジしてみたんです。」(加島氏)

風浪の特徴である表面の波打ち模様ですが、Fusion360上でサイズを大きくすると、なぜか波打たなくなってしまうという原因不明のトラブルがあったそう。そこで、加島氏は30cm四方のパターンを繰り返しコピーしてつぎはぎする手法を思いつき、トラブルを解決したのだとか。

「風浪」の表面の波打ち模様「風浪」の表面の波打ち模様は、Fusion 360でデザインされ、Fusion 360のCAM機能を使って、木工用CNCで削り出された

桐のハッシュベッドや、産学連携作品の和風モダン桐たんす「TOTEM」の製作でもFusion 360が活躍

桐たんす「TOTEM」「ハッシュベッド」は、すのこの上に組子を載せた構造になっているので、非常に通気性がよい

総桐箪笥和光ならではのユニークな製品が、新構造の桐ベッド「ハッシュベッド」です。ハッシュベッドは、「すのこ」の上に「組子」を乗せた二重構造になっていて、布団の湿気を効率的に逃がし、カビの発生を防ぎます。ハッシュベッドの設計や製造にもFusion 360と木工用CNCが活用されています。

桐ベッド「ハッシュベッド」桐ベッド「ハッシュベッド」の各パーツもFusion 360でデザインされた

総桐箪笥和光の最新製品は、「TOTEM」と名付けられた和風モダンな桐たんすです。これは、九州産業大学との産学連携プロジェクトによって生まれたもので、学生とのコミュニケーションはFacebook上のグループで行い、3DデータをFusion 360で共有しながら設計を進めたそうです。

「私はFusion360を使っていましたが、九州産業大学の学生さんはRhinoceros(ライノセラス)という3D CADソフトウェアを使って制作していました。使っているソフトが異なるので、どのように連携して制作するかが悩みどころでしたが、Rhinocerosで作った3Dデータでも、Fusion 360でそのまま読み込むことができるので、互換性があってとても助かりました。
TOTEMの一番の特徴は組子が引き手になっていることですが、その構造を学生さんに理解していただくのにも3Dデータを使って説明しました。平面図よりも伝わりやすく、とても役に立ちました。」(加島氏)

「TOTEM」モダンなデザインが印象的な「TOTEM」

今後もオリジナリティと職人のプライドを大切にしてものづくりに取り組む

加島氏が、ものづくりで最も大切にしていることはオリジナリティだそうです。また、職人が作ったものだと感じさせるような製品作りを心がけているとのこと。

今後の活動としては、加島氏のお父様が作った彫刻をさまざまな角度で撮影し、アプリを使って3Dデータ化することに挑戦してみたいそうです。Fusion 360経由させ、木工用CNCで出力することも考えているのだとか。先代の作品が受け継がれ、また形となって世の中に現れる・・・・・・。そんな素敵な作品をぜひ見てみたいですね。

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